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漢語福清方言の記述言語学的研究

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(1)

神戸市外国語大学 学術情報リポジトリ

漢語福清方言の記述言語学的研究

著者 陳 学雄

学位名 博士(文学)

学位授与番号 24501甲第60号 学位授与年月日 2018‑03‑23

URL http://doi.org/10.11501/2017̲K60̲chen

(2)

神戸市外国語大学博士論文

漢語福清方言の記述言語学的研究

2017 年 11 月

神戸市外国語大学大学院 外国語学研究科

文化交流専攻言語コース

陳学雄

(3)

神戸市外国語大学博士論文

漢語福清方言の記述言語学的研究

(4)

図目次 x

表目次 xi

序章 はじめに ... 1

0.1 福清市の地理概況 ... 1

0.2 福清市における言語の使用状況 ... 3

0.3 福清方言の位置づけ ... 3

0.4 福清方言の先行研究 ... 4

0.4.1 子音 ... 4

0.4.2 韻母 ... 5

0.4.3 声調 ... 6

0.4.4 子音交替 ... 6

0.4.5 声調交替 ... 7

0.5 福清方言における内部差異 ... 9

0.6 本論文が扱う対象 ... 10

0.7 本論文のデータ及び方法 ... 10

0.8 本論文の構成 ... 11

0.9 注意事項 ... 12

0.10 略号一覧 ... 12

第一章 音論 ... 14

1.1 音節構造 ... 14

1.2 子音音素 ... 14

1.3 母音と韻母... 18

1.3.1 V1(単母音) ... 19

1.3.2 V1V2(二重母音) ... 20

1.3.2.1 上昇二重母音 ... 21

(5)

1.3.2.2 下降二重母音 ... 22

1.3.3 V1V2V3(三重母音) ... 22

1.3.4 C2(末子音) ... 23

1.3.4.1 /ŋ/ ... 23

1.3.4.2 /ʔ/ ... 26

1.3.5 成節鼻音 ... 28

1.4 T(声調) ... 29

1.5 音声実現... 30

1.5.1 頭子音交替 ... 30

1.5.2 声調交替 ... 38

1.5.3 母音交替 ... 49

1.5.4 逆行交替 ... 54

1.6 ストレス... 55

1.7 文のイントネーション ... 58

第二章 名詞句と名詞句にまつわる問題 ... 59

2.1 指示詞... 59

2.1.1 種類と語構成 ... 59

2.1.2 ものや人 ... 60

2.1.2.1 主語 ... 60

2.1.2.2 目的語 ... 61

2.1.2.3 修飾語 ... 63

2.1.3 場所 ... 65

2.1.4 方向 ... 66

2.1.5 程度 ... 66

2.1.6 性質・方法 ... 67

2.1.7 状況指示 ... 68

2.1.8 空間から時間へ ... 69

2.2 数詞 ... 69

2.2.1 基数 ... 69

(6)

2.2.1.1 基本的体系 ... 69

2.2.1.2 〈蜀〉と〈一〉、〈两〉と〈二〉の違い ... 71

2.2.2 分数 ... 74

2.2.3 概数 ... 74

2.2.3.1 数字を並列させて表す ... 74

2.2.3.2 接辞を用いて表す ... 74

2.2.4 序数 ... 76

2.3 類別詞... 76

2.3.1 名詞類別詞 ... 76

2.3.2 回数詞 ... 80

2.3.3 [数詞-類別詞]の重複 ... 80

2.3.4 [蜀-類別詞] ... 81

2.3.5 指示詞+蜀+類別詞 ... 82

2.4 名詞 ... 83

2.4.1 名詞の語構成 ... 83

2.4.1.1 接辞 ... 85

2.4.1.1.1 接頭辞 ... 85

2.4.1.1.1.1 lɔ43〈老〉とsiu43〈小〉 ... 85

2.4.1.1.1.2 lau42〈老〉 ... 86

2.4.1.1.1.3 a44〈阿〉 ... 86

2.4.1.1.1.4 i51〈依〉 ... 87

2.4.1.1.1.5 hoŋ42〈□〉 ... 87

2.4.1.1.1.6 tøʔ21〈□〉 ... 87

2.4.1.1.2 接尾辞 ... 88

2.4.1.1.2.1 kiaŋ43〈囝〉 ... 88

2.4.1.1.2.2 thau44〈头〉 ... 91

2.4.1.2 重複 ... 93

2.4.1.3 複合 ... 93

2.4.1.4 主要部前置型の名詞 ... 94

2.4.2 統語的位置 ... 95

(7)

2.4.2.1 主語 ... 95

2.4.2.2 目的語 ... 96

2.4.2.3 修飾語 ... 97

2.4.2.4 コピュラ文の補語 ... 97

2.4.2.5 名詞述語文 ... 98

2.5 親族名詞... 98

2.6 位置関係を表す名詞 ... 103

2.6.1 一音節のもの ... 103

2.6.2 二音節のもの ... 105

2.7 代名詞... 106

2.7.1 種類と語構成 ... 107

2.7.2 基本的な機能 ... 109

2.7.2.1 主語 ... 109

2.7.2.2 目的語 ... 110

2.7.2.3 所有者 ... 111

2.7.3 人称代名詞の特殊な振る舞い ... 111

2.7.4 所有者を表す人称代名詞における強弱形の分布 ... 112

2.8 前置詞... 113

2.8.1 tiɔ51〈着〉、khoʔ21〈□〉、kaʔ44〈□〉 ... 116

2.8.1.1 tiɔ51〈着〉、khoʔ21〈□〉、kaʔ44〈□〉の使用状況 ... 116

2.8.1.2 tiɔ51〈着〉、khoʔ21〈□〉、kaʔ44〈□〉の違い ... 118

2.8.1.3 V+tiɔ51〈着〉 ... 120

2.8.2 thøŋ21〈□〉、ju44〈由〉 ... 121

2.8.3 kau21〈遘〉 ... 124

2.8.4 lie42〈离〉 ... 124

2.8.5 kœŋ42〈共〉 ... 125

2.8.6 sai43〈使〉 ... 127

2.8.7 khøʔ21〈乞〉 ... 127

2.8.8 pi43〈比〉 ... 127

2.8.9 aŋ21〈按〉、piŋ44〈凭〉 ... 129

(8)

第三章 動詞句と動詞句にまつわる問題 ... 130

3.1 助動詞... 130

3.1.1 o42〈有〉「ある」 ... 130

3.1.2 ԑ42〈会〉「~できる」、「~はずだ」 ... 134

3.1.3 ԑ42sai43〈会使〉「~てもよい」 ... 137

3.1.4 tiɔ51〈着〉「~しなければならない」「~する必要がある」 ... 137

3.1.5 ɔŋ21〈□〉「~するつもり」 ... 139

3.1.6 puʔ44〈□〉「~したい」 ... 141

3.1.7 ø42〈爱〉「~するのが好き」 ... 142

3.2 動詞の語構成と分類 ... 143

3.2.1 語構成 ... 143

3.2.1.1 重複 ... 144

3.2.1.1.1 全体重複 ... 144

3.2.1.1.2 頭子音重複(衍生詞) ... 144

3.2.1.1.3 母音重複(切脚詞) ... 147

3.2.2 動詞分類 ... 150

3.2.2.1 自動詞と他動詞 ... 150

3.2.2.2 動態動詞と静態動詞 ... 152

3.2.2.3 意志動詞と無意志動詞 ... 153

3.2.3 注意すべき動詞 ... 154

3.2.3.1 伝達系動詞 ... 154

3.2.3.2 pԑʔ21〈八〉とhiu43〈晓〉 ... 155

3.3 動詞連続構造 ... 156

3.3.1 動詞連続における動詞の数 ... 156

3.3.2 動詞の自他による組み合わせ ... 156

3.3.2.1 他動詞+他動詞 ... 157

3.3.2.2 他動詞+自動詞 ... 157

3.3.2.3 自動詞+自動詞 ... 160

3.3.2.4 自動詞+他動詞 ... 161

(9)

