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第 7 章 櫛形鋼矢板壁の照査手法に関する研究

7.3 櫛形鋼矢板壁の設計のケーススタディ

7.3.4 櫛形鋼矢板壁延長方向への作用応力

180 (2) 壁部矢板の応力

表7.4に解析結果から得られた壁部の断面と断面力から矢板に作用する応力(軸応力とせ ん断応力)を求めた結果を示す.解析時間の全延長について,要素ごとに最大の作用力と 最小の作用力を抽出し,その値から要素ごとに最大と最小の応力を示している.ただし,

曲げ応力の算定に当たっては,継手効率α1=0.8を考慮7)している.表7.4の結果より,壁 部への作用応力は,曲げモーメントによって発生する圧縮が最も大きいことがわかる.表 7.3 の結果と比較すると,津波の作用による軸応力は地震の作用の約 7%程度であり,この ケースでは,地震作用の方が支配的である.

表7.4 櫛形鋼矢板 壁部の応力

7.3.4 櫛形鋼矢板壁延長方向への作用応力

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(a) 平面図 (b) 断面図

図7.13 地盤改良困難区間の櫛形鋼矢板壁の水平変位のイメージ

(2) 水平方向変位分布の推定

図7.13に示したような矢板壁の法線の伸び縮みを計算するためには,矢板壁法線の水平 変位の分布を推定する必要がある.水平方向変位を推定するためには,第6章で開発した2 次元と3次元の弾性FEM解析を組み合わせて,水平変位が計算する方法が適用できると考 えられる.そこで,第 6 章で示した方法に準じて,水平方向変位の変化を推定することと した.

a) 3次元メッシュの予備計算

まず,3次元メッシュを作成し予備計算を行った.図7.14 に3次元メッシュ図を示す.

メッシュのy方向の幅は,図7.8の解析メッシュの横幅に合わせた.計算時間を短縮するた めに,3次元メッシュは,図7.13の上半分をモデル化し,C.Lで面対象となるように境界条 件を設定した.図7.14はC.L.側から見たもので,地盤改良困難区間にも地盤改良箇所を設 けてはいるが,入力するパラメータを未改良土層と同じにすることで対応した.境界条件 については,第6章 第4節に準じて設定している.メッシュ内での地盤改良困難区間の幅 は半分の15mであるので,地盤改良断面の幅を30mと設定し,不都合が生じれば見直しす ることとした.

3次元 メッシュ モデル化 領域

15m 30m

C.L.

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図7.14 ケーススタディでの 3 次元メッシュ

図7.14のメッシュで予備計算として自重解析を行ったところ,問題なく計算は終了した.

そこで,櫛形鋼矢板壁を入れたメッシュを作成し,自重解析を行ったが,正常に計算を終 えることができなかった.このため,櫛形鋼矢板壁の導入は諦めて,図7.14の(櫛形鋼矢 板壁が入らない)メッシュで,櫛形鋼矢板壁が入った地盤改良困難区間の水平変位の推定 を行うこととした.

第6章の研究においては,裏込石や基礎捨石を細かく再現しなくても施設の法線出入りを 良く再現できた.しかし,液状化層が2層になった場合の検討は第6章では行っていない.

そこで,As層とBs層に別々の弾性係数を入力した場合と,As層とB層の弾性係数を同じ にした場合の2種類を計算した.その結果,As層とBs層の弾性係数を同じにした方が,法 線方向の矢板の伸び縮みが大きくなり,安全(作用応力を大きめに評価する)側の結果と なった.このため,以後はAs層とBs層の弾性係数を同じにした場合の結果のみを示す.

b) 2次元弾性解析

図7.12のメッシュから,地盤改良区間,地盤改良困難区間それぞれのメッシュを1列ず つ切り出し,2次元メッシュを作成した.次に,第6章で示したのと同様の手法で,図7.3,

図7.5および図7.9と水平変位が一致するように,地盤の弾性係数および水平加速度を求め た.

2 次元弾性解析の結果として地表と櫛形鋼矢板壁を設置する部分の変形図を図7.15 に,

入力した地盤定数と水平加速度の一覧を表7.5に示す.図7.15によって護岸の水平変位は 概ね動的解析の結果を再現していることがわかる.また,地盤改良困難区間(櫛形鋼矢板 壁)の断面では,櫛形鋼矢板壁を入れたことによる水平変位の増加を地盤の弾性係数を下 げることで考慮している.このため,地盤改良区間に比べて,地盤の弾性係数が小さくな っている.

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(a) 地盤改良困難区間

(b) 地盤改良区間

図7.15 2 次元解析の結果

表7.5 地盤定数と加速度の一覧

区間 土層 弾性係数 E(kPa)

ポアソン比 ν

単位体積重量

γ(kN/m3) 鉛直加速度 (m/sec2)

水平加速度 (m/sec2) 地盤

改良 困難

Bs(気中) 563 0.33 1.800

9.8 2.24

Bs 563 0.49 1.000

As 563 0.49 0.865

地盤 改良

Bs(気中) 746 0.33 1.800

Bs 746 0.49 1.000

As 746 0.49 0.865

Bs(改良) 10,300 0.33 1.000 As(改良) 10,300 0.33 0.892 c) 3次元の弾性解析

・2次元解析結果と3次元解析結果の比較

第6章の研究において,2次元の弾性解析結果と3次元の弾性解析結果に相違が出る場合 があることがわかった.そこで,地盤改良区間困難区間(櫛形鋼矢板壁設置)の断面のみ の3次元解析を行った.その結果の水平変位は表7.6のとおりであった.両者はほぼ同じで ある.このことから,3次元弾性解析の補正は必要ないものと判断した.

