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第 4 章 重力式海岸護岸の照査手法に関する研究

4.7. まとめ

第4章では,発生頻度の高い津波に対する海岸護岸の改良事業を対象として,1995年兵 庫県南部地震の港湾被害を分析し,長い延長を持つ海岸護岸の中間部分を対象として津波 に先行する設計地震の照査基準について考察した.その結果をまとめると次のとおりであ る.

1995年兵庫県南部地震の港湾施設被害を分析したところ,ケーソンの目地をまた がるコンクリート舗装は,ケーソンの目地ずれや傾きを軽減していた可能性が高 いことがわかった.ただ,その効果を定量的に把握するにはいたらなかったため,

現状では安全代として設計には考慮しないことが適切であると考えられる.

1995年兵庫県南部地震のコンクリート重力式の護岸や岸壁の被害を調査したとこ ろ,隅角部における変位の抑制効果を受けない箇所については,施設の最大水平 変位量と函塊の最大目地ずれ量の関係は概ね2:1であることがわかった.これを踏 まえて,コンクリート重力式の海岸護岸の設計地震に対する残留変形量を護岸天 端幅の 2 倍とする照査基準を提案した.ただし,護岸の変形モードが倒壊やすべ り破壊を起こすようなものにならないことを確認するとともに,護岸の最大水平 変位は1.5m程度に抑えておくことが望ましい.

海岸護岸の表法勾配に関する性能照査として,設計地震作用後の捨石マウンドの 傾斜角を照査する方法を提案した.

護岸の傾きに対する照査基準としては,港湾施設の被害程度 IIに対応した 8°を 照査基準とすることが考えられる.

延長の長いコンクリート重力式の護岸の中間部分について,護岸の函塊の水平方 向の回転に伴う目地開き量を推定する手法を提案した.

提案した照査基準に基づく海岸護岸の改良設計のフロー図を示した.

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実施中の海岸保全施設の整備事業を対象に考察した照査基準に基づく改良断面を 設計し,その事例を示した.

ただし,本研究で提案した照査基準などは,1995 年兵庫県南部地震の施設延長が 100m 以上の根入れの無いコンクリート重力式の港湾施設の被災事例をもとに提案したものであ る.また,水平変位が極端に抑制されるような隅角端に対しての適用性は十分ではないと 考えられる.本研究によって重力式海岸護岸の最大水平変位の限界値を従来よりも幾らか 大きく設定することができると考えられるが,残留水平変位は護岸の動的変形解析によっ て求められることから,如何に妥当な動的変形解析を行うかが従来にも増して重要になる ものと考えられる.本研究の成果を海岸護岸に対して適用する場合には,これらの点に注 意が必要である.

本研究では,海側に張り出した隅角端部の目地ずれ・目地開きに対しては具体的な照査 基準を提案するに至らなかった.この点は今後の課題であると考えられる.また,目地開 きからの浸水に対しても具体的な浸水防止構造を提案するに至らなかった.この点も今後 の課題である.

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