第 1 章 序論
1.6 反省的実践家としての教師のビリーフ
生徒には,学校,学科,学年など様々な層が存在する.それぞれの層の中で,生徒は 更に多様な価値観,行動様式を有している.
一方,教師にも経験の違い,教科指導に力を入れる学校なのか,生活指導に力を入れ る学校なのかによって,指導方法や生徒を把握するための力は異なることが想定される.
また,教科・科目によっても指導方法には違いが存在する.結果として,様々なタイプ の教師が存在し,その教師の個性やビリーフ19を形成している.
19 ここでは,ビリーフ(belief)を「過去の経験などから『こうしなくてはいけない』,『こう あるべきだと』感じていること.」と定義し用いている.良い方向に捉えれば,成長の要因 となるが,逆に融通性の無い思い込みの様になると,それが原因となり感情面や行動面で
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その中で,生徒による授業評価に対して,その意義を認めず制度そのものに反対する というビリーフを持つ教師の存在も否定できない20.
本研究では,どういったビリーフを有する教師を前提としているのかについて位置付 けを行い論じることとする.これにより,生徒による授業評価そのものを否定する考え 方や,絶対的に信奉するといった極端なビリーフを想定せずに論じることが可能になる ためである.
また,本研究では,生徒による授業評価を用いた授業改善の特性を,「技術的実践の 授業分析」を用いた「反省的実践の授業研究」としている.「反省的実践」は,Schön(1983) が提起した概念である.
Schön(1983)は,建築,都市計画,臨床心理,経営コンサルタントなどの専門家の事 例の研究を通して,現代の専門家が,複雑化する社会の中で,難解な問題の解決に取り 組んでいる点に注目した.その上で,基礎的,原理的な内容を学び,応用的かつ技術的 な内容を学び,最後に実践の技術を学ぶという,特定の専門的知識を階層的に保有者す る専門家の概念を「技術的実践家」とした.
これに対し,現代の専門家の実践の特徴を,不確かであいまいな問題に探りを入れ,
経験に基づく概念化されていない暗黙知をも活用し,省察を通して自己の専門的力量を 高める「反省的実践家」に求めた.つまり,Schön(1983)は,「科学的技術の合理的適 用」を基礎とする「技術的実践家」としての専門家の概念に対し,クライエントとの対 等な協力関係を構築して複雑化する社会問題に対応する「反省的実践家」としての専門 家概念を提起したのである.
反省的実践の立場に立つと,授業の実践は,一般的な技術や原理を適用することは有 り得ず,授業研究から,一般化できる技術原理を見出すことも有り得ない.この立場に 立つ教師を「反省的実践家としての教師」とするならば,反省的実践家としての教師は,
「技術的実践家としての教師」に比べ,より複雑な環境において,クライエントたる生 徒との個人としての対等な関係を構築し,相互の成長を追求していると言える.
の妨げになる.信念に近いが,信念は「正しいと信じる自分の考え.」であり,ここでは「過 去の経験」を前提としたいためビリーフを用いる.
20教師が授業改善に取り組むことは,法的に位置付けられている.
教育公務員特例法(平成24年8月22 日法律67号).
第4章第21条(研修) 教育公務員は,その職責を遂行するために,絶えず研究と修養に努 めなければならない.
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生徒による授業評価は,授業に対しての評価という点で,授業者と学習者が同じ立場 に立ち,授業を振り返ることができる.生徒の様子を観察しながら,具体的状況の変化 に即興的に対応することで,より良い授業を模索することとは異なり,ある一定期間の 授業が終わってから,状況を振り返ることとなる.評価の結果を振り返り,目標を確定 し,授業の過程を効率的に表し,改善という目標に向けて指導技術などの習得に努力す ることになる.この振り返りは,「技術的実践家」の特徴である「科学的技術の合理的 適用」であるため,教師のビリーフとして,「技術的実践家としての教師」を位置付ける ことが考えられる.
しかし,本論では,生徒による授業評価による授業改善によって,生徒と教師が授業 での実践過程を相互に深め合うことを想定している.この深め合いは,教師が振り返り を行うことで,自らが教えながら学んでいくことであり,反省的実践がなされていると 言える.この反省的実践がなされることにより,より良い授業の模索がなされる.
以上のことから,本研究では,教師のビリーフを「反省的実践家としての教師」に求 め,論じていくこととしたい.
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