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第 1 章 序論

1.3 先行研究の通観

本節では,生徒による授業評価に関して,先行する研究を通観し,挙げられている正 の利点や課題について通観し,問題の所在を明らかにする.

大学などの高等教育機関で行われている教員の教育能力を高めるための方法である

「学生による授業評価(Faculty Development,FD)」と比較すると生徒による授業評価 についての研究は少ない.「学生による授業評価」が,「1924 年,アメリカ合衆国の

Dartmouth College18において,学生の視点から大学教育の良し悪しを一つの改善基準

として考えられた(大山2007)」ことから始まるのに対し,「生徒による授業評価」は近 年の取り組みであり歴史が浅い.

生徒による授業評価についての先行研究は,次の様に分類できる.

第1に,生徒による授業評価を実施するため利点や課題を探る研究である.

第2に,教師がどの様に変化したかについての研究である.

第3に,授業評価を通して授業の課題を探る研究である.

第1の,生徒による授業評価を実施するため利点や課題を探る研究は,目的,評価項 目や様式などの課題を探り,その在り方を考察することが中心的に行われている.

飛内ら(2004)は,授業改善につながる授業評価を確立することを目的とし,「生徒に よる授業評価」で用いる調査票の様式例の検討を行った.

生徒用アンケートと教師用アンケートを作成し,単純集計した結果を分析している.

生徒用アンケートは,短時間で実施でき,生徒が評価を行ない易い様に分り易い表現 を用い,授業改善に直接活かせることを作成の狙いとした.実際には,「先生の話し方 ははっきりしていて,ききやすい.」,「先生はわかりやすい言葉で説明している.」,「先 生の指示や問いかけは,はっきりしている.」などの13項目を用意し,各項目について

「Aそう思う」,「Bだいたいそう思う」,「Cどちらかというとそうは思わない」,「Dそ うは思わない」の 4 段階の評価基準を設定した.このアンケートは,青森県内の高校

18 Hanover, New Hampshire, United Statesに本部を置く私立大学.1769年設置.設置者

はThe Trustees of Dartmouth College.Ivy Leagueのメンバーであり,United States of

Americaの大学の中で13番目に長い歴史を持つ.

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13校を対象に2003年9月に行なわれ,12校77クラスから回答を得ることができた.

教師用アンケートは,「授業アンケートを実施してよかったと思いますか.」,「授業ア ンケートは,授業の改善に役立つと思いますか.」,「授業アンケートの形式と内容は,

この例でよいと思いますか.」の3項目を用意し,「a思う」,「b思わない」,「cその他」

で回答するものとなっている.教師用アンケートは実施時期,調査規模は不明であり,

回答件数は57件であった.

生徒用アンケートの分析結果からいつくかの特徴を見出している.

例えば,「先生の話し方ははっきりしていて,ききやすい.」,「先生はわかりやすい言 葉で説明している.」,「先生の指示や問いかけは,はっきりしている.」といった評価項 目については違いが分かり難い.主観や評価に流れない様に表現を工夫したところ,評 価の狙いが伝わり難い.授業の内容が理解できている生徒は,肯定的な評価が多いが,

そうでない場合は否定的な評価が多い.授業評価を先行して実施している学校の生徒は,

他校と比べて自由記述への記載が多いなどが挙げられている.

総じて,生徒の回答には妥当なものが多く,授業改善に対する有用性が高いとしてい る.また,趣旨を理解させ,回答を経験していくことで生徒の評価能力が向上し,より 多くの有用な意見を得ることが期待できるとしている.

教員の意識調査からは,有用感と抵抗感,不安,懸念の存在を見出し,教員自身が授 業のどの様な場面で何を確かめたいのか,どの様に改善していきたいのかを明確にして おくことが効果的であると提言している.

このアンケートの実施結果を踏まえ,更に教師アンケートを実施し,評価の信頼性や 妥当性を検討し評価項目の内容やその表現方法などに改善を加え,より良い授業評価の 確立を今後の課題としている.

また,吉田(2005)は,評価項目の妥当性や評価の客観性をはじめとした様々な課題を 解決することを目的とし,授業者,生徒,授業者以外の教師の三者による評価を比較し,

授業評価の開発と検証を行っている.まず,3者に対し,「単元のねらいの明確化」,「内 容の理解(工夫)」,「適切な進度」などの観点から10の評価項目,「とてもそう思う」,「や やそう思う」,「どちらともいえない」,「あまりそう思わない」,「まったくそう思わない」

の5段階の評定尺度による授業評価シートを作成した.シートの作成にあたっては,授 業者と授業者以外の教師用の「生徒の学習に応じて指導を工夫した.」という評価項目 に対し,生徒用には「自分の理解から見て,授業の進度はちょうど良かった.」といっ

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た評価項目が対応するように設定されている.なお,調査の時期や規模は不明である.

