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第 4 章 重力式海岸護岸の照査手法に関する研究

4.5 事業への適用結果と照査基準の追加

4.5.2 地盤改良工の設計

図4.27を見てわかるとおり,捨石マウンド崩落の懸念の要因は,護岸前面の海底斜面の 法尻の液状化と最大せん断ひずみの増加と護岸の海側への変形による捨石マウンドの傾斜 角が捨石の安息角40°を上回ることである.したがって,耐震対策としては砂質土層の地盤 改良が有効である.そこで,地盤改良を検討した.

護岸の前面海域が好漁場であって,セメント系の混合処理工法と薬液注入工法は漁業関 係者からの了解が得られなかった.また,事業箇所に騒音・振動規制が成されており,騒 音・振動規制値内での施工が非常に難しいため,振動締め固め工法も使用することができ ない.これらの制限から,使用可能な地盤改良工法は振動を用いずに地盤に改良材料を圧 入して締固める静的締固め工法であった.静的締固め工法として,静的締固め砂杭工法(静 的SCP工法16))と静的圧入締め固め工法(CPG工法17))を選定した.

護岸の倒壊を防ぐ地盤改良として,次の二つの地盤改良を比較した.一つ目は,海底斜 面の液状化を防ぐとともに捨石の傾斜角を安息角内に納めて護岸の倒壊を防ぐものである.

二つ目は海底斜面および捨石が崩落したとしても護岸が倒壊しないよう護岸直下を地盤改 良するものである.

(1) 海底斜面の地盤改良

図4.27の解析結果を動画で確認すると,間隙水圧の上昇が最初に起こり,最も早く液状 化するのは,海底斜面の法尻部であった.このことから,海底斜面の地盤改良箇所として 海底斜面の法尻部を考えた.具体的工法としては,作業船舶を用いて海上から施工のでき る静的締固め砂杭工法(静的SCP工法16))を用いることとした.海底斜面の地盤改良案の 設計断面を図4.28に示す.静的締固め砂杭工法は専用作業船による海上からの施工が安価 である.しかし,作業船の喫水よりも浅い地盤には施工することができない.そこで,海 上から施工できる限界の浅さから概ね海底斜面を含む範囲を改良範囲とした.これで,海 底斜面の液状化はかなり抑制できるものと考えられた.また護岸の海側への変位による捨 石の崩壊を防ぐため,捨石の海側に緩い勾配で追加の捨石を設置した.追加の捨石は改良 地盤に上載荷重を加えて改良地盤の強さを増す効果も有しているため,より効果的である と考えられた.改良後の地盤の物性は,既往の研究に基づいて算出した.動的変形解析の 結果を図4.29に示す.海底斜面の液状化が抑制され,最大せん断ひずみも小さくなってい る.このことから,全ての照査基準を満足したと判断した.

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図4.28 海底斜面の地盤改良案

(a) 変形図と最大せん断ひずみ (b) 変形図と過剰間隙水圧比

図4.29 海底斜面の地盤改良案の解析結果

(2) 護岸直下の改良

護岸直下の地盤改良の目的は,護岸の直下を堅固な地盤とすることで捨石が崩落したと しても護岸の連鎖的崩壊を防ぐことにある.護岸直下の地盤改良工法としては,静的圧入 締固め工法(CPG工法17))を採用した.護岸背後の作業現場が狭隘な箇所があり,小型の 作業機械で施工できる工法でなければ施工できないためである.図4.30に,護岸直下の地 盤改良断面の案を示す.地盤改良範囲は,護岸の底版幅の両側に,液状化した地盤からの 間隙水圧の伝播を考慮した余裕 18)を見込んで決定した.改良地盤の物性は既存の文献19)や マニュアル20)に基づいて設定した.図4.31に動的変形解析の結果を示す.護岸直下の改良 地盤は液状化も発生しておらず,最大せん断ひずみも 0.02 よりも小さい.したがって,改 良地盤が液状化しない堅固な地盤として護岸を支えているものと考えられる.このことから,

海底地盤の連鎖的崩壊が発生したとしても,護岸は倒壊しないものと考えられ,図4.30の 断面も照査基準を満たしていると判断した.

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図4.30 護岸直下の地盤改良案

(a) 変形図と最大せん断ひずみ (b) 変形図と過剰間隙水圧比

図4.31 護岸直下の地盤改良案の解析結果

(3) 地盤改良断面の比較

表4.3に,海底斜面改良と護岸直下改良の比較を示す.海底斜面改良は,護岸直下改良と 比較して,水平変位・沈下量が大きいが,護岸の嵩上げ高さは同じとなった.しかし,経 済比較の結果,コストが安価であった.ただし,護岸の前面に構造物があって,海底斜面 の地盤改良が出来ない箇所も存在した.このことから,海底斜面の地盤改良が出来ない箇 所に限って,護岸直下の地盤改良断面を採用することとした.ただし,護岸直下の地盤改 良断面は,背後の構想物や建物の所在などによって,地盤改良範囲の異なっている箇所も ある.

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表4.3 海底斜面と護岸直下の地盤改良の比較 比較項目 海底斜面の地盤改良

(静的締固め砂杭工法)案

護岸直下の地盤改良

(静的圧入締固め工法)案 改良護岸の水平変位 1.01m 0.96m

改良護岸の沈下量 0.09m 0.07m 必要嵩上げ高さ 0.8m 0.8m

コスト 比較安価 比較高価

その他 施工不能の箇所がある 作業用の仮設架台が必要