6 取引価格の各履行義務への配分
6.4 値引きの配分
相対的な独立販売価格に基づく配分に対するもう1 つの例外規定(最初の例外規定につい ては、セクション 6.3を参照)は、契約に内在する値引きに関するものである。企業が財又は サービスをセット販売している場合、セット販売の価格は、各構成要素の独立販売価格の合 計よりも小さくなることが多い。相対的な独立販売価格に基づく配分方法によれば、この値引 きはすべての独立した履行義務に比例的に配分される。
しかしながら、IFRS第15号では、契約における値引きがすべての約定した財又はサービス に関連していないと判断される場合、当該値引きはそれが関連する財又はサービスのみに 配分されると定められている。企業は、特定の財又はサービスの価格が、契約における他の 財又はサービスから概ね独立している場合に、こうした判断を行うことになる。そうした状況で は、実質的に契約における1つ又は複数の履行義務を「区分して」、その履行義務又は履行 義務グループに値引きを配分する。
IFRS第15号では、値引きの配分に関して以下のように定められている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
82. 次の要件がいずれも満たされる場合、企業は値引きのすべてを契約に含まれるす べてではない1つ又は複数の履行義務に配分しなければならない。
(a) 企業が経常的に契約に含まれる区別できる財又はサービス(あるいは、区別で きる財又はサービスをまとめたセット)のそれぞれを単独で販売している。
(b) 企業はまた、経常的にそうした区別できる財又はサービスのいくつかをまとめ たセット(又は複数のそうしたセット)を、各セットに含まれる財又はサービスの 独立販売価格に対して値引価格で販売している。
(c) 第82項(b)で説明されている財又はサービスをまとめたセットのそれぞれに起 因する値引きが、実質的に契約に内在する値引きと同一であり、各セットに含 まれる財又はサービスを分析すると、契約に含まれる値引きのすべてがこの履 行義務(又は複数の履行義務)に帰属するという客観的な証拠が得られる。
IFRS第15号では、値引きが1つの履行義務のみに配分される可能性があることが考慮さ れているものの、両審議会は、結論の根拠において、そのような状況は稀であると明確に述 べている50。それよりもむしろ、両審議会は、値引きが2つ以上の履行義務に関係することを 企業が証明できる可能性の方が高いと考えている。これは、企業が、約定した財又はサービ スのグループの独立販売価格が、それらの財又はサービスが個別に販売された場合の独立 販売価格よりも低いことを裏付ける客観的な情報が存在する可能性が高いからである。企業 にとっては、値引きが単一の履行義務に関係することを裏付ける十分な証拠を入手すること の方が難しいと思われる。
50 IFRS第15号BC283項
IFRS 第 15 号の下で値
引 き を 特 定 の 履 行 義
務に配分することは現
行実務からの大きな変
更点である。
IFRS第15号には、この考え方を説明するために下記の設例が含められている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
設例34― 値引きの配分(IFRS第15号IE167項からIE177項)
企業は日常的に製品A、B及びCを単独で販売している。これらの製品の独立販売価格 は以下のとおりである。
製品 独立販売価格 CU
製品A 40
製品B 55
製品C 45
合計 140
企業はまた、経常的に製品BとCをまとめたセットをCU60で販売している。
ケースA―値引きを1つ又は複数の履行義務に配分する場合
企業は製品A、B及びCをCU100で販売する契約を顧客と締結する。企業は各製品に 係る履行義務を異なる時点で充足する。
契約には取引全体でCU40の値引きが含まれている。当該値引きは、(IFRS第15号第 81 項に従い)相対的な独立販売価格に基づき取引価格を配分する際に、3 つの履行義 務のすべてに比例的に配分される。しかし、企業は普段から製品BとCをまとめたセット をCU60で販売するとともに、製品AをCU40で販売しているため、IFRS第15号第82 項に従い当該値引きのすべてを製品Bを移転する約定と製品Cを移転する約定に配分 すべきであるという証拠が存在する。