3.4 アスペクト助詞 ... 162

3.4.1 le〈□〉 ... 162

3.4.2 lau43〈了〉 ... 163

3.4.3 o〈去〉 ... 166

第四章 その他の範疇 ... 171

4.1 形容詞... 171

4.1.1 語構成 ... 171

4.1.2 大きさを表す形容詞 ... 172

4.1.3 形容詞+XX ... 173

4.1.4 形容詞の重複 ... 173

4.1.5 統語的位置 ... 174

4.1.5.1 述語になる場合 ... 174

4.1.5.2 名詞修飾 ... 175

4.1.5.3 動作の結果状態 ... 178

4.2 副詞 ... 178

4.2.1 程度副詞 ... 179

4.2.1.1 ia43〈野〉 ... 179

4.2.1.2 iau35〈也有〉 ... 180

4.2.1.3 khaʔ21〈恰〉とkuɔ21〈过〉 ... 181

4.2.2 範囲副詞 ... 182

4.2.2.1 thu44〈都〉 ... 182

4.2.2.2 ia43〈也〉 ... 184

4.2.2.3 la21〈□〉 ... 184

4.2.3 頻度副詞 ... 185

4.2.3.1 u21laŋ35ŋa42〈有两下〉 ... 185

4.2.3.2 ko21〈固〉 ... 185

4.2.3.3 ke42〈□〉 ... 186

4.2.4 時間副詞 ... 186

4.2.5 否定副詞 ... 188

(10)

4.2.5.1 iŋ21〈伓〉 ... 188

4.2.5.2 løŋ44〈□〉 ... 188

4.2.6 モダリティ副詞 ... 189

4.3 疑問語... 190

4.3.1 疑問代名詞 ... 190

4.3.1.1 tie44løŋ44〈底侬〉「誰」 ... 190

4.3.1.2 sie5121〈甚乇〉「何」 ... 191

4.3.1.3 ti44+蜀+類別詞「どれ」 ... 192

4.3.1.4 kui43〈几〉、liɔ44a42〈□□〉「いくつ」「いくら」 ... 193

4.3.2 疑問副詞 ... 194

4.3.2.1 tsiɔŋ44ŋi44〈□□〉「どう」 ... 194

4.3.2.2 mieŋ44ŋau42〈□□〉/liɔ44u43〈□□〉/kui43〈几〉+時間詞「いつ」 ... 194

4.3.2.3 liɔ44+形容詞「どれぐらい」 ... 196

4.3.2.4 tu44uai42〈都位〉/ tœ35œ51〈□□〉「どこ」 ... 197

4.3.2.5 aŋ21laŋ21〈□□〉「どうやって」 ... 198

4.3.2.6 tsɔŋ3521〈做乇〉/ kai35ie21〈□□〉「なぜ」 ... 198

4.4 助詞 ... 200

4.4.1 属格助詞 ... 200

4.4.1.1 名詞が修飾語の場合 ... 201

4.4.1.2 形容詞が修飾語の場合 ... 203

4.4.1.3 動詞が修飾語の場合 ... 204

4.4.2 文末・節末助詞 ... 205

4.4.2.1 a〈啊〉 ... 206

4.4.2.2 lo〈□〉 ... 208

4.4.2.3 ma〈□〉 ... 209

4.4.2.4 ha〈□〉 ... 210

第五章 文法現象における諸問題 ... 212

5.1 〈有〉構文と焦点 ... 212

5.1.1 先行研究の記述:冯爱珍(1993) ... 212

(11)

5.1.2 〈有〉の両形式と焦点との関係 ... 216

5.1.2.1 〈有〉に焦点が置かれる場合 ... 216

5.1.2.2 〈有〉以外のものに焦点が置かれる場合 ... 218

5.1.2.2.1 〈有〉の前に焦点の場合 ... 219

5.1.2.2.2 〈有〉の後ろに焦点の場合 ... 221

5.1.2.2.3 文全体が焦点の場合 ... 222

5.1.3 まとめと今後の課題 ... 223

5.2 疑問表現... 227

5.2.1 真偽疑問文 ... 227

5.2.1.1 〈有无〉疑問文 ... 227

5.2.1.1.1 有无NP / VP / AP ... 227

5.2.1.1.2 有NP / VP / AP无 ... 231

5.2.1.2 〈会 〉疑問文 ... 233

5.2.1.2.1 会 VP / AP ... 234

5.2.1.2.2 会VP / AP ... 236

5.2.1.3 〈是伓是〉疑問文 ... 236

5.2.1.4 V不V ... 237

5.2.2 選択疑問文 ... 238

5.2.3 文末疑問助詞 ... 239

5.2.3.1 la ... 239

5.2.3.2 未 ... 239

5.3 受身表現... 241

5.3.1 受身構文の認定 ... 241

5.3.2 〈乞〉について ... 242

5.3.2.1 動詞としての〈乞〉と受益者マーカーとしての〈乞〉 ... 242

5.3.2.2 〈乞〉の音声形式 ... 244

5.3.3 福清方言における受身構文 ... 245

5.3.3.1 動作主名詞 ... 245

5.3.3.2 動作対象 ... 246

5.3.3.3 述語のタイプ ... 248

(12)

5.3.3.3.1 他動詞の場合 ... 249

5.3.3.3.2 自動詞の場合 ... 253

5.3.4 まとめと今後の課題 ... 258

5.4 使役表現... 260

5.4.1 指示使役: kœ21〈叫〉、hau43〈吼〉 ... 260

5.4.2 容認使役: liɔŋ42〈让〉、tɔ44〈驮〉、tsai21〈□〉 ... 261

5.4.3 強制使役:/kaŋ51/〈□〉 ... 263

5.4.4 〈共〉を用いた使役構文 ... 263

5.4.4.1 使用状況 ... 263

5.4.4.2 kœŋ42〈共〉について ... 265

5.4.5 〈共〉使役と他の使役との違い ... 268

5.4.6 まとめと今後の課題 ... 270

終章 おわりに ... 272

参考文献 ... 273

付録 福清方言分類語彙集 ... 275

(13)

図目次

図1 福建省における福清市の位置 ... 1 図2 福清市地図 ... 2

(14)

表目次

表0.1:冯爱珍(1993)における子音体系 ... 4

表0.2:冯爱珍(1993)における韻母体系 ... 5

表0.3:林寒生(2002)における韻母体系 ... 6

表0.4:諸先行研究における声調体系 ... 6

表0.5:冯爱珍(1993)における子音交替規則表 ... 7

表0.6:林寒生(2002)における子音交替規則表 ... 7

表0.7:冯爱珍(1993)における声調交替規則表 ... 8

表0.8:林寒生(2002)における声調交替規則表 ... 8

表1.1:子音音素一覧 ... 14

表1.2:母音音素一覧 ... 18

表1.3:頭子音交替規則 ... 38

表1.4:林文芳(2008)における声調交替規則 ... 39

表1.5:声調交替規則表 ... 48

表2.1:福清方言の数詞:1~100... 70

表2.2:旧暦の21日~29日の表現 ... 70

表2.3:父方の親族関係図 ... 99

表2.4:母方の親族関係図 ... 101

表2.5:前置詞の種類と基本的機能 ... 115

表2.6: tiɔ51〈着〉、khoʔ21〈□〉、kaʔ44〈□〉の違い ... 121

表3.1 名詞・形容詞・動詞の判定基準 ... 143

表3.2:統語的要求項に基づいた動詞分類 ... 150

(15)

