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学習者と教師の視点を基にした授業評価の改善に関する研究

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学習者と教師の視点を基にした授業評価の改善に関

する研究

著者

?谷 将宏

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第15964号

URL

http://hdl.handle.net/10097/57686

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博士学位論文

学習者と教師の視点を基

にした授業評価の改善に関

する研究

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i

目 次

第1 章 序論 ··· 1 1.1 高校における教育改革の背景 ··· 1 1.1.1 学習指導要領の路線転換 ··· 1 1.1.2 自己評価が実施されるまでの経緯 ··· 6 1.1.3 説明責任としての自己評価の位置付け ··· 12 1.2 「生徒による授業評価」を用いた授業改善 ··· 15 1.2.1 自己評価における「生徒による授業評価」 ··· 15 1.2.2 生徒による授業評価の実施方法 ··· 17 1.2.3 既存の授業改善と生徒による授業評価による授業改善の比較 22 1.2.4 生徒による授業評価に期待される効果 ··· 28 1.2.5 生徒による授業評価の課題 ··· · 31 1.3 先行研究の通観 ··· 36 1.4 研究の意義 ··· · 46 1.5 研究の目的 ··· · 47 1.6 反省的実践家としての教師のビリーフ ··· 48 1.7 方法論の検討 ··· · 51 1.7.1 インタビュー調査についての検討 ··· 51 1.7.1.1 インタビュー調査法 ··· 51 1.7.1.2 集団面接法 ··· 53 1.7.1.3 個人面接法 ··· 53 1.7.1.4 半構造的,深層的,自由回答的インタビュー 54 1.7.2 計量テキスト分析の概要 ··· · 55 1.7.2.1 基盤としての質的研究 ··· 55 1.7.2.2 計量テキスト分析 ··· 57 1.7.2.3 KHCorder ··· 60 1.7.2.4 共起ネットワーク ··· 62 1.7.3 ケース・スタディーの概要 ··· 64

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ii 1.8 本論文の構成 ··· · 67 第2 章 授業評価の回答意識に関する計量テキスト分析 ··· 70 2.1 問題の所在と本章の構成 ··· · 70 2.2 調査概要 ··· · 73 2.2.1 対象校 ··· 73 2.2.2 対象者 ··· 75 2.2.3 データ収集方法 ··· 76 2.3 分析方法 ··· · 78 2.4 生徒が授業を評価する視点についての階層的カテゴリー ··· 83 2.4.1 授業技術 ··· · 83 2.4.2 授業の雰囲気 ··· · 88 2.4.3 学びに対する姿勢 ··· · 91 2.4.4 受講の背景 ··· · 93 2.5 考察とまとめ ··· · 94 2.5.1 考察 ··· · 94 2.5.2 まとめ ··· · 98 第3 章 生徒による授業評価の回答基準についてのケース・スタディ 101 3.1 問題の所在と本章の構成 ··· · 101 3.2 調査概要 ··· · 104 3.2.1 調査対象について ··· · 104 3.2.2 データの収集方法と結果 ··· · 107 3.3 生徒が授業を評価する際の潜在的基準についての分析 ··· 114 3.3.1 「授業の分かり易さ」についての潜在的基準の分析 · 114 3.3.2 「授業秩序は保たれているか」の潜在的基準の分析 · 115 3.3.3 「理解の確認をしながら授業を進めているか」 の潜在的基準の分析·· 116 3.3.4 「意欲的に取り組める授業であるか」の潜在的基準の分析 118 3.3.5 「授業中の声は聞きやすいか」についての潜在的基準の分析 122

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iii 3.3.6 「板書は見易いか」についての潜在的基準の分析 ···· 124 3.4 考察とまとめ ··· · 126 3.4.1 考察 ··· · 126 3.4.2 まとめ ··· · 128 第4 章 授業評価に対する教師の意識に関しての計量テキスト分析 130 4.1 問題の所在と本章の構成 ··· · 130 4.2 調査概要 ··· · 132 4.2.1 対象校 ··· · 132 4.2.2 対象者 ··· · 134 4.2.3 データ収集方法 ··· · 134 4.3 分析方法 ··· · 135 4.4 数学教師が授業に抱く視点についての階層的カテゴリー ··· 141 4.4.1 授業技術 ··· · 141 4.4.2 生徒に求める姿勢 ··· · 149 4.4.3 作問の妥当性 ··· · 151 4.4.4 指導の原点 ··· · 152 4.5 生徒による授業評価に関する管理職の意 ··· 152 4.5.1 研究の背景 ··· · 152 4.5.2 研究の方法 ··· · 153 4.5.3 結果 ··· · 153 4.5.4 管理職による指導・助言の視点についてのまとめ ···· 159 4.6 考察とまとめ ··· · 160 4.6.1 考察 ··· · 160 4.6.2 まとめ ··· · 162 第5 章 総合的考察 ··· 164 5.1 生徒による授業評価実施の背景 ··· · 164 5.2 授業を評価する生徒の視点 ··· · 167 5.3 授業を評価する生徒の潜在的基準 ··· · 169

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iv 5.4 授業を評価する教師の視点 ··· · 170 5.5 生徒による授業評価を用いた授業改善の活性化に向けて ··· 172 第6 章 まとめ ··· 175 謝辞 ··· 178 参考文献一覧 ··· 180 資料 ··· 196 研究業績 ··· 201 Abstract ··· 203

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第 1 章 序論

本章では,現在行われている授業改善の背景と,関連する研究を通観する.その上で, 本研究の意義と目的を示し,本論文の構成について述べる. 詳細は次の通りである.本章は8 節からなる.第 1 節では高校における教育改革の背 景を論じる.第2 節では,教育改革が授業にどの様に影響することになったのかについ て論じる.第3 節では,先行研究を通観し,第 4 節では,本研究の意義,第 5 節では 本研究の目的を論じる.第6 節では,本研究において前提としている「教師像」を説明 している.第7 節では方法論の検討を行ない,第 8 節で本論文の構成について述べてい る.

1.1 高校における教育改革の背景

1.1.1 学習指導要領の路線転換

2009 年 3 月,文部科学省は戦後 8 度目の改訂となる高等学校学習指導要領(以下「平 成20~21 年改訂」と付記)を公示した.この改訂には,次の様な背景がある. 1999 年 3 月告示の高等学校学習指導要領(以下「平成 10~11 年改訂」と付記)では基 礎・基本を確実に身に付けさせ,自ら学び自ら考える力である「生きる力」の育成をね らいとし,教育内容の厳選,「総合的な学習の時間」の新設などを特徴としていた.耳 塚(2007)は,この学習指導要領を「この授業時数と内容の削減(厳選)によって特徴づ けられる,ゆとり教育路線の総決算というべきものだった.」と評価している. ゆとり教育路線の総決算に対し,授業時数や教育内容の削減によって児童生徒の学力 が低下するのではないかといった懸念が社会の各方面から寄せられた. 一方,2000年12月に公表された,経済協力開発機構(OECD)1による「生徒の学習

