第 1 章 序論
1.7 方法論の検討
1.7.3 ケース・スタディーの概要
生徒がどの様な基準により授業を評価しているのかについては,ケース・スタディに より考察を行っている.以下,この方法の概要と,本研究で用いることとした理由につ いて説明を行なう.
ケース・スタディは,社会科学におけるリサーチを行う上での方法の1つである.こ の方法は,「どの様に」あるいは「なぜ」という問題が提示されている場合,研究者が 事象をほとんど制御できない場合,そして現実の文脈における現在の現象に焦点がある 場合に望ましいリサーチ戦略であり(Robert1996),1つまたは一定の限られた数の複数 の事例に焦点を当て,ある問題や現象に関する理解を深める方法であると言える.実際 に,この方法により分析を行った大石(1998)は,積み重ねの必要性を述べた上で,攪乱 したデータの分析におけるケース・スタディの有効性を指摘している.
Robert (1996)は,ケース・スタディを次の様に定義としている.
(1) 特に現象と文脈の境界が明確でない場合に,現実の文脈で起こる現在の現象を 分析する経験的調査である.
(2) ケース・スタディによる調査は,設計の論理,データ収集,データ分析を包括 している.
また,調査目的により,例としての重要性に重きを置き厳密性を二次的なものとして とらえる教育的ケースと,事例としての普遍性や特殊性および高い厳密性を必要とする 研究的ケースが存在する.特に前者に対しては,「厳密性を二次的なものとしているこ とから,科学的一般化の基礎をほとんど提供しない,時間がかかる,文書の量が多いな どの伝統的な批判・先入観もあり,設計・実施には十分な注意が必要である(Robert1996)」
との指摘が存在する.
しかし,Robert(1996)はケース・スタディに少なくとも5つの応用が可能であること
を指摘している.
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(1) 複雑な現実の中において,因果的な結び付きを説明することができる.
(2) ある介在とその介在が生じた現実の文脈を記述することができる.
(3) ケース・スタディはある評価においてある種のトピックスを記述的に描写できる.
(4) ケース・スタディは評価対象においてあるバイアスにより明確な単一の結果を持 たないような状況であっても探索できる.
(5) ケース・スタディはメタ評価,すなわち評価研究に関する研究と言うことができ る.
ケース・スタディにあたって経験的データをリサーチ問題に,その結論に結びつけ る論理化の過程を作り出す必要がある.その過程におけるステップは,「どの様に」と
「なぜ」に関わる研究問題の性質を正確に明らかにする,同様なケースを対象にして いるのかという分析単位を明らかにする,データを命題に結びつける論理,発見事実 の解釈基準とされる(ロバート1996).
この論理化の過程は,構成概念妥当性,内的妥当性,外的妥当性,および信頼性に よってその質の判断がなされる.
構成概念妥当性は,分析対象の概念に関する操作的尺度を確立しているか否かによ り判断される.内的妥当性は,疑似的な関係とは区別されるものであり,ある条件が 他の条件をもたらすことを示す因果関係の確立を目指しているかどうかによって判断 される.外的妥当性は,分析結果を一般化しうる領域についての範囲である.信頼性 については,データ収集の手続きなど分析方法の繰り返しによって同じ結果が得られ ることを示すものである.
分析技術は,問題の発見,データ収集を行うための優れた聴き手としての面接者,
適応性と柔軟性,課題の把握,バイアスの除去が必要とされる.
本研究において,ケース・スタディの手法は,生徒による授業評価に回答する際,
生徒が評価項目に対し,どの様な基準を設定し,評価を行なっているのかを考察する ために用いている.その基準は,生徒個々の授業観によって異なることが考えられる が,実際に異なっているという事実は明確にされていない.また,どの様な授業観が 反映され,異なっているのかについて明らかにすることにより,授業改善の方策に活 かすことが期待できる.評価項目の尺度に対して,評価結果として存在する現象とそ こに至る生徒の意思の境界は明確でない.ケース・スタディが本研究において有効で
66 あると考えているのはこの点にある.
分析の論理は,評価尺度に対する回答基準についてのインタビューにより得られた データを分類し,結果を表に表している.その後,分類されたデータと生徒の抱く授 業観との比較を行う分析方法を採用する.この過程の最後に,この分析方法の質につ いて検討を行う.
以上のことにより,生徒が授業を評価している基準についての考察を行なう.
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