7 履行義務の充足
7.2 ある一時点で移転される支配
支配が一定期間にわたり移転されない履行義務に関しては、支配はある一時点で移転される ことになる。多くの状況では、その一時点がいつであるのかを判断することは比較的容易であ る。しかし、その判断がより複雑になる状況もある。顧客が特定の財又はサービスの支配を獲 得する時点を企業が判断する際に役立つように、両審議会は以下の規定を定めている。
57 IAS第11号第31項
IFRS 第 15 号からの抜粋
38. 第35項から第37項に従って一定期間にわたり充足される履行義務に該当しない 場合、企業は当該履行義務を一時点で充足する。顧客が約定した資産の支配を獲 得し、企業が履行義務を充足する時点を決定するために、企業は第 31 項から第 34 項の支配に関する規定を検討しなければならない。さらに、企業は支配の移転 に関する指標を考慮しなければならない。これには次のものが含まれるが、これら に限定されない。
(a) 企業が資産に対する支払いを受ける現在の権利を有している — 顧客が資産 に対して支払を行う現在の義務を負っている場合、それは、顧客がその支払と 交換に当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益の実質的にすべ てを享受する能力を獲得したことを示している可能性がある。
(b) 顧客が資産の法的所有権を有している — 法的所有権は、どの契約当事者が 資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益の実質的にすべてを獲得す る能力を有しているか、又は他の企業がそれらの便益にアクセスすることを制 限する能力を有しているかを表していることがある。したがって、資産に関する 法的所有権の移転は、顧客が当該資産の支配を獲得していることを示している 可能性がある。企業が法的所有権を顧客の支払不履行に対する保護としての み留保している場合には、当該権利は顧客が資産の支配を獲得することを妨 げるものではない。
(c) 企業が資産の物理的占有を移転した — 顧客による資産の物理的占有は、顧 客が当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益の実質的にすべて を獲得する能力を有している、又は他の企業のそれらの便益へのアクセスを制 限する能力を有していることを示している可能性がある。しかし、物理的な占有 が資産の支配と一致しないことがある。たとえば、買戻契約や委託販売契約の 中には、企業が支配している資産の物理的な占有を顧客又は受託者が有して いる場合がある。逆に、請求済未出荷契約の中には、顧客が支配している資産 の物理的占有を企業が有しているものがある。B64項からB76項、B77項から B78項及びB79項からB82項では、買戻契約、委託販売契約、及び請求済未 出荷契約の会計処理について、それぞれガイダンスが定められている。
(d) 顧客が資産の所有に伴う重要なリスクと経済価値を有している — 資産の所有 に伴う重要なリスクと経済価値の顧客への移転は、顧客が当該資産の使用を指 図し、当該資産からの残りの便益の実質的にすべてを享受する能力を獲得した ことを示している可能性がある。しかし、約定した資産の所有に伴うリスクと経済 価値を評価する際に、企業は、当該資産を移転するという履行義務に加えて、
別個の履行義務を生じさせることになるリスクを除外しなければならない。たとえ ば、企業が資産の支配を顧客に移転したが、当該資産に関連した保守サービス を提供するという別個の履行義務をいまだ充足していない場合がある。
(e) 顧客が資産を検収した—顧客による資産の検収は、顧客が当該資産の使用を 指図して、当該資産からの残りの便益の実質的にすべてを享受する能力を獲 得したことを示していることがある。顧客の検収に関する契約条項が、資産の 支配が移転される時点に与える影響を評価するために、企業はB83項から B86項のガイダンスを考慮しなければならない。
上記の指標はいずれも、それ単独で、顧客が財又はサービスの支配を獲得したか否かを決 定づけるものではない。企業は、支配が移転されたか否かの判断に際して、すべての関連す る事実と状況を考慮すべきである。両審議会はまた、これらの指標はチェックリストの役割を 果たすものではないという点を明確にしている。さらに企業が、顧客が支配を獲得したと判断 するために、これらの指標のすべてが存在していなければならないわけではない。むしろこれ らの指標は、顧客が資産の支配を獲得した場合にしばしば存在する要素であり、企業が支配 に関する原則を適用する際に役立つように設けられたものである。
IFRS第15号は、一定期間にわたる収益の認識(セクション7.1を参照)、及び一時点での収 益の認識(セクション7.2を参照)について説明するために、以下のような設例を設けている。
IFRS 第 15 号からの抜粋
設例17 ― 履行義務が一時点で又は一定期間わたり充足されるかに関する評価 (IFRS第15号IE81項-IE90項)
