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第 6 章 係留施設の断面変化箇所での水平変位の法線方向分布の

6.4 床掘置換とSCP改良地盤の施設境界の水平変位の推定

6.4.2 基礎捨石・裏込石のパラメータスタディ

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146 (1) 裏埋土(気中)のパラメータ設定

・密度

裏埋土(気中)の密度は,1.8t/m3とする.

・ポアソン比

裏埋土(気中)は地下水面下に無いため液状化しない,このため,ポアソン比は一般的 に用いられている0.33とする.

・弾性係数

小笠原ら10)の検討をもとに,N値から弾性係数を推定する.図6.4では裏埋め土のN値 は10前後である.しかし,善らの研究4)では,裏埋土のN値は7程度のところもあった.

このことから,道路橋示方書の2800Nと,小笠原らが指摘している初期変形係数の1/10よ り次のとおり設定する.

E=2,800N×1/10=2,800×7×1/10=1,960≒2,000kPa

(2) 粘性土のパラメータ設定

・密度

近畿地方整備局神戸港湾空港技術調査事務所より入手した PC13 の設計資料を見ると,

C.D.L.-20mまでの粘性土の密度は1.5t/m3と設定されていた.粘性土は地下水面下に存在す

るため,浮力を差し引き,密度を0.5t/m3と設定する.

・ポアソン比

粘性土のポアソン比は,0.45とした.

・弾性係数

善らの研究4)から,ポートアイランドの埋立した地盤の粘性土のN値は3程度であった.

このことから,道路橋示方書の2800Nと,小笠原らが指摘している初期変形係数の1/10よ り次のとおり設定する.

E=2,800N×1/10=2,800×3×1/10=840≒800kPa

(3) 基礎捨石・裏込石のパラメータ設定

PC13の設計図面を見ると,基礎捨石は10~200kg/個の石材,裏込石は1~200kg/個の石 材である.神戸港では,瀬戸内海産の花崗岩系石材を使用することが多い.このことから,

基礎捨石と裏込石は同一の物性とした.

・密度

基礎捨石・裏込石の密度は,一般的に用いられる気中1.8t/m3,水中1.0t/m3とする.

・ポアソン比

基礎捨石・裏込石は,液状化しないため,ポアソン比は0.33とする.

・弾性係数

このパラメータスタディは,基礎捨石・裏込石の弾性係数の検討をつけるための行うも

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のである.このため,弾性係数を仮定して計算を行うこととした.計算した基礎捨石・裏 込石の弾性係数は,小さいほうから3,000,5,000,10,000,50,000,100,000kPaとした.

(4) 置換砂・置砂・裏埋土のパラメータを仮定

置換砂・置砂・裏埋土は,神戸港では山砂と呼ばれている「まさ土」が使用されること が多かった.このことから,置換砂・置砂・裏埋め土(水中)は,同一の物性とした.

・密度

置換砂・置砂・裏埋め土(水中)の密度は,一般的に用いられる気中1.8t/m3,水中1.0t/m3 とする.

・ポアソン比

置換砂・置砂・裏埋め土(水中)は,液状化したと考えられるため,ポアソン比は 0.49 とする.

・弾性係数

置換砂・置砂・裏埋め土(水中)の弾性係数は,PC13の2次元解析を行って,水平変位 量と沈下量が境界付近ではない箇所の水平変位および沈下量と一致するように決定するこ ととした.

(5) 水平方向加速度を仮定

PC13の2次元解析を行うに先立ち,水平方向の加速度を仮定する.水平方向加速度は,

水平変位と沈下量と一致するように試行的に変化させる.

(6) PC13断面の2次元解析

(1)~(5)で設定した物性および水平加速度で2次元の弾性解析を行う.解析にはFLIP

ROSE 2Dの自重解析機能を用いた.

(7) 水平変位および沈下量の比較

解析で得られたPC13の水平変位と沈下量を実測値と比較する.十分に近くなければ,(4) に戻り,置換砂・置砂・裏埋め土(水中)の弾性係数を修正し,必要とあれば水平方向加 速度も見直して,再度,2次元解析を行う.解析結果が実測値と概ね一致をしていたら,(8) に進む.

(8) SCP改良地盤のパラメータを仮定

ここまでで,SCP改良地盤を除く地盤の物性とPC13に作用させる水平加速度が求まって いるので,SCP改良地盤の物性を仮定する.

・密度

SCP70%改良土,50%改良土,置砂の改良部分の密度は,水中1.0t/m3とした.

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・ポアソン比

SCP70%改良土,50%改良土,置砂の改良部分は,液状化したと考えられるため,ポアソ ン比は0.49とする.SD改良部分は粘土と同じ0.45とした.