製品BとCに対する支配が同時に移転する場合、企業は、実務上、それらの製品の移転 を単一の履行義務として会計処理することができる。すなわち、企業は、取引価格のうち CU60を単一の履行義務に配分し、製品BとCを同時に顧客に移転した時点でCU60の 収益を認識することができる。
製品BとCを別々の時点で移転する契約の場合、CU60の配分額は製品B(独立販売価 格CU55)を移転する約定と製品C(独立販売価格 CU45)を移転する約定に、それぞれ 下記のとおり配分される。
製品 取引価格の配分 CU
製品B 33 (CU55 ÷ 独立販売価格合計CU100 × CU60)
製品C 27 (CU45 ÷ 独立販売価格合計CU100 × CU60)
合計 60
ケースB―残余アプローチが適切となる場合
ケースAと同様に、企業は製品A、B及びCを販売する契約を顧客と締結する。また、契 約には製品Dを移転する約定も含まれる。契約対価の総額はCU130である。企業は製 品Dをさまざまな顧客に広いレンジのさまざまな金額(CU15からCU45)で販売しており、
製品Dの独立販売価格の変動性は高い(IFRS第15号第79項(c))。そのため、企業は、
製品Dの独立販売価格を残余アプローチを用いて見積ることを決定する。
IFRS 第 15 号からの抜粋(続き)
残余アプローチにより製品Dの独立販売価格を見積る前に、企業は、IFRS第15号第82 項及び第83項に従い、値引きを契約における他の履行義務に配分すべきか否かを判断 する。
ケースAと同様に、企業は普段から製品BとCを一緒にしたセットをCU60で販売すると ともに、製品AをCU40で販売しているため、IFRS第15号第82項に従って、CU100を それらの3つの製品に配分し、CU40の値引きを製品Bを移転する約定と製品Cを移転 する約定に配分すべきであるという客観的な証拠が存在する。企業は、残余アプローチを 用いて、下記のとおり製品Dの独立販売価格はCU30であると見積る。
製品 独立販売価格 見積方法 CU
製品A 40 客観的な独立販売価格(IFRS第15号第77項を参照)
製品BとC 60 値引きを含む客観的な独立販売価格(IFRS 第 15 号第82項を参照)
製品D 30 残余アプローチ(IFRS第15号第79項(c)を参照)
合計 130
企業は、製品Dに配分されることになるCU30が、客観的な独立販売価格の範囲(CU15
から CU45)に含まれていることを確認した。そのため、配分結果(上記表を参照)は、
IFRS第15号第73項の配分目的及びIFRS第15号第78項の規定と整合している。
ケースC―残余アプローチが不適切となる場合
取引価格がCU130ではなくCU105である点を除き、事実関係はケースBと同じとする。
この場合、残余アプローチを適用すると製品 D の独立販売価格は CU5(取引価格 CU105-製品A、B及びCに配分されたCU100)となる。CU5は製品Dの独立販売価 格(CU15からCU45)に近似しないため、企業は、CU5は製品Dを移転する履行義務の 充足と交換に企業が権利を得ると見込む対価の金額を忠実に表すものではないと判断 する。そのため、他の適切な方法を用いて製品Dの独立販売価格を見積るために、売上 や利益に関する報告書など、客観的なデータを見直す。企業は、IFRS第15号第73項 から第80項に従い、製品A、B、C及びDの相対的な独立販売価格に基づき取引価格 CU130をそれらの製品に配分する。
上記の設例で説明したように、この例外規定では、契約に内在する値引総額の一部のみを、
契約に含まれるすべてではなく、一部の構成要素のセットに直接配分することも認められる。
すなわち、上記のシナリオBでは、製品BとCをあわせたセットが通常販売されている値引 価格に基づき、契約に内在する値引きの一部が製品BとCに配分される。契約に含まれる残 りの値引きは、残余アプローチに基づき製品Dに配分される。
現行IFRSからの変更点
複数要素契約におけるすべてではない一部の履行義務に値引きを配分できるようになること で、現行実務は大きく変わることになる。この例外規定により、企業は、一定の状況における 取引に関して、その経済的実態をより適切に反映できるようになる。しかし、値引きが契約内 の一部の履行義務にのみ関係することを立証するために満たすべき要件により、この例外規 定を適用できる取引は限定される可能性が高い。