3. 顧客との契約の識別
4.4 本人か代理人かの検討
一部の契約では、顧客が契約の直接の当事者ではない他の企業から財又はサービスを受 け取る場合がある。IFRS第15号によれば、他の当事者が企業の顧客への財又はサービス の提供に関与している場合、企業は、その履行義務は財又はサービスを提供することなのか
(すなわち、企業は本人当事者)、又は他の企業による財又はサービスの提供を手配するこ となのか(すなわち、企業は代理人)を判断しなければならない。企業が本人当事者又は代 理人のいずれとして行動しているかに関する判断は、企業が認識する収益の額に影響を及 ぼす。すなわち、企業が取決めにおいて本人当事者である場合、認識される収益は企業が 受け取る権利を有すると見込む総額となる。一方、企業が代理人である場合、認識される収 益は代理人としてのサービスと引き換えに留保する権利を有する純額となる。企業の報酬又 は手数料は、他の当事者により提供される財又はサービスと交換に受領した対価を当該他 の当事者に支払った後に、企業が留保する対価の純額となる。
取決めにおける本人当事者の履行義務は代理人の履行義務とは異なる。たとえば企業が、
他の企業の財又はサービスを顧客に移転する前に、当該財又はサービスの支配を獲得する 場合、企業の履行義務は財又はサービスそのものを提供することである。したがって、企業 は本人当事者として行動している可能性が高く、その場合、受領する権利を有する総額で収 益を認識する。企業が、顧客への法的所有権の移転前に、一瞬だけ製品の法的所有権を取 得する場合、必ずしも本人当事者として行動しているとは言えない。対照的に、代理人は報 酬又は手数料と交換に顧客への財又はサービスの販売を促進するが、一般的には一瞬たり とも財又はサービスを支配することはない。したがって、代理人の履行義務は、他の当事者 が顧客に財又はサービスを提供することを手配することである。
契約における本人当事者の識別は常に明確であるとは言えないため、両審議会は、履行義 務に代理人関係が存在することを示す指標を提供している。
IFRS 第 15 号からの抜粋
B37.企業が代理人である(よって、顧客に提供される前に財又はサービスを支配すること がない)という指標には、以下のようなものがある。
(a) 別の企業が、契約を履行する主たる責任を有している。
(b) 企業は、顧客からの受注前後、輸送中又は返品時の在庫リスクを有していな い。
(c) 企業は、他の当事者の財又はサービスの価格設定に関して裁量権を有してお らず、よって、当該財又はサービスから受け取ることのできる便益が制限され ている。
(d) 企業の対価が手数料の形式による。
(e) 企業は、他の当事者の財又はサービスと交換に顧客から受け取る金額につい て、顧客の信用リスクにさらされていない。
IFRS第15号の結論の根拠で説明されているように、上記の指標は、IFRSとUS GAAPにお ける現行の収益認識規定に定められる指標を基礎としている31。しかし、IFRS第15号に定 められる指標は、履行義務の識別という概念と財又はサービスの移転に基づいているという 点で、現行のIFRSとはその目的が異なる。契約における履行義務を適切に識別することは、
企業が本人当事者又は代理人のいずれとして行動しているのかを判断する際の基礎となる。
すなわち、取決めにおいて本人当事者として行動していると結論付けるためには、企業は、
約定した財及びサービスが顧客に移転される前に、当該財又はサービスを支配していると判 断できなければならない。IFRS第15号の指標は、企業がそうした判断を行う際に役立つよう に設けられたものである。
契約における約定を識別し、自身が本人当時者又は代理人のいずれであるかを決定したら、
企業はその履行義務を充足した時点で収益を認識する(セクション7で解説)。企業が代理人 となる契約では、顧客が本人当事者から財又はサービスを受領する前に、代理人が約定し た財又はサービスの支配を顧客に移転することがある。たとえば、以下のような場合には、ロ イヤリティ・ポイントが顧客に移転された時点で、企業は顧客にロイヤリティ・ポイントを提供す るという約定を充足したことになる。
• 企業の約定は、顧客が企業から財又はサービスを購入した時点で、顧客にロイヤリティ・
ポイントを付与することである。
31 IFRS第15号BC382項
• ポイントにより、顧客は将来他の当事者から値引価格で財又はサービスを購入する権利 を与えられる。
• 企業は、自身は代理人であり(すなわち、その約定は顧客がポイントを付与されるように 手配すること)、顧客に移転される前に当該ポイントを支配していないと判断する。
対照的に、ポイントにより、顧客が将来企業が提供する財又はサービスを受領する権利を得 る場合、企業は自身は代理人ではないと結論付ける。というのは、この場合の企業の約定は 将来財又はサービスを提供することだからである。したがって、企業は、ポイント及び将来の 財又はサービスの両方が顧客に移転される前にそれらを支配している。こうしたケースでは、
企業の履行義務は財又はサービスが将来提供された時点でのみ充足されることになる。