・弾性係数

SCP70%改良土,50%改良土,置砂の改良部分およびSD改良土の弾性係数は,PC13の2

次元解析を行って,水平変位量と沈下量が境界付近ではない箇所の水平変位および沈下量 と一致するように決定する.まず,SCP70%改良土の弾性係数を仮定し,粘性土の弾性係数 との改良率比でSCP50%改良土,置砂の改良部分およびSD改良土の弾性係数を決定する.

(9) PC14断面の2次元解析

とりあえず,PC13と同じ水平加速度が作用するものと仮定し,PC14の2次元解析を行う.

(10) 水平変位の比較

解析で得られたPC14の水平変位と沈下量を実測値と比較する.十分に近くなければ,(8) に戻り,SCP70%改良土,50%改良土,置砂の改良部分および SD 改良土の弾性係数を修正 し,必要とあれば水平方向加速度も見直して,再度,2次元解析を行う.解析結果が実測値 と概ね一致をしていたら,(11) PC13,PC14境界部の3次元弾性解析に進む.

(11) PC13,PC14境界部の3次元弾性解析

(10)までで,全ての地盤の物性が定まったので,図3.10のメッシュで3次元の解析を行

う.解析コードはFLIP ROSE 3Dである.自重解析機能を用いるのは,2次元解析と同様で ある.

3次元解析の終了後,(3)に戻り,基礎捨石・裏込石の弾性係数を変えて,計算を繰り返す.

(12) 考察

基礎捨石・裏込石のパラメータスタディの結果を示し,考察する.

・地盤の弾性係数

基礎捨石・裏込石のパラメータスタディに用いた弾性係数及び計算結果の一覧を表6.3に 示す.表6.3から,基礎捨石・裏込石の弾性係数と置換砂等の液状化砂の弾性係数,SCP70%

改良地盤の弾性係数および PC13に入力した水平加速度の関係を示したものが図6.13であ

る.図6.13(a)より,基礎捨石・裏込石の弾性係数を大きくするほど,置換砂やSCP改良地

盤の弾性係数を小さくする必要があることがわかる.図6.13(b)においても,基礎捨石・裏 込石の弾性係数が大きくなるほど,PC13の変位量を合わせるのに必要な水平加速度は小さ くなることがわかる.このことは,この解析モデルにおける水平変位や鉛直変位が,基礎 捨石や裏込石よりも,さらに下の置換砂や SCP改良地盤の影響をより強く受けていること を示唆している.

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表6.3 基礎捨石・裏込石のパラメータスタディに用いた弾性係数及び計算結果

(a) PC13の水平加速度 (b) 地盤の弾性係数

図6.13 基礎捨石・裏込石の弾性係数とPC13の水平加速度・地盤の弾性係数

捨石

裏込石 粘性土 裏埋土

(気中)

置換砂 置砂 埋立土

(水中)

SCP70%

改良地盤 SCP50%

改良地盤 置砂 SCP 改良地盤

SD 改良地盤

水平変位 (m)

鉛直変位 (m)

PC13 -3.348 -1.274

PC14 3,800 2,714 5,429 1,086 -2.513 -1.632

PC13 -3.430 -1.309

PC14 3,200 2,286 4,571 914 -2.479 -1.718

PC13 -3.368 -1.312

PC14 2,500 1,786 3,571 714 -2.503 -1.943

PC13 -3.373 -1.303

PC14 1,650 1,179 2,357 471 -2.494 -2.432

PC13 -3.363 -1.292

PC14 1,300 929 1,857 371 -2.491 -2.792

施設

-2.1

-1.5

-1.2 弾性係数(kPa)

水平 加速度

(m/s2)

1,400 -2.7

5,000 800 2,000 1,100 -2.4

施設天端の変位

100,000 800 2,000 440

10,000 800 2,000 900

50,000 800 2,000 560

3,000 800 2,000

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・2次元解析の結果

PC13とPC14の2次元解析の結果から,PC13の地表面の変位を解析前と比較したものを 図6.14に示す.同様にPC14の地表面変位を図6.15に示す.

