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第 4 章 重力式海岸護岸の照査手法に関する研究

4.6 照査基準を用いた護岸改良の設計フローの提案と設計例

4.6.2 護岸改良の設計例

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表4.3 海底斜面と護岸直下の地盤改良の比較 比較項目 海底斜面の地盤改良

(静的締固め砂杭工法)案

護岸直下の地盤改良

(静的圧入締固め工法)案 改良護岸の水平変位 1.01m 0.96m

改良護岸の沈下量 0.09m 0.07m 必要嵩上げ高さ 0.8m 0.8m

コスト 比較安価 比較高価

その他 施工不能の箇所がある 作業用の仮設架台が必要

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図4.32 本研究で提案する重力式海岸護岸を改良する際の設計フロー (5) 目地開きに対する照査

目標信頼性が確保される (3) 地盤改良効果の確認 照査基準を満たす

有り (2) 地盤改良工の設計

現況断面の動的変形解析 津波に対する防護性能の照査 (護岸の水平変位・鉛直変位・傾斜角など)

地盤改良諸元の設定

護岸の嵩上げ設計

護岸の嵩上げ高さ・天端幅などの形状の設定 地盤改良断面の動的変形解析

目地開き量の推定

浸水抑制対策の設計 浸水量の推定

終了 地盤改良の施工 改良地盤のチェックボーリング

改良地盤の強度等

地盤改良断面の 動的変形解析

追加改良等の 対策 護岸の水平変位・傾斜角の照査基準

設計時の想定を上回る

設計時の想定 未満 改良地盤の強度

等を特定

照査基準を満たす

照査基準を 満たさない 地盤改良の必要性判断

護岸の目標信頼性

許容越波流量との比較 許容越波量以下

照査基準を 満たさない 無し

許容越波量を超える 護岸の水平変位・

傾斜角の照査基準 (1) 既設護岸の耐震性評価

(4) 護岸本体の設計

津波波力に対する滑動,転倒,基礎の支持 力,浸透流などに対する照査

目標信頼性が 確保されない

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していることから,倒壊の可能性は低い.以上のことから,当該護岸は倒壊の可能性は低 いものの,設計地震によって護岸としての機能を喪失するものと考えられる.第 3章3 節 でも述べたとおり,当該護岸は倒壊の可能性が低いと考えられる.このことから,本論文 で示した照査基準が適用できる.

図4.33 護岸(②工区)の標準断面図(図3.14を再掲)

図4.34 既設護岸の動的変形解析結果(図3.15を再掲)

(2) 地盤改良工の設計

当該護岸の背後には,地表から 4~8mの厚さで埋立土の層が存在し,その下には沖積の 砂質土層がC.D.L.-20m程度まで存在する.埋立土層のRL20は0.2程度,沖積砂質土層のRL20

が0.15~0.35である.図4.34を見ると,護岸の直下の一部を除いてB層とAs1層が液状化 しており,兵庫県南部地震の港湾被害と同様に水平変位の主な原因は埋立土層と沖積砂質 地盤の液状化であると考えられる.このことから,護岸の改良に当たっては地盤改良を行 うことが効果的であると判断された.

当該事業区間の前面海域は良好な漁場であり,薬液注入工法やセメント系の混合処理工

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法では漁業関係者の理解が得られなかった.一方,サンドコンパクションパイル工法と低 スランプのモルタルを圧入する静的圧入締固め工法 17)は,漁業関係者の理解を得ることが できた.しかし,当該個所が第二種騒音規制区域であることからサンドコパクションパイ ル工法は振動締め固めを伴わない工法に限定された.海上からの静的締固め砂杭工法(静 的 SCP 工法)と陸上からの静的圧入締固め工法の経済比較を行ったところ,海上からの静 的締固め砂杭工法が安価となったことから,海上から陸側に向かって施工できるところは 静的締固め砂杭工法で改良し,それよりも陸域部分は静的圧入締固め工法を採用すること とした.改良地盤の諸元は既往の文献 19)や技術マニュアル 20)などから設定した.また,図 4.33 の護岸の背後では,公的企業や私企業が事業を営んでおり,これらの事業主の建屋が 存在する.このため,護岸背後の改良範囲は護岸直下までに限定された.このことから,

地盤改良範囲を海側へ延長させながら,動的変形解析を行って地盤改良範囲を決定するこ ととした.本護岸の幅は約0.75mであり,護岸幅と同じ幅で嵩上げすることを想定すると,

護岸天端幅は 0.75m となる.したがって,これまでに提案した照査基準を適用すると,許 容される護岸の水平変位量は2倍の1.5mとなる.これは図4.17から考えられる護岸の変形 量の上限にも一致する.このことから,設計上の目標水平変位量を一先ず1.5mと設定した.

護岸の傾斜角の照査基準は 8°とした.繰り返し実施した動的変形解析の結果,一先ずの照 査基準を下回る地盤改良幅は,図4.35に示すとおりの31.7mとなった.(後の(4)で設定す る嵩上げも図4.35には,記載している.)

図4.35 ②工区護岸の改良断面の一例

(3) 地盤改良効果の確認

所定の地盤改良を実施の後,改良体の品質確認のためのチェックボーリングを行った.