序章 はじめに

本論文は、現代漢語福清方言(以下福清方言と呼ぶ)について共時的な記述を試みるもので ある。本論に入るに先立って、序章では、福清市の地理概況や福清方言の先行研究について 概観する。また本論文のデータ、研究方法及び論文の構成などについて述べる。

0.1 福清市の地理概況1

福清市は、中国福建省の東南沿岸に位置し、東シナ海に面している。東部には海を隔てて 平潭県があり、南部には興化湾、それから北部、東北、西北部にはそれぞれ閩候県、長楽市、

永泰県と境を接する。全境東南 46.5km、南北53.5kmである。大陸部のほかに、東シナ海に 突き出た半島部と島嶼部がある。陸地面積は1518.24km2で、海域面積は911.52 km2である。

1 福建省における福清市の位置2

1 この部分は主に、《福清市志》(1994)及び福清市のオフィシャルサイト(http://fq.fuzhou.gov.cn)、福清新闻网(http:/

/www.fqxww.cn/online)を参照した。

2《中国语言地图集 汉语方言卷(第2版)》(2012)に基づいて作成した。黒点は閩東方言区に属する地域を示す。

(16)

福清市は1990年12月より市制が施行される3。それまでは福清県であった。福清の県政は 唐の時代から始まり、長い歴史を持つ。福清という名称の由来は、長興四年(933 年)に、「山 自永福里,水自清源里,会于治所」4から「福」と「清」の二文字を取り、「福清」という県 名として名付けられた。それからいくつかの時代を経るにも「福清」という名称がそのまま 引き継がれ、現在までに至っている。

福清市の略称は「融」である。福清市人民政府が所在する中心部は「融城」と呼ばれる。

2 福清市地図

2005年に市中心部の行政区画調整のために、音西鎮、陽下鎮、宏路鎮の3つの鎮を廃止し、

7つの街道弁事処を設置した。区画調整後の福清市は7つの街道弁事処と17の鎮を所管する。

7つの街道と17の鎮はそれぞれ以下の通りである。

7つの街道:玉屏街道、龍山街道、龍江街道、音西街道、宏路街道、石竹街道、陽下街道

3 福清市は県レベルの市で、省都である福州市の管轄を受ける。

4 〈永福〉は現在福建省永泰県、〈清源〉は福建省の莆田市を指す。

(17)

17の鎮:南嶺鎮、城頭鎮、海口鎮、龍田鎮、江鏡鎮、港頭鎮、三山鎮、高山鎮、東瀚鎮、

沙埔鎮、江陰鎮、新厝鎮、漁渓鎮、上逕鎮、東張鎮、一都鎮、鏡洋鎮

行政区画調整のため、冯爱珍(1993)をはじめとする諸先行研究が行われるときの区画と異 なる。諸先行研究は、「融城鎮」の発音を福清方言の標準音としている。しかし、「融城鎮」

がのちに、「融城街道」として編成され、さらに、2005 年の市中心部の行政区画調整のため に、「玉屏街道」として再編成された。

福清市の人口は、2010年の人口統計によると、1,358,675人であった。また、漢族以外に、

44の少数民族が居住している。主に福厦沿線、龍高半島の地域に分布している。人口は16124 人である。

0.2 福清市における言語の使用状況

《福清市志》(1994:997)によると、福清市内の言語使用状況は地域によっては非常に複雑で ある。その理由は交通網にある。福厦(福州とアモイ)高速道路は北から南へ貫き、途中にあ る福清は閩東から閩南への交通の要衝となっている。福厦(福州とアモイ)高速道路の両側、

西部の閩侯県、永泰県、莆田県と境を接する所では、住民の往来が頻繁である。そのため、

これらの地域では福清方言以外に、閩南語、莆田語、閩県語と客家語が話されている。また 独特な混合言語として福清閩南語、福清莆田語、それから閩南莆田語も話されている。また、

《中国语言地图集 汉语方言卷(第2版)》(2012:111)では、漁渓鎮は閩東方言区ではなく、莆 仙片に属するとしている。

このような複雑な言語状況において、福清方言は地域の共通語的な存在であった。しかし、

近年の義務教育及びテレビ、インターネットなどの媒体の普及により、次第に普通話の使用 増加が見られる。特に若年層には福清方言が話せない者もいる。

0.3 福清方言の位置づけ

《中国语言地图集 汉语方言卷(第2版)》(2012)では、閩方言を以下の8つの方言区に分類 している。

閩語区5

閩南片 莆仙片 閩東片 閩北片 閩中片 瓊文片 雷州片 邵将片

候官小片 福寧小片

5 中国では、方言は区→片(方言群)→小片(グループ)→点の順に下位分類していく方法を取っている。ここの8 の片は閩語区に所属する方言群である。

(18)

福清方言は候官小片の下位方言として位置づけられる。候官小片の下位方言には福州市、

長楽市、福清市、閩候市、閩清市、永泰市、平潭県、連江県、羅源県、寧徳市(蕉城区)、古 田県、屏南県、尤渓県など13の市、県で話される。

候官小片における下位方言の再分類についての議論もみられる。秋谷(2008)6は、「他の南部 方言の音韻体系が《戚音八音7》の音韻体系が導ける一方、福清方言の音韻体系がそれから導 かれない」ことを述べ、候官小片をさらに「福州グループ」と「福清グループ」に分け、「福 清グループ」には福清と平潭を挙げている。

0.4 福清方言の先行研究

福清方言に関する先行研究は全体的に数が少ない。直接福清方言を取り上げる研究として、

高玉振(1978)、冯爱珍(1988,1993)、梁玉璋(1990)、福清市志(1994)、林寒生(2002)、林文芳(2008)、

林文芳・洪芳(2016)などがある。これらの研究は音韻研究に重点を置き、音韻変化の解明の ための比較言語学的研究に少なからず寄与してきた。文法に関する記述はほとんど見られな い。

諸先行研究のうち、とりわけ冯爱珍(1993)は福清方言研究において重要な資料である。

冯爱珍(1993)は福清方言の音韻体系、子音、母音及び声調を分析、記述したうえ、中古音、

普通話音韻体系と比較を行っている。また、音節連続の際に生じる子音交替及び声調交替に ついて、詳細に分析し、規則をまとめている。文法に関しては、4 つの項目を取り上げ、簡 潔にまとめている。また、3000以上の福清方言分類語彙及びいくつかの童謡・民謡の資料な ど大変重要なデータを提供している。

以下、冯爱珍(1993)を中心に従来の福清方言研究について概観する。その他の先行研究と の相違点について述べる。

0.4.1 子音

冯爱珍(1993:28)における福清方言の子音体系は次のとおりである。

0.1:冯爱珍(1993)における子音体系

p pʻ m

t tʻ n l

ts tsʻ s

k kʻ ŋ h

Ø

6 秋谷裕幸(2008)『科学研究費補助金研究基盤研究(C)課題番号19520348 新調査データに基づくびん東区方言分類 の再検討 研究成果報告書(様式C-19)』(https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-19520348/19520348seika.pd f)。

