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生徒が授業を評価する際の潜在的基準についての分析

第 3 章 生徒による授業評価の回答基準についてのケース・スタディ 101

3.3 生徒が授業を評価する際の潜在的基準についての分析

潜在的基準についての分析

この節では,生徒における授業評価に回答する際の潜在的基準を,質問項目毎に分析 を行う.

3.3.1 「授業の分かり易さ」についての潜在的基準の分析

授業の分かり易さに関する質問項目では,「深い理解」を求める生徒と「理解し易さ」

を求める生徒の評価が同じ結果であっても,それぞれが持つ評価基準は異なっていると 考えられる.

対象者B,C,Eの発話から,潜在的基準と考えられるキーワードを表3.7としてまと めている.

表3.7: 「授業の分かり易さ」を判断している潜在的基準 評価尺度

対象者

理解し易さ 個別の対応 - 説明が無い - 丁寧な説明 工夫がある説

説明が理解で きる

深い理解が可 能

丁寧な説明 説明のポイン トが欠如

説明に省略が 多い

非常に分かり 難い

対象者B 対象者C 対象者E

とても分かり

易い 分かり易い 分かり難い

例えば,「とても分かり易い」の基準を対象者Bは,「具体例を挙げての説明」といっ た「理解し易さ」を基準にしているのに対し,対象者Eは,「別解がある場合,教えて くれる」といった「深い理解」に繋がることを基準としている.

また,「分かり易い」については,対象者Bが個別の生徒に対応する教師の姿勢を基 準としているのに対し,対象者Cと対象者Eは説明を丁寧に行う教師の姿勢を基準とし ている.後者が全体への説明段階での教師の姿勢であるのに対し,前者は更に踏み込ん だ教師の姿勢を求めている.

一方,「分かり難い」については,対象者Cが説明において理解を促す工夫の無い状

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況を基準としているのに対し,対象者Eは理解するために必要な事項が欠如してしまっ た場合を基準としている.

最後に,「非常に分かり難い」に対して,対象者Bは説明が無い,説明はあるがその 内容を理解することができなかった場合を基準としている.対象者Cも説明はあるがそ の内容を理解することができなかった場合を基準としている.対象者BとCに対して,

対象者Eは内容の解説において,自分にとって必要な説明が省かれてしまうことが多い 場合を基準としている.この様に,説明が省かれることが多いという状況と,説明はあ るのだがその内容が分からないため,理解し難いという状況のそれぞれが「非常に分か り難い」の判断基準となっている.

3.3.2 「授業秩序は保たれているか」の潜在的基準の分析

授業秩序は保たれているのかに関する潜在的基準を,対象者B,C,Gの発話から考 えられるキーワードを表3.8としてまとめている.

「とても保たれている」の潜在的基準は,学習者が主体的に学びに向かっている状態 であることが推察される.その状態は,「集中している」,教師の話を「よく聞いている」,

皆で「試行錯誤しながら考えたりできる」と違いがある.しかし,共通しているのは,

「私語36をしている者がいない」,「居眠りをしている者がいない」,「授業と関係の無い ことをしている者がいない」など,規律が守られている状態のみを指しているのではな い.

これが,「保たれている」の尺度になると,「居眠りをしている者がいる」や「私語が 気になる」といった規律があまり守られていない状態に変化している.

また,「あまり保たれていない」になると,「居眠りをしている者が多くいる」,「学習 意欲が無い者が多い」など,主体的に学習に取り組んでいない状態を基準にしている.

つまり,規律が保たれていない場合もあるが,学習環境には支障のない状態を指してい る.

最後に,「全く保たれていない」に対しては,意欲的に取り組もうとする学習者に影

36 「授業と無関係の私語」を指す.なお,出口(2008)は,「授業に関する私語」と「授業と 無関係の私語」には有意な効果(相関)関係が見出されないことを因子分析により見出してい る.

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響を与えるほど規律が保たれていない状態を示している.例えば,私語が飛び交う様な,

授業者と学習者双方が不快を感じるような状態である.私語の原因については,「私語 が多い授業には,『授業では私語をしてはいけない.』という命令的規範と,『この授業 は私語をしても構わない.』という記述的規範に食い違いが生じるためである.」と北折 (2000)が指摘している.なお,「命令的規範」とは,広く知られ,おおむね遵守されて いる一般的な社会の規範のことであり,「記述的規範」とは,周囲の行動との同調によ り生じる規範であり,命令的規範ほど一般的ではない.こうした規範の違いにより生じ る不快感は,意欲的に学ぼうとする学習者の支障となることは十分に考えられる.

また,「全く保たれていない」状態は,その状態のみではなく,その状態を解決でき ない,または,解決しようとしない教師に対しての不満の表れであるとも考えられる.