1 Organisation for Economic Co-operation and Development.ヨーロッパ,北米などの先

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2 到達度調査(PISA)2」の結果,日本の児童生徒の学力は,単なる知識の量だけではな くそれを活かして実生活上での課題を解決する能力についても国際的に見て上位に位 置していることが明らかになった.しかし,生徒の「宿題や自分の勉強をする時間」は 調査への参加国中最低であり,最も高いレベルの読解力を有する生徒の割合はOECD平 均と同程度に留まっていることも明らかになった. これらを受けて文部科学省は,2002年1月,学習指導要領のねらいとその実現のため の施策を明確に示し,そのねらいが確実に実現されるために「確かな学力の向上のため の2002アピール『学びのすすめ』」を発表した.この中で,「確かな学力」という表現 を初めて用い,学習指導要領は最低基準であると明言した上,発展的学習や学習習慣の 確立などを促した(戸田2009). このアピールは,「新しい世紀を迎え,これからの日本と世界は様々な面でこれまで 経験したことの無い激しい変化に直面する.」との想定に基づいている.この変化に向 けて,これからの社会を担う児童・生徒が主体的,創造的に生きていくために,一人一 人の児童・生徒に「確かな学力」を身に付けることを求めた. なお,文部科学省(2003)は「確かな学力」を「知識や技能に加え,学ぶ意欲や,自分 で課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決 する資質や能力など.」と説明している. その後,学習指導要領のねらいの一層の実現を計る観点から,全面実施されて1年を 経たにすぎない2003年12月に学習指導要領(平成10~11年改訂)の一部改正が行われた. 耳塚(2007)は,この一部改正について「学習指導要領の基本枠組みは,完全学校週5日制 などゆとり教育路線の産物であり続けているが,『ゆとり』から『脱ゆとり(学力向上)』 へと実質的な路線変更がなされたと言って良い.」と評価している. また,この頃から,「生きる力」の説明に際し,図1.1が用いられるようになった.従 来どおり「生きる力」として「確かな学力」・「豊かな人間性」・「健康・体力」を左 側に記載し,その中でも特に「確かな学力」に重点を置き,右側にその中心である「基 礎・基本」とそれらを構成する各要素を明示している.戸田(2009)は,「これ以降,事 実上,教育関係者の間では『生きる力』から『確かな学力』への路線転換と受け取られ ることとなった.」と述べている. 2 OECD による国際的な生徒の学習到達度調査.日本では国際学習到達度調査とも言われ るが英語の原文は「国際生徒評価のためのプログラム」である.

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3 図1.1:「確かな学力」に重点が置かれた「生きる力」の説明 出典:文部科学省ホームページ <http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/t_kaitei.pdf> 2013/7/31アクセス しかし, 2004年12月に公表された,PISAや,国際教育到達度評価学会(IEA)3の国際 数学・理科教育動向調査(TIMSS)4の結果から,読解力などが低下傾向にあり世界トッ プレベルとは言えないこと,授業を受ける姿勢は良いが学ぶ意欲や学習習慣に課題があ ることなどが明らかになった. こうしたことから,学力低下に対する懸念は払拭されず,2005年2月,中山成彬文部 科学大臣(当時)は,学指導要領の全面的な見直しを中央教育審議会(中教審)に要請した. 中教審は2007年11月,「各種調査の結果からは,基礎的・基本的な知識・技能の習得 については,個別には課題のある事項もあるものの,全体としては一定の成果が認めら れる.しかし,思考力・判断力・表現力等を問う読解力や記述式の問題に課題がある. これらの力は現行学習指導要領が重視し,子どもたちが社会において必要とされる力で あることから,大きな課題であると言わざるを得ない.」と発表した. これを受け,文部科学省は2008年3月,「生きる力」をはぐくむという理念の下,学 習指導要領を知識や技能の習得とともに思考力・判断力・表現力などの育成を重視し,

3 The International Association for the Evaluation of Educational Achievement.非営利

の国際学術研究団体.本部はアムステルダム.教育の分野についての政策立案決定の多く に影響を及ぼしている.

4 Trends in International Mathematics and Science Study.IEA が行う小・中学生を対象

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4 言語や理数の力などの教育内容を充実させ,授業時数も増加させた改訂を行うこととな った(高等学校は2009年3月).この改訂に際し,文部科学省は,「ゆとり」か「詰め込 み」なのかではなく「生きる力」をはぐくむ教育とし,基礎的な知識や技能の習得(「確 かな学力」)と思考力,判断力,表現力の育成を強調している. しかし,実際には,全日制の高校において,週当たりの授業時数が標準の30 単位時 間を超えて実施可能であることを明確化し,言語活動・理数教育・外国語教育の充実を 図っている.また,詳細な事項は扱わないなどの規定,いわゆる「はどめ規定」が原則 として削除された.教科学習内容は質量共に充実し,「ゆとり」よりも「確かな学力」 を重視した「生きる力」をはぐくむ路線に変更された結果が学習指導要領(平成 20~21 年改訂)である. 現在,高校での授業はこの学習指導要領を基準とした教育課程に基づき行われ,「確 かな学力」が身に付くための改善に取り組まれている.

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5 西暦 教育基本法・学習指導要領 関連する主な動向 1998年 小・中学校「学習指導要領」告示  ●『「生きる力」の育成と「ゆとり」の確保』  ●授業時数の大幅削減と教育内容の厳選  ●「総合的な学習の時間」の導入 1999年 高等学校「学習指導要領」告示  ●「総合的な学習の時間」「情報」の導入 2000年 2001年 2002年 小・中学校で「学習指導要領」の全面実施 確かな学力の向上のための2002アピール 「学びのすすめ」発表 絶対評価の導入 完全学校週5日制実施 2003年 高等学校で「学習指導要領」の実施(学年 進行 学習指導要領一部改正  ●学習指導要領を最低基準とし、学力重 視を強調 2004年 「PISA2003」「TIMSS2003」の結果公表 2005年 文科省「読解力向上プログラム」公表 2006年 改正教育基本法公布・施行 2007年 「全国学力・学習状況調査」の実施 教員免許更新制の制度化 「PISA2006」の結果公表 2008年 小・中学校「学習指導要領」告示 「TIMSS2007」結果公表  ●「生きる力」の育成  ●基礎的・基本的な知識・技能の習得  ●思考力・判断力・表現力等の育成  ●確かな学力を確立するために必要な時 間の確保  ●学習意欲の向上や学習習慣の確立  ●豊かな心や健やかな体の育成のための 指導の充実 2009年 高等学校「学習指導要領」告示  ●国語、数学、外国語に共通必履修科目 を設定 2010年 「PISA2009」結果公表 2011年 小学校「学習指導要領」の全面実施 2012年 中学校「学習指導要領」の全面実施 2013年 高等学校「学習指導要領」の実施(学年進 行) 出典: 「学力低下論争」始まる ベネッセ教育総合研究所(2007)資料編/本調査の時代背景:第4回学習指導基本調査報 告書[2007年],ベネッセ教育総合研究所,226-227. 岡部悟志(2010)調査概要/本調査の時代背景:第5回 学習指導基本調査報告書(高校 版) [2010年],ベネッセ教育総合研究所,4-11. 表1.1:学習指導に関連した教育動向(1998 ~ 2013 年)

