第二章 名詞句と名詞句にまつわる問題
2.4 名詞
2.4.1 名詞の語構成
2.4.1.1 接辞
名詞の接辞には接頭辞と接尾辞がある。以下、それぞれについて、主なものを取り 上げる。
2.4.1.1.1 接頭辞
2.4.1.1.1.1 lɔ43〈老〉とsiu43〈小〉
lɔ43〈老〉とsiu43〈小〉は主に、単音節の苗字に付けて用いる。年上の人を呼ぶ際にlɔ43〈老〉
用いられる。年下の人を呼ぶ際には苗字の前にsiu43〈小〉を付けて呼ぶ。これらは職場など で用いられることが多く、一般の生活の中ではあまり聞かない。
(110) lɔ21lieŋ35
lɔ21tiŋ35 lɔ21uɔŋ35 lɔ35taŋ51 老林 老陈 老王 老郑
「林さん」 「陳さん」 「王さん」 「鄭さん」
siu21tiɔŋ51 siu35kie21 siu35sieʔ21 siu35tsieu42 小张 小季 小薛 小赵
「張君/張さん」 「季君/季さん」「薛君/薛さん」 「鄭君/鄭さん」
呼称ではない名詞にも用いられることがある。「ネズミ」を表す場合にもlɔ43〈老〉を付加 する。lɔ43〈老〉を接尾辞とする語彙は1つしか見つかっておらず、生産性が低い。
(111) lɔ21tshy43 老鼠 「ネズミ」
2.4.1.1.1.2 lau42〈老〉
接頭辞lau42〈老〉を付加するものは以下の(112)(113)のようなものがある。
(112) lau44thau44 lau21huɔ21 老头 老货
「老人」 「老いぼれ」
(113) la44u43 lau44sia44 lau44iɔŋ42 老虎 老蛇 老□
「虎」 「蛇」 「鷹」
(112)の二つはいずれも失礼な言い方である。(113)は動物を表す名詞にlau42〈老〉を付加し
ている。lau42〈老〉もやはり接尾辞としての生産性が低い。
2.4.1.1.1.3 a44〈阿〉
a44〈阿〉は家族や親戚の呼称につけられることが多い。また人名に付けられる場合もある。
a44〈阿〉は後部名詞との間にしばしば/ʔ/が挿入される。また、後続音節の頭子音に影響され、
逆行同化することがある。なお、地域や家庭によって、呼び名が異なる場合がある。ここで は筆者の内省によるものを挙げる。
(114) aʔ44kuŋ51 aŋ44ma43 aʔ21tsyʔ44kuŋ51 aʔ21siŋ35ma43 阿公 阿妈 阿叔公 阿婶妈
「お爺さん」 「お婆さん」 「お爺さんの弟」 「阿叔公の妻」
aʔ44pa21 aŋ21mu43 aʔ44tsøʔ21 aʔ21siŋ43 阿伯 阿姆 阿叔 阿婶
「父の兄」 「父の兄の妻」 「叔父」 「叔父の妻」
a44tsia43 a21tsia35liɔŋ42 aʔ21ku51 阿姐 阿姐丈35 阿姑
「父の姉」 「父の姉の夫」 「父の妹」
35 tsia35liɔŋ42〈姐丈〉とも言う。
aʔ21kɔ51
aʔ21sɔ43 aŋ44miaŋ42 阿哥 阿嫂 阿命
「兄」 「兄の嫁」 「子供に対する愛称」
親族に対する呼称以外に、人名にa44〈阿〉を付けて呼ぶこともある。筆者の経験では、福 清の人は、戸籍に登録する名前以外にも、家での呼び名がある。その呼び名は一般的に、戸 籍名から一文字を取って、重複して使うか、またはa44〈阿〉を付けて呼ぶことが多い。
(115) aʔ21kioŋ35 aʔ21kieʔ44 阿强 阿杰
「人名」 「人名」
2.4.1.1.1.4 i51〈依〉
