第 2 章 授業評価の回答意識に関する計量テキスト分析
2.5 考察とまとめ
2.5.1 考察
カテゴリー化の結果,生徒が授業を評価する際には,次の4つの視点が存在すること が明らかになった.
(1) 授業技術 (2) 授業の雰囲気 (3) 学びに対する姿勢 (4) 受講の背景
第1の視点である,「授業技術」は,対象校で実施されている生徒による授業評価の 授業技術についての評価項目に近い内容が挙げられている.
板書でのチョークの使用について,清水・安(1976)は,何種類ものカラーチョークを 意味なく用いることはかえって逆効果となることを指摘している.実際に生徒からも同 様の指摘がなされた.板書に対する要望は,見易さのみを視点としているのではなく,
学習内容の理解に直結している.その表れが,カラーチョーク,線引き,セグメント方 式などの統一された法則を求めることに繋がっている.生徒が学習する際,内容の理解 を補助する板書方法が必要となる.この点が授業の場面で必要なことだとすると,授業 の場面以外での理解に必要なノートは重要な役割を担っている.例えば,板書において どの位の余白が必要なのかといった疑問は,内容の理解そのものではなくノートに書き 写すために必要な疑問である.つまり,生徒が求める良い板書には,良いノート作りに 適した板書になっているのかどうかが視点として含まれている.
声の聞き易さについて評価する項目を対象校は設けていない.単に声の大きさ,話す 早さが生徒にとってどの様に聞こえているかということではい.導入,要点,まとめな どに,抑揚や注意喚起が含まれ生徒の理解に繋がる様な話し方であるかどうかが評価す る際の視点となっている.
授業技術の大カテゴリーでは,「授業を受けている今,必要な技術」と「授業後に理
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解するための有用性」の2つの側面が「授業での必要な技術として」求められている.
一方,数式の厳密性といった,教師が生徒に求める数学の力についての必要性に対し ては生徒からの言及が無い.理由として,教師側がその厳密性を満たした板書を行い,
生徒が丁寧に書き写していることが挙げられる.または,その必要性を生徒が理解して いないため,数式の厳密性を軽んじた書き写しがされていることも考えられる.実際,
生徒が解いた問題の解答には,数式の厳密性の扱いにかなりの差が存在している.この 点を考えると,少なくとも「分かる」が「できる」に繋がっていないことが言える.
また,インタビュー調査の中で,「見易い板書は良く無いのではないか.」という疑問 が得られた.主旨は,「見易いことが良いことであるという前提が存在すると,学習者 自身が内容をまとめ理解するといった力が身に付かないのではないか.」という内容で ある.「良い板書」を目指す中で,内容を学習者自身がまとめる力も育む工夫が教師に 求められている.
また,教師が授業で行う机間巡視が,生徒の求めに応えたものになっているのかにつ いて,指摘されている.渡部(1997)によると,机間巡視中に教師が収集する情報は,学 習課題や教材文に対して学習者が示した理解および解釈などに関するものが半数を占 め,なかでも個人の理解状況を中心に情報を収集している場合が多い.今回のインタビ ュー調査では,生徒の側も同様の視点を机間巡視に求めていた.そのため,集団を対象 とした授業の中で,1対1のコミュニケーションを取るためにも机間巡視での指導が重 要なものとなる.
第2の視点である,「授業の雰囲気」では,教科書の内容に限りなく近い「型にはま った」授業展開,教師主導による一方通行の授業形態といった形式的な指導への不満が 含まれている.そのため,生徒自身が授業に主体的に参加できているかどうかが問われ ている.授業の内容と方法が理解を促せるよう工夫と配慮が求められる.
「型にはまった」授業への拒否感では,学ぶ負荷を小さくするため,理解し易い解法 を知りたいという要望と,発展的な内容や方法を身に着け応用するため,異なる解法も 教えて欲しいとの要望が背景にある.2つの要望に対し,授業の中でどう応えるのかは,
対象とする生徒の学力や適した展開場面でなければ判断できない.Snow,R.E.(1972)に よれば,「授業過程における教師の意思決定は,授業計画と授業実態とのズレの認知と それに伴う記憶の中からの代替案の探索の連続である.」とされる.こうした,状況に 応じた代替案の探索のためにも,教師の土台となる深い教材研究と熟達化が求められる.
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教師主導による一方通行の授業形態への拒否感では,生徒の理解よりも授業計画の履 行を優先させる展開,教師の授業展開ペースが優先される状態といった進度に関する内 容が含まれている.質問,議論,実際に黒板に出て解く,実験など生徒が主体的に参加 できる授業であるかどうかが評価に反映されている.
