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第 4 章 重力式海岸護岸の照査手法に関する研究

4.4 設計地震に対する護岸の照査基準

4.4.3 目地開き量の推定方法と照査基準

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一方,ここで整理した施設の水位変位は施設の傾斜も含まれた値であることから,照査 基準の適用限界を明らかにする点からも護岸の傾斜角の制限値を導入することが必要であ ると考えられる.図4.15にプロットした89の施設のうち,施設の傾斜角が測定されている のは44施設であり最大の傾斜角は約6.8°であった.このことから,図4.15は概ね傾斜角7°

程度まで適用できると考えられる.一方,図4.17の60施設においては,傾斜角が測定され ている施設は5つであって最大傾斜角は約13°であった.うち1施設は部分的に水没してい た.このことから,図4.17の施設の傾斜角から適用限界を設定することは困難であると考 えられる.ただ,図4.17の1:2の直線は,水没・倒壊していない施設を対象にしたもので あることから,施設の被害程度に相当する傾斜角を照査基準とすることができると考えら れる.小泉ら11)は,日本海中部地震,釧路沖地震,北海道南西沖地震,三陸はるか沖地震,

兵庫県南部地震の港湾施設の被害と港湾施設の被害程度 12)を比較し,応急復旧で暫定利用 が可能となる被災程度はIからIIまでと評価している.被災程度IIの港湾施設の傾斜角は1

~8°と整理されている 12)ことから,傾斜角 8°を護岸の傾斜に対する照査基準として準用す る考え方も成立すると考えられる.

これらのことから,根入れの無い重力式護岸の設計津波に先行する地震に対する照査基 準として,次のとおり提案する.

・海岸護岸の設計地震に対する残留変形量を護岸天端幅の2倍以下とする

・照査基準を適用する施設の最大水平変位は概ね1~2m,目安として1.5m程度以下とする

・護岸の傾斜角が8°以下であること

・護岸の変形モードが,倒壊やすべり破壊を起こすようなものにならないこと

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法で推定することは難しいと考えられる.このことから,比較的簡単な手法で W~Z バー スのような延長の長い施設の中程の目地開きを推定できれば,本研究で示す海岸構造物の 変形をある程度許容した照査基準の検討の助けになるものと考えられる.目地開き量が想 定できれば,そこからの浸水量の想定をすることができ,本研究の照査基準の採用の可否 に背後地への浸水量も考慮でき,排水構造の設計にも用いることができると考えられるか らである.

目地開き量の想定に当っては,目地ずれ量と同様に施設の最大水平変位と関連付けられ ると便利である.図4.6において,ケーソンの変位が海側に凹凸である付近で目地開きが生 じている可能性が高いと見えること,および,ケーソン同士の接触や競り合いが生じてい たと考えられることから,函塊が回転することによる目地開きを考えた.単純にケーソン のような函塊が2函並んで設置されている場合を想定する.そして,図4.19に示すように,

隣接する函塊 2 函が破線の初期状態から被災後に実線のように回転を伴った水平移動をし た場合を考える.このような単純な場合,図中の赤字に示すように目地開きが生じると考 えられる.このことから,図4.19のように単純な函塊の水平回転と断面方向への水平移動 によって,実際の目地開き量のどの程度説明できるのかを検討してみた.

図4.19 ケーソンの回転に伴う目地開きの模式図

その結果を幾つかの施設について,図4.20に示す.文献2)では,ケーソンの水平変位と して,上部工天端法線出入,ケーソン天端法線出入,ケーソン下端出入があり,函塊の変 形量としてどの値を用いるかが問題となる.ここでは,ケーソン下端が最も幅が広く,隣 接するケーソンが図4.19に示すように接触するのはケーソン底版部分であると考えてケー ソンの変位量としてはケーソン下端出入を用いた.ケーソン間の目地開きについては,上 部工天端,ケーソン天端,堆積土砂表面といった箇所が記載されている施設がある.しか しながら,上部工目地開きは,100mm 以上の値を示したケーソン天端目地開きを記載した と思われるものが大多数であった.このことから,目地開き量にはケーソン天端目地開き

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と堆積土表面目地開きを記載した.ただし,堆積土表面目地開きが計測されていない施設

(図 4.6(a)(c)(d))もある.加えて,図4.6 においてケーソンの捻れ変形が見られることか

ら,上部工とケーソンの水平方向の回転角の差をケーソン捻れ角として第二軸に示した.

図4.20では,実測値である○と を計算値である青色の×と比較する.ただし,この計 算ではケーソンの捩れは考慮していないことから,上部工のケーソンの捩れ角である赤色 の・との関係性も見る必要がある.