7 福州市や福清市などの地域で使用される韻書である。野間晃(2003)によれば、《戚林八音》は「閩方言を記述し た現存最古の韻書、乾隆14(1749)年の序を持つ。「八音字義便覧」と「珠玉同聲」という、二種の福州語(閩東語) 韻書を上下に配した合本である。前者の成立は16世紀後半にまで、後者の成立は17世紀後半にまでさかのぼる 可能性がある。

(19)

摩擦音/s/に関して、“实际读音是齿间清擦音[θ],有些人也读作[s]”「実際の発音は歯間音[θ]

である。[s]と読む話者もいる」と説明している(p28)。林寒生(2002:10)では、/s/に関して、“舌

尖擦音,老一辈人发音近齿间音 θ。如丝[si1]。但中年以下的人已普遍读“s”「摩擦音である。

年寄りの発音は歯間音θに近い、例えば〈丝〉[si1]。中年以下の話者は基本的にsと発音する」

と説明している。

n とlに関しては、林寒生(2002:10)では、“n、l声母,福清话分辨分明”「n、lは福清方言 において明確に区別される」と述べている8。冯爱珍(1993)では、“海口,城头,南岭一带语音 受长乐方言的影响,[n~l]相混”「海口、城頭、南嶺などの地域は長楽方言の影響を受け、[n~l]

が混同する」と指摘している。

0.4.2 韻母

韻母に関しては、冯爱珍(1993:31)では次のようにまとめている。

0.2:冯爱珍(1993)における韻母体系

i/e u/o y/ø ui/uoi (iau) iu/ieu

a/ɑ ia/iɑ ua/uɑ ai/ɑi au/ɑu ieu/iɐu

e/ɛ ie/iɛ eu/ɛu

o/ɔ uo/uɔ yo/yɔ oi/ɔi uoi/uɐi

ø/œ

iŋ/eŋ uŋ/oŋ yŋ/øŋ iʔ/eʔ uʔ/oʔ yʔ/øʔ

aŋ/ɑŋ iaŋ/iɑŋ uaŋ/uɑŋ aʔ/ɑʔ iaʔ/iɑʔ uaʔ/uɑʔ

eŋ/ɛŋ ieŋ/iɛŋ eʔ/ɛʔ ieʔ/iɛʔ

oŋ/ɔŋ uoŋ/uɔŋ yoŋ/yɔŋ oʔ/ɔʔ uoʔ/uɔʔ yoʔ/yɔʔ

øŋ/œŋ øʔ/œʔ

(N) (m) (n) (ŋ)

冯爱珍(1993)は福清方言における母音は声調による「紧音」と「鬆音」が存在するととら えている。冯爱珍(1993:32)によれば、「紧音」とは“调类是阴平、阳平、上声、阳入时,韵母 就是紧音。调类是阴去、阳去、阴入时,韵母就是鬆音”「調類が陰平、陽平、上声、陽入の時 は、韻母は紧音である。調類が陰去、陽去、陰入の時は、韻母は鬆音である」と説明してい る。上記の韻母表においては、斜線の左は紧音であり、右は鬆音を指す。

声調によって、「紧音」と「鬆音」が存在するととらえる点においては、諸先行研究は一致 している。ただし、取り上げる韻母の数および音価には違いが見られる。

例えば、林寒生(2002:11)には、次の韻母表が挙げられている。

8 梁玉璋(1990)も同じことを記述している。

(20)

0.3:林寒生(2002)における韻母体系

a/ɑ ɛ/æ ø/œ o/ɔ i/e

u/o y/øy ai/ɑi oi/ɔi au/ɑu

eu/ɛu ia/iɑ ie/iɛ ua/uɑ uo/uɔ

yo/yɔ ieu/iɛu uoi/uɔi aŋ/ɑŋ ɛŋ/æŋ

øŋ/œŋ oŋ/ɔŋ iŋ/eŋ uŋ/oŋ yŋ/øŋ

iaŋ/iɑŋ ieŋ/iɛŋ uaŋ/uɑŋ uoŋ/uɔŋ yoŋ/yɔŋ

aʔ/ɑʔ ɛʔ/æʔ øʔ/œʔ oʔ/ɔʔ iʔ/eʔ

uʔ/oʔ yʔ/øʔ iaʔ/iɑʔ ieʔ/iɛʔ uaʔ/uɑʔ

uoʔ/uɔʔ yoʔ/yɔʔ

冯爱珍(1993)と林寒生(2002)を比較すると、以下の違いが見られる。

冯爱珍(1993): y/ø e/ɛ eŋ/ɛŋ eʔ/ɛʔ ieu/iɐu uoi/uɐi (iau) ui/uoi iu/ieu (N) 林寒生(2002): y/øy ɛ/æ ɛŋ/æŋ ɛʔ/æʔ ieu/iɛu uoi/uɔi × × × ×

冯爱珍(1993)では、1つ特殊な韻母iauと成節鼻音{N}を含めて46の韻母を取り上げている。

一方、林寒生(2002)は42 の韻母を取り上げている。また、冯爱珍(1993)は旧派の発音を記述 しているため、ui/uoiとiu/ieuがある。林寒生(2002)は新派の発音を取り上げていることと推 測される。

母音の音価については、冯爱珍(1993)はy/øとしているのに対して、林寒生(2002)はy/øyと しており、yの「鬆音」はøyとしている。また、冯爱珍(1993)はe/ɛとしているのに対して、

林寒生(2002)はɛ/æとしている。

0.4.3 声調

声調に関しては、諸先行研究では、以下のとおりにまとめている。

0.4:諸先行研究における声調体系

調類 陰平 陽平 上声 陰去 陽去 陰入 陽入

調値

53 55 33 21 41 22 5 冯爱珍(1993) 53 44 32 21 42 12 5 林寒生(2002) 53 44 32 21 42 12 5 福清市志(1994) 53 44 32 21 42 12 5 梁玉璋(1990)

0.4.4 子音交替

福清方言の子音交替現象については、“声母的连读音变”「音節連続による頭子音の変化」(例 えば冯爱珍(1988,1993)、梁玉璋(1990))や“类化音变”「類化による音声変化」(例えば林寒生

(21)

(2002))という概念を与えられている。

冯爱珍(1993:29)では次のような子音同化規則をまとめている。

0.5:冯爱珍(1993)における子音交替規則表

p p’ t t’ ts ts’ s k k’ h Ø l m n ŋ 元音尾韵母 β l ӡ ӡ~l Ø 不 变

不 变 鼻音尾韵母 m n n~ӡ n ŋ n

塞音尾韵母 不 变

一方、林寒生(2002:10)では次のような子音同化規則をまとめている9

0.6:林寒生(2002)における子音交替規則表

上字韵母

下字声母 阴声韵 阳声韵

p p’ β m

t t’ l

l (不变) n、ӡ ts ts’

s ӡ、l n

k k’ h Ø

ŋ

Ø (不变)

m n ŋ

両者がまとめた規則を比較してみると、同じ融城鎮を対象としての記述にも関わらず、頭 子音/t/、/t’/、/l/、/s/については、違いが生じていることが分かる。

一つは、頭子音/t/、/t’/、/l/が鼻音に後続場合について、林寒生(2002)では、[n]と[ӡ]になる としているのに対して、冯爱珍(1993)では、[n]のみになり、[ӡ]になることがないとしている。