また,この主体性には,教師と生徒の関係のみではなく,生徒と生徒の関係も考慮す る必要がある.日野(1997)は,数学の授業について日本と米国の文化的背景の比較を行 い,日本の数学の授業について次の様に指摘している.
「日本の教室では学習は単に個人的なものではなく,学級の仲間全員が一緒に行って いくものだという共通の認識があることを示しています.しかも,このような仲間を考 慮に入れた学習は教師だけではなく,生徒の間で互いの評価によって達成されることが 目指されていることがうかがえます.」
つまり,他の生徒との関わりが授業中に存在することも主体性の中に含まれている.
この関わりが主体性の中に含まれるという考えは,関りによって自己の存在を確認でき,
学びの強化に繋がるという概念に基づいたものである.そのため,授業には他者との関 わりを確認できるための開かれた雰囲気が必要となる.
開かれた雰囲気には,質問や誤答が,教師や他の生徒から否定されないことだけでは なく,授業という共同体と個人の能力の育成が重要である.だからこそ,成績上位者の クラス,下位者のクラスともに他者と自分との理解の相違を確認したいという気持ちが 表れると考えられる.
しかし,実際の理解力の違いについては配慮と工夫が求められている.授業の目的,
限られた授業時間,進度計画,理解力の違いの全てが満足できるように対応するのは困 難である.そのためには,理解力の違いに合わせた説明や出題を授業計画の中で対応で きる設定が考えられる.計画的な授業という視点を,生徒はあまり意識していないと考 えられる.しかし,授業計画と授業実態とのズレを修正することも教師にとって大きな 課題である.
第3の視点である,「学びに対する姿勢」では,鈴木(2004)が,「数学の学びにおいて,
内発動機を高めることが学力を高める最大の武器である.」と指摘する様に学習者の主 体的な取り組みが重要な要因となる.この視点での主体性とは,授業に積極的に取り組 むといった学習者の姿勢のみに留まらない.自分自身が学んでいる内容を理解できてい ると認識することができる,「分かっていないこと」が分かるというという体験が得ら
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数学では,特に「できるけれど分からない」という問題がこれまでにもしばしば指摘 されている.すなわち計算手続きを正しく実行して答えを求めることはできても,その 手続きの意味や根拠を説明できない生徒が多いという問題である.清水(1997)は,数学 の学習についての生徒のメタ認知的知識は,他の要因と深くかかわりながら学習に負の 影響を及ぼしており,中でも彼らの学習を取り巻く状況が学習における価値の置き方に 強く影響している可能性を指摘している.
更なる興味・関心が沸き起こり,学びに対して生徒が主体的に取り組むためには,こ の「できるけれど分からない」という問題を解決することが必要である.対象とした「数 学演習」の授業は,既習科目である数学Ⅰ,数学 A,数学Ⅱ,数学 B の発展的な問題 演習を扱うため,定義や定理を再度扱うことができる.そのため「できるけれど分から ない」の解消に取り組みやすい授業である.こういった生徒の状態は,対象校での生徒 による授業評価の評価項目には設定されておらず,評価結果のみから把握することはで きない.理解できない状態に対しての諦めや,その状態が繰り返されることによって劣 等感,他者との比較による主体性の低下が形成される状態を防ぐためにも,他の教科,
科目においても対応を検討する必要がある.
こうした主体性に基づいた学びの結果,授業での自分自身に,「できる」,「意欲が湧 いている」,「楽しい」との状態を感じ取ることができ,その状態を求めている.理解力 の高い生徒は,この状態を学びの中に求める傾向があるが,理解力の低い生徒は,この 状態に行き着くことができないため,「できるけれど分からない」状態で疑問点を解決 したことにしていると考えられる.
「分かる」ために授業に求める内容として,問題把握,解法への手がかり,興味・関 心を引き付けるための工夫が求められている.問題把握や解法への手がかりにおいては,
補助的理解するため図などの視覚的な理解への要望がある一方,考える時間の確保への 要望もあり,単に分かり易さのみを求めているのではない.
視覚的な理解への要望として,電子黒板,タブレットPC,コンピュータや関数電卓 などの ICT 機器への要望は少なかった.対象校では,数学の授業でこうした教具を用 いることは無く,他の教科ではDVDやビデオといった映像教材のみという環境である.
現在,ICT機器を用いた教授手法が多く模索されているため,情報や商業の教科を除く と ICT 機器の利用による理解の促進については,実際に授業に取り入れることで利点