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第 4 章 重力式海岸護岸の照査手法に関する研究

4.2 研究の方法

地震によって生じた構造物の被害は,重要な臨床事例と考えられる.このことから,本 章の研究は,一井ら1)と同様に,港湾施設および海岸施設の被災事例を分析,研究すること によって,残留変形量と照査基準を考察する.その後,第 3 章で示した実事業をケースス タディとして適用し,課題が生じれば解決策を講じていくこととした.

4.2.1 研究対象とする地震被害

国内において海岸保全施設や港湾施設に大きな被害を与えた地震の代表例は,1995 年兵 庫県南部地震と平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震である.そして,両地震とも港 湾施設については,詳細な被害報告 2),3)が出されている.ここで,文献 2),3)から,被災に対 する記述を比較してみる.図4.2には,文献2),3)から,係留施設の水平変位量の図を転載す

る.図4.2(a)が1995年兵庫県南部地震における神戸新港西第3突堤東岸壁の上部工の法線

出入りである.(b)が平成23年東北地方太平洋沖地震の小名浜港 No.5 5・6号埠頭の変位 量である.

ここで,図 4.2(a)では施設両端の水平変位が記載されているのに対し,(b)では施設両端 の水平変位がゼロとなっている.1995 年兵庫県南部地震の被災調査担当者によると「被災 測量の担当技術者が被災の状況や現場の痕跡を判断し,被災前の施設法線を推定した上で 測量を行った.」とのことである.東北地方太平洋沖地震3)では,岸壁や護岸の水平変位が 数値として記録されていないか,記録されている場合でも計測した際の仮法線が施設の両 端を直線で結んだものであるものがほとんどであり,文献2)と同様の被災前法線の記載があ る護岸等は,1箇所のみである.東北地方太平洋沖地震では津波被害が大きく,被災前法 線の特定が非常に困難であったと考えられる.これらのことから,文献3)では,施設の被災 前の法線が特定できなかったため,施設の両端を結んだ直線からの水平変位量を計測した 結果が記載されているものと考えられる.施設両端の水平変位が全くゼロであるというこ とは考えにくいことから,文献3)では施設の水平変位を小さい側に測量している可能性があ ると思われる.しかしながら,一井らの研究1)にあるように係留施設の使用可否の判断に必 要な指標の一つが法線の直線性である.法線の直線性を評価するには,旧法線からの測量 結果よりも施設両端を直線で結んだ基準線からの水平距離の方が使いやすい.このことか ら,被災直後において文献3)に記載された測量結果は,極めて重要な価値を有していたと考 えられる.

本研究では,文献3)の結果が施設の水平変位を過小に評価している可能性を考慮し,文献

2)の事例を用いて,護岸の設計地震に対する変形量の限界値の検討を行うこととした.

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(a) 文献2) 1995年兵庫県南部地震 神戸港新港西 第3突堤東の変位量

(b) 文献3) 平成23年東北地方太平洋沖地震 小名浜港No.5 5・6号埠頭の変位量

図4.2 文献2)と文献3)の水平変位に対する記述の比較

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4.2.2 1995年兵庫県南部地震の概要

気象庁4)によれば,兵庫県南部地震の震源事項は,次のとおりである.

震源時 1995年1月17日 05時46分51.8秒

震央 東経135°02.3′,北緯34°35.7′

深さ 16km

マグニチュード Mjma(気象庁マグニチュード) 7.2 Mw(モーメントマグニチュード) 6.9

消防庁5)による人的・物的被害を表4.1に示す.

表4.1 兵庫県南部地震の人的・物的被害5)

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兵庫県が発表した被害総額の推計6)は,表4.2のとおりであり,被害総額は約99,268億円 である.内訳を見ると,港湾の被害が最も大きく,土木施設被害額の構成比としては 40%

を占めている.兵庫県南部地震において,如何に港湾被害が大きかったかが理解できる.

表4.2 被害総額の推計6)

図4.3には,文献7)より,世界主要港のコンテナ取扱量順位の推移を示す.兵庫県南部地 震以降,神戸港の順位の急落が生じており,背後権の産業構造の変化などが要因との指摘 はある7)ものの兵庫県南部地震がきっかけとなったことは間違いないと思われる.その点で も1995年兵庫県南部地震は,日本国に深刻な打撃を与えた地震であったと考えられる.

図4.3 世界主要港のコンテナ取扱量順位の推移7)

項目 金額

(億円) 項目 被害総額

(億円) 構成比(%)

建築物 58,000 鉄道 2,220 15.0%

鉄道 3,439 高速道路 3,345 22.6%

高速道路 5,500 一般道路 2,238 15.1%

公共土木施設(高速道路を除く) 2,961 河川 363 2.5%

港湾 10,000 ダム 0.1 0.0%

埋立地 64 海岸 5 0.0%

文京施設 3,352 砂防 12 0.1%

農林水産関係 1,181 下水道 646 4.4%

保険医療・福祉関係施設 1,733 港湾 5,944 40.2%

廃棄物処理・し尿処理施設 44 合計 14,773 100%

水道施設 541

ガス・電気 4,200

通信・放送施設 1,202

商工関係 6,300

その他公共施設 751

合計 99,268

被害総額の状況 土木施設の被害状況

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