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1.1.2 自己評価が実施されるまでの経緯

「生きる力」の育成をねらいとした学習指導要領(平成10~11年改訂)の改訂と時期を 同じくして,児童・生徒への「ゆとり」を設けるべく週5日制が議論された.この頃, 「いじめ」,「不登校」,「学級崩壊」などが社会問題化し,学校現場では抜本的な解決 策は見いだすことができず,これらの問題は増加の一途をたどることとなった. こうした背景から,学校教育の抜本的な教育改革の取組が始まり,中教審の答申,教 育改革国民会議(以下「国民会議」と表記)5報告,「21世紀再生プラン」などで,学校 経営自体の在り方も議論の対象となった.これらの議論の結果の一つとして,学校の自 己評価が教育関係法規に規定化されることになった. なお,「自己評価」とは,「教職員が,具体的かつ明確な目標等を設定し,実行し, 自ら評価を行なうものである(文部科学省2009)」とされている. 教職員による自己評価の規定化に至る経緯は,次の様にまとめられる. 1995 年 4 月,与謝野馨文部科学大臣(当時)は,中教審に対し,国際化,情報化,科 学技術の発展,高齢化,少子化や経済構造の変化など,社会の大きな変化に対応するた め「21 世紀を展望した我が国の教育の在り方について」を諮問した.この諮問に対し, 中教審は,「ゆとり」の中で,「生きる力」をはぐくんでいくことを基本の考えと位置付 け審議を行った.この「生きる力」は,学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ,社 会全体ではぐくむものであり,その育成は,大人一人一人が,社会のあらゆる場で取り 組んでいくべき課題であるとされた.審議の結果,1997 年 6 月,「学校・家庭・地域社 会の連携の中で,学校は,自らをできるだけ開かれたものとし,かつ,地域コミュニテ ィーにおけるその役割を適切に果たすため,保護者や地域の人々に,学校の考えや教育 活動の状況について率直に語るとともに,保護者や地域の人々,関係機関の意見を十分 に聞くなどの努力を払う必要がある.」との内容が答申に盛り込まれた. 1997 年 5 月,橋本龍太郎内閣総理大臣(同時)は,内閣の最重要課題として,行政, 財政,社会保障、経済,金融システム,教育の6 つの改革の断行を打ち出した.特に, 5教育改革について幅広い検討を行うために,小渕恵三内閣総理大臣(当時)によって,2000 年3 月に設置された私的諮問機関.教育基本法の改正,奉仕活動の実施などを検討したこ とで注目された.

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7 行政改革では,行政のスリム化を目指し,教育改革では,チャレンジする人材の改革を 目指した.こうした中,中教審は,1998 年 10 月,町村信孝文部大臣(当時)による諮問 「今後の地方教育行政の在り方について」への答申において,「学校を開かれたものと するとともに,学校の経営責任を明らかにする観点から,各学校は,教育目標や教育計 画等の達成状況等に関する自己評価を実施し保護者や地域住民に説明するよう努める.」 と述べ,「学校評価」につながる「自己評価」の実施の必要性を明確化した. その後,2000 年 12 月,教育課程審議会が「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の 評価の在り方について」への答申の中で,「各学校が,教育課程の実施状況等の自己点 検・自己評価を行い,絶えず見直し,改善を図ることは学校の責務である.」と「自己 評価」を学校の責務として位置付けた. 同じ時期,国民会議が「教育を変える17 の提案」の中で,「保護者は学校の様々な情 報を知りたがっている.開かれた学校づくり,説明責任を果たしていくことが必要であ る.目標,活動状況,成果など,学校の情報を積極的に親や地域に公開し,学校は親か らの日常的な意見にすばやく応えその結果を伝える.各々に学校の特徴を出すという観 点から,外部評価を含む学校の評価制度を導入し,評価結果は親や地域と共有し,学校 の改善につなげる.」と述べ,外部評価を含む評価制度の導入を提案した.この提案は, 保護者の学校に対する不安へ対応,地域の教育に対する説明責任を求める強い要望を背 景としていた.また,「公立はつぶれないから弊害に気付かない.」という意識がある のではないかということから,自らの教育活動を振り返る場面が必要であるとして学校 の自己評価が注目されることとなった.つまり,保護者や地域の教育に対する不満や要 望を受け止める仕組みとして学校に自己評価が求められたのである. こうした議論を踏まえ,2001 年 1 月,文部科学省は「21 世紀教育再生プラン」として, 地域の信頼に応える学校づくりを進めるために,各学校における自己評価システムの確 立を発表した. 2001 年 4 月,遠山敦子文部科学大臣(当時)が,中教審に「今後の教員免許制度の在り 方について」を諮問した.中教審は,これに対し,2002 年 2 月,教員6の資質向上のた めに信頼される学校作りが必要であり,そのためには,「学校評価システム」と「新しい 教員評価システム」の確立が求められるといった内容を答申した.この提言により,「学 6職業上の身分を示す「教員」と,何らかの知識・技術を教える者である「教師」には用法 の区別があるが,参考文献の引用と用法として馴染まない場合を除き「教師」を用いる.

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8 校評価」という言葉が用いられ,自己評価を包括する概念として使われることとなった のである.また,自己評価の目的は,これまで,教育目標や教育計画の達成状況に対す るものであったのに対し,新たに,教員自身の資質向上という目的が加わった点は大き な変化であると言える. なお,「学校評価」とは「各学校が設定した教育目標,つまり学校教育目標を達成す るために行なうすべての活動を対象として,これらを一定の基準に基づき,客観的にか つ総合的に評価し,改善の方向や改善点を明らかにすること(牧 2003)」とされる. 以上の様な経緯により,2002 年 3 月,学校運営に関する基本的な省令である「高等 学校設置基準の一部を改正する省令7」が公布され,翌 4 月から施行された.この改正 により,高校においては,自己点検および評価を自ら行い,その結果を保護者や地域社 会に公表することに努めることとされた. 更に,2004 年 3 月,地域の実情などに応じた特色ある高校の設置をより一層進める 観点から,高校を設置するために必要な最低の基準として改正した「高等学校設置基準 の全部を改正する省令8」が公布され,翌 4 月から施行された.この改正により,自己 評価が,「自己評価等」と「情報の積極的な提供」として規定化され,より強い努力目 標として位置付けられたのである. 7平成14 年文部科学省令第 16 号. 第4 条 高等学校は,その教育水準の向上を図り,当該高等学校の目的を実現するため, 当該高等学校の教育活動その他の学校運営の状況について自ら点検及び評価を行い, その結果を公表するよう努めるものとする. 2 前項の点検および評価を行うに当たっては,同項の趣旨に即し適切な項目を設定 して行うものとする. 第4 条の 2 高等学校は,当該高等学校の教育活動その他の学校運営の状況について,保護 者等に対して積極的に情報を提供するものとする. 8平成16 年文部科学省令第 20 号. (自己評価等) 第3 条 高等学校は,その教育水準の向上を図り,当該高等学校の目的を実現するため, 当該高等学校の教育活動その他の学校運営の状況について自ら点検及び評価を行い, その結果を公表するよう努めるものとする. 2 前項の点検及び評価を行うに当たっては,同項の趣旨に即し適切な項目を設定し て行うものとする.を公表するよう努めるものとしたこと (情報の積極的な提供) 第4 条 高等学校は,当該高等学校の教育活動その他の学校運営の状況について,保護者 に対して積極的に情報を提供するものとする.

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9 更に,2006 年 12 月には,教育基本法が改正9され,2007 年 6 月,「学校教育法等の 一部を改正する法律10」が公布された. この中で,「自己評価」は努めるものではなく,行わなければならないものとして規 定化された. 第42 条 小学校は,文部科学大臣の定めるところにより当該小学校の教育活動その他の学校運 営の状況について評価を行い,その結果に基づき学校運営の改善を図るため必要な措置 を講ずることにより,その教育水準の向上に努めなければならない. 第43 条 小学校は,当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めると ともに,これらの者との連携及び協力の推進に資するため,当該小学校の教育活動その 他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供するものとする. 第62 条 第30 条第 2 項,第 31 条,第 34 条,第 37 条第 4 項から第 17 項まで及び第 19 項並 びに第42 条から第 44 条までの規定は、高等学校に準用する。 この規定を受け,2007 年 10 月に学校教育法施行規則を改正11し,自己評価の結果を 設置者に報告する規定が設けられた. 第66 条 小学校は,当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況について,自ら評価を行い, その結果を公表するものとする. 2 前項の評価を行うに当たつては,小学校は,その実情に応じ,適切な項目を設定し て行うものとする. 9平成18 年法律第 120 号. 10平成19 年法律第 96 号. 11最終改正:平成24 年文部科学省令第 14 号.