表7.6 地盤改良困難区間2次元解析と3次元解析結果の比較

2次元弾性解析 3次元弾性解析 護岸水平変位(m) 3.88 3.905

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・境界部の剛性低下を考慮しない場合の解析

こうして得られたパラメータを用いて 3 次元の弾性解析を行った.櫛形鋼矢板壁を入れ ていないため,図7.16の赤線で示した出力位置での水平変位を出力した.その結果を図7.17 に示す.図7.17を見ると,護岸の法線の変位は,C.L.からの距離が40mを超えるとほぼ一 定になっている.このことから,図7.12のX 方向の解析幅が適切であったことがわかる.

また,地盤改良困難区間の中央であるX=0mの水平変位は3.159mであった.これは,本来,

3.9m近くまで水平変位が大きくなるところが,地盤改良困難区間が30mと狭いことによっ て抑制されているものと考えられる.

図7.16 出力位置 図7.17 水平変位

・剛性低下の考慮

第 6 章 6.4.5 の研究結果にもとづいて区間の境界付近における剛性低下を考慮する.図

7.17のX= 0mのY方向水平変位は,地盤改良困難区間の長さが30mと短いことの影響を

受けていると考えられる.このことから,剛性を低下させる範囲は,図7.18に示すように 考えた.X= 0mを境界としてY方向変位は対称となるため,Y方向変位は黒色の実線で示 す通りとなる.仮にX= -15~45mの地盤改良範囲が無ければ,Y方向変位は黒色の破線の ようになるものと考える.この黒実線から黒破線の Y 方向変位を青色の実線のように考え ると,剛性低下範囲はX= -12m~30mとなる.このことから,X= 0m~30mの範囲の剛性を 低下させることとした.地盤改良区間(櫛形鋼矢板を入れる範囲)のみの 3 次元弾性解析 の櫛形鋼矢板壁を入れる位置の平均的なγZYは0.127であった.図7.17のX= 42~45mの要 素の櫛形鋼矢板壁を入れる位置の平均的なγZYは0.027であった.さらに変位差によるせん 断ひずみの増分を見積もったものが表7.7である.この増加による剛性低下を推定したもの が図7.19である.図7.19より,区間境界付近での剛性は約8割に低下すると推定できる.

第 6 章では,剛性低下を考慮したのは,基礎捨石・裏込石,置換砂,裏埋土等のケーソ ンの周辺に位置する材料であった.また,護岸から Y 方向に離れるほど水平変位の差や沈 下量の差によるせん断ひずみは小さくなると考えられる.このことから,剛性低下を考慮 するのは護岸法線周辺の部分のみで良いとも考えられる.しかしながら,施設の断面方向

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の剛性低下範囲については,第6章では十分に特定することができなかった.このため,Y 方向変位量が大きめに算出されると考えられることから,X= 0~30m の全ての土層につい て弾性係数を8割に低下させることとした.

図7.18 剛性低下範囲の想定

表7.7 区間境界部分のせん断歪の増加

地盤改良

困難区間 境界付近 地盤改良 区間

γZY 0.127 (0.127+0.027)/2=0.077 0.027

Y軸方向変位(m) 3.88 1.23

γXY (3.88-1.23)/42=0.063

Z軸方向変位(m) 0.61 0.10

γXZ (0.61-0.10)/42=0.012

変位差によるせん断歪の増分 (0.063 + 0.012 )=0.064 変位差考慮後のせん断歪 (0.077 + 0.063 )=0.100

図7.19 剛性低下量の推定

これらの結果から,X= 0~30mの範囲について,表7.5の弾性係数を8割に低下させて計 算を行った結果を図7.20に示す.弾性係数を8割に低下させた計算の結果,地盤改良困難 区間中央のY軸方向変位は約3.77mとなり,剛性低下させない場合と比較して23%増加し た.しかし,2次元解析から求めた水平変位量よりは小さくなっている.

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図7.20 区間境界付近の剛性低下を考慮した水平変位の分布

図7.21には,矢板壁法線が図7.20の剛性低下有りのとおりに変位したと想定した場合の 矢板一枚一枚の法線方向の矢板の変位量(伸び縮み)を示す.

図7.21 矢板 1 枚当たりの伸び縮み

d) 矢板の法線方向の伸び縮みによる応力

櫛形鋼矢板壁の応力照査を行うためには,矢板の法線方向の伸び縮みから,鋼矢板に発 生する応力を算定することが必要になる.先に述べたように安間ら6)は法線方向に矢板が塑 性域まで引張られた場合のリブ部やフランジ部のミーゼスの相当応力や変位量を 3 次元弾 塑性FEM解析によって求めている.しかしながら,鋼矢板のリブや継手の寸法等は製造過 程における管理値ではなく,メーカー毎に寸法が異なるものである.鋼矢板断面の断面図 は各メーカーから公開されているが,そのとおりにリブや継ぎ手が製作されているかどう かは,実測しない限りは不明である.安間らのように詳細に応力度を算定するには,使用 する鋼矢板を特定し,その実寸を計測する必要があると考えられる.しかし,設計のケー ススタディの段階で鋼矢板を特定することは適切ではないこと,3次元の弾塑性 FEMは設

鋼矢板1枚 当たり

(mm)

鋼矢板2枚 当たり

(cm)

圧縮 11.35 2.269

引張 15.60 3.120