顧客が、ポイントと交換に受け取る財又はサービスを、企業又は他の企業が将来提供する財 又はサービスから選択できる場合もある。そのような状況では、顧客が選択をしてはじめて、
企業の履行義務の性質が明らかになる。すなわち、顧客が提供される財又はサービスを選 択するまで(したがって、財又はサービスが企業によって提供されるのか、それとも第三者に よって提供されるのかが判明するまで)、企業は財又はサービスを引き渡すことができるよう に準備しておかねばならない。したがって、企業は財又はサービスを引き渡すまで、又はそれ らをいつでも引き渡せるように準備しておく必要がなくなるまで、その履行義務を充足すること はない。その後顧客が他の企業の財又はサービスを選択する場合、企業は自身が代理人と して行動しているのかどうかを検討する必要がある。代理人である場合、企業は、顧客と当 該他の企業へのサービスの提供と交換に、企業が受領する報酬又は手数料のみを収益とし て認識する。両審議会は、こうした規定はカスタマー・ロイヤリティ・プログラムに関するIFRIC 第13号の現行の規定に整合すると述べている。32
企業は財又はサービスを提供する義務を他の企業に移転することもできるが、両審議会はそ うした移転は必ずしも履行義務を充足するものではないと定めている。その代わりに企業は、
当該義務を引き受ける企業のために顧客を獲得するという新たな履行義務が創出された(す なわち、企業が代理人として行動している)かどうかを評価する。
弊社のコメント
現行実務と同様に、企業は、収益を総額又は純額のいずれで表示することが適切なのか を慎重に評価する必要がある。IFRS第 15 号には、企業が契約において本人当事者又 は代理人のいずれとして行動しているのかを判断する際の適用ガイダンスが定められて いるが、これらは現行のIFRSにおけるガイダンスと整合するものである。したがって企業 は、当該論点に関して、現行のIFRSと同様の結論に至る可能性が高い。しかしIFRS第 15 号には、これらの指標に加え、当該評価において企業が財又はサービスの支配を有 しているか否かを検討することを求める優先的な原則が追加されている。これは、企業が 取決めにおける本人当事者であるのか、それとも代理人であるのかの評価に影響を及ぼ す可能性がある。
32 IFRS第15号BC385項
同基準書では、以下の設例を用いて、本人当事者又は代理人のいずれであるかに関する適 用ガイダンスについて説明している。
IFRS 第 15 号からの抜粋
設例 47 - 財又はサービスを提供する約定(企業が本人当事者である場合)(IFRS 第 15号IE239項-IE243項)
ある企業は、大手航空会社が直接販売する場合の航空券代よりも安い金額で航空券を 購入することができないか、当該航空会社と交渉している。企業は一定数量の航空券の 購入に同意するが、たとえそれらが転売できなくとも、これらの航空券代を支払わねばな らない。各航空券の購入に関して企業が支払う値引後の価格は、事前に交渉の上同意さ れている。
企業はこれらの航空券の顧客への販売価格を決定する。企業は航空券を販売し、その時 点で顧客から対価を回収する。そのため、信用リスクは存在しない。
企業はまた、顧客が航空会社のサービスに対するクレームを解決するのを手助けする。
しかし、各航空会社が、サービスに対する顧客の不満への対応をはじめ、航空券に関連 して生じる義務を履行する責任を負っている。
その履行義務が、財又はサービスそのものを提供することであるのか(すなわち、本人当 事者)、又は他の企業が財もしくはサービスを提供するのを手配することであるのか(すな わち、代理人)を判断するために、企業はその約定の内容を検討する。企業は、その約定 は、顧客に特定のフライトあるいは当該フライトが変更又はキャンセルされる場合は別の フライトに搭乗する権利を与える航空券を提供することであると判断する。搭乗する権利 に対する支配が顧客に移転される前に企業が当該権利の支配を獲得しているかどうか、
また企業が本人当事者に該当するかどうかを判断するにあたり、以下の IFRS 第15 号 B37項の指標を検討する。
(a) 企業は、搭乗する権利を提供するという契約の履行について主たる責任を有し ている。しかし、企業がフライトの運行そのものに責任を負うことはなく、フライト は航空会社により提供される。
(b) 顧客に販売する前に航空券を購入することから、企業は、航空券の在庫リスク を抱えることになり、取得原価を上回る金額で航空券を販売できない場合に生 じる損失にさらされている。
(c) 企業は自らの裁量で顧客への航空券の販売価格を決定することができる。
(d) 販売価格を決定できるため、企業が稼得する金額は手数料の形式ではなく、
企業の販売価格と航空会社と交渉された航空券の取得原価に左右される。
企業は、その約定は航空券(すなわち、搭乗する権利)を顧客に提供することであると結 論付ける。企業は、IFRS第15号B37項の指標に基づき、顧客に移転する前に航空券を 支配していると結論付ける。したがって、企業は当該取引において本人当事者として行動 しており、航空券の移転と交換に受領する権利を有する対価の総額で収益を認識すると 結論付ける。