i51〈依〉もa44〈阿〉と同様、呼称に使うことが多い。ただし、a44〈阿〉は家族や親戚に対 して使うのに対して、i51〈依〉は主に他人を呼ぶ際に用いる36。以下に日常的に用いられる ものを挙げておく。
(116) iʔ44pa21 iŋ44mu43 iʔ44tsøʔ21 iʔ44sɔ43 依伯 依姆 依叔 依嫂
「お年寄りの男性」「お年寄りの女性」「中年男性」 「中年女性」
iʔ44tsia43
iʔ44tie42 iŋ51muai21 依姐 依弟 依妹
「年上の女性」 「若い男の子」 「若い女の子」
2.4.1.1.1.5 hoŋ42〈□〉
hoŋ42〈□〉は漢字が不明である。後部要素との間に声調交替が起こり、それに伴って、音 声的には、[huŋ]として実現される。以下の2例しか見つかっていない。一つは場所を表すも ので、「あらゆるところ」「あちらこちら」を意味する。もう一つは「あらゆる人、すべての 人」を意味する。
(117) huŋ44ue42 huŋ44løŋ44 □位 □侬
「あちらこちら」 「すべての人」
2.4.1.1.1.6 tøʔ21〈□〉
tøʔ21〈□〉は漢字表記が不明である。「それぞれ」「逐一」という意味を表すことから、〈逐〉
36 かつては、妻は主人の父に対して、iʔ44kuaŋ51〈依□〉と呼んでいた。最近はあまり聞かない。
であるかもしれない。tøʔ21〈□〉は類別詞や時間名詞などの前につけて、「すべての」という 意味を表す。
(118) tøʔ44puɔŋ44tsy51 tøʔ21tsia21løŋ44
□本书 □□侬
「すべての本」 「すべての人」
(119) tøŋ44lieŋ44 tøŋ44ŋuɔʔ44 tøʔ44kœŋ51
□年 □月 □工
「毎年」 「毎月」 「毎日」
2.4.1.1.2 接尾辞
接尾辞には、kiaŋ43〈囝〉と thau44〈头〉がある。以下、それぞれによる語構成について記 述する。
2.4.1.1.2.1 kiaŋ43〈囝〉
福清方言の接尾辞は数が少ない。そのうち、kiaŋ43〈囝〉がもっとも用いられる。
kiaŋ43〈囝〉は自立語として用いることができる。「子供」の意味を表す。
(120) iʔ44 uʔ44 laŋ21tsia21 kiaŋ43,siɔ21tsia21 ty44muɔ44iaŋ43,siɔ21tsia21 tsy44løŋ44ŋiaŋ43 . 伊 有 两隻 囝 蜀隻 丈夫囝 蜀隻 □侬囝
3SG いるNUM CL 子供 NUM CL 男の子 NUM CL 女の子
「彼は子供二人いる。一人は男の子で、一人が女の子だ。」
(121)にkiaŋ43〈囝〉を用いた複合語などを提示する。
(121) pa44iaŋ43 lɛ21iaŋ43
lɔ21uɔŋ35kiaŋ43 爸囝 妮囝 老王囝
「親子(父と子)」 「親子(母と子)」 「王さんの子供」
kiaŋ43〈囝〉は接尾辞としての時でも、音声の弱化が起こらない。声調が脱落しておらず、
また前の音節尾の種類によって、頭子音が交替するといった自立語と同じ振る舞いをする。
kiaŋ43〈囝〉を接尾辞として持つ語彙は次の 3 つの形式を有し、それぞれ〈X+囝〉、〈XX+
囝〉、〈X+囝囝〉である(Xは語根を表す)。以下、それぞれについて語彙例を提示する。
X+囝:
(122) sɔ44iaŋ43 tshiŋ44ŋiaŋ43 tieʔ21thui35iaŋ43 tɔ44iaŋ43 索囝 秤囝 铁锤囝 桌囝
「縄」 「小さい秤」 「小さい金槌」 「小さいテーブル」
tɔ44iaŋ43 tiŋ44ŋiaŋ43
