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第 4 章 重力式海岸護岸の照査手法に関する研究

4.4 設計地震に対する護岸の照査基準

4.4.2 目地ずれ量の推定方法と照査基準

図4.5で考察したように,重力式の護岸構造物の天端の水平変位が天端の壁体幅よりも小 さければ,図4.4(a)のような状態は生じず,施設としての天端高さには欠損が生じないで高 さが維持されるものと考えられる.そこで,文献2)より,重力式函塊の両側の水平変位が数 値で記録されているものについて,施設ごとの最大法線出入りと函塊間の最大目地ずれ量 の関係を調べることとした.

図 4.6 のように個々の函塊の地震前の施設法線からの出入りが調査されている施設を模 式的に表すと図 4.14 のようになる.図 4.14 のような調査をした施設の最大水平変位dmax

とケーソン間の最大目地ずれ量emaxの関係を施設毎にプロットしたものが図4.15である.

ただし,本研究が延長の長い海岸保全施設を対象としていることから延長100mに満たない 施設については除外した.また,隅角端の函塊であって隣接する函塊の影響で水平変位が 抑制されていると考えられるもの(図4.6に示した物揚場(-4m)④の1番ケーソン,24番ケ ーソン,wバースの1番ケーソン及びZバースの76番ケーソンなど)についても除外して いる.その結果を図4.15に示す.図4.15では施設の健全度との関係を見るために施設が倒 壊していたり,水没状態にあった施設は赤色で着色して表示している.ここで,結果的に 図4.15の施設は全てケーソン式の岸壁施設であった.

図4.15を見ると,崩壊あるいは水没した施設の最大水平変位が崩壊あるいは水没してい ない施設よりも大きい傾向はあるが,両者で施設の最大変位と最大目地ずれ量の関係に変 化が生じているようには見えない.図4.15では,最大水平変位と最大目地ずれ量の関係と して図中に直線で示した概ね2:1(emax=0.5dmax)を見込んでいれば安全側だと思われる.

図4.15の施設が全てケーソン式の構造物であったことから,水平変位が函塊ごとでは無 く,図4.7のように概ね 20m毎の測線で表示されている施設についても施設の最大水平変 位と隣接測線間の最大水平変位差を調査した.図4.7のような調査をした施設を模式的に表 すと図4.16となる.最大水平変位dmaxと測線間の変位差の最大値emaxの関係を施設毎にプ ロットしたものが図 4.17である.図 4.17にはL型ブロックに近い構造や方塊ブロック積 み構造の断面も含まれている.図4.16と同様に一部が倒壊または水没した施設は赤色に着 色している.さらに,図4.15で施設の最大水平変位と最大目地ずれ量の関係として提示し た2:1(emax=0.5dmax)の線も書き加えている.

図4.17では,直接的に目地ずれ量が測量されていないため,ケーソン毎に目地ずれが測 量されている施設との違いについて当時の被災調査を担当した関係者に聞き取り調査を行 った.関係者の話を総合すると,次の(ア)~(オ)のような状況であったことがわかっ た.

(ア)測量用の仮法線からケーソンの出入についてはできる限り正確に測量を行った.(イ)

20m 間隔の測線で測量したのは災害査定官の指示に従ったものである.(ウ)しかしなが ら,必ずしも 20m間隔にこだわらず法線の変化点やずれが発生している点はできる限りの 測量を行ったこと.(エ)ただし,水没に近い状態にあって測量そのものが危険を伴う施

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設も多くあり,そのような施設では必ずしも施設の法線の変化点を十分に抑えることが出 来なかったこと.(オ)(エ)のように測量に危険を伴う場合は測量できた点から内挿し て水平変位を算出した場合もあったこと.これらのことから,図4.17は,様々な被災程度,

様々な被災測量の程度の施設が混在しているものと考えられる.このようなことから, 先 の(エ)のようにいくらか不正確な結果も含まれているかもしれない状況も考慮し,図4.17 の測線間の最大変位差を「状況が少し異なれば,目地ずれを起こした可能性のある値」で あると安全側の解釈することも可能であると考えられる.図中の2:1の線よりも上側に位置 する点の多くが「一部が崩塊または水没した施設」であること,「崩壊も水没もしていな い施設」で2:1の線を明確に上回るものが図4.17中で青い破線の円で囲った1点のみであ ることがわかる.