それぞれのアンケートを単純集計し,ヒストグラムと中央値を比較し分析を行ってい る.結果,生徒からの評価は,授業者と授業者以外の教師と同様もしくは高めであった.

また,評価者によって評価の差が顕著に表れる項目があり,その箇所が授業の課題であ ることを見出している.更に,5 段階評価の「どちらともいえない」に評価が集まり,

改善に繋げにくく,評価力を高めるために4段階による評価尺度の設定が適切であると 述べている.

これらの研究は,生徒による授業評価を実施する上で,目的や評価項目の内容,様式 などを作成するためのものであり,「初期研究」として位置付けられるものである.こ うした初期研究は,各都道府県の教育庁またはそれに相当する期間が管轄する「教育研 修センター」を中心に数多く行われており,生徒による授業評価の礎として活かされて いる.

第2に教師の変容について研究としては,生徒による授業評価を実施し,授業改善に 向けた取り組みを考察したものが挙げられる.

吉川(2001)は,学校の「教師文化」を「教師が共有する価値観とそれに基づく一連の 行動様式」と定義した上で,生徒による授業評価によって教師文化がどの様に変化した のかについて考察を行っている.首都圏のある私立男子高校を事例校とし,フィールド ワークにより実践事例の考察を行ったものである.

事例校は,生活指導を中心に学校再建が図られ,生徒に自己管理能力を形成させるた めに規律意識を高める指導を行っていた.その過程で,教師側から生徒に規律意識を求 めるだけの授業をしているのかという論議が高まり,生徒による授業評価を実施するこ とになった経緯がある.事例校の場合,もともと教師の力量形成を学校組織として行わ れており,教師全員が何らかの形で意思決定に参加できていた背景があった.そのため,

外圧的な実施ではなく,内発的な実施が可能となった点が特徴的である.

1992 年の結果では,「声の大きさ」,「先生の熱意」といった評価項目は 70%が「いつ もとてもよい」,「よいときが多い」などの高い評価であった.反面,「授業内容がために なる・力がつく」,「授業内容や進め方が自分達の関心や理解にあっているか」といった 評価項目では 50%が高い評価がであった.こうした結果を教師にアンケートを実施し どう受け止めているのかを調査したところ,回収率は約 60%に届かなかったものの,

88.1%の教師が妥当なものであるとしていた.

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こうした結果を受け,授業を改善する取り組みが文化として形成されたことが事例校 での成果であると述べている.文化の形成として,具体的には,データとして示された 授業評価の結果を基に,「生活指導」を中心の教師文化と,「教科指導」中心の教師文化 間に,授業の改善を目的として相互の再評価が生じたのであることを挙げている.今後 の課題として,このアンケートに回答しなかった約 40%の教師が何を考えているのか を明らかにすることを課題として挙げている.

吉川(2001)によるこの研究は,生徒による授業評価が生徒と教師との関係で授業改善 が行われることに止まらず,教師同士の関係にも改善がおよぶ可能性があることを見出 している.同時に,多くの学校では,生徒による授業評価が,外圧的に導入されている ため,事例校とは異なる背景が存在する.事例校では,授業評価のデータと授業改善の ための組織的な土壌が,成果に繋がっている.そうであるとすれば,逆説的に,データ の解釈や管理について慎重である必要があり,授業改善のための組織的な取り組みが必 要であるという吉川(2001)の課題意識は,的を射たものであると言える.

吉川(2001)が,今後の課題としている「生徒による授業評価を生徒はどう受け止めて いるのか.」については,渡邊(2006)が同様の課題を明らかにすることに取り組んでい る.渡邊(2006)は,東京学芸大学附属高等学校の第一学年の1クラス45名を対象に,「授 業評価を行った方がいいと思いますか.」との質問を行っている.実施時期は不明であ る.この質問へは,「そう思う」,「ややそう思う」,「あまりそう思わない」,「そう思わ ない」の4段階で回答と自由な意見を求めている.なお,記名の有無は生徒に一任した.

結果は,図1.7の通りとなり,このうち肯定的な回答をした生徒は85%であった.