ie21iaŋ43 ŋi44iaŋ43 刀囝 钉囝 椅囝 耳囝
「ナイフ」 「小さい釘」 「小さい椅子」 「耳」
kie44iaŋ43 ty44iaŋ43 ŋu44iaŋ43
y21iaŋ43 鸡囝 猪囝 牛囝 雨囝
「子鶏」 「子豚」 「子牛」 「小雨」
thio44iaŋ43 uaŋ21ŋiaŋ43 tsheʔ44kiaŋ43 尺囝 碗囝 贼囝
「物差し」 「小さい茶碗」 「泥棒」
(122)における語根は自立語としても成り立つ。kiaŋ43〈囝〉を付けることによって、「小さ
い」という意味を表す。
(123) kheŋ21ŋiaŋ43 ma44iaŋ43 kau44iaŋ43 thu44iaŋ43 犬囝 猫囝 猴囝 兔囝
「犬」 「猫」 「サル」 「ウサギ」
tseu21iaŋ43 tsia44iaŋ43 ieŋ44ŋiaŋ43 爪囝 雀囝 燕囝
「鳥」 「雀」 「ツバメ」
(123)における語根は本来自立語として用いられた。しかし、現在では、kiaŋ43〈囝〉を付加
して使用するのが一般的である。特に「小さい」を意味しない。
語根にkiaŋ43〈囝〉を付加して、若干意味が変化するものである。(124)に例を示す。
(124) kiu44iaŋ43 i44iaŋ43 ku44iaŋ43 tsyʔ44kiaŋ43 舅囝 姨囝 姑囝 叔囝
「妻の弟」 「妻の妹」 「夫の妹」 「夫の弟」
løŋ44ŋiaŋ43 thoŋ44ŋiaŋ43 søŋ44ŋiaŋ43 huaŋ44ŋiaŋ43 侬囝 糖囝 桑囝 番囝
「人形」 「のど飴」 「蚕」 「外国人」
語根は名詞ではなく、kiaŋ43〈囝〉を付加して名詞化するものもある。(125)に例を示す。
(125) ŋoŋ44ŋiaŋ43 pai44iaŋ43 ɛ21iaŋ43 kiʔ44kiaŋ43 □囝 败囝 矮囝 滴囝
「馬鹿」 「放蕩息子」 「ちび」 「少し」
二音節語彙にkiaŋ43〈囝〉を付加してできた名詞もある。(126)に例を提示する。
(126) hiaŋ44lie44iaŋ43 tsi21mue35iaŋ43 puʔ21aŋ35ŋiaŋ43 a21lau35iaŋ43 兄弟囝 姊妹囝 □暗囝 下昼囝
「兄弟」 「姉妹」 「夕方」 「午後」
ka44lɔ44iaŋ43 pa21tsai35iaŋ43 siŋ44mu44iaŋ43 siɔʔ21tiʔ44kiaŋ43 铰刀囝 白菜囝 新妇囝 蜀滴囝
「小さいはさみ」 「小ハクサイ」「トンヤンシー」 「少し」
puŋ21lɔ21iaŋ43 kha44liu44iaŋ43 hau44saŋ44ŋiaŋ43 腹老囝 □□囝 后生囝
「下腹部」 「遊び人」 「若者」
(126)における語根も自立語として成り立つ。kiaŋ43〈囝〉を付加して、「小さい」という意
味が加わる。このような語構成には数量詞句にkiaŋ43〈囝〉を付加するものがよく見られる。
以下、(127)に例を提示する。
(127) siɔʔ21køʔ44kiaŋ43
siɔ35laʔ44kiaŋ43 siɔʔ44hoŋ44ŋiaŋ43 蜀角囝37 蜀粒囝 蜀行囝
「一角」 「一粒」 「一行」
siɔ21uaŋ35ŋiaŋ43 siɔ44a44iaŋ43 蜀碗囝 蜀下囝
「茶碗一杯」 「ちょっと」
(127)におけるやはり少量「少し」を表すことになる。必ずしも客観的な事実ではなく、話
37 kœʔ21〈角〉は人民元の「元」の下の単位である。
し手の主観が関与する。以下の(128)における語根が必ずしも「少ない」を意味しないが、kiaŋ43