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10 第67 条 小学校は,前条第1 項の規定による評価の結果を踏まえた当該小学校の児童の保護者 その他の当該小学校の関係者(当該小学校の職員を除く.)による評価を行い,その結果 を公表するよう努めるものとする. 第68 条 小学校は,第66 条第 1 項の規定による評価の結果及び前条の規定により評価を行つ た場合はその結果を,当該小学校の設置者に報告するものとする. 第104 条 第43 条から第 49 条まで(第 46 条を除く.),第 54 条,第 57 条から第 71 条まで(第 69 条を除く.)の規定は,高等学校に準用する. 教育に関する社会問題の解決に向け,「開かれた学校」として保護者や地域社会との 連携,不満や要望の受け皿として学校の自己評価が求められた.この自己評価に,教員 の資質の向上といった目的が加わり,現在に至っている. 初めは,「行なう努力するもの」としての位置付けであったが,学校の責務へと変わ り,「行なうもの」,「行なうものであり,結果を設置者に報告するもの」として規定 化されることになった. 自己評価は,「教職員が目標などを設定し,実行し,自ら評価を行なうもの.」と位 置付けされている.教師が学校において大きな役割を担う「授業」においても自己評価 が求められ,その結果に基づいた改善が必要とされることになったのである. なお,自己評価は「学校の責務」として求められるようになったのには,異なる背景 も存在する.この背景については,次項で述べることとする.

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11 西暦 教育基本法・学校教育法など 関連する主な動向 1997年 中教審「21世紀を展望した我が国の教育の在り方 について」答申  ●保護者・地域との教育活動の状況の共有努 力 橋本龍太郎首相が教育を含む「6大改革」を断行 1998年 中教審「今後の地方教育行政の在り方について」 答申  ●「自己評価」実施の必要性を明確化 国民会議「教育を変える17の提案」発表  ●外部評価を含む評価制度の導入を提案 1999年 2000年 2001年 文部科学省「21世紀教育新生プラン」発表  ●自己評価システムの確立を発表 2002年 高等学校設置基準の一部を改正する 省令公布・施行 中教審「今後の教員免許制度の在り方について」 答申  ●自己点検・評価の実施と公表が努 力目標となる  ●「学校評価システム」と「新しい教員評価シス テム」の確立の必要性を答申 2003年 2004年 高等学校設置基準の全部を改正する 省令公布・施行  ●自己評価がより強い努力目標とし て位置付けられる 2005年 2006年 改正教育基本法公布・施行 文部科学省「義務教育諸学校における学校評価 ガイドライン」策定 2007年 学校教育法等の一部を改正する法律 公布・施行  ●自己評価が行なうものとして規定化 される 学校教育法施行規則公布・施行  ●自己評価の結果を設置者に報告す ることが規定化 2008年 文部科学省「学校評価ガイドライン」改訂 2009年 2010年 文部科学省「学校評価ガイドライン」改訂 表1.2: 「自己評価」の規定化に関連した教育動向(1998 ~ 2010 年)

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1.1.3 説明責任としての自己評価の位置付け

2002 年 4 月に施行された小学校設置基準12などで,学校の自己評価の実施とその結 果の公表が努力義務化されて以来,各学校・地方自治体では学校評価が実施され,公立 の小中学校における自己評価の実施率は,98%を超えた.その一方で,「実施内容が不 十分である」,「評価結果の公表が進んでいない」などの課題が存在した. このような中,2005 年 6 月の経済諮問会議は構造改革の総仕上げとして,「小さく て効率的な政府」を実現するための「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」 をとりまとめた.この中で,「バブル後」を抜け出した日本経済が,負の遺産から脱却 するための3 つの課題として「新しい躍動の時代を実現するための取組」が取り上げら れた.この取り組みの中で次世代の育成を目的とした「学校評価ガイドライン」の策定 の必要性が指摘された. また,同年10 月の中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」において,学校 の組織運営の見直しを目的とし,ここでも「学校評価ガイドライン」の策定の必要性が 指摘された. これらの指摘を踏まえて,文部科学省は,2006 年 3 月,「義務教育諸学校における 学校評価ガイドライン」を策定し,都道府県教育委員会などに通知した. このガイドラインでは,学校評価実施のための目的が次の3 点に整理された. ① 各学校が,自らの教育活動その他の学校運営について,目指すべき成果やそれに向 けた取組について目標を設定し,その達成状況を把握・整理し,取組の適切さを検証 することにより,組織的・継続的に改善すること. ② 各学校が,自己評価及び外部評価の実施とその結果の説明・公表により,保護者, 地域住民から自らの教育活動その他の学校運営に対する理解と参画を得て,信頼され る開かれた学校づくりを進めること. ③ 各学校の設置者等が,学校評価の結果に応じて,学校に対する支援や条件整備等の 必要な措置を講ずることにより,一定水準の教育を保証し,その向上を図ること. 12 文部科学省令第 40 号

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13 また,「自己評価」は「校長のリーダーシップの下で,当該学校の全教職員が参加し, 予め設定した目標や具体的計画に照らして,自らの取組について評価を行うものである. また,児童生徒や保護者,地域住民に対するアンケートは,これまで外部評価ととらえ てきたが,これらは,学校の自己評価のために必要な情報収集の一環ととらえることが 適当である.」と定義された. 更に,「外部評価」を,「学校の自己評価の結果を,学校評議員,PTA 役員(保護者), 地域住民等の外部評価者が評価する方法を基本として行うものである.」と定義し,「第 三者評価13」との違いが明確にされた. 自己評価および外部評価の結果は,保護者や地域住民などに対して説明するとともに, 学校のホームページに掲載するなどにより,広く公表することが求められた. また,提出された結果を参考に,設置者は学校に対する支援や条件整備などの改善を 行なうこととされた.加えて,設置者は,各学校の評価の適切さについても必要な指導・ 助言を行うこととなった.公立校の場合,学校評価の結果を踏まえて,教育委員会など が,学校に対する支援・改善を行うことにより,教育水準の保証・向上を図ることとな る.教育委員会は,報告された学校評価の結果により,学校と課題を共有し,それを踏 まえて,予算配分や人事配置など具体的な支援を行うことが可能となった. 「学校評価」が強く求められるようになった背景として,小松(2003)は 2 つの要因を 挙げている.第1 に,「教育界内部の動きとして,継続的に学校改善を図るための手法 として,自己点検・評価に注目が集まり始めた.」ことである.第2 に,「国民の納税 者意識の高まりに伴って,教育にどれだけの予算が使われ,どれだけの成果を上げてい るかについての説明責任が学校に求められる様になってきた.」ことである.つまり, 第1 の要因は,「開かれた学校」を目指した自己評価であり,第 2 の要因は「学校の責 務」としての自己評価を含めた学校評価を指している. こうした「学校評価」を中心とする施策は,「第三の教育改革」と呼ばれている. この「第三の教育改革」について,千々布(2005)は「社会の基本的体制としては戦後 の基本的枠組みを維持したまま,日本の経済力の拡大,進学率の向上,産業構造の変化, 海外との交流拡大,情報化推進等の社会の変化を踏まえ,これまで一律に教育の機会を 拡大することに重点を置いていた施策を転換し,個性に応じた教育の機会を提供するこ 13大学や教育研究機関の職員,学識経験者など,当該学校に直接関わりをもたない専門家が 客観的に学校を評価することを「第三者評価」と呼ぶ.