図4.20を全体的に眺めてみると,隅角端部に近いケーソンではケーソンの目地間隔の実 測値が大きくなる傾向が確認できる.実測値と計算値の比較では,計算値が大きく算出さ れている場合があり,その左右どちらかのケーソンではケーソンの捻れ角が大きい傾向が ある.このことから,ケーソンが水平方向に捻れるような変形が生じており,その結果,

上部工の目地開きが抑制されている可能性があることがわかる.図4.6のケーソン番号6~

8,19~24,47~48,64~68,(b)のケーソン番号23~28,(c)の2~4,(d)の15,(e)の4~5 のように,目地開きの実測値が大きくなっているところの近傍で計算値が大きくなってい るところがみられ,実測値で目地開きが大きな箇所から2~3函離れたところで計算値が大 きくなっているところも見られる.このような箇所について調べてみた.すると,ケーソ ンの法線方向の傾きによって目地間隔の開いた位置がずれていると考えられる箇所が幾つ もあった.具体的に例示すると,図4.6の六甲アイランド地区Zバース64番ケーソンと65 番ケーソンの間の目地である.施設の地震後の天端高さの測量結果を見ると, 65番ケーソ ンがほぼ水平に沈下しているのに対して,64番ケーソンが63番ケーソン側に傾斜しながら 沈下している.64番ケーソンと65番ケーソン間の目地開きが大きくなっている原因はケー ソンの法線方向の傾きにもある.このような法線方向の傾きも目地開きの要因であると考 えられる.加えて,このような傾きによって目地開きの箇所がずれて現われることも考え られる.また,被災前のケーソンの目地間隔とここで設定したケーソンの設計目地間隔 50mmの差は誤差となっており,計算値はある程度の幅(ケーソンの据付誤差)を考慮して 評価することが適切であろうと思われる.このようなことから,ケーソンの回転角から目 地開きを大きめに推定できる可能性は残されているものと思われる.函塊一つ一つの水平 変位が計測されているのは全てケーソン式岸壁であって海岸護岸への適合性は必ずしも明 らかではない.海岸護岸への適合性の検証は今後の課題であるが,安全側の想定を導入す れば,海岸護岸にも適用できるものと考えた.

そこで,図4.15と図4.17にプロットした施設について施設の水平平面内の回転角を調べ た.その結果を図4.21に示す.ただし,図4.15の施設においてケーソンの長さを特定でき なかったものは除いている.

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(a) 最大水平変位とケーソン回転角の関係 (b) 最大水平変位と施設法線回転角の関係

図4.21 施設毎の最大水平変位と法線・ケーソンの回転角の関係

図 4.21(a)には,図 4.15 の施設のケーソン毎の上部工天端の回転角をプロットした.図

4.14 のようにケーソン各函の水平変位が計測されている施設については,施設の最大水平 変位を横軸に,縦軸には図4.6の☆印で例示したケーソン毎の上部工回転角をプロットした.

図4.21(b)には,図4.17の施設について同様の法線の水平方向の回転角を整理した.横軸に

は施設の最大水平変位を,縦軸には図4.16の最大変位を横軸に,図4.7中★で例示した法 線回転角をプロットした.したがって,図4.21(a)(b)ともに,一つの最大変位に対して複数 の水平回転角のプロットが存在する.ここで,岸壁エプロンまでコンクリート舗装が施さ れている施設は,ケーソン下端の回転角に対して上部工の回転角が小さい傾向が認められ たため,集計から外すこととした.さらに,ケーソンが極端な捻り変形を受けている図4.6 の六甲アイランド地区-4m物揚場④の2~4,19~21 番ケーソンも除外した.同一の施設に おいても個々のケーソンや測点間の回転角度のばらつきが大きいため,図4.21(a)では施設 毎に回転角を単純平均したものを白色囲みの赤の(ケーソン毎の上部工回転角平均値)の 塗りつぶしで表現した.同様に図4.21(b)では白色囲み青色(測線回転角平均値)で示して いる.ここで,どの目地で目地開きが生じるかを特定することは非常に困難であると考え られることから,目地からの浸水量を港湾の施設の技術上の基準の許容越波流量と同様に 単位時間,単位延長当たりの浸水量で照査しようとすることを考える.この場合,平均的 な目地開き量が得られた方が都合がよい.このことから,図4.21には,原点を通る2次曲 線で施設毎の最大水平変位と法線回転角の関係を近似した式を示した.

ケーソンや施設法線の回転角は,図4.6や図4.7を見てもわかるとおり両端部で大きく,

施設中央付近ではほとんど回転していないケーソンもある.このことから,回転角はその 施設の最大回転角と0°の間でばらつくものと想定される.図4.21(a)も(b)もその傾向がある.