7 履行義務の充足
7.3 買戻契約
売買契約の一部として、又は当初契約における財もしくは類似の財に関連する別個の契約と して、契約に買戻条項が定められることがある。IFRS第15号は、買戻契約に該当する契約 の種類について明確に定めている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
B64. 買戻契約とは、企業が資産を販売するとともに、(同一の契約又は別個の契約のい ずれかで)当該資産を買い戻すことを約定するか又は買い戻すオプションを有する契約で ある。買い戻される資産は、顧客に当初に販売した資産、当該資産と実質的に同じ資産、
又は当初に販売した資産を構成要素とする資産の場合がある。
B65. 買戻契約には、一般的に3つの形態がある。
(a) 企業が資産を買い戻す義務(先渡契約)
(b) 企業が資産を買い戻す権利(コール・オプション)
(c) 企業が顧客の要求により資産を買い戻す義務(プット・オプション)
7.3.1 企業が保有する先渡契約又はコール・オプション
企業に資産を買い戻す無条件の義務や権利が存在する場合、IFRS第15号は、顧客が当該 資産の支配を獲得していないことを明確にしている。同基準書には、次のような適用ガイダン スが定められている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
B66. 企業が資産を買い戻す義務又は権利(先渡契約又はコール・オプション)を有して いる場合、顧客は当該資産に対する支配を獲得していない。というのは、たとえ顧客が当 該資産を物理的に保有しているとしても、顧客が当該資産の使用を指図し、当該資産か らの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力が制限されているからである。したがっ て、企業は当該契約を次のいずれかとして会計処理しなければならない。
(a) 企業が当該資産を当初の販売価格よりも低い金額で買い戻せるか又は買い戻 さなければならない場合、IAS第17号「リース」に従ってリースとして処理する (b) 企業が当該資産を当初の販売価格と同額以上の金額で買い戻せるか又は買
い戻さなければならない場合、B68項に従って金融取引として処理する
上記の適用ガイダンスによれば、企業は、先渡契約又はコール・オプションを含む取引を、買 戻価格と当初販売価格との関係に基づき会計処理しなければならない。IFRS第15号は、企 業に当初販売価格よりも低い価格(貨幣の時間的価値の影響を考慮後)で資産を買い戻す権 利又は義務が存在する場合、契約がセール・アンド・リースバック取引の一部を構成する場合 を除き、当該取引をIAS第17号に従ってリースとして会計処理することを求めている。企業に 当初販売価格に等しい又はそれを上回る価格(貨幣の時間的価値の影響を考慮後)で資産を 買い戻す権利又は義務が存在する場合、当該取引は金融取引として会計処理される。
取引がIFRS第15号に従って金融取引とみなされる場合、売手企業は資産の認識を継続す るとともに、顧客から受領した対価について金融負債を認識する。顧客から受領した対価と
(資産の買戻時点で)事後的に顧客に支払われる対価との差額は、金融取引の期間にわた り認識されることになる金利及び(もしあれば)保有コストを表す。オプションが行使されずに 失効する場合、企業はその時点で負債の認識を中止し、収益を認識する。
現行IFRSからの変更点
現行のIFRSの規定と同様に、IFRS第15号でも、一連の取引を全体として考慮しなければ 契約の実質が理解できないような方法で買戻契約と当初販売契約が関連付けられている場 合、買戻契約と当初販売契約とを一体として検討しなければならない58。したがって、大半の 企業にとって2つの取引を一体として検討することを求める規定が変わることはない。
買戻契約が実質的にリースなのか又は金融取引なのかを区別するIFRS第15号の規定は、
現行のIFRSと概ね整合している。IAS第18号は、「契約条件を分析して、売手は実質的に所 有に伴うリスクと経済価値を買手に移転したか否かを判断する必要がある」と定めている。59 IAS第18号は、金融取引に該当する買戻契約に関して、そうした買戻契約は収益を創出しな いと述べている点を除き、当該契約をどのように会計処理すべきかについて定めていない。し たがって、IFRS第15号の規定により、一部の企業の実務が大幅に変更される可能性がある。
弊社のコメント