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14 とを目指すものである.」と述べている. 日本の教育は,「身を立つる」を財本とし,学校制度の確立を目標とした「第一の教 育改革」,第二次大戦前の集権的教育制度や国家主義的教育を改めるための「第二の教 育改革」を経て現在に至っている. 従来の教育改革に対し,今日の教育改革は,規制緩和と地方分権を基軸として学校の 自主性・自律性の確立を焦点に進められている(木岡 2005).この教育改革の特徴は,「自 由競争がすべてを良い方向に導くという新自由主義の考え方にある(佐久間 2007)」とさ れる.

元兼(2007)は,この新自由主義的な考え方は NPM(New Public Management)と親和 的であると述べている.一般的にNPM は,市場メカニズムを活用できるような仕組み を用いて公的部門の減量と質の向上を図るものとされる.しかし,鈴木ら(2001)は,よ り具体的に「公的サービスの執行に係る権限を実際の管理者に委譲し,管理者に効率 的・効果的な管理を行わせ,その業績を顧客としての国民・住民の満足度(顧客満足)を 高めることを基準とした指標で測定し,測定結果を広く公表し,国民・住民の意見を意 思決定過程に反映させることで,より少ない予算で,より充実した公的サービス供給を 確保しようとする行政のパラダイム」と定義している. NPM が取り入れられることになった背景を小川・棚橋(2007)は次の様に指摘してい る.「自治体における財政状況は 1990 年代以降悪化の一途を辿り,危機的な状況にあ ると言われていた.自治体の抜本的な行財政改革が求められる中,公共部門に民間的経 営手法を導入するNPM が注目を集め,1990 年代半ば以降,行政評価や企業会計的手 法などが,全国の自治体に次々と取り入れられた.」 学校においても,より現場が必要とするもの,価値を生み出すところに効果的に投資 し,「結果」を求める手法として取り入れられ,学校選択制の導入,学校評価の重要性 が高まった.こうした「第三の教育改革」において,自己評価は,教育目標や教育計画 の達成状況,教師の資質向上といった教育の改善を目的としたものとは異なり,納税者 としての国民・住民に対する教育の結果を説明する指標として役割を担うこととなった.

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1.2 「生徒による授業評価」を用いた授業改善

1.2.1 自己評価における「生徒による授業評価」

自己評価の評価項目は,重点目標などの達成に即した具体的かつ明確なものとし,教 職員が意識的に取り組むことが可能なものとされている.具体的にどの様な評価項目・ 指標などを設定するかは各学校が判断することになっている. 実際には,文部科学省が,『学校評価ガイドライン〔平成22年改訂〕』の中で,評価 項目を便宜的に分類した学校運営分野ごとに例示している.この中で,最初の分野であ り最も多く例示されているのが,「教育課程・学習指導」である.この中では,教師の 授業の方法が厚く例示されている. こうしたことから,授業の方法の例示に対応した改善を,評価指標や数値目標として 計る方法として「生徒による授業評価」が注目された.同時に,文部科学省(2010)は,「授 業への満足度が低いことがわかり,授業力向上に向けた研修の必要性を感じ,より積極 的な授業公開や授業方法に関わる実践の交流が進められたこと」を「生徒による授業評 価」のメリットとしている.このメリットが周知され,より注目されることとなった. この「生徒による授業評価」を柳澤(2006)は,次の様に説明している. 「児童生徒による授業評価とは,授業者である教員が授業の工夫・改善を行なうため に,学習者である児童生徒が教員の授業について評価を行なうことである.アンケート などにより,学期中,学年末などに授業のわかりやすさや学習者自身の学習活動への取 組みなどについて行う.」 本稿で用いる「生徒による授業評価」とは,この説明と同義のものを用いている. 元々,教師は,児童・生徒にとって「魅力的な授業」,「分かりやすい授業」を追求 し続け,実現していく責務を負っている.学校教育法に明示された教育目標を目指すに あたり,教材研究を行い,授業展開に工夫を施していくことは重要である.実施した授 業を振り返り,様々な観点から評価・分析を行い,「改善案としてどの様なことが考え られるか.」について,考えを深め合い,授業の改善や授業力向上に結び付けることが 求められる.そのため,自己評価の方法の一つである生徒による授業評価の導入には反 対し難い性質を持っている.

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16 生徒による授業評価は,1998年に高知県が都道府県単位として,初めて全県立高校を 対象に実施した.当時,高知県では,基礎学力が身に付いていないこと,道徳教育,い じめ,不登校問題などへの学校教育への不満が県民から寄せられていた.特に,高校教 育に対しては,公立と私立の違いが大きいこと,個性を活かす教育などへの不満が寄せ られた.教師の資質・指導力の問題や,学校・教育行政の閉鎖性の問題,県教委と教職員 団体との間の考え方や意見の相違により一体的な教育の推進が図られていなかったこ となどが背景として存在し,これらが県民の公教育に対する不信を生み出していたもの と考えられていた(高知県教委事務局2006).こうしたことから,「土佐の教育改革」と 称し新しい発想のもとでの教育改革が行われ,自己評価を用いた学力向上に向けた取り 組みとして生徒による授業評価が導入された. また,2004年に東京都が,授業改善を図ることを目的に生徒による授業評価を全都 立高校で実施した.同年には香川県が,翌2005年には神奈川県が全県立高校で実施し た. 以後,自己評価の一部として生徒による授業評価が広く行われるようになった14. なお,笹田(2009)は,日本で最初に生徒による授業評価を組織的に取り入れた中等教 育機関は,1992年に実施した私立の正則高等学校(東京都港区)であると指摘している. 生徒による授業評価には授業の改善以外の目的も存在する.例えば,大阪府では,教 員の大量退職・大量採用の時期を迎え,初任者など教職経験年数の少ない教師が増え, 授業力の向上が喫緊の課題の一つになっていた.この課題に対応すべく,生徒による授 業評価の結果に基づく学校の実態・課題把握から,「めざす授業像」についての教員間 での共通理解,指導案の協同作成,事前授業を経て研究授業・研究協議にいたる一連の 研修を実施し,授業の質の維持を図ることを目的に加えている. 自己評価などを取り入れた第三の教育改革は,評価を制度化することによって「外発 的動機づけ」によって教員の行動を統制するものであり,自らその意義を感じてパフォ ーマンスを向上させようとする「内発的動機づけ」に結びつくものではない.これに対 14 「生徒による授業評価」が実際にどの位の割合で実施されているのかについての客観的 な資料は不足している.例えば,髙谷(2011)が新潟県を含む東北 7 県の普通科を持つ私立高 校98 校を対象に行った調査によると,回答のあった 58 校のうち,実施しているのは 35 校 (60.3%)であった.また,株式会社ヒューマン・リンク(京都市)が行った私立高校を対象に 行った任意のアンケートによると,実施しているのは73.8%であった.ただし,回答数は 不明である.

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17 し,生徒による授業評価は生徒からの意見や提案によって教師の行動を内面から変容さ せるものであると言える.

1.2.2 生徒による授業評価の実施方法

実際の生徒による授業評価はどの様に行われているのだろうか.都道府県,各学校に よってその実施方法は異なっている.しかし,多くの学校では,PDCA サイクルの構成 に基づき実施されている. 文部科学省は,学校評価の実施にあたって,目標・計画等の設定(Plan),実行(Do), 教職員による中間的な自己評価(Check),評価結果・改善方法の整理(Action)のサイク ルを提示している(図 1.2).このサイクルに従って,生徒による授業評価も実施される ことが多い.