ある企業は分譲マンションの開発を行っている。顧客は建設中の特定の部屋に関する拘 束力のある売買契約を企業と締結する。すべての部屋の間取りと広さはほぼ同じである が、それ以外の特徴は部屋ごとに異なる(たとえば、マンション内における各部屋の位 置)。
ケースA ― 企業が現在までに完了した履行に対して支払いを受ける強制可能な権利を 有していない場合
顧客は契約の締結時点で預託金を支払うが、当該預託金は企業が契約に従って当該部 屋を完成できない場合にのみ返金される。残りの契約価格は、顧客が当該部屋の物理的 な占有を獲得する契約の完了時点で支払われる。顧客が当該部屋の完成前に契約不履 行に陥る場合、企業は預託金を留保する権利のみを有している。
企業は、契約の開始時点で、IFRS第15号第35項(c)に照らして、当該部屋を建設し顧 客に移転する約定は一定期間にわたり充足される履行義務であるか否かを判断する。部 屋の工事が完成するまでは顧客が差し入れた預託金に対する権利しか有していないた め、企業は、これまでに完了した履行に対する支払いを受ける強制可能な権利は存在し ないと判断する。企業は現在までに完成した工事に対する支払いを受ける権利は有して いないため、当該履行義務はIFRS第15号第35項(c)に従い一定期間にわたり充足さ れる履行義務に該当しない。そのため、企業は、当該部屋の販売をIFRS第15号第38 項に従ってある一時点で充足される履行義務として会計処理する。
ケースB ― 企業が現在までに完了した履行に対する支払いを受ける強制可能な権利を 有している場合
顧客は、契約の締結時点で返金不能な預託金を支払うとともに、当該部屋の建設期間中 は進捗度に応じた支払いを行う。契約には、企業が当該部屋を他の顧客に販売すること を妨げる実質的な条件が盛り込まれている。さらに、企業が約定したとおりに契約を履行 しない場合を除き、顧客には契約を解除する権利はない。顧客が支払期日の到来時点で 約定した進捗度に応じた支払いを行うことができず、債務不履行に陥ったとしても、企業 は、当該部屋の工事を完成させるならば、契約における約定対価のすべてを受け取る権 利を有している。裁判所は以前、企業が契約に定められる義務を充足することを条件とし て、開発業者が顧客に履行するよう要求することを認める類似する権利を支持している。
IFRS 第 15 号からの抜粋(続き)
企業は、契約の開始時点で、IFRS第15号第35項(c)に照らして、当該部屋を建設し顧 客に移転する約定は一定期間にわたり充足される履行義務に該当するか否かを判断す る。契約により企業は当該特定の部屋を他の顧客に移転することができないため、企業 は、その履行により創出される資産(部屋)は、自社にとって代替的な用途がないと判断 する。企業が当該資産を他の顧客に販売できるか否かを評価するに際し、契約が解除さ れる可能性については考慮しない。
企業はまた、IFRS第15号第37項及びB9項からB13項に従って、現在までに完了し た履行に対する支払いを受ける権利を有する。これは、仮に顧客が債務不履行に陥った としても、企業は、約定どおりにその履行を継続するならば、契約における約定対価の全 額に対する強制可能な権利を有しているからである。
したがって、契約条件及び当該法域における実務に基づけば、現在までに完了した履行 に対する支払いを受ける権利が存在することが示唆される。このため、IFRS 第 15 号第 35 項(c)の要件が満たされ、企業は一定期間にわたり充足される履行義務を有する。一 定期間にわたり充足される当該履行義務に関する収益を認識するために、企業は、IFRS 第15号第39項から第45項及びB14項からB19項に従って、当該履行義務の完全 な充足に向けての進捗度を測定する。
分譲マンションの建設において、企業は、マンション内の各部屋の建設に関して、数多く の顧客と契約を締結することがある。企業は各契約を個別に会計処理する。しかし、建設 工事の性質に応じて、初期の建設工事(すなわち、基礎及び基本的構造)及び共有部分 の建設における企業の履行は、各契約における履行義務の完全な充足に向けた進捗度 を測定する際に反映する必要がある。
ケースC ― 企業が現在までに完了した履行に対して支払いを受ける強制可能な権利を 有している場合
ケースCについては、顧客が債務不履行となる場合、企業は顧客に契約の定めに従いそ の義務を履行するよう要求できる、又は建設中の資産と契約価格の一定割合である違約 金に対する権利と交換に契約を解約できる点を除き、ケースBと事実関係は同じとする。
企業は契約を解約できるが(この場合、顧客の企業に対する義務は、部分的に完成した 資産の支配を企業に移転するとともに、定められた違約金を支払うことに限定される)、そ の一方で、契約に従って全額の支払いを強制できる権利を選択することもできるため、企 業はそれまでに完了した履行に対する支払いを受ける権利を有する。顧客が債務不履行 に陥った場合に企業が契約を解除することを選択できるという事実は、契約の定めに従 い顧客に履行を継続する(すなわち、約定対価を支払う)ように要求できる企業の権利が 強制可能であるならば、この評価に影響を及ぼすことはない(IFRS第15号B11項を参 照)。