図4.14 個々のケーソンの水平変位が計測されている 図4.15 施設毎の最大変位と

施設の模式図 最大目地ずれ量の関係

図4.16 概ね20m毎の水平変位が計測されている施設 図4.17 施設毎の最大変位と

の模式図 最大測線間水平変位差の関係

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この施設の被災断面図を図4.18に示す.この施設は高さ1.21m,幅1.82mと1.52mの方 塊を 2 段に積み重ね,その上に場所打ちコンクリートを打設した構造である.方塊の法線 方向の長さは不明であるが,方塊の幅から推測すると数 mであると思われる.このことか ら,この施設については方塊の長さに比べて測線間隔の 20mが大きすぎた可能性があると 考えられる.この施設の被災状況には,水没・倒壊などの記載は無く,被災写真にもその ような状況は見られない.しかし,被災状況断面図を見ると,被災後の天端高さが H.W.L.

より下にあり,水没に近い状態であったと考えられる.これらのことから,この施設につ いては例外的に取り扱うことができる可能性が高い.したがって,図4.17からも,隅角端 部を除いた重力式港湾施設にあって崩壊も水没もしていない施設については,最大水平変 位のおおよそ1/2を最大目地ずれ量であると想定してよいものと考えられる.ただし,一部 が崩壊又は水没した施設が,2:1の線の下側にも存在していることから,施設の崩塊や水没 の可能性が小さいことについては十分に確認しておくことが必要であると考えられる.ま た,2次元有効応力解析などで施設が倒壊や水没しないと確認されたとしても,照査基準を 適用する最大水平変位に制限を設けておくことが必要であると考えられる.図4.1では,施 設の最大水平変位1mを越えたところで「一部が崩壊または水没した施設」が現われている.

最大水平変位が概ね1.5mを上回ると,「一部が崩壊・水没した施設」に最大水平変位と測 線間変位差がほぼ同じとなる施設が現われている.また,最大水平変位2mでは例外かもし れない1施設が現われる.したがって,その制限値としては,1mから2mの間が適切であ ると考えられる.これらのことから,最大水平変位の制限値として1.5m程度が適切である と考えられる.

図4.18 図4.17の例外的施設の被災断面図

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一方,ここで整理した施設の水位変位は施設の傾斜も含まれた値であることから,照査 基準の適用限界を明らかにする点からも護岸の傾斜角の制限値を導入することが必要であ ると考えられる.図4.15にプロットした89の施設のうち,施設の傾斜角が測定されている のは44施設であり最大の傾斜角は約6.8°であった.このことから,図4.15は概ね傾斜角7°

程度まで適用できると考えられる.一方,図4.17の60施設においては,傾斜角が測定され ている施設は5つであって最大傾斜角は約13°であった.うち1施設は部分的に水没してい た.このことから,図4.17の施設の傾斜角から適用限界を設定することは困難であると考 えられる.ただ,図4.17の1:2の直線は,水没・倒壊していない施設を対象にしたもので あることから,施設の被害程度に相当する傾斜角を照査基準とすることができると考えら れる.小泉ら11)は,日本海中部地震,釧路沖地震,北海道南西沖地震,三陸はるか沖地震,

兵庫県南部地震の港湾施設の被害と港湾施設の被害程度 12)を比較し,応急復旧で暫定利用 が可能となる被災程度はIからIIまでと評価している.被災程度IIの港湾施設の傾斜角は1

~8°と整理されている 12)ことから,傾斜角 8°を護岸の傾斜に対する照査基準として準用す る考え方も成立すると考えられる.

これらのことから,根入れの無い重力式護岸の設計津波に先行する地震に対する照査基 準として,次のとおり提案する.

・海岸護岸の設計地震に対する残留変形量を護岸天端幅の2倍以下とする

・照査基準を適用する施設の最大水平変位は概ね1~2m,目安として1.5m程度以下とする

・護岸の傾斜角が8°以下であること

・護岸の変形モードが,倒壊やすべり破壊を起こすようなものにならないこと