しかし、/t/、/t’/、/l/が[ӡ]に交替する語彙例は、林寒生(2002)でも、梁玉璋(1990)でも取り上げ ていない。

もう一つの違いは、頭子音/s/が鼻音に後続する場合について、林寒生(2002)では、[n]にな るとしているのに対して、冯爱珍(1993)では、[n]と[ӡ]になるとしている。/s/が[ӡ]になる語彙 例として、冯爱珍(1993)では、“水蛇”“小暑”などの語彙例を取り上げている。

0.4.5 声調交替

声調交替については、諸先行研究では、“连读变调”「音節連続による声調交替」と呼んで いる。冯爱珍(1993)は融城鎮福清方言の二音節と三音節の語彙における声調の交替について

9 林寒生(2002)では語彙例が挙げられていない。梁玉璋(1990)は林寒生(2002)と同じ規則をまとめている。梁玉璋 (1990)では語彙例が挙げられている。

(22)

分析し、規則をまとめている。声調交替には、年齢による差異が存在することを指摘し、旧 派10と新派に分けている。更に海口鎮の声調交替については、“融城镇周围的阳下、海口、龙 田等十三个乡镇的连读规律与新派相同,而与老派有所区别「融城鎮周辺の陽下、海口、龍田 などの十三の郷鎮では連読規則は新派と同じく、旧派とは少し異なる(p5)」”と述べている。

以下に、冯爱珍(1993:39)に提示した新派の声調交替規則を示す(調値は数字で示す)。

0.7:冯爱珍(1993)における声調交替規則表

阴平 53

阳平 55

阳入 ʔ5

上声 33

阴去 21

阴入 ʔ22

阳去 41 阴平53

古平声 55 55+53 35

古入声 55

阳平55 55 21 55

上声33 21 21+35 21 21+53 35

阴去21 55 53 55

阳去41 55 21 55

阴入ʔ22 ʔ5

阳入ʔ5 ʔ5 55 21 55

林寒生(2002:12)でも声調交替規則をまとめている11。以下のようになる12

0.8:林寒生(2002)における声調交替規則表

阴平 53

阳平 44

阳入 ʔ5

上声 32

阴去 21

阴入 ʔ12

阳去 42

阴平53 44 44+53 35

古入声53 44

阳平44 44 21 44

上声32 21 21+35 21 21+53 35

阴去21 44 53 53 阳去42 44 21 44

阴入ʔ12 ʔ5

阳入ʔ5 ʔ5 44 44 44 44

林寒生(2002)の声調交替規則表における太字で示しているのは両者の違いである。

以上、福清方言の諸先行研究について、冯爱珍(1993)を中心に概観した。同じ地域につい

10 旧派とは、冯氏が調査した時点で70歳以上の話者で、新派は60歳以下の話者である。

11 ただし、林寒生(2002)では語彙例を挙げていない。

12 比較しやすいように、冯爱珍(1993)の体裁に合わせて整理しなおした。

(23)

ての調査でも、先行研究によっては、結果が異なっていることが明かである。

0.5 福清方言における内部差異

冯爱珍(1993)の記述では、福清方言の内部差異について、主に 2 つの点を指摘している。

一つは年齢層による差異である。もう一つは地域における差異である。

年齢層による差異については、冯爱珍(1993)のみならず、梁玉璋(1990)と林寒生(2002)にも 指摘されている。冯爱珍(1993)においては、70歳以上を「老派」(旧派)と呼び、65歳以下を

「新派」としている。両者に違いが現れる点は以下の4点である。なお、この差異は主に福 清市内の話者を対象にしたものである。地方の話者が含まれていない(同書p3)。

①《戚林八音》中“秋烧辉杯”四韵,老派分别读作[iu ieu ui uoi]四个韵母。新派“秋”与

“烧”混,“辉”与“杯”混,只有[ieu uoi]两个韵母。因此,从韵母数目上说,新派比 老派少两个韵母。

「《戚林八音》における“秋烧辉杯”の4つの母音は、旧派はそれぞれ[iu ieu ui uoi]の 4 つの母音として読む。新派の発音では、“秋”と“烧”が混同し、“辉”と“杯”が 混同するため、[ieu uoi]の2つの韻をしか持たない。したがって、韻母の数からみると、

新派は旧派より韻母の数が2つ少ないことになる。」

②连读变调规律,新派与老派略有不同,表现为:阴平,上声作为前字,在阴去,阳去,

阴入前,老派读作55调,新派读作35调。阳平作为后字,在上声后面,老派不变调,

新派变作35调。老派连调不产生新调类,新派产生一个新调35调。

「声調の交替規則においても、新派と旧派とでは若干異なる。具体的に、陰平、上声 の字は、陰去、陽去、陰入の字に前置される場合、旧派は55調に読み、新派は35調 に読む。陽平の字は上声に後置される場合、旧派の発音では声調の交替が起こらない のに対して、新派は35調に読む。旧派は音節連続において新たな声調の発生がないの に対して、新派では、新たな声調35調が発生する。」

③有些字音读法不同。如“恢”,老派是[k’oi53],新派是[huoi53],“雹”,老派是[p’øʔ5],新 派是[p’au21]。

「字の読み方が異なる。例えば、“恢”については、旧派では[k’oi53]と読み、新派は[huoi53] と読む。“雹”についても、旧派は[p’øʔ5]と読むが、新派は[p’au21]と読む。」

④有些词的说法不同。如“钱包”,老派说“合擘haʔ21paʔ21”,新派说“票夹p’ieu53keʔ21”。

“文凭”老派说“毕业照piʔ5ŋieʔ21tsieu21”,新派说“文凭uŋ55piŋ44”。

「言い方が異なる。例えば、“钱包”「財布」、旧派は“合擘 haʔ21paʔ21”と言い、新派

は“票夹p’ieu53keʔ21”と言う。また、“文凭”「学歴」については、旧派は“毕业照

piʔ5ŋieʔ21tsieu21”と言い、新派は“文凭uŋ55piŋ44”と言う。」

(24)

一方、地域における差異については、冯爱珍(1993:3)は以下のように述べている。

福清城区与郊区各乡镇的方言之间有一点的差别,尤其海岛与陆地的差别更为显著。根据 连读变调规律的不同,福清方言可分为融城,高山,江阴,一都四个小片。

「福清市内と周辺の各郷鎮の方言の間にある程度の差異が存在する。特に島嶼部と陸地 部との間の差異がより顕著である。声調交替規則の違いによって、福清方言を「融城」、

「高山」、「江陰」、「一都」の4つの方言グループに分類できる。」

それぞれの方言グループに入る地域は以下の通りである。

融城片: 融城鎮、音西鎮、宏路鎮、陽下郷、東張鎮、漁渓鎮、上迳鎮、新厝郷の棉亭 と東 楼の二つの村、海口鎮、城頭鎮、南嶺郷、龍田鎮、江鏡鎮。

高山片: 港頭郷、三山鎮、高山鎮、沙浦鎮、東瀚鎮。

江阴片: 江陰鎮 一都片: 一都郷

0.6 本論文が扱う対象

本論文は海口鎮前村村で話されている福清方言を対象として扱う。海口鎮は冯爱珍

(1993)の分類では、「融城片」に属し、標準福清方言地域とされる。

海口鎮も2005年の行政区画調整で若干の変更があった。具体的に、本来海口鎮に所属の祥 豊、塘頭、北店、柏渡、隆中、坊里、南宅、先強の8つの村が海口鎮より分離され、「龍山街 道」に編成された。現在の海口鎮は、1つの居委会13と19の村からなる。それぞれ以下の通 りである。

