第 2 章 熱方程式 57
2.12 紙芝居
注意 2.11.2 (常微分方程式とのアナロジー) 常微分方程式論において、上の定常解に対応す る概念と言えば、力学系の平衡点である。力学系
(2.11.2) dx
dt =F(x) の平衡点とは
F(x∗) = 0
を満たす x∗ のことと定義されるが、平衡点 x∗ に対して、
x(t) :=x∗
で定義した定数関数 x(t) を考えると、これは (2.11.2) の解になっている (つまり時間によら ない解になっている)。力学系の平衡点の分類理論というものがあったことを覚えているだろ うか? 簡単のために F(x) =Ax (A は行列)の場合、すなわち定数係数線形常微分方程式
dx dt =Ax
を考えると、0は平衡点で、これがどういうタイプであるかは、A の固有値を調べることで判 定できた。例えば固有値の実部がすべて負であれば、初期値が何であっても
tlim→∞x(t) = 0
が成り立つ (平衡点0 は沈点である)。と、ここまで書くと勘の良い人は分かるかもしれない が、(H-IBP) を解く際に現れた (同次 Dirichlet 境界条件つきの微分作用素 d2/dx2 の)固有値
−n2π2 はすべて負であった。熱方程式とそれを少し修正した方程式の解の多くが、定常解に 収束してしまう原理との関係が見えてきただろうか?
メモ 熱方程式と非同次Dirichlet, または非同次Neumannの場合の話を書いておくべきだ。
とりあえず結果のみ。前者の場合
tlim→∞u(x, t) =v(x) = (B −A)x+A.
後者の場合
tlim→∞u(x, t) =
a0
2 +Ax= Z 1
0
f(x)dx+Ax− A
2 (A =B のとき)
−∞ (A > B のとき)
+∞ (A < B のとき)
2.12.1 (H-IBP) の解
初期値f が
(2.12.1) f1(x) =
( x (0≦x≦1/2) 1−x (1/2≦x≦1)
で与えられる関数である場合53 (グラフは図2.1) に、同次 Dirichlet 境界条件を課した初期値 境界値問題 (H-IBP) の解の様子を示したのが図2.2 〜2.5 である。それぞれの図は、t= 0.01, 0.02, 0.03, 0.04としたときの xの関数u(x, t) のグラフに対応するものである。グラフの横軸 が位置、縦軸が温度を表していることを考えると、時間が経つにつれて、温度の高いところか ら低いところへ熱が流れていく様子がわかる。図 2.6 は t = 0 からt = 0.3 まで0.01 刻みの 時刻におけるグラフをまとめて描いてみたものである。時間が経つにつれて、温度が 0 に近 付いていくのがわかる。
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5
図 2.1: 初期条件 f =f1
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.01
図 2.2: t= 0.01
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.02
図 2.3: t= 0.02
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.03
図 2.4: t= 0.03
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.04
図 2.5: t= 0.04
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 Tmax = 0.3, interval = 0.01
図 2.6: ディリクレ条件, t= 0∼0.3, ∆t= 0.01
53蛇足: f(x) = 4 π2
X∞ k=1
(−1)k−1
(2k−1)2sin [(2k−1)πx] = 4 π2
sinπx
12 −sin 3πx
32 +sin 5πx 52 − · · ·
と展開できる。
2.12.2 (N-H-IBP) の解
次に同次ディリクレ境界条件の代りに、同次ノイマン境界条件を課した初期値境界値問題 (N-H-IBP) の解を図 2.7〜2.11に示す。確かに時間が経つにつれてu(·, t)は定数関数(値は初 期値が持っていた総熱量で決まる平均温度である 1/4) に収束して行く様子がわかる。
heat equation, Neumann B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5
図 2.7: t = 0
heat equation, Neumann B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.01
図 2.8: t= 0.01
heat equation, Neumann B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.02
図 2.9: t= 0.02
heat equation, Neumann B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.03
図 2.10: t = 0.04
heat equation, Neumann B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 t = 0.04
図 2.11: t = 0.05
heat equation, Neumann B.C.
theta=0, N=50, lambda=0.5 Tmax = 0.2, interval = 0.01
図 2.12: ノイマン条件, t = 0∼0.3, ∆t= 0.01
2.12.3 複雑な初期値に対する (H-IBP) の解
初期値 f が図2.13 のような、たくさんの
かど
角のあるグラフを持つ関数f2 の場合に初期値境 界値問題 (H-IBP) の解を図 2.13 〜 2.18 に示す。
角の消滅 角となっている点で f は微分できないので、n →+∞ のときのf の Fourier係数 の減衰はゆっくりである。しかし解の公式
u(x, t) = X∞ n=1
bne−n2π2tsinnπx, bn= 2 Z 1
0
f(x) sinnπx dx
を見ると、第 n 項には、時間に関係する因子 exp (−n2π2t)がかかっていて、これは t >0の とき、n の増加につれ急激に小さくなる。従って、初期条件 f =f2 が微分可能でなくとも、
少しでも時間が経過すると、u(·, t) は高い微分可能性をもつ (実は無限回微分可能になる) こ とが導かれる。
実際に、すでにt = 0.001 という早い段階で角が消滅していることがわかる。
凹凸の消滅 さらに時間が経過するにつれ、凹凸の激しいところほど急速に変形して消滅し、
グラフが平滑な形に近づくことが見てとれる。凹凸が激しい (変化が急)なところがあるのは、
大きな番号 n に対する sinnπx の項が大きな割合を占めているからであると推測できる。し かし n が大きいほど、時間に関係する因子 exp (−n2π2t) は、t の増加につれて速く小さくな る。そのため、凹凸の変化が激しいところほど早く消滅する、と考えられる。
漸近形 解の公式において、t が非常に大きくなると、 n = 2, 3, · · · の項は n = 1に対応す る項 b1exp(−π2t) sinπx に比べて無視できるほど小さくなることがわかる。すなわち t が大 きいところでは、
(2.12.2) u(x, t)≒b1e−π2tsinπx.
これはグラフでいうと、形がサイン・カーブの半周期分に近づくことを意味する。実際、図 2.18 ではそうなっている。