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18 図1.2:学校評価によるPDCAサイクルの説明 出典:香美市立教育研究所ホームページ <http://www.kochinet.ed.jp/kamishi-l/guide/p4_pdca.html> 2013/9/1アクセス 東京都の場合,教師の指導力の向上と授業改善を図ることを目的とし,図1.3 の様な 流れで行われている.まず,年度初めにシラバスに相当する授業計画を作成し,生徒・ 保護者にその内容並びに到達目標・評価方法などの説明を行なっている(Plan).概ね計 画に基づき,授業が行われ(Do),その内容について生徒による授業評価が行われる (Check).その結果を校内研修や教師自身の振り返りにより改善方法などを見出し授業 に還元される(Action)サイクルとなっている.

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19 図1.3:学校における生徒による授業評価の流れの説明 出典:東京都教育庁<http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr040122k.htm > 2007/8/8 アクセスを一部修正 評価票,評価結果の集計や分析方法,実施時期や回数は各学校が独自に定めている. 評価票は,全教科共通な評価項目と,教科・科目の特性を考慮した評価項目を併用した 4 択によるアンケート形式である. 神奈川県の場合,各学校共通の内容として,3 つの大項目,8 つの中項目ごとに共通 小項目を設け,「4 かなり当てはまる」,「3 ほぼ当てはまる」,「2 あまり当てはまらな い」,「1 ほとんど当てはまらない」の 4 段階の評価を行っている(表 1.3).

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20 大項目 中項目 小項目 1「授業の準備,教材の工 夫」 ○教材が工夫されるなどして,取り組みやすい授業である. 2「授業の充実感」 ○私は,授業で学習した内容がだいたい理解できている. 3「授業の進め方」 ○生徒の理解度に合わせて,授業が進められている. 4「生徒主体の授業の工 夫」 ○授業中,生徒同士で話し合う機会や意見などを発表する 機会がある. 5「説明の分かりやすさ」 ○説明の仕方がていねいで,分かりやすい授業である. 6「生徒への接し方」 ○生徒一人ひとりに目を配った,きめ細かい指導がなされて いる. 7「学習への取組」 ○私は,授業で分からないところがあったら,先生や友達に 聞いたり,自分で調べたりするなどして分かろうとする努力を している. 8「態度・姿勢」 ○私は,授業に対して意欲的に取り組んでいる. 出典: 平成24年度「生徒による授業評価」報告書. 神奈川県立総合教育センター.1-48 授業内容 指導方法 自分自身 の 取組状況 神奈川県立総合教育センター(2013) 表1.3 神奈川県における「生徒による授業評価」の評価項目 東京都の場合,生徒による授業評価は,図1.4 の様に実施されている.5 月に授業評 価連絡会が組織され実施内容と方法の検討が行われる.その後,実施した授業に対して 生徒による授業評価が実施される.授業評価連絡会において,評価の結果に基づいて実 施方法などの改善などが協議され,次の授業評価連絡会に引き継がれる.この流れが年 に2 回存在し,年度末に年間を通した生徒による授業評価が実施され,1 年間の取組み と次年度への改善内容が報告書としてまとめられている.

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21 図1.4:生徒による授業評価の年間を通した具体的展開例の説明 出典:東京都教育庁<http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr040122k.htm > 2007/8/8 アクセス 高知県では,東京都の授業評価連絡会に相当する段階で検討すべき事項を「授業評価 システムの構築」と位置付け,①何のために(目的),②誰が(主体),③何を(対象),④い つ(時期),⑤どのように(方法など)の 5 つの視点から各学校独自で構築を図ることがで きる様にしている.この「授業評価システム」も基づいて作成した評価表を実際に使っ てみたところ生徒や教師に適度な緊張感があって意外と評判が良いという実感が得ら れている(松原 2003).

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22 図1.4:授業評価システム構築のための 5 つの視点の説明 出典:松原和廣(2003)今,なぜ,学力向上なのか:高知の学力向上策.浦野東洋一(編) 土佐の教育改革,学陽書房,東京,p53

1.2.3 既存の授業改善と生徒による授業評価によ

る授業改善の比較

生徒による授業評価の主たる目的は,授業の工夫・改善である.元々,授業の改善を 目的とした取り組みとして,「授業研究」が広く行われている.「授業研究」には様々な, 取り組み方や,その方法に関する研究が多く存在する.では,生徒による授業評価を用 いた授業改善はこれまでの「授業研究」とどの様な関連性や相違点があるのであろうか. これらを検討し整理を行なうこととする. 横須賀(1990)は,「授業研究」について,「授業を実施する上での工夫や改善のため, 実際の授業について行う研究.」であると述べている. また,水越(2003)は,「学校で毎日展開されている授業を研究の対象にとり,教授・

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23 学習過程の分析,特徴や問題点の把握,そして改善策を検討し,具体化していくこと.」 を主眼とするものであると述べている. 更に,豊田(2009)は,「授業の改善に向けて,日々教師が学校現場で実践している授 業実践を分析・研究の対象とし,最低限校内の同僚の教師たちが授業を互いに見合い, 分析しあい,例えば板書の仕方,発問の仕方,指名の仕方といった方々の指導方法から はじまって,当の授業の教員内容や教材の吟味,さらには,そのとき目指された教育目 標の検討までをも射程範囲に入れて,共同で授業のカンファレンスを行なうこの過程全 体.」と述べている. こうした授業の改善を目的とした「授業研究」に対して,本間(2008)は,「改善のた めに研究するという言明の特徴は,つきとめると授業研究は教師のために行われるとい う考え方だ.」と批判し,その目的は,「授業のなかに,これまでなかったような子ども の活動、思考を発見すること.」であると述べている.この背景には,改善するために 「授業研究」があるのであれば,その改善された授業はいつ実現されるのかという疑問 が含まれている.この批判は,授業の改善は誰の何のために行うのかという最も大切な 目的を見失わないようにする端的な内容であると言える. 以上のことから本研究では,「授業研究」を,「生徒のより良い変容のために,指導の 工夫・改善が検討され,具体化されることである.」と捉えることとする. さて,授業研究には時代や社会が求める教育のあるべき姿を反映し,その動向や方法 には多様性が存在する. 例えば,生田・吉崎(1997)は,1986 年から 1995 年に『日本教育工学会研究報告集』 に掲載された授業研究関連の論文を参照し,この間の授業研究の動向をまとめている. それによると,授業研究の動向は「授業設計」,「教師と子どもの内面過程」,「教師と子 どもの教室観察」,「授業過程の分析・評価」,「教師の授業力量形成」などの5 つの主題 に集約されている. また,高垣(2011)は,2009 年 9 月から 2010 年 6 月に『教育心理学研究』に掲載され た論文と,2010 年 8 月に開催された第 52 回教員心理学会総会での『発表論文集』を参 照し,この間の授業研究の動向をまとめている.それによると,授業研究の動向は,「授 業実践における介入研究」,「教授・学習方略に関する研究」,「他者との相互作用に関す る研究」,「動機づけ・メタ認知に関する研究」,「学習環境に関する研究」などの5 つの 主題に集約されている.