1つの居委会:海口居委会

19の村:雲光村、牛宅村、前村村、城里村、斗恒村、海口村、後路村、晨光村、立新村、

東嶠村、東岐村、梧嶼村、李厝村、東閣村、岑兜村、洋坂村、石渓村、工農村

海口鎮の土地面積は52,64km2で、2016年の時点で、人口は78,179人であった14。福清市中 心部までの距離は約15kmである。

0.7 本論文のデータ及び方法

本論文で使用しているデータは 2012 年から断続的に行った現地調査によって得られたも のである。

語彙のデータは調査票に基づく調査によって得られた。調査票は東京外国語大学AA研『言

13 住民委員会、町内会に相当する。

14 同じオフィシャルサイトでもデータが異なる。本論文はhttp://fq.fuzhou.gov.cn/xjwz/fqgk/zjfq/rkqh/201706/t20170

609_785662.htmを参考した。

(25)

語調査票2000年版』15を用いた。また、冯爱珍(1993)と林寒生(2002)を参考し、必要な項目を 追加した。

もう一つのデータは自然会話を録音し、書き起こしたものある。録音作業は複数の調査協 力者の許可を得て、2012年12月に行われた。

いずれの調査に関しても、なるべく普通話を介在しない方法を取っている。理由は次の 2 点である。

1つ目の理由は現在60代前後の話者は普通話が話さない人が多いことである。

2つ目の理由は30~50代の話者は普通話ができる人が多いが、調査問題に対しての回答は 普通話による影響があると考えたからである。

例えば、30代の女性話者に対して、授与表現について調査した際には、普通話で〈给我一 本书〉「私に本を一冊ください」は福清方言ではどう表現するかと質問した。直ちに〈乞我蜀 本书〉と答えられた。しかし、筆者の内省では、〈乞〉は「乞う」を意味する動詞であり、「与 える」という意味を持たないと認識してきた。そこで、人称代名詞ではなく、人名〈小明〉

の場合は、つまり普通話で〈给小明一本书〉「小明に本を一冊あげる」はどう言うかともう一 度尋ねる。そうすると、〈驮蜀本书乞小明〉「直訳:本を一冊取って、小明にあげる」という 答えが返ってきた。そこで、〈乞小明蜀本书〉は言えるかと尋ねた。その話者は言えないと答 えた。更にしばらく考えて、最初の文、つまり「私に本を一冊ください」の場合も、やはり

〈驮〉「取る」という動詞を入れる必要があり、〈驮蜀本书乞我〉「私に本を一冊ください」の ように表現すべきと訂正してくれた。

以上のような事情があり、筆者は普通話を介在する方法を取らないことにした。代わりに 複数の福清方言話者が話しているところを、許可を得て、録音機を置かせてもらった。こう して得た録音データのうち約4時間のデータを書き出した。おおよそ400例ほどの発話例が 収集できた。本論文に用いる例文は主に400例から取ったものである。一部は筆者の内省に よる作例もある。福清方言は筆者の母語である。筆者は20歳まで福清に滞在していた。母語 話者としての内省ができる。

本論文は特定の言語理論に拠らない。様々な言語の記述的研究に共通に使われる基礎的概 念のみをなるべく用いて記述する。可能な限り簡潔に記述し、例も過不足なく提示すること に心掛ける。

0.8 本論文の構成

本論文は本論及び付録からなる。福清方言の音論・形態論・統語論にまつわる共起的記述 を行う。本論文の構成は以下のとおりである。

第一章では、福清方言の音論について記述する。頭子音、母音と韻母、声調についてそれ ぞれ例を提示しながら説明する。また、頭子音、母音、声調にまつわる音声実現について、

豊富なデータを取り上げ、やや詳細に述べている。

第二章~第四章では、福清方言の文法の骨組みについて概観したものである。

第二章では、名詞句の構成要素である指示詞、数詞、類別詞、名詞について、それぞれの

15 (http://www.aa.tufs.ac.jp/~mmine/kiki_gen/query/aaquery-1.htm)に公開されたものである。

(26)

語構成及び統語位置について述べる。また、名詞を文に導入する機能とする前置詞もこの章 で扱っている。

第三章では、動詞句及び動詞句にまつわる諸問題について記述する。動詞句の構成要素と して助動詞、動詞、アスペクト助詞を取り上げ、詳細に述べた。

第四章では、第二章と第三章に分類しきれなかったその他の範疇、具体的に形容詞、副詞、

疑問語、助詞を取り上げた。

第五章では、いくつかの文法現象について取り上げる。具体的に存在動詞o42〈有〉を用い る構文と焦点の関係、疑問表現、受身構文、使役構文などを取り上げて、初歩的な考察を行 った。

終章では、全体について簡単にまとめ、今後の課題について述べた。

最後に付録を加えた。福清方言の分類基礎語彙を示してある。

0.9 注意事項

本論文における例文番号は、章ごとに(1)からカウントしなおす。

例文の提示の仕方については、以下のようである。問題となる所は太字で示す。

(1) ①siu21miŋ35 khyʔ21 ŋuaʔ21 ma21 . ② 小明 乞 我 骂 ③ 人名 AGT 1SG 叱る

④「小明は私に叱られる。」

それぞれ、①は音韻表記、②は漢字表記、③はグロス、④は日本語訳を示す。

なお、①は一次音韻形式を示すのは困難である。第二音節以降の頭子音には交替が起こり、

本来の形式は必ずしも明白なものではない。また、声調に関しても、35は声調交替によるも のであるが、35調に交替する声調は51 と43あり、また現れる環境は42と21の前である。

本来の声調を明示することが難しい。したがって、35調をそのまま用いる。

②の漢字表記に関しては、主に先行研究で用いられたものを用いる。対応する漢字のない ものは「□」で示す。

0.10 略号一覧

文頭の * は非文であることを、#は文法的に適格であるが、その文脈では不自然であるこ とを表す。

グロスには、次の表記法を用いた。

ASP ………アスペクト AUX………助動詞 BEN………受益 CAUS ………使役

(27)

CL ……… 類別詞 COP………コピュラ NEG………否定 NUM………数詞 PL………複数 PREF ……… ………… 接頭辞 Q ……… 疑問 SFP ………文終止助詞 SG ……… 単数

SUF ………接尾辞

また、グロスには日本語に訳しにくいものは便宜上「?」で示している。

(28)

第一章 音論

第一章では、福清方言の音韻・音声体系について共時的な記述を行う。

まず福清方言における子音と母音及び声調について分析、記述する。それから従来話題と なっているいくつかの音韻現象、具体的に頭子音、母音及び声調の交替現象などについて分 析し、具体例を挙げる。

以下、1.1節では音節構造を示す。1.2節で子音、1.3節では母音、1.4節では声調について 述べる。1.5節では音声実現における頭子音交替、母音交替、声調交替及び逆行同化について 具体例とともに記述する。最後に1.6節ではストレス、1.7節ではイントネーションについて 述べる。

1.1 音節構造

福清方言の音節構造を端的に表せば、(1)の通りである。

(1) σ=C1(V1)V2(V3)(C2)/T

Cは子音、Vは母音、Tは全体にかぶさる声調を表す。C1の位置に現れた子音を頭子音(initial)、

C2に現れた子音を末子音(final)と呼ぶ。V2は主母音である。V1は中国語学では介音と呼ぶも ので半母音である。また、C1-の部分を声母、-(V1)V2(V3)(C2)の部分を韻母と呼ぶ。

