5 取引価格の算定
5.1 変動対価
取引価格は、顧客から受け取る権利を得ることになる対価についての企業の予想を反映す る。IFRS第15号には、変動対価に該当するのか、またその場合にはどのように処理すべき かの判断に関して、以下の規定が定められている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
50. 企業は、取引価格を算定するために、契約条件及び自らの実務慣行を考慮しなけ ればならない。取引価格は、顧客への財又はサービスの移転と交換に企業が権利 を得ると見込む対価の金額であり、第三者のために回収する金額(たとえば、一部 の売上税)は除かれる。約定対価には、固定金額、変動金額又はその両方が含ま れる場合がある。
51. 約定対価の内容、時期及び金額は、取引価格の見積りに影響を及ぼす。取引価格 を算定する際に、企業は次のすべての影響を考慮しなければならない。
(a) 変動対価(第50項から第55項及び第59項を参照)
(b) 変動対価の見積りに係る制限(第56項から第58項を参照)
(c) 契約における重要な金利要素の存在(第60項から第65項を参照)
(d) 現金以外の対価(第66項から第69項を参照)
(e) 顧客に支払われる対価(第70項から第72項を参照)
52. 取引価格を算定する目的上、企業は、財又はサービスが現在の契約に従って約定 どおりに顧客に移転され、契約の取消し、更新又は変更はないものと仮定しなけれ ばならない。
(a) 商慣行、公表している方針又は具体的な声明により、企業が契約に明記され た金額よりも低い対価を受け入れるであろうという妥当な期待を顧客が抱いて いる。つまり、企業が価格譲歩の申し出を行うことが期待されている。法域、業 種又は顧客によって、こうした価格譲歩は、割引、リベート、返金又はクレジット と呼ばれることがある。
(b) その他の事実及び状況により、企業が顧客との契約締結時点で価格譲歩を行 う意図を有していることが示される。
53. 企業は、権利を得ることになる対価の金額をどちらの方法がより適切に予測できる かに基づき、次のいずれかの方法を用いて変動対価の金額を見積もらなければな らない。
(a) 期待値—期待値とは、起こり得る対価の金額の範囲における確率加重金額の 合計である。期待値は、企業が特徴の類似した多数の契約を有している場合 に、変動対価の金額の適切な見積りとなる可能性がある。
(b) 最頻値—最頻値とは、起こり得る対価の金額の範囲の中で単一の最も発生可 能性の高い金額である(すなわち、契約から生じる単一の最も可能性が高い結 果)。最頻値は、契約に起こり得る結果が2つしかない場合(たとえば、企業が 業績ボーナスを受け取るか又は受け取らないかのいずれかである場合)には、
変動対価の金額の適切な見積りとなる可能性がある。
IFRS 第 15 号からの抜粋
54. 権利を得ることになる変動対価の金額に関する不確実性の影響を見積る際に、企 業は契約全体を通じて 1 つの方法を首尾一貫して適用しなければならない。さら に、企業は、合理的に利用可能なすべての情報(過去、現在及び将来の見通し)を 考慮しなければならず、合理的な数の起こり得る対価の金額を識別しなければなら ない。変動対価の金額の見積りに使用する情報は、通常、経営者が入札や提案の 過程で、及び約定した財又はサービスの価格設定に使用する情報と同様のもので ある。
これらの概念については、下記でさらに詳しく説明している。
5.1.1 変動対価の形態
IFRS 第15 号第 51項で述べられているように、「変動対価」の定義は幅広い。(セクション
5.1.3 で詳細に説明しているように)変動対価の種類ごとに変動対価に係る制限を検討する
必要があるため、契約におけるさまざまな種類の変動対価を適切に識別することが重要であ る。
IFRS第15号で識別されているさまざまな種類の変動対価の多くは、現行のIFRSの下でも 同様に変動対価として処理されている。たとえば、取引価格の一部が特定の業績条件を満た すことを条件としており、その結果について不確実性が存在する場合が挙げられる。当該変 動要素は、現行のIFRSとIFRS第15号のどちらに基づいた場合も変動対価とみなされる。
しかし、IFRS第15号の下では変動対価とみなされる一定の金額が、現行のIFRSでは「固定 対価」として捉えられている場合がある。たとえば、IFRS第15号における変動対価の定義に は、顧客への返金や返品による変動が含まれている。そのため、固定単価で100個の部品 を顧客に提供する契約において、顧客が当該部品を返品できる場合、変動要素が含まれて いることになる(セクション5.2.2を参照)。
