第 3 章 生徒による授業評価の回答基準についてのケース・スタディ 101
3.2 調査概要
3.2.2 データの収集方法と結果
107 (6) 対象者H・1組
公立大学への進学希望.受験教科として数学が必要なために選択した.授業には満足 している.センター試験で高得点を取るための授業展開を求めていた.演習問題などの 途中式などは省略してでも,難度の高いレベルを授業に期待していた.授業は,自分で 問題を先に解き,後から解説を受け確認するスタイルで臨んでいた.生徒による授業評 価の必要性には言及しなかった.しかし,評価尺度については「『評価できない』,『良 くも悪くもない』との印象を反映させるため,評価尺度の中に『どちらでもない』を加 えて欲しい.」との要望していた.なお,この生徒は希望する公立大学に合格し進学し ている.
(7) 対象者I・1組
公立大学への進学希望.数学が入試科目であるため「数学演習」を選択した.数学は 小学生の頃に分からなくなり,それ以来,好きではない.「数学演習」は,「既習内容で ある数学Ⅰ,数学A,数学Ⅱ,数学Bの発展的な内容を扱うのであるから,難度を高く 設定してほしい.」と希望していた.分からない問題は,「自分で努力し理解するように しなければ身に付かない.」と考えていた.「授業に参加する生徒に理解度の差があるた め,習熟度別にクラスを編成した方が良い.」と感じていた.なお,この生徒は希望す る公立大学に合格し進学している.
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(6) 先生の授業において,黒板への板書は見易いですか.
この6項目において評定尺度を,どの様に解釈し回答しているのかについてのデータ を,それぞれの評定尺度に対応させる作業を対象者毎に行った(表3.1-表3.6).
その後,ケース・スタディによって分析を行っている.なお,ロバート(1996)がケー ス・スタディによる論理化の過程の質とする,構成概念妥当性,内的妥当性,外的妥当 性,および信頼性の4点については次の様に検証を行っている.
(1) 構成概念妥当性
分析対象の概念に関する操作的尺度を確立しているかにより判断される妥当性のこ とである.尺度に対して対象者が,どの様な潜在的基準を持っているのかを探ることで
「操作」を明らかにすることを試みる.この「操作」とは,「何か」を定義するために, その方法を定義することを意味している.例えば,「重さ」を定義するために,「それを どの様な方法で計量するか」という方法論を定義することである.
本研究では,対象者が順序尺度毎に,どの様な場合がその尺度に該当するのかを確認 することで,対象者の潜在基準を探る方法を用いている.
(2) 内的妥当性
研究の目的対して,妥当性のある分析方法が用いられているのかについての検証であ る.疑似的な関係とは区別されるものであり,ある条件が他の条件をもたらすことを示 す因果関係の確立を目指しているかによって判断される.
本研究では,分析において対象者の特徴を整理し,対象者毎に,どの様な潜在的基準 により回答しているのかを,その尺度毎に検討し対比させる方法を用いている.この対 比により尺度毎の違いを明らかにできると考えている.
(3) 外的妥当性
分析から得られた現象や事象の法則性を,一般化することが可能であるかを表す指標 である.本研究での対象者は,限られた条件のみを満たしている少数である.そのため,
今回の分析結果を,全ての高校生,全ての数学の授業に一般化することは現実的ではな い.しかし,生徒による授業評価に回答する際に,潜在的基準を持っている生徒の存在
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を認めることができる.このことは,教師の抱く生徒による授業評価への信頼性の不安 の解消の一助となることが期待できる.
(4) 信頼性
データ収集の手続きなど研究の操作を繰り返して,同じ結果が得られることである.
本研究では,半構造化されたインタビューによってデータが収集されている.また,評 定尺度についての潜在的基準を対応させる作業であるため,同じ結果が得られることが 期待できる.
基準 4:とても分かり易い 3:分かり易い 2:分かり難い 1:非常に分かり難い
対象者B
具体例などを挙 げて説明する.
質問に対して,
詳しく教えてくれ る. 先生が授業 を一人で進めるの では無く,対話し ながら進める.
説明が何もな い. 何を言って いるのかが分から ない.
対象者C
説明が分かり易 い.
教科書通りにし か進めない.分 かっているという前 提で,説明を省く.
説明があっても,
本当に分からな い.
対象者E
きちんと理解す ることができる. 別 解がある場合,教 えてくれる.
説明はきちんとし てくれているが,あ まり理解できない.
「なぜ最初に説明 してくれなかっ た.」との様な説明 不足.
「もうこれ分かるよ ね.」といった説明 が多い.
(1) 下線部は特徴的記述を表している.
(2) 潜在的基準に関する明確なデータが得られなかった対象者と尺度データが1つのみで あった対象者は除外している.