当該断面のチェックボーリングでは,標準貫入試験と繰返し三軸圧縮試験(液状化試験)

を実施している.その結果,設計時の想定をやや下回っている層があった.設計時の想定 地盤改良強度を下回った要因としては,設計時に用いたボーリングでは把握することがで きなかった細粒分 60%程度の土層を狭在していた箇所があったこと,海底面に近い土層で

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は土被り圧が小さいために改良効果が表れにくかったことの 2 点が考えられた.このこと から,再度,チェックボーリングの結果も踏まえて改良地盤の諸元を設定し,護岸の動的 変形解析を行った.その結果を図4.36に示す.

図 4.36を見ると,既存護岸よりも液状化しない範囲が広がっており,水平変位も 2.38m

から1.61mに抑制されている.一先ず定めた水平変位に対する照査基準の1.5mよりも大き

いものの,図4.17の適用限界と思われる2mは下回っている.護岸の傾きも2.5°と照査基 準と比較して小さく,変形モードも水平方向の移動が卓越しており,滑りが生じているよ うには見えない.

図4.36 護岸の地盤改良断面の動的変形解析結果

これらを総合的に判断して,護岸の水平変位は1.5m程度であり,照査基準を満足してい ると判断した.ただし,護岸の水平変位がもっと大きい場合,変形モードにすべり破壊の ようなモードが現れた場合は追加の地盤改良などを行う必要が生じるものと考えられる.

(4) 護岸本体の設計

これまでの地盤改良の結果を受けて,護岸本体の設計を行った.改良護岸に対し初期地

盤沈降量 0.7m,護岸の動的変形解析結果による護岸の鉛直変位 0.01m,地盤改良してはい

るものの安全側を考慮して液状化に伴う排水沈下量0.7mを加えると,護岸は地震前の状態

から1.41m沈下することが想定される.これを,表3.3の設計津波高さと比較すると不足す

る護岸の天端高さは 0.905mとなる.このことから,護岸の天端を 5.3mに嵩上げすること とした.護岸の嵩上げ天端幅は,想定される護岸の水平変位が1.61mであることから約1/2

の0.85mに増厚することすることとした.設計した嵩上げ断面図も図4.35に記載している.

図4.35の護岸本体に対して津波の波力を作用させて護岸の安定計算を行った.この安定 計算は,港湾の施設の技術上の基準・同解説に示された方法に準じて行っている.このと

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き,海岸保全施設の技術上の基準・同解説に示された浸透流に関する照査も行った.これ らの結果を表4.4に示す.表4.4より,改良護岸が津波の作用に対して安定しており,護岸 の改良断面が設計できたことがわかる.以上が図4.35に示した断面の基本設計の概要であ る.現地の施工に当っては,背後構造物への地盤改良の影響を軽減するための仮設矢板の 施工や現場の条件に配慮した嵩上げ形状の変更などが行われたため,必ずしも図4.35に示 したとおりの断面となっていないことを付記しておく.

表4.4 津波に対する護岸の安定性照査結果

滑動 2.51

転倒 3.33

支持力 偏心傾斜荷重対する耐力作用比 10.83 浸透力 ボイリングに対する安全率 2.14

(5) 目地開きに対する照査

本研究で示した照査基準は,設計地震に対する護岸の変形をある程度許容するものであ る.護岸断面方向への変位により,図4.6において示したように,延長の長い施設であって は施設の海側への隅角部を除く中ほどの区間にあっても目地開きが発生する.したがって,

本研究のような護岸の水平変位をある程度許容する照査基準にあっては,目地開きからの 浸水に対しての確認を行って,必要とあれば止水防止策を講じるのが適切であると考えら れる.このことから,目地開きからどの程度の浸水が発生するか,あるいは,目地開きに 対する構造的な対処が必要か否かを検討するために,目地開きからの流入水量に対する検 討を行った.

式4.1より,この護岸の最大水平変位1.61mに対する平均的な法線の回転角度は0.603°

となる.次いで,図4.35の嵩上げ断面において施設前端部より護岸前面の津波の防護ライ ンまでの距離は図4.35中に示したとおり1.6mとなる.後端からの距離は1.3mとなる.施 設前面からの1.6mに対して,式4.2を用いて目地開き量を計算すると,17.89mmとなる.

したがって,この護岸では18mmの目地開きが発生する可能性がある.

これを受けて,図 3.10(a)の設計津波に対して,18mm の目地開きが生じた場合の流量を 水山ら 22)のスリット堰の公式より計算した.ここで,水山らはスリットの幅が小さくなっ た場合に流量係数が 0.4 程度まで小さくなることを指摘している22)が,酒谷ら23)や塚本ら

24)の研究結果を受けて流量係数は0.5としている.その結果を図4.37に示す.1目地1秒間 当りの流入量は0.065m3となった.仮に函塊の目地間隔を5mとした場合,護岸延長1m当 りの流入量は0.0125m3/m/secとなる.これは港湾の施設の技術上の基準にある「背後に人家,

公共施設等が密集しており,特に越波・しぶき等の進入により重大な被害が予想される地 区」の許容越波流量0.01m3/m/sec程度を超えているが,「その他の重要な地区」の0.02m3/m/sec 程度よりも小さい.さらに図4.37から,津波1波当たりの浸水時間は20分程度であること がわかる.これは,台風などの波浪による越波の継続時間よりも小さいものと考えられる.