第三章 動詞句と動詞句にまつわる問題
3.2 動詞の語構成と分類
3.2.2 動詞分類
ki44liʔ44〈□□〉は腋下や腰に指で引っ掻いてくすぐる様子を表す。
(87) kha44tsia51 ŋai44 o, tɔ44 o kha44laʔ21. 骹车 □ 去 驮 去 □□
自転車 壊れる ASP 取る 行く 修理
「自転車が壊れたので、修理に持って行った。」
(88) laŋ21ŋa35løŋ44 khoʔ21teʔ21 pɔ44lɔ43. 两□ 侬 □ □ □□
NUM-CL 人 いる ASP レスリング
「二人は(遊びで)レスリングをしている。」
(87)におけるkha44laʔ21〈□□〉は「修理する」を意味する。(88)におけるpɔ44lɔ43〈□□〉「レ
スリング」は切脚詞と同じ構造を持つ。しかし、動詞のpɔ42〈抱〉「抱く」とtɔ43〈倒〉「倒れ る」が複合して構成される可能性も考えられる。
(89)のように動詞の大部分は自動詞と2項他動詞である。3項他動詞であると認めることが できるのはka21〈教〉「教える」のみであろうと考えられる。普通話や福州方言における「与 える」を表す動詞は3項動詞であるが、福清方言における「与える」を表す動詞khøʔ21〈乞〉
は以下のような表現ができない。項を2つしか取れない。
(90) *ŋuaʔ44 khøʔ21 siu21miŋ35 siɔ44phuɔŋ43 tsy51 . 我 乞 小明 蜀 本 书
1SG 与える 人名 NUM-CL 本
「私は小明に本を一冊あげる。」
ka21〈教〉「教える」は以下のように、間接目的語と直接目的語を取ることができる。
(91) uɔŋ44siŋ44ŋiaŋ51 ka21 ŋuaʔ21 iŋ44ŋy43 . 王先生 教 我 英语 王先生 教える1SG 英語
「王先生は私に英語を教える。」
福清方言における移動動詞は以下の(92)(93)のように、述語に置かれた場合、場所名詞を前 置詞なしで文中に置くことができる。
(92) ŋuaʔ44 khiɔ21 hoʔ44toŋ44 . 我 去 学堂
1SG 行く 学校
「私は学校へ行く。」
(93) ŋuaʔ44 kiaŋ44 hoʔ44toŋ44 . 我 行 学堂
1SG 歩く 学校
「私は学校へ行く。」
(92)(93)における場所名詞hoʔ44toŋ44〈学堂〉はいずれも前置詞を用いずに、移動動詞khiɔ21
〈去〉「行く」とkiaŋ44〈行〉「歩く」に置かれている。一見khiɔ21〈去〉「行く」とkiaŋ44〈行〉
「歩く」などの移動動詞が他動詞のようにも考えられる。しかし、本論文では、これらの移 動動詞を自動詞に属すると考える。理由は以下で述べる。まず他動詞の振る舞いを見よう。
(94) a. ŋuaʔ44 khui44 tshia51 . 「私は車を運転する。」 我 开 车
1SG 運転する 車
b. ŋuaʔ44 khui51 hoʔ44toŋ44 . 我 开 学堂
1SG 運転する 学校
「私は学校へ運転する。」
(95) a. ŋuaʔ44 liu44 laʔ44kiʔ44 . 我 □ 垃圾
1SG 捨てる ゴミ
「私はごみを捨てる。」
b. ŋuaʔ44 laʔ44kiʔ44 liu51 laʔ21kiʔ21thøŋ43 . 我 垃圾 □ 垃圾桶
1SG ゴミ 捨てる ゴミ箱
「私はごみをゴミ箱に捨てる。」
(94)(95)が示すように、他動詞の場合においても前置詞を用いずに、場所名詞をそのまま動 詞の後ろに置くことができる。しかし、(94a)(95a)のように目的項を取ることができる。これ は自動詞にはできない。
福清方言においては、場所名詞が動作の終着点を表す場合では、動詞は他動詞であれ、自 動詞であれ、統語上動詞の後に置かれるだけである。したがって、khiɔ21〈去〉「行く」やkiaŋ44
〈行〉「歩く」などの移動動詞はやはり自動詞であると考える。
3.2.2.2 動態動詞と静態動詞
動詞は形式的・意味的に「動態動詞」と「静態動詞」に分けられる。前者は主に動作を表 す動詞で、後者は主に状態を表す動詞である。これらの区別は進行相接辞 le21の付加条件と 関係し、付加可能であれば動態動詞、不可能であれば静態動詞と認める。
(96) le tshiɔŋ44kɔ51 . □ 唱歌 ASP 歌を歌う
「歌を歌っている。」
(97) *le hiu43 . □ 晓
ASP 知る
「知っている。」
(96)は動態動詞に、(97)は静態動詞に進行相の接辞 le21を付けた例である。(96)は文法的で あるが、(97)は非文法的である。
3.2.2.3 意志動詞と無意志動詞
動詞は更に意味的に「意志動詞」と「無意志動詞」に分かれる。これら2種の動詞の区別 は、副詞teʔ44tiʔ44〈特地〉「わざわざ」との共起が可能かどうかで判断する。共起が可能であ ればそれを意志動詞と見なし、不可能であれば無意志動詞とする。
(98) teʔ44tiʔ44 li44 . 特地 来 わざわざ 来る
「わざわざ来る。」
(99) *teʔ44tiʔ44 tɔŋ42 . 特地 逷 わざわざ 落ちる
「わざわざ落ちる。」
(98)は意志動詞であるため、副詞teʔ44tiʔ44〈特地〉「わざわざ」と共起しても文法的である。
一方、(99)は非意志動詞であるため、副詞 teʔ44tiʔ44〈特地〉「わざわざ」と共起すると非文法 的になる。
多くの意志動詞は上述した動態動詞に属し、多くの無意志動詞が静態動詞に属する。しか し、必ずしも意志動詞・無意志動詞の分類と動態動詞・静態動詞の分類が一致するわけでは ない。
例えば、「(雨が)降る」は進行相接辞leと結びつくため、静態動詞ではなく、動態動詞であ る。しかし、無意志動詞である。
(100) le toŋ44ŋy43 . □ 逷雨 ASP 雨が降る
「雨が降っている。」
(101) *teʔ44tiʔ44 toŋ44ŋy43 . 特地 逷雨 わざわざ 雨が降る
「雨がわざわざ降る。」
3.2.3 注意すべき動詞