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24 こうした授業研究の動向を探ることについて,稲垣・佐藤(1996)は,「授業研究の『一 般的方法論』を求める教師の要望は,決して根拠のないものでもなければ無意味なもの でもない.」と述べている.その上で,授業研究には,「技術的実践の授業分析」と「反 省的実践の授業研究」の2 つの様式がを示している. 「技術的実践の授業分析」は,可能な限り多数の事例を対象として,どの授業にも応 用可能な一つの心理を追及する研究であり,「計画-実践-検証」などの3 段階でイメ ージされる.また,研究の領域は自然科学的・工学的な認識に基づくものである. 一方,「反省的実践の授業研究」は,特定の教室に生起する個別具体的な経験や出来 事の意味の解明を目指したものであり,主観を尊重した「物語的認識」を追求し,教師 の実践的な見識の形成と教室における経験の意味と関係の編み直しに向かうものとさ れる.研究の領域は,人文社会科学的・文学的な認識に基づくものである. では,生徒による授業評価は,この 2 つの様式と関連性があるのであろうか.あると すればどの様な関連性なのであろうか. 稲垣・佐藤(1996)は,この様式を目的,対象,基礎(背景),方法,特徴,結果として 改善が期待される内容,結果の表現方法を表1.4 の様に対比させている. 項目 技術的実践の授業分析 反省的実践の授業研究 プログラムの開発と評価 教育的経験の実践的認識の形成 文脈を越えた普遍的な認識 文脈に繊細な個別的な認識 対象 多数の授業のサンプル 特定の一つの授業 教授的,心理学,行動科学 人文社会科学と実践的認識論 実証主義の哲学 ポスト実証主義の哲学 数量的研究・一般化 質的研究・特異化 標本抽出法・法則定立学 事例研究法・個性記述学 特徴 効果の原因と結果(因果)の解明 経験の意味と関係(因縁)の解明 結果 授業の技術と教材の開発 教師の反省的思考と実践的見識 表現 命題(パラダイム)的認識 物語(ナラティブ)的認識 目的 基礎 方法 表1.4 「技術的実践の授業分析」と「反省的実践の授業研究」の対比 出典:稲垣忠彦・佐藤学(1996)授業研究入門.岩波書店,東京,121 生徒による授業評価は,その目的や対象,基礎(背景)が「技術的実践の授業分析」と の関連性が強い.しかし,教師が結果を振り返ることで実践的認識を再構成されること が期待でき,一つの授業に他とは異なる傾向が結果として表れることも考えられる.方 法においても,アンケートとして集約することは数量的研究と関連性が高い.しかし, 自由記述欄の読み取りは,その背景を検討することから質的研究との関連性も考えられ

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25 る.結果は,授業技術を含めた授業の改善に用いられるが,その振り返りには反省的思 考が求められる.つまり,生徒による授業評価を用いた授業改善は,「技術的実践の授 業分析」を用いた「反省的実践の授業研究」であると位置付けられる. こうした特性を持つ生徒による授業評価による授業改善と,他の様々な授業研究によ る授業改善との関連性や相違点について考察する.なお,授業研究には,その動向の多 様性を反映し様々な方法があるため,全てを把握し考察するのではなく,以下の代表的 なものを対象とした. ・一般的な授業研究 馬場(2005)は,授業研究を教材研究と授業検討会から成り立つものとしている.学習 指導要領や教科書などの意図されたカリキュラムを,授業で用いるカリキュラムに変換 する作業が教材研究である.教材研究の結果を授業として実施し,その活動を記録した 上で,授業者と観察者が合評会を行うなどするのが授業検討会である. 教材研究:PLAN ①問題の同定 ①,②      ⑤ ②授業の計画 ③授業の実施 ④授業の評価とその効果の反省 (研究)授業:DO ⑤授業の再考 ③        ⑥ ⑥再考された授業の実施 ⑦評価と反省 ⑧結果の共有 授業検討会:SEE ④        ⑦ ④ 出典: 馬場卓也(2005)日本の教育と授業研究概観.清水静海・礒田正 美・大久保和義・馬場卓也(監修)図で見る日本の算数・数学授業 研究.明治図書出版,東京,7 図1.5:授業研究の一連の流れ

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26 ・授業カンファレンス 教師が協同で授業を分析・検討し,授業観や教材観を交流しながら,観察者と教師が 力量を高める授業研究である.例えば,同一の学年で同一の教材による2人の授業を参 観,または映像で視聴し,それらを比較・検討しながら分析を行う.観察者は,生徒を 中心に置いて自分の授業を見直し,異なった見方,問題点の指摘を得ることによって, 専門性を広げることが可能であるとされる. ・オン・ゴーイング法 展開される授業への共感や違和感などを,観察者が授業の流れに沿って記述し,授業 後に整理して観察者の授業認知を把握する方法である(表1.5).観察者の内言が記述され, 観察者には授業がどの様に見えているのかを一人称の言葉として記録される.こうした 記録を比較対照することで,現実の授業での教師の認知を相対的に把握することを目的 としている.この結果,個々の授業をどの様に認知するかという段階と,その認知情報 からどのような意思決定を行うかという段階での実践的力量を高めることで,授業の改 善が図れると考えられている. 表1.5 オン・ゴーイングによる授業認知の整理表 事象 授業事象 観察者Aの認知 観察者Bの認知 記録者間の異同など T1 ・始業時に生徒の授 業準備の状況を確認 していない 事象-異 T2 T「今日は○○につい て考えてみよう」 ・学習課題は生徒に 切実性があるのか ・学習課題は黒板に 板書すべきだ 事象-同/認知-異 T3 T「前回の授業で分かった様に…」 ・本当に生徒は分かっ ているのか?ここでは 生徒の声を拾い上げ たい ・生徒を指名してその 発言内容を前時の復 習をすべきだ 事象-同/認知-同 C1 C:遅刻者が教室に 入ってくる. ・授業者は目で「座 れ」の合図をしたが遅 れてきた理由を聞か ないのか 事象-異 TA T「△△さんはこんな 疑問点を見つけまし た」 ・生徒の疑問を授業設 計に活かす発想が良 い ・本時のねらいに適切 な疑問を提示している 事象-同/認知-異 出典: 伏木久始(2004)教育実践史概論.信州大学教育学部GPe-learning. < http://cert.shinshu-u.ac.jp/gp/el/e04b1/class0.html>2013/9/5アクセス

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27 ・カード構造化法 授業の具体的な文脈から発生し,教師自身の授業を対象化する客観性を備えた言葉で 授業を記述していく方法. カード構造化法による授業研究の方法は,図1.6の様に授業者も参観者と同じ条件で 進めていく授業分析法である.授業者と授業参観者が共通の授業を対象として,自分の 気付きに基づく内言を用いたコミュニケーションを行うことを目的としている.「関連 カードの分類とラベリング」を繰り返す作業において,ツリーの中のラベルとラベルの 間を意識化すること,ラベルの「島」を区切ることなど,作業の度にそれまでの授業の 見方が差異化され,おのずと振り返ることが必要になる.つまり,ツリー構造の作成・ 解釈の過程が,「差異化」と「リフレクション15」による意味探究過程であると言える. ① 授業の観察 ⑨ 授業の見方について省察       ↓       ↓ ② 印象カードを書く ⑩ ツリーの全ラベルをカード化する       ↓       ↓ ③ 関連カードを書く ⑪ ラベルの重み付けと重要カードの決定       ↓ (20~30枚) ④ 関連カードの分類とラべリング       ↓       ↓ ⑫ カードを用い授業を記述 ⑤ ④を分類できなくなるまで繰り返す (該当=1,非該当=0)       ↓       ↓ ⑥ ツリーの作成 ⑬ ⑫を観察した授業の回数だけ繰り返す       ↓       ↓ ⑦ ツリーの考察・キーワードの追加 ⑭ プロッティンググラフの作成 関連付けと構造化       ↓       ↓ ⑮ 他者のグラフと対照 ⑧ 他者のツリーと対照 グループでの話し合い グループでの話し合い       ↓       ↓ ⑯ 授業の見方について省察 出典: 伏木久始(2004)教育実践史概論.信州大学教育学部GPe-learning. < http://cert.shinshu-u.ac.jp/gp/el/e04b1/class0.html>2013/9/5アクセス 図1.6:カード構造化法の手順 方法こそ違うにせよ,生徒のより良い変容を求め授業を改善することは,生徒による 授業評価を用いた授業改善と,代表的な授業研究の方法とでは目的を同じにしている. しかし,そこには二つの相違点が存在する. 第一に,授業観察が無いことである.代表的な授業研究の方法では,授業者と生徒と 15 reflection 省察や内省を意味する.

