7 履行義務の充足
7.1 一定期間にわたり充足される履行義務
企業はしばしば約定した財及びサービスを一定期間にわたり顧客に移転する。財又はサー ビスが一定期間にわたり移転されるか否かの決定が容易である契約(たとえば、多くのサー ビス契約)もあるが、その判断が難しい契約もある。支配が(ある一時点ではなく)一定期間に わたり移転されるか否かの判断に資するように、両審議会は以下の要件を定めている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
35. 次の要件のうちいずれが満たされる場合、企業は財又はサービスの支配を一定期 間にわたり移転しており、よって一定期間にわたり履行義務が充足され、収益が認 識される。
(a) 企業が履行するにつれ、顧客が企業の履行による便益を受け取ると同時に消 費する(B3項からB4項を参照)。
(b) 企業の履行により、資産(たとえば、仕掛品)が創出されるか又は増価し、資産 の創出又は増価につれて、顧客が当該資産を支配する(B5項を参照)。
(c) 企業の履行により企業にとって代替的な用途がある資産(第36項を参照)が 創出されず、かつ企業が現在までに完了した履行に対して支払を受ける法的 に強制可能な権利(第37項を参照)を有している。
上記の各要件の例については、以下のセクションで説明している。企業が支配は一定期間に わたり移転することを示せない場合、支配はある一時点で移転すると推定される(セクション 7.2を参照)。
51 IFRS第15号第33項
7.1.1 企業が履行するにつれ、顧客は便益を受け取ると同時に消費する
IFRS第15号は、企業の履行による便益の受領と消費という最初の要件に関して、以下のよ うに定めている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
B3. 一定の種類の履行義務については、企業が履行するにつれて、顧客が企業の履行 による便益を受け取り、同時に消費するか否かの評価は容易である。たとえば、(清掃サ ービスなどの)定期的又は反復的なサービスが挙げられる。こうしたサービスでは、顧客 が企業の履行による便益を受け取ると同時に消費することが容易に確認できる。
B4. その他の種類の履行義務については、企業が履行するにつれて、顧客が企業の履 行による便益を受け取り、同時に消費するか否かを容易に識別できない場合がある。そう した状況では、仮に他の企業が顧客に対して残りの履行義務を充足するとした場合に、
当該他の企業は、企業がこれまでに完了した作業を実質的にやり直す必要がないと企業 が判断するならば、当該履行義務は一定期間にわたり充足される。他の企業が、企業が 現在までに完了した作業を実質的にやり直す必要がないかどうかを判断するにあたり、
企業は次の両方の仮定を置かなければならない。
(a) 残りの履行義務を別の企業に移転することを妨げる契約上又は実務上の制約 は無視する。
(b) 残りの履行義務を充足する他の企業は、企業が現在支配している資産及び当 該履行義務が他の企業に移転されたとしても企業が引き続き支配する資産か らの便益は享受しないと仮定する(つまり、履行義務の移転先である他の企業 は、移転元である報告企業の資産は利用できないという前提を置く)。
IFRS第15号の結論の根拠で説明されているように、純粋なサービス契約については、一般 的に企業は一定期間にわたりサービスを移転することを明確化するために、両審議会は当 該要件を設けた52。さらに、両審議会は当該要件は財ではなく、サービスにのみ適用されるこ とを意図している。したがって、企業の履行により資産が受領された時点で完全に消費される ことのない資産が創出される場合、両審議会は、企業は(履行義務が一定期間にわたり充足 されるか否かを判断するために)当該要件を適用すべきではないと述べている。その代わり、
企業はセクション7.1.2及び7.1.3で説明する要件を用いて履行義務を評価する。
52 IFRS第15号BC125項-BC128項を参照
一定のサービス契約では、企業の履行によりその履行につれて資産が認識されることもなけ れば、企業による履行が完了するまで顧客がその履行による便益を消費することもない。
IFRS第15号は、サービスの完了時点で専門家としての意見を述べることが求められるコン サルティング・サービスを提供する企業の例を挙げている。こうした状況では、当該要件を基 づきサービスは一定期間にわたり移転すると結論付けることはできない。その代わりに、企 業はIFRS第15号第35項に定められる残りの2つの要件を検討しなければならない。
IFRS 第 15 号からの抜粋
設例13 ― 顧客が便益を受領すると同時に消費する場合 (IFRS第15号IE67項-68項)
企業は、月次の給与処理サービスを1年間にわたり提供する契約を顧客と締結する。