〈囝〉を付加することができる。
(128) kui21uaŋ35ŋiaŋ43 kui21piŋ35ŋiaŋ43 几万囝 几瓶囝
「数万円」 「ビールなど数本」
最後に、地名や国にkiaŋ43〈囝〉を付加して使用することもある。(129)に例を掲げる。
(129) huʔ21tsiu35iaŋ43 mi21uɔʔ44kiaŋ43 福州囝 美国囝
「福州人」 「アメリカ人」
XX+囝:
語根が重複形式となっているものにkiaŋ43〈囝〉を付加して用いる。
(130) piŋ44piŋ44ŋiaŋ43 pue44pue44iaŋ43 tieʔ44tieʔ44kiaŋ43 tiʔ21tiʔ21kiaŋ43 瓶瓶囝 杯杯囝 碟碟囝 滴滴囝
「小さい瓶」 「小さいコップ」 「小さいお皿」 「少し」
X囝+囝:
X囝+囝はX囝にkiaŋ43〈囝〉を付加して構成されたものである。「小さい」を意味する。
(131) løŋ21ŋiaŋ21ŋiaŋ43 ma21iaŋ21ŋiaŋ43
keŋ35ŋiaŋ21ŋiaŋ43 侬囝囝 猫囝囝 犬囝囝
「小さい人形」 「子猫」 「子犬」
aʔ21kiaŋ21ŋiaŋ43 tiʔ21kiaŋ21ŋiaŋ43 鸭囝囝 滴囝囝
「アヒルの子」 「少し」
2.4.1.1.2.2 thau44〈头〉
thau44〈头〉は自立語として使用することもできる。以下のように、「頭」を意味する。
(132) thau44thiaŋ21 ty44thau44 头疼 猪头
「頭が痛い」 「豚の頭」
thau44〈头〉は接尾辞として用いられるとき、kiaŋ43〈囝〉と同じく、音声は弱化しない。
声調も脱落せず、また前の音節尾の種類によって、頭子音が交替するといった自立語と同じ 振る舞いをする。
(133) liʔ44thau44 puɔ21lau35 kieŋ44lau44 kuŋ44lau44 日头 斧头 肩头 拳头
「太陽」 「斧」 「肩」 「拳」
maŋ44thau44 koʔ44thau44 soŋ44thau44 toi44thau44 馒头 骨头 蒜头 对头
「饅頭」 「骨」 「にんにく」 「仲が悪い」
tsie21lau35 kha21puʔ21thau35 枕头 骹腹头
「枕」 「膝」
いくつかの時間名詞にthau44〈头〉を付けて、時間的な始まりを表す(134)。
(134) ŋuɔʔ44thau44 lieŋ44lau44 maŋ44lau44 tsa21lau35 月头 年头 暝头 早头
「月の初め」 「年の初め」 「夜の初め」 「朝」
語根にthau44〈头〉を付けて、場所的な意味を表す(135)。
(135) phuɔ44lau44 khu44lau44 siŋ44ŋaŋ44lau44 tshai44thau44 铺头 裤头 心肝头 菜头
「枕元」 「腰周り」 「胸元」 「野菜のへた」
(136)では、語根にthau44〈头〉を付けて、語根が表す事物の意味を限定する。
(136) uɔ44thau44 ie21lau35 tshai44lau44 tua44lau44 芋头 椅头 菜头 大头
「里芋の一種」 「椅子の一種」 「大根」 「大きい」
語根tua42〈大〉は元々「サイズが大きい」を意味する。thau44〈头〉を付けることによって、
動物のサイズが大きいことを表す。また、tua44thau44〈大头〉のように、子音が交替しない形 式もあり、このときは修飾構造となり、「大きい頭」を意味する。