我々は、現行のIFRSには限定的なガイダンスしか存在しない点に鑑みるに、買戻契約に 関する規定により、一部の企業の実務に大幅な変更が生じる可能性があると考えている。
IFRS第15号は、すべての先渡契約及びコール・オプションを同じ方法で取り扱っており、
それらが行使される可能性を考慮していないため、企業にとって実務上、当該規定の適用 が課題となる場合もあろう。取引の中には、企業に当初の販売価格と同額又はそれ以上 の金額で資産を買い戻す無条件の権利が存在するものもある。たとえば、高級品のデザ イナーは、当初の販売価格と同額で製品を買い戻す権利を有している場合がある。このコ ール・オプションは、ブランドの評判を保護する権利として機能しており、デザイナーが当 該オプションを行使する可能性は低い。しかしIFRS第15号によれば、デザイナーは、当 該オプションを含むすべての取引を金融取引として会計処理しなければならなくなる。
58 IAS第18号第13項 及び SIC第27号 59 IAS第18号IE5項
同基準書は、次のようなコール・オプションに関する設例を提示している。
IFRS 第 15 号からの抜粋
設例62 ― 買戻契約(IFRS第15号IE315項-IE318項)
企業は20X7年1月1日にCU1百万で有形資産を販売する契約を顧客と締結する。
ケースA―コール・オプション:金融取引
契約には、20X7年12月31日以前であれば当該資産をCU1.1百万で買い戻す権利を 企業に与えるコール・オプションが含まれている。
当該資産の支配が20X7年12月31日時点で顧客に移転することはない。というのは、
企業には当該資産を買い戻す権利があり、よって当該資産の使用を指図し、当該資産か らの残りの便益の実質的にすべてを享受する顧客の能力が制限されるからである。 した がって、行使価格が当初の販売価格を上回っているため、企業はIFRS第15号B66項
(b)に従って当該取引を金融取引として会計処理する。企業はIFRS第15号B68項に従 って資産の認識は中止せず、代わりに受領した現金を金融負債として認識する。企業は また、行使価格(CU1.1百万)と受領した現金(CU1百万)との差額を利息費用として認識 し、これにより負債が増加する。
20X7年12月31日にオプションは行使されないまま失効する。したがって、企業は負債 の認識を中止し、CU1.1百万の収益を計上する。
7.3.2 顧客が保有する売建プット・オプション
IFRS第15号は、顧客が当初の販売価格を下回る価格で企業に資産の買い戻しを要求でき る能力(プット・オプション)を有している場合、企業は、契約の開始時点で、顧客には当該権 利を行使する重要な経済的インセンティブがあるか否かを評価すると定めている。すなわち、
この判断は、顧客が受領した資産を実際に支配しているのか否かに影響を及ぼす。
顧客が当該権利を行使する重要な経済的インセンティブを有しているか否かの判断により、
契約がリースとして取り扱われるのか、又は返品権付きの販売(セクション5.2.2を参照)とし て処理されるのかが決まる。企業は、顧客に当該権利を行使する重要な経済的インセンティ ブが存在するか否かを判断するために、買戻価格と買戻日時点の資産の予想市場価値との 関係及び権利が失効するまでの期間を含む、すべての事実と状況を考慮しなければならな い。IFRS第15号では、買戻価格が資産の予想市場価値を大幅に上回ると見込まれる場合、
顧客にはプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブが存在すると述べられて いる。
• 顧客にその権利を行使する重要な経済的インセンティブが存在する場合、顧客は最終的 に資産を返品すると見込まれる。実質的に顧客は一定期間にわたり資産を使用する権 利に対して支払いを行っていることから、企業は当該契約をリースとして会計処理する。
しかし、契約がセール・アンド・リースバック取引の一部を構成する場合には、当該規定に 対する例外となり、当該契約は金融取引として会計処理される。
• 顧客に当該権利を行使する重要な経済的インセンティブが存在しない場合、企業は返品 権付きの製品の販売と同様の方法で契約を会計処理する。資産の買戻価格が当初の販 売価格と同額又はそれを上回るが、資産の予想市場価値と同額又は下回る場合もまた、
顧客に権利を行使する重要な経済的インセンティブが存在しないならば、返品権付き製 品の販売として会計処理しなければならない。返品権付きの販売については、セクション
5.2.2で解説しているので参照されたい。