表3.1:「先生の授業は分かり易いですか.」に対する生徒の潜在的基準
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基準 4:とても保たれて
いる
3:保たれている 2:あまり保たれて
いない
1:全く保たれてい ない
対象者C
皆で試行錯誤し ながら考えたりで きる(そういう場面 ばかりでは良くな い).
集中できるが,少 しうるさい.
あり得ないくらい うるさい.
対象者D
集中している状 態. 寝ている人 がいない状態.
皆,寝ている. 皆寝ていたり,私 語が飛び交う状態 で,かつ,先生が 怒らないとき. 先 生を馬鹿にしてい る状態.
対象者E
先生の話をよく 聞いてる状態.
寝ている人と聞い ている人が混在し ている.
やる気のない状 態.
全く,先生の話を 聞かない状態.
(1) 下線部は特徴的記述を表している.
(2) 潜在的基準に関する明確なデータが得られなかった対象者と尺度データが1つのみで あった対象者は除外している.
表3.2:「先生の授業において,授業秩序は保たれていますか.」に対する生徒の潜在的基準
基準 4:十分に確認して
くれる
3:確認してくれる 2:確認してくれな
い
1:全く確認してく れない
対象者A
机間巡視しなが ら、ポイントを教え てくれる. 小テス トをしてくれる.
小テストは必要 以上に多いが,授 業中の確認はあま りしない.
全部板書し,「は い,分かるでしょ う.」といった様な 説明の仕方.
対象者B
質問に対して解 るまで説明してく れる.
一方的に,「これ は分かりますね.」
と進める場合.
(1) 下線部は特徴的記述を表している.
(2) 潜在的基準に関する明確なデータが得られなかった対象者と尺度データが1つのみで あった対象者は除外している.
表3.3:「先生は,生徒がどのくらい理解しているかを確認しながら授業を進めています か.」に対する生徒の潜在的基準
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基準 4:とても意欲的に
なる内容である
3:ある程度意欲的 になれる内容であ
2:あまり意欲的に なれない内容であ
1:全く意欲的にな れない内容である
対象者A
いつもの授業と 違う工夫がある場 合. 教科の好き嫌 い.
気分の差,その教 科が苦手で,あま り良い成績でない 場合は意欲が湧 かない.
対象者E
皆が参加している 場合. 皆,一人 一人が,何を考え ているのかが解っ ている状態.
意欲の3と4の違 いは無い. 気分の 差,その教科が苦 手で,あまり良い 成績でない場合は 意欲が湧かない.
1だと可哀そうだ から2という様な感 情による.
対象者F
興味を持つこと ができ,積極的に 参加できる. 普通 に受けていて,「凄 く分る!凄く楽し い!」という感じで 集中できる.
生徒を見ない.
進めば,良いと 思っているのでは ないかという授業.
対象者G
「ちょっと駄目だ なぁ.」と思い,授 業を変えて欲しい 場合.
生徒に関係な く,先生が一人で 進めている授業.
テストまでの範囲 を,終わせれば良 いのかなと思う場 合. 特定の生徒 だけにしか教えな い場合.満遍なく 説明してくれな い. 喋っているだ けの場合. プリン ト授業だとしても,
板書が無い場合.
(1) 下線部は特徴的記述を表している.
(2) 潜在的基準に関する明確なデータが得られなかった対象者と尺度データが1つのみで あった対象者は除外している.
表3.4:「先生の授業は意欲的に取り組める内容ですか.」に対する生徒の潜在的基準
112 基準 4:とても聞き取り易
い
3:ある程度聞き取
り易い 2:聞き取り難い 1:かなり聞き取り 難い
対象者A
ハキハキ喋る. 言葉が早口であ る. たまに,聞き にくかったり,滑舌 が悪いときがある.
基本的に聞こえ れば,2や1になる こと無い.
対象者D
大きく,メリハリが あり,1人の生徒だ けでは無く,いろ いろな方向を見て 喋っている. 声の 大きさは,自分が 分っていなくても,
大きかったら4で す.
ちょっと眠くなる 声.
対象者E
大きさというか,
「理解して!」の様 な感情が入る声の 場合.凄く「分かっ て欲しい!」という 様な感じで説明し てくれる.
凄く大事なとき は、ちょっと強弱を 付けて欲しい.
普通.
「この様な場合 は,この様になっ ていますからね.
はい.」と言う様な 単調な場合.集中 できなくなってしま う場合.
何を言っている かが解らない状 態.
(1) 下線部は特徴的記述を表している.
(2) 潜在的基準に関する明確なデータが得られなかった対象者と尺度データが1つのみで あった対象者は除外している.
表3.5:「先生の授業中の声は聞き取りやすいですか.」に対する生徒の潜在的基準