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第 3 章 撫養港直轄海岸保全施設整備事業の概要とその要求性能

3.4 要求性能

撫養港海岸護岸の性能階層のうち,目的と要求性能は以下のように設定されている.

3.4.1 目的

海岸を整備することによって,高潮や地震津波が発生しても,撫養港海岸背後地域の生 活,経済活動に多大な支障を生じさせない.

3.4.2 要求性能

・使用性:使用上の不都合を生じずに使用できる性能のことであり,想定される作用 に対して損傷が生じないか,又は損傷の程度がわずかな修復により速やか

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に所要の機能が発揮できる範囲に留まること.

・修復性:技術的に可能で経済的に妥当な範囲の修繕で継続的に使用できる性能のこ とであり,想定される作用に対して損傷の程度が,軽微な修復により短期 間のうちに所要の機能が発揮できる範囲に留まること.

・安全性:人命の安全等を確保できる性能のことであり,想定される作用に対してあ る程度の損傷が発生するものの,損傷の程度が施設として致命的とならず,

人命の安全確保に重大な影響が生じない範囲に留まること.

港湾の施設の技術上の基準・同解説1)では,設計地震あるいは設計津波に先行する地震に 対する護岸の損傷程度は,耐震強化施設の損傷程度を参照できることとなっている.耐震 強化施設は「特定」と「標準」に大別されている.港湾の施設の技術上の基準・同解説の

「特定」と「標準」の解説は,以下のとおりである.

①特定(緊急物資輸送対応)

耐震強化施設(特定(緊急物資輸送対応))では,レベル二地震動に関する偶発状態に 対して,使用性を確保する必要がある.ここで,この使用性は,必ずしも,レベル二地震 動の作用後に当該施設が全く損傷しないことを意味しているのではなく,当該施設が緊急 物資の輸送に対して支援を及ぼさない程度の損傷に留まる必要があることを意味してい る.

②標準(緊急物資輸送対応)

耐震強化施設(標準(緊急物資輸送対応))では,レベル二地震動に関する偶発状態に 対して,修復性を確保する必要がある.ここで,この修復性は,レベル二地震動の作用に より損傷した場合であっても,応急復旧により,一定期間の後に,緊急物資の輸送が行う ことができるように回復できる程度の損傷に留まる必要があることを意味している.個々 でいう一定期間とは,レベル二地震動の作用後の約一週間程度の期間を意味している.

上では,「特定」と「標準」の主な相違点は,レベル二地震動の作用後に緊急物資輸送 の機能を回復できるまでの期間である.

撫養港海岸の海岸保全施設では,地震の発生から津波の到達まで約40分であることを考 慮すると,津波に対する使用性(津波による浸水の抑制)に関しては,修復を行っている 時間的余裕は無いものと考えられる.このことから,津波に対する使用性は耐震強化施設

(特定)に対応するものと考えることができる.

耐震強化施設のレベル 2 地震動に対する変形量の限界値の標準的な考え方について,耐 震強化施設(特定(緊急物資輸送対応))以下のとおり記載されている.なお,引用文献 の番号は筆者が変更している.

(a)耐震強化施設((特定)緊急物資輸送対応)

耐震強化施設((特定)緊急物資輸送対応)の残留変形量の限界値は,機能上の観 点から,標準的には30~100cm程度,残留傾斜角の限界値は3度程度とすることがで きる.例えば,緊急修復用の材料等が常備されており,かつ応急復旧の体制が整備さ

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れているため,大きな変形が生じても使用性が確保されると判断される場合には,残 留変形量の限界値を100cm程度とすることができる.なお,限界値の設定にあたって は,1995年兵庫県南部地震直後の緊急支援物資等の運搬実績等も参考にすることがで きる.また,緊急時の船舶の接岸に関しては,残留変形量よりも係留施設に法線の出 入り(凹凸変位量)が重要であるとの指摘もあり18)),凹凸変位量の限界値をまず設 定し,次に,凹凸変位量と残留変形量との相関性を利用して,残留変形量の限界値を 導く考え方もある.

上の引用のうち,最後の文(下線は筆者が記した)は,重要な示唆である.耐震強化施 設(特定)の残留変形量にとらわれずに,係留施設の凹凸変位量に相当する指標を用いて 許容される損傷程度を設定できることができると考えられる.この考え方を,港湾の施設 の技術上の基準・同解説 第2編2.3 要求性能に示されている図2.3.1 設計状態と要求性 能の関係の概念に基づいて整理したものが図3.17である.

図3.17では,耐震強化施設(特定)の損傷程度と地震の年超過確率の関係を青色線で示 している.耐震強化施設(特定)は,全ての地震に対して使用性を確保できる損傷程度に 留めることが求められている.一般の海岸保全施設の場合は,オレンジ色の線で示すよう に,レベル 1 地震動に対しては使用性を確保できる損傷程度に留める必要があるが,レベ ル 2 地震動などの偶発状態に対しては施設の安全性を確保できれば良く,修復性は問われ ていない.撫養港海岸保全施設については,中央構造線地震が津波を伴わないことから,

中央構造線地震に対して,使用性を確保する必要が無く,東南海・南海地震に対して使用 性を確保すれば良い.この使用性を確保する損傷程度は,必ずしも耐震強化施設(特定)

と同じでなくても良い.このことから,撫養港海岸保全施設の地震を対象とした要求性能 のイメージは,緑線のように設定することが可能であると考えられる.このように,津波 に対する使用性を確保するポイントを設定することができれば,港湾海岸における海岸保 全施設の合理的な設計が可能になると考えられる.

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(a) 設計状態と要求性能の概念 (港湾の施設の技術上の基準・同解説1 図 2.3.1)

(b) (a)に対応した撫養港直轄海岸保全施設整備事業における要求性能のイメージ

図3.17 撫養港直轄海岸保全施設整備事業における設計状態と要求性能の関係

3.4.3 性能規定

3.4.2に示した要求性能を踏まえて,当該事業における想定地震に対する護岸の性能規定

は,表3.3のように設定されている.事業開始時点(平成19年)においては,粘り強いと

損傷程度

数十年に一回程度 (レベル1地震動)

100~150年に一回程度

(東南海・南海地震)※

1000年~1,600年に一回程度 (中央構造線の地震)※

使用性 安全性

地震を対象とした要求性能のイメージ

修復性 耐震強化施設(特定)

緊急物資輸送対応 一般の海岸保全施設

ポイント:

津波に対しては使用性を確保 撫養港海岸保全施設

港湾の施設の技術上の基準・同解説 p.50に加筆

※撫養港海岸では内陸活断層の地震の方が東南海・南海地震よりも地震動が大きく、年超過確率は低い。

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いった概念に基づく海岸護岸の整備は実施されておらず,性能規定には反映されていない.

しかし,事業実施段階においては,社会的に許容される事業費の範囲内で,粘り強い化を 行っている.

表3.3 撫養港直轄海岸整備事業における想定地震動に対する性能規定