1.2 子音音素

福清方言の子音音素は表1.1のとおりである。

1.1:子音音素一覧

破裂音: p ph t th k kh ʔ 鼻音: m ŋ

摩擦音: s h 破擦音: ts tsh

側面接近音: l

合計14の子音音素が存在する。音節構造の各スロットに入る具体的な子音、および調音に おける注意点に関して以下で述べる。

C1(頭子音)には、表1.1のうち、/ʔ/を除き、残りの子音がすべて入りうる。各系列の音価な

どは以下のとおりである。

(29)

[子音音素の特徴]

破裂音:

/p/[p]、/ph/[ph]、/t/[t]、/th/[th]、/k/[k]、/kh/[kh]である。

有気音と無気音の対立がある。有声音が存在せず、無声音のみである。

/k/、/kh/は前舌母音[-i][-y]が後続する場合、硬口蓋化が生じ、音声的に/k/は[c]、/kh/は[ch]

として実現する。

鼻音:

/m/、/ŋ/である。

/ŋ/は前舌母音[-i][-y]が後続する場合、硬口蓋化が生じ、音声的に[ɲ]として実現する。

摩擦音:

/s/と/h/である。

歯茎音/s/は音声的には歯間音[θ]として実現する。s とθ には対立が存在しないので、音素 として/s/を立てる。

/h/は声門摩擦音である。母音[-i][-y]が後続する場合、硬口蓋化が生じ、音声的に[ç]として 実現する。

破擦音:

/ts/、/tsh/である。有気音と無気音の対立である。

/ts/、/tsh/は、母音/-i/と/-y/が後続する場合には、口蓋化が起こり、音声的に/ts/が[ʨ]として、

/tsh/が[ʨh]として実現する。

側面接近音:

/l/である16

冯爱珍(1993)の指摘のとおり、鼻音の nと混同する。両者は自由変異である。本論文では、音 素として/l/を立てる。

以下、各頭子音について例を掲げる。〈 〉内に福清方言の漢字表記を表す。漢字のないも のは□で表す。日本語訳「 」内に示す。

[破裂音]

/p/: /pa44/[pa44]〈爬〉「這う」 /pi43/[pi43]〈比〉「比べる」

/pe42/[pe42] 〈鼻〉「嗅ぐ」 /pɔ43/[pɔ43]〈宝〉「宝」

/pu44/[pu44]〈□〉「炙る」 /poŋ21/[poŋ21]〈放〉「放す」

16 冯爱珍(1993)や林寒生(2002)などでは、福清方言では/n/と/l/ははっきり区別されると記述している。冯(1993)で は海口鎮、城頭鎮、南嶺鎮などの地域は近隣の長楽方言の影響で、/n/と/l/が混同するとも述べている。筆者は海 口鎮出身である。ただし、福清市他の地域でも、/n/と/l/の混同現象が見られる。今後さらなる調査が必要である。

(30)

/ph/: /pha21/[pha21]〈拍〉「打つ」 /phu44/[phu44]〈浮〉「浮かぶ」

/phe21/[phe21]〈鼻〉「鼻」 /phɔ51/[phɔ51]〈坡〉「坂道」

/phuai21/[phuai21]〈配〉「おかず」 /phɔŋ42/[phɔŋ42]〈碰〉「ぶつかる」

/t/: /ta44/[ta44]〈茶〉「お茶」 /tɔ44/[tɔ44]〈驮〉「取る」

/tɛ43/[tɛ43]〈底〉「入る」 /tu44/[tu44]〈图〉「図」

/tia42/[tia42]〈□〉「牡蠣」 /tiŋ44/[tiŋ44]〈停〉「止まる」

/th/: /thaʔ21/[th21]〈塌〉「崩れる」 /thɔ44/[thɔ44]〈桃〉「桃」

/thɛ43/[thɛ43]〈体〉「体」 /thu44/[thu44]〈塗〉「土」

/thia21/[thia21]〈拆〉「ばらす」 /thoŋ44/[thoŋ44]〈糖〉「飴」

/k/: /ka42/[ka42]〈咬〉「噛む」 /kɛ51/[kɛ51]〈街〉「街」

/kɔ51/[kɔ51]〈哥〉「兄」 /kau44/[kau44]〈猴〉「猿」

/kaŋ42/[kaŋ42]〈汗〉「汗」 /kɔʔ21/[kɔʔ21]〈骨〉「骨」

/kh/: /kha51/[kha51]〈骹〉「足」 /khœ43/[khœ43]〈□〉「ふけ」

/khɛ51/[khɛ51]〈溪〉「川」 /khau51/[khau51]〈□〉「掻く」

/khaŋ21/[khaŋ21]〈看〉「見る」 /khuɔʔ21/[khuɔʔ21]〈□〉「欠ける」

破裂音/k/、/kh/の口蓋音化音を挙げる。

[c]: /ki51/[ci51]〈□〉「突き刺す」 /ky43/[cy43]〈举〉「挙げる」

/kie51/[cie51]〈鸡〉「鶏」 /kyŋ51/ [cyŋ51]〈跟〉「ついて行く」

/kiaŋ21/[ciaŋ21]〈镜〉「鏡」 /kyŋ51/ [cyŋ51]〈根〉「根」

[ch]: /khi51/[chi51]〈□〉「傾く」 /khia42/[chia42]〈踦〉「立つ」

/khi43/[chi43]〈齿〉「歯」 /khiɔ21/[ch21]〈去〉「行く」

/khiŋ44/[ch44]〈琴〉「琴」 /khyŋ43/[ch43]〈菌〉「細菌」

[鼻音]

/m/: /ma44/[ma44]〈□〉「苦い」 /mi43/[mi43]〈米〉「米」

/mɛ44/[mɛ44]〈□〉「隠れる」 /mɔ42/[mɔ42]〈帽〉「帽子」

/mue44/[mue44]〈糜〉「お粥」 /miaŋ44/[miaŋ44]〈名〉「名前」

/ŋ/: /ŋo42/[ŋo42]〈五〉「五」 /ŋe42/[ŋe42]〈耳〉「耳」

/ŋu44/[ŋu44]〈牛〉「牛」 /ŋua43/[ŋua43]〈我〉「私」

/ŋau42/[ŋau42]〈藕〉「蓮根」 /ŋuoʔ44/[ŋuoʔ44]〈月〉「月」

(31)

鼻音/ŋ/の口蓋音化音を挙げる。

[ɲ]: /ŋia42/[ɲia42]〈外〉「外」 /ŋia42/[ɲia42]〈蛾〉「蛾」

/ŋie42/[ɲie42]〈义〉「義」 /ŋy44/[ɲy44]〈鱼〉「魚」

/ŋyŋ44/[ɲyŋ44]〈银〉「銀」 /ŋiʔ44/[ɲiʔ44]〈凝〉「固まる」

[摩擦音]

/s/: /si44 /[θi44]〈□〉「もち米のお菓子」 /sɛ43/[θɛ43]〈洗〉「洗う」

/sɔ21/[θɔ21]〈索〉「縄」 /sai51/[θai51]〈狮〉「獅子」

/seʔ21/[θeʔ21]〈□〉「気絶する」 /saŋ43/[θaŋ43]〈伞〉「傘」

/h/: /ha44/[ha44]〈虾〉「エビ」 /hɔ43/[hɔ43]〈好〉「良い」

/hau43/[hau43]〈吼〉「呼ぶ」 /hue43/[hue43]〈火〉「火」

/huŋ43/[huŋ43]〈粉〉「粉」 /hoʔ21/[hoʔ21]〈福〉「福」

摩擦音/h/の硬口蓋化音を挙げる。

[ç]: /hie21/[çie21]〈肺〉「肺」 /hy43/[çy43]〈许〉「あれ」

/hiԑŋ21/[çiԑŋ21]〈□〉「捨てる」 /hyŋ44/[çyŋ44]〈熊〉「熊」

/hiɔʔ21/[çyɔʔ21]〈歇〉「休憩する」 /hiɔŋ43/[çyɔŋ43]〈响〉「鳴る」

[破擦音]