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28 が展開する授業を,その場で参観者が観察することを前提としている.この場合,教師 や生徒がその授業での成長や課題を見出すことができるが,生徒による授業評価では, 得られた授業評価の結果を考察の対象とするため,その場面では存在しない. 授業を検討・分析する材料は,第三者である参観者の意見ではなく,授業を受けてい る学習者たる生徒そのものの意見である.そのため,指導や助言としてではなく,改善 点そのものが得られる.更に,その内容は,研究授業や公開授業としての特定の授業で はなく,通常の授業を対象にしているため,生徒の意見としての評価は,実状を反映し た内容であると考えられる. 第二に,授業者と参観者の授業研究を通して得られる気付きの領域が挙げられる.代 表的な授業研究は,特定の授業を組織的に検討・分析を行い,授業の改善がなされてい る.一方,生徒による授業評価は,通常の授業を対象に,組織の中で制度化され実施さ れるが,検討・分析は個人によって行われる. つまり,生徒・授業者・観察者の関係が存在しない.そのため,第三者の考えや意見 を基にした気付きを得ることは不可能である.こうした気付きを得るためには,授業者 自らが結果を基に,他者へのアプローチを行なう必要がある.例えば,東京都は,場合 によって評価の後に校内研修を設定している.しかし,この校内研修会は,結果をどの 様に分析し,今後に活かすのかを検討するものであり,評価できる点は何であるか,課 題は何であるか,原因は何であるかを検討するものではない.そのため,結果の検討は 授業者が,主体的に自分の評価の結果を分析する必要がある.

1.2.4 生徒による授業評価に期待される効果

生徒による授業評価には,どの様な効果が期待されているのか,またどの様なことが 課題として考えられるのかについて,先行研究を中心に検討を行なう. 柳澤(2006)は,期待される効果として,次の 3 点を挙げている. (1) 授業改善のポイントをより的確に知ることができる. (2) 生徒が授業に対する興味・関心を高めることができる. (3) 授業改善の取り組みを保護者などに知らせることにより,学校との信頼関係を強

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29 めることができる. この3 点について,関連する先行研究を含め,考察を行なう. 授業者である教師は,自身の専門教科を指導できる段階まで理解を深めている.しか し,自身が理解することと他者に理解させることは,別のものである.学問的に高い能 力を有している教師が,必ずしも優れた教師になるとは限らない.そのため,学習者で ある生徒からの評価は,生徒の理解の程度やつまづきなどの箇所を具体的に把握するこ とができ,改善のポイントを的確に知ることができるため有効である. こうした効果に関連した先行研究として,飛内ら(2004)による次の様な調査が存在し ている.青森県の「生徒の視点を生かした授業評価」16を実施した公立高校の教員に, 「授業アンケート」に関する質問紙法による無記名でのアンケートを実施した.実施時 期,調査規模は不明,回答件数は57 件であった.この中の,「授業アンケート(生徒用) は,授業の改善に役立つと思いますか.」という質問に対し,「思う」と回答したのは 46 人(84%)であり,「思わない」と回答したのは 1 人(2%),その他は 7 人(13%)であっ た.更に,「思う」と回答した46 人に,その理由を多肢選択形式で質問したところ,「授 業改善のための具体的な方策が見つかる.」と回答したのが17 人であった. また,吉田(2005)は,教師が「生徒による授業評価」をどの様に意識し対応している のかを通して教員文化の内部構造について考察を行った.その中で,高知県の全公立高 校の全教員に,質問紙による意識調査を実施している.実施時期は2004 年 6 月から 8 月,回答件数は949 件,回収率は 56.6%であった.この中の,「授業評価を実施するこ とに意味がある.」との回答は,「まさに」と「だいたい」を合わせて60.7%であった. 生徒による授業評価を実施することによって,生徒にとっては,授業を評価するとい う関わりが加わる.その結果,生徒による評価の結果が授業の工夫・改善に活かされる とともに,より分かり易い授業になることにより,興味・関心を高めることができると 考えられている. しかし,実際に生徒に授業評価の必要性などを確認した先行研究は少ない. 渡邊(2006)は,東京学芸大学附属高等学校(東京都世田谷区)の第 1 学年の 1 クラス 45 16 青森県では,生徒による授業評価を「生徒の視点を生かした授業評価」と呼んでいる. これは,「評価する・それる」関係が一方的に固定される印象を与えがちであり,生徒自身 の自己評価も含め多角的な評価を行なうためであるとされている.

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30 名を対象に行った授業評価に関する意識調査を行った.この調査によると,生徒による 授業評価に対して,肯定的な生徒は85%,否定的な生徒は 15%であった.肯定的な生 徒の理由の内訳のうち,「授業が良くなることにつながる」と回答したのは,12 人(27%), 「生徒側の要望が伝えられる」と回答したのは11 人(24%),「相互理解に繋がる」と回 答したのは3 人(7%)であった. 保護者との信頼関係を強めることができると考えられているのは,保護者の授業に対 する関心に応えられる改善方法であるためである.保護者は,授業の質が高まることに 期待を寄せていると考えられる.現在,検証はなされていないが,授業改善の取り組み などを知ることにより学校教育に対する理解が深まり,保護者の期待により応えること が可能になると考えられる. これらの3 点は,生徒による授業評価による授業改善の目的に副った効果であると言 える.この3 点に加え,次の様な 2 次的効果も存在する. 岩佐(2006)は,生徒による授業評価の真の目的を,生徒が「責任」を学び,「民主的 な市民性」を高めることであると述べている. 生徒による授業評価には,「評価が先生の職を奪うことになるかもしれない.」といっ た,具体的な結果を伴う可能性がある.こうした条件の下で,評価を行うことにより, 生徒は「責任」を経験し,学ぶことになる.生徒が責任を持ってより良い授業や学校を 実現する過程に関わることによって,「民主的な市民」としての自己の有り方を体験す る.この体験をから生徒が学び,成長できる様に援助することが生徒による授業評価の 狙いであると述べている. 授業を含む教育課程に何らかの参加を経験することは,所属する学校をより「民主的」 で目的に適った場所にすることに貢献しているという実感に繋がる.また,この体験は, 市民としての自覚と成長を促すことに役立つ.こうした「真の」成長を実感することに より,生徒にとっても教師にとっても,学校が学びの共同体としての機能を果たす場に なるとされる. こうした効果を得るためにも,教師は,「生徒による授業評価は生徒の権利である.」 という認識を持たなければならないと述べている. 授業を評価することに対し,生徒に責任が発生し,適切な評価を行うことに繋がる可 能性は否定できない.そういった点で,生徒が責任を学ぶことができる効果は考えられ る.

図 2.2:黒板におけるセグメントの使用例
図 4.1:計量テキスト分析によるサブグラフ検出共起ネットワーク:

参照

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