(a) 捨石等の弾性係数 3,000kPa (a) 捨石等の弾性係数 3,000kPa

(b) 捨石等の弾性係数 5,000kPa (b) 捨石等の弾性係数 5,000kPa

(c) 捨石等の弾性係数 10,000kPa (c) 捨石等の弾性係数 10,000kPa

(d) 捨石等の弾性係数 50,000kPa (d) 捨石等の弾性係数 50,000kPa

(e) 捨石等の弾性係数 100,000kPa (e) 捨石等の弾性係数 100,000kPa

図6.14 PC13の2次元解析結果

捨石等のパラメータスタディ

図6.15 PC13の2次元解析結果

捨石等のパラメータスタディ

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図6.14を見ると,捨石等の弾性係数が大きくなるほどケーソンが陸側へ倒れるとともに 前面が盛り上がり,裏埋土が沈下する傾向が現われる.あたかも円弧すべりのような変形 モードが卓越してくる.これは,水平変位とともに沈下量もあわせこんでいるために,図 6.13(a)に見られるように,基礎捨石が強くなるほど液状化砂が弱くせざるを得なくなり,

その結果として,ケーソンが陸側へ倒れるような円弧すべりを思わせる変形モードが現わ れてくるものと考えられる.図6.4(a)の変形は,ケーソンが前傾するようなものである.こ れに最も近いのは,図 6.14(a)の捨石等の弾性係数が3,000kPa のものであり,PC13の解析 においては捨石等の弾性係数は 3,000kPa 程度がそれより小さいほうが適しているものと考 えられる.

図6.15を見ると,捨石等の弾性係数が大きくなっても図6.14のような円弧すべりのよう なモードは現われていない.しかし,沈下量は大きくなっている.これも,基礎捨石が強 くなるほど,SCP改良地盤を弱く設定しなければ水平変位をあわせられないことから,SCP 改良地盤が弱くなることで沈下量が増加するものと考えられる.したがって,沈下量(鉛 直変位)の点からは,図6.15においても捨石等の弾性係数を小さくするほうが PC14の実 測沈下量との整合性が高いと考えられる.しかしながら,図6.13(b)を見るとおり,70%SCP 改良地盤よりも基礎捨石の弾性係数が小さいのは奇異な印象を受ける.このことから,捨 石等の弾性係数を小さくするにしても,下限は 70%SCP 改良地盤の弾性係数までが限界で あろうと考えられる.図6.15において,もう一つ気になることは,SCP改良地盤を置換砂 よりも強くしているにも関わらず,図6.15のPC14の施設天端の方が下がっていることで ある.この要因として考えられるのは,先に述べた図6.14の(d)や(e)に見られる円弧すべり のような変形モードである.図6.14(e)と図6.15(e)を見比べてみると,図6.14(e)ではケー ソンが後に傾いてケーソン後端の沈下量よりもケーソン前端の沈下量が小さいのに対し,

図6.15(e)ではケーソンの傾きはほとんど無いように見える.しかし,これだけでは,捨石

等の弾性係数が小さい(a)や(b)の場合に対する十分な説明にはならない.例えば,図6.15(a) において,鉛直変位をPC14の被災時の-0.8m程度まで小さくするには,SCP改良地盤を強 くしなければならない.しかし,それでは水平変位も小さくなってしまう.水平変位を大 きくするには水平加速度を大きくする必要がある.そこで,図6.15(a)の捨石等の弾性係数

が3,000kPaのケースで,水平変位と鉛直変位の両方を合わせ込んだ 2次元解析を実施して

みた.

その結果を図6.16に示す.SCP70%改良地盤の弾性係数を40,000kPaまで上げ,水平加速 度を図6.16のとおり-9.3m/s2にして,概ね水平変位と鉛直変位を合わせこむことができた.

この計算ケースは,基礎捨石・裏込石の弾性係数を3,000kPa のままとしているため,いさ さか非現実的な設定となっている.しかし,図6.14(a)のケースとの比較は成立すると考え られる.図6.16の水平加速度は,図6.14(a)のケースの3.4倍である.このことから,PC13 の水平加速度とPC14の水平加速度が同じであるとした仮定は正しくなかったことがわかる.

しかし,FLIP ROSE の自重解析においては,水平加速度は一つしか入力できない.また,

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複数入力できるとしてもPC13とPC14の水平加速度の分布は不明なままである.これらの ことから,PC13とPC14 の境界部分の解析には,両者の水平加速度を平均して用いる手法 が考えられる.この方法では,PC13の水平加速度を過大に,PC14の水平加速度を過小に見 積もることになり,おそらく,水平変位と鉛直変位を両方あわせることは出来ないものと 思われる.しかしながら,本研究の目指すところは,水平変位の推移を推定することであ るため,鉛直変位の一致をある程度犠牲にすることは止むを得ないと考える.それであれ ば,PC13の水平加速度とPC14 の水平加速度を同じと仮定したままであっても,手法とし て成立する可能性はあると思われる.そして,より納得しやすい手法は,水平加速度と鉛 直変位の不整合を両施設に均等に分配できる水平加速度の平均値を用いる手法であると考 えられる.

図6.16 PC14に水平変位と鉛直変位を合わせ込んだ2次元解析結果