約定した給与処理サービスはIFRS第15号第22項(b)に従って単一の履行義務として 会計処理される。企業が各給与を処理するにつれ、顧客が企業の履行による便益を受領 すると同時に消費するため、当該履行義務はIFRS第15号第35項(a)に従って一定期 間にわたり充足される。他の企業が、企業がそれまでに提供した給与処理サービスに関 して、当該サービスを再度実施する必要がないという事実も、企業が履行するに応じて顧 客がその履行による便益を受け取り、同時に消費することを裏付けている。(企業は、他 の企業が実施する必要のあるセットアップ活動を含む、残りの履行義務の移転に係る実 務上の制約については考慮しない)。企業は、IFRS第15号第39項から45項及びB14 項からB19項に従って、当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することに より、一定期間にわたり収益を認識する。
7.1.2 資産の創出又は増価につれて、顧客が当該資産を支配する
財又はサービスの支配が一定期間にわたり移転されるか否かを判断するための2つ目の要 件は、資産が創出又は増価されるに応じて、顧客がその資産を支配するというものである。こ の判断を行う上での「支配」の定義は、上記で説明した定義と同じである(すなわち、資産の 使用を指図し、当該資産からの残りの便益の実質的にすべてを獲得する能力)。さらに、創 出又は増価される資産は有形の場合もあれば無形の場合もある。たとえば、顧客の建物で ITシステムを開発する契約では、顧客が開発中のシステムを支配し、よって支配が一定期間 にわたり移転されることがある。工事契約の中には、契約対象物が建設されるに応じて、顧 客が当該仕掛工事を所有することを定めた条項を含むものもある。両審議会は、資産が創出 又は増価されるに応じて、顧客が当該資産に対する支配を獲得するということは、企業の履 行により財又はサービスが一定期間にわたり顧客に移転されていることを示していると考え ている。
7.1.3 代替的な用途のない資産及び支払いに対する権利
財又はサービスの支配が一定期間にわたり移転するか否かを判断するための最後の要件 には、以下の2つの規定が含まれている。
• 企業の履行により企業にとって代替的な用途がある資産が創出されない。
• 企業は現在までに完了した作業について、支払を受ける法的に強制可能な権利を有して いる。
これらの概念のそれぞれについて、以下で詳しく説明する。
代替的な用途
IFRS第15号は、「代替的な用途」に関して以下のような規定を定めている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
36. 企業が、資産の創出又は増価中に当該資産を容易に他の用途に使用することが 契約上制限されているか、又は資産が完成した状態で当該資産を容易に他の用途 に使用することに実務的な制約がある場合、企業の履行により創出された資産は 企業にとって代替的な用途がない。資産が企業にとって代替的な用途があるか否 かの評価は契約の開始時点で行われる。契約の開始後は、企業は資産に代替的 な用途があるか否かの評価を更新してはならない。ただし、契約当事者が履行義 務を著しく変更する契約の変更を承認する場合は除く。B6 項から B8 項では、企業 にとって代替的な用途がある資産か否かの評価に関するガイダンスが定められて いる。
…
B6. 第36項に従って資産が企業にとって代替的な用途があるか否かを評価するにあた り、契約上及び実務上の制約が、たとえば別の顧客への販売など、当該資産を容易に他 の用途に使用する企業の能力に及ぼす影響を考慮しなければならない。企業が資産を 容易に他の用途に使用できるか否かを評価するに際し、顧客との契約が終了になる可能 性については考慮する必要はない。
B7. 資産が企業にとって代替的な用途がないというためには、当該資産を他の用途に使 用する企業の能力に対する契約上の制限は、実質的なものでなければならない。契約上 の制限は、企業が約定した資産を他の用途に使用しようとした場合に、顧客が当該資産 に対する権利を行使できるならば、実質的である。対照的に、たとえば、契約に違反する ことも、他の資産と交換しなければ当該契約に関して発生していなかったであろう多額の コストを負担することもなく、企業が当該資産を他の顧客に移転する他の資産と交換でき る場合、契約上の制限は実質的ではない。
B8. 資産を他の用途に使用する企業の能力に対する実務的な制約は、企業が資産を他 の用途に使用したならば多額の経済的損失を被る場合に存在する。資産を改造するため に多額の費用がかかる、又は多額の損失が生じることになる価格でないと資産を販売で きないため、重要な経済的損失が発生する。たとえば、顧客仕様の特注品や遠隔地にあ る資産の転用は、実務的に制約されることがある。