/ts/: /tsa44/[tsa44]〈□〉「騒がしい」 /tsɔ21/[tsɔ21]〈做〉「する」

/tsɛ44/[tsɛ44]〈齐〉「揃っている」 /tsø42/[tsø42]〈住〉「住む」

/tseʔ21/[tseʔ21]〈织〉「織る」 /tsaŋ43/[tsaŋ43]〈井〉「井戸」

/tsh/: /tsha44/[tsha44]〈柴〉「薪」 /tshɔ51/[tshɔ51]〈搓〉「綯う」

/tshu51/[tshu51]〈粗〉「粗い」 /tshau43/[tshau43]〈草〉「草」

/tsheʔ21/[tsh21]〈擦〉「拭く」 /tshaŋ51/[tsh51]〈青〉「青い」

破擦音/ts/、/tsh/の硬口蓋化音を挙げる。

[ʨ]: /tsi43/[ʨi43]〈姊〉「姉」 /tsia21 /[ʨia21]〈蔗〉「サトウキビ」

/tsie43/[ʨie43]〈紫〉「紫」 /tsy51/[ʨy51]〈书〉「本」

/tsiɔ21/[ʨyɔ21]〈借〉「借りる」 /tsyŋ43/ [ʨyŋ43]〈种〉「種」

(32)

[ʨh]: /tshia51/[ʨhia51]〈车〉「車」 /tshi44/[ʨhi44]〈□〉「髪が立っている様子」

/tshie21/[ʨhie21]〈刺〉「刺す」 /tshy51/[ʨhy51]〈□〉「敷く」

/tshiɔ21/[ʨh21]〈尺〉「物差し」 /tshyŋ51/[ʨh51]〈冲〉「すすぐ」

[側面音]

/l/: /la44/[la44]〈拉〉「排便する」 /li44/[li44]〈梨〉「梨」

/le42/[le42]〈利〉「切れる」 /lau44/[lau44]〈流〉「流れる」

/lai51/[lai51]〈□〉「踏む」 /liʔ44/[lyʔ44]〈力〉「力」

1.3 母音と韻母

母音音素には次に表1.2に示す10個である。

1.2:母音音素一覧

i y u e ø o ɛ œ ɔ a

韻母は、これら 10 個の母音と末子音/ŋ/と/ʔ/との組み合わせで作られる。母音音素は、単 独で現れた場合と、ほかとの組み合わせで現れた場合とでは音価が異なる場合がある。

ほかとの組み合わせによって、韻母はV、VV、VVV、VC、VVCの構造を持つ。

本論文では、諸先行研究で用いられる「紧音」と「鬆音」の概念を用いない。理由は以下 の2点である。

1. 表 1.2 にある/ɛ/、/ɔ/、/œ/は諸先行研究において、「鬆音」とされる。しかし、筆者の調 査データでは、これらの母音は「紧音」とされる声調の時にも現れる(以下の声調 51、44、

43は先行研究の「紧音」に相当する)。

/ɛ/: 51/〈□〉「前方へ押す」 /sɛ51/〈西〉「西」

44/〈鞋〉「靴」 /mɛ44/〈□〉「隠れる」

/tɛ43/〈底〉「入る」 /mɛ43/〈买〉「買う」

/ɔ/: /tɔ51/〈刀〉「刀」 /kɔ51/〈歌〉「歌」

/ mɔ44/〈毛〉「毛」 /thɔ44/〈桃〉「桃」

/sɔ43/〈锁〉「鍵」 /hɔ43/〈好〉「良い」

/œ/: /sœ51/〈疏〉「過疎である」 /sœ51/〈梳〉「梳く」

/lœ44/〈驴〉「驢馬」 /tsœ44/〈□〉「水をかける」

(33)

/khœ43/〈□〉「ふけ」 /huaŋ4443/〈番黍〉「トウモロコシ」

2. /ɛ/、/ɔ/、/œ/がそれぞれ対応する「紧音」/e/、/o/、/ø/との間に対立関係を持つ。

/se42/〈是〉「である」 /sɛ42/〈□〉「多い」

/khe21/〈气〉「怒る」 /khɛ21/〈快〉「速い」

/po42/〈腐〉「朽ちる」 /pɔ42/〈抱〉「抱く」

/ho21/〈□〉「間に合う」 /hɔ21/〈好〉「好む」

/kø21/〈锯〉「鋸」 /kœ21/〈叫〉「叫ぶ」

以上の2点により、/ɛ/、/ɔ/、/œ/を音素として立てる必要がある。

1.3.1 V1(単母音)

単母音は前舌母音と後舌母音の2種のグループに分けられる。

前舌母音:/i/[i]、/e/[e~eI]、/ɛ/[ɛ]、/a/[a]、/y/[y]、/ø/[ø~øy]、/œ/[œ]

後舌母音:/u/[u]、/o/[o~ow]、/ɔ/[ɔ]

以下、注意点について述べる。

/e/は音声的[eI]になることがある。/o/は音声的[ow]になることがある。/y/は両唇音/p/、/ph/、

/m/と結合しない。

また、母音が絶対語頭で頭子音が伴わず現れる場合、音声的にはわずかに声門閉鎖音[ˀ]を 伴うことがある、しかし、声門閉鎖音[ˀ]が音韻的な意味を持つことはない。

それでは、前舌母音・後舌母音のそれぞれの語彙例を挙げる。

[前舌母音]

/i/: /pi43/[pi43]〈比〉「比べる」 /mi43/[mi43]〈米〉「米」

/ki44/[ci44]〈棋〉「将棋」 /khi43/[chi43]〈齿〉「歯」

/tsi43/[ʨi43]〈姊〉「姉」 /li44/[li44]〈梨〉「梨」

/e/: /pe42/[pe42]〈鼻〉「嗅ぐ」 /phe21/[phe21]〈鼻〉「鼻」

/khe42/[khei42]〈柿〉「柿」 /tshe42/[tshe42]〈市〉「市」

/le42/[le42]〈二〉「二」 /se21/[θe21]〈四〉「四」

/ɛ/: /pɛ44/[pɛ44]〈排〉「並べる」 /tɛ44/[tɛ44]〈题〉「(一)曲」

/kɛ51/[kɛ51]〈街〉「街」 /khɛ21/[khɛ21]〈快〉「速い」

表 0.3:林寒生(2002)における韻母体系
表 2.1:福清方言の数詞:1~100  1~10  11~20  21~30  31~40  …  91~99  eʔ 21 「1」  seʔ 21 ieʔ 21「11」  li 44 ieʔ 21 eʔ 21「21」
表 2.3:父方の親族関係図                                                                        大公=大妈              伯公=姆妈   阿姐丈=阿姐妈   公=妈   叔公=婶妈   姑妈丈=姑妈    伯=姆      姐丈=阿姐      爸=妮      叔=婶   姑丈=姑  哥=嫂                姊夫=姊             我=老妈      弟=弟媳妇      妹夫=妹  □   女
表 2.6:  tiɔ 51 〈着〉、khoʔ 21 〈□〉、kaʔ 44 〈□〉の違い

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