こうした不満は,生徒の抱く教師像との乖離を引き起こし,生徒と教師の信頼関係にも 影響を与えることになる.

評価尺度 対象者

主体的に学ん

でいる - - 規律がない

主体的に学ん でいる

規律がやや 緩んでいる

主体的に学ん でいない

規律がない 主体的に学ん

でいる

規律がやや 緩んでいる

主体的に学ん でいない

規律がない 表3.8: 「授業秩序は保たれているのか」を判断している潜在的基準

全く保たれて いない 対象者B

対象者C 対象者G

とても保たれ

ている 保たれている あまり保たれ ていない

3.3.3 「理解の確認をしながら授業を進めているか」の

潜在的基準の分析

理解の確認をしながら授業を進めているかに関する質問項目への潜在的基準は,2人 の対象者から得ることができた.この2人の対象者B,Fの発話から,潜在的基準と考え られるキーワードを表3.9としてまとめている.

対象者Bは,「机間巡視」での確認や「小テスト」などの具体的な方法で理解の確認 を行なうことで捉えている.

佐久間(1990)は,「机間巡視」を「一斉授業の中で,学習形態が個別学習や班別学習 に移行した時に,授業者が子どもたちの座席を順次巡回し,一人ひとりの学習状況を実

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地に調べる授業技術.」と定義している.その上で,「巡視しながら,子どもの思考に触 発され,教材を見る視点を新しく獲得したり,子どもの理解を深めたりすることも,そ の重要な機能である.」と述べている.

なお,「机間巡視」とは別に「机間指導」という用語も用いられている.両者を区別 して用いる場合もあるが,本研究では同義のものとして「机間巡視」を用いることとす る.

つまり,机間巡視により,個々の生徒の理解を促すことだけではなく,理解の状況を 授業の難易度や進度,指導の方法に反映することが可能となる.理解の確認の結果,こ うした反映がある状態が「十分に確認している」という尺度に繋がるものと考えられる.

「小テスト」は確認テストとも呼ばれ,単元毎などの範囲で行なわれるものである.

教師にとっては,結果を振り返らせることにより,学習を促すと同時に,生徒の理解度 を確認し授業の調整に役立てることができる.一方,生徒側にとっても,自分の理解度 の確認,他者との比較,定期考査に向けての復習教材としての活用といった利点がある.

対象者Fは,自分が理解できるまで指導してくれるかどうかを基準としており,それ ぞれが持つ「確認」に対しての潜在的基準は異なっている.

「確認してくれる」については,対象者Bの回答のみであり,授業での確認が少ない ことを潜在的基準としている.

「確認してくれない」については,対象者Fの回答のみであり,教師が確認の必要が 無いことを判断している状態を潜在的基準としている.この基準は,対象者Bが「全く 確認してくれない」とする基準と同一であった.教師の確認が全くないことは,生徒も 確認の必要が無いと感じている状況では,低い評価とはならない.そのため,評価とし てこの尺度を選択することは,教師が抱く生徒の理解度と生徒の状況に乖離が存在する ことを示している.

対象校では,年に2回,生徒による授業評価が行われている.2回の授業評価の期間,

この乖離が続いている状況は,生徒にとって授業での学習が困難な状況であることが推 察できる.

118 評価尺度

対象者

理解を支援 確認の機会が

少ない - 教師が確認を 必要としない 理解するまで

支援 - 教師が確認を

必要としない

-表3.9: 「理解の確認をしながら授業を進めているか」を判断している潜在的基準 全く確認して くれない 対象者B

対象者F

十分に確認し てくれる

確認してくれ る

確認してくれ ない

3.3.4 「意欲的に取り組める授業であるか」の

潜在的基準の分析

質問項目にある「意欲」は,「学習意欲」を意味している.学習意欲とは,「他者から プレッシャーをかけられ仕方なしに学ぼうとする意欲ではなく,自ら率先して学ぼうと する意欲(桜井2003).」とされる.更に,前者を「外発的」,後者を「内発的」とするな らば,内発的学習意欲を持って授業に取り組んでいるかを質問している項目である.

評価尺度 対象者

-

-期待していた内 容との違い

①理解の確認 が無い

②進度が速い

③差別的な対 応がある 主体的に学ん

でいる

①主体的では 無いが学ぼうと している

②成績が良い

「全く意欲的に なれない内容 である」と評価 することへの躊

-主体的では無

いが学ぼうとし

ている -

-①理解の確認 が無い

②進度の確保 が優先されてい 教師が意欲的

に取り組んでい る

①主体的では 無いが学ぼうと している

②成績が良い

-

-表3.10:「意欲的に取り組める授業であるか」を判断している潜在的基準 全く意欲的にな れない内容で ある

対象者A

対象者C

対象者E

とても意欲的に なる内容である

ある程度意欲 的になる内容 である

あまり意欲的に なれない内容 である

対象者D