約定対価に明らかに変動要素が含まれる契約もあれば、事実及び状況に基づけば企業が 契約に明示されている価格よりも低い金額を受け取ることが示唆されることから、対価が変 動するとみなされる契約もある。商慣行、公表された方針又はその顧客に対する具体的な声 明により、企業が価格を引き下げるであろうという妥当な期待を顧客が抱いた結果、変動対 価に該当することもある。特定の事実及び状況によって、顧客に価格譲歩を提供する企業の 意図が示唆される場合にも、こうした潜在的な価格の引き下げが存在する可能性がある。
IFRS第15号では、企業が、契約の締結時点で回収可能性に疑義があることを認識している にもかかわらず、契約を締結する場合には、黙示的な価格譲歩が含まれている可能性があ ると述べられている。IFRS第15号の下では、そのような黙示的な価格譲歩は変動対価とみ なされる。しかし、セクション3.1.5で説明しているように、こうした状況にある企業は、顧客と 有効な契約を締結しているのか否かも判断する必要がある。企業が契約の開始時に顧客か ら見積取引価格を回収する可能性が高くないと判断した場合(見積取引価格は明示されてい る契約価格よりも低い場合があることに留意する)、契約は有効であり、IFRS第15号の収益 認識モデルが適用されると結論付けてはならない(セクション 3.4 を参照)。収益認識モデル のステップ1(すなわち、契約の識別)を評価するにあたり、企業は、当該モデルのステップ3
(すなわち、取引価格の算定)も考慮することが求められる。
IFRS第15号では、取引価格を算定するにあたり、(契約の開始時点で判明していた)信用リ スクが黙示的な価格譲歩(すなわち、変動対価の一種)を表すのか否かを判断することが求 められる。それが黙示的な価格譲歩である場合、見積取引価格には含まれない。現行の IFRS の下では、そうした金額は収益の減額として反映されるのではなく、貸倒費用として計 上されている可能性が高い。
しかし両審議会は、IFRS第15号の結論の根拠において、企業が黙示的に価格譲歩を申し 出たのか、又は契約で合意した対価に関して顧客が債務不履行に陥るリスクを受け入れるこ とを選択したのかを判断することが困難な場合があることを認めている35。両審議会は、価格 譲歩と減損損失を区別する際に役立つような詳細な適用ガイダンスを設けていない。そのた め、企業は、契約の開始時点で判明していた回収可能性に関する問題の性質を分析するに あたり、関連するすべての事実及び状況を考慮する必要がある。
弊社のコメント
契約の開始時点で判明していた回収可能性の問題に関して、それが黙示的な価格譲歩
(すなわち、収益の減額)なのか、又は顧客の信用リスク(すなわち、貸倒費用)なのかを 区別することが企業にとって難しい場合があるであろう。企業は、契約の開始時点で利用 可能であったすべての事実及び状況と、その後の顧客の支払能力に影響を及ぼした可 能性のある事象を慎重に評価する必要がある。この決定を行うにあたり、相当な判断が 求められる。企業は、こうした評価に関して明確な方針及び手続きを定め、すべての取引 に対して首尾一貫して適用しなければならない。
変動対価は契約における延払条件(及び当該支払条件により生じる将来当該金額を回収す る企業の能力に係る不確実性)によって生じる場合もある。すなわち、企業が将来期日が到 来するすべての金額を回収する意図がない、又は回収することができないであろう場合に、
延払条件が黙示的な価格譲歩を表すのか否かを評価しなければならない。
5.1.2 変動対価の見積り
企業は、期待値又は最頻値のいずれかを用いて取引価格を見積らなければならない。企業 は、権利を得ることになる対価の金額をより適切に予測できるアプローチを用いる必要があ る。すなわち、いずれの方法を採用するかは自由に選択できるわけではなく、事実及び状況 に基づき最も適した方法を選択する。
企業は、契約全体を通じて選択した方法を一貫して適用し、各報告期間の末日に見積取引 価格を見直す。企業は、いずれかの方法を選択したら、類似する種類の契約に同一の方法 を一貫して適用しなければならない。両審議会は、結論の根拠において、契約にはさまざま な種類の変動対価が含まれる可能性があることを指摘している36。そのため、単一の契約に おける異なる種類の変動対価の見積りに関して、異なるアプローチ(すなわち、期待値又は 最頻値)を用いることが適切となる場合がある。
35 IFRS第15号BC194項 36 IFRS第15号BC202項