第 3 章 Laplace 方程式、 Poisson 方程式 137
3.2 例
以下、簡単な例に引き続き、数学と物理において、Poisson 方程式やLaplace 方程式の現れ る例を紹介する1。無理に内容を覚える必要はないが、Poisson 方程式や Laplace 方程式がい かに重要か、雰囲気だけでも納得してもらいたい。
3.2.1 1 変数関数
n= 1 すなわち 1 変数の場合は簡単である。まず 4= d2
dx2 に注意しよう。これから Poisson 方程式は
−u′′=f
に他ならず、u は f の原始関数の原始関数であることが分かる (従って、Dirichlet 境界値問 題は積分を用いて簡単に解くことができる。なお (2.9.1) も参照せよ。)。また、Laplace方程 式は
u′′ = 0
となるので、1変数の調和関数とは 1次関数に他ならないことが分かる。
3.2.2 r = | x | のみの関数である調和関数
C2 級の関数 f: (0,∞)→R を用いて
u(x) = f(r), r=|x| (x∈Rn\ {0}) と表される関数 u について、
∂u
∂xj =f′(r)rxj =f′(r)· xj
r = f′(r) r xj,
∂2u
∂x2j = rf′′(r)−1·f′(r)
r2 ·rxj·xj +f′(r)
r ·1 = rf′′(r)−f′(r) r2 · x2j
r +f′(r) r . ゆえに
4u= rf′′(r)−f′(r) r2 · r2
r +nf′(r)
r =f′′(r) + n−1 r f′(r).
そこで4u= 0 となるには
f′′(r) + n−1
r f′(r) = 0
1以前だったら、理系の学生は教養課程で、電磁気学や流体力学をみっちり勉強させられたはずで、数学の講 義でわざわざ詳しく言及する必要はなかったはずなのだが、最近はそうもいかないようである。普通の数学の本 にはあまり書いてないことかもしれないが、全く知らなくても構わないことだとは言えないと思う。
でなければならない。これを移項して整理すると f′′(r)
f′(r) = 1−n r となるから積分して
logf′(r) = (1−n) logr+C (C は任意定数).
ゆえに
f′(r) =C′r1−n (C′ は任意定数).
もう一度積分して
f(r) = (
C1r2−n+C2 (n 6= 2)
C1logr+C2 (n = 2) (C1, C2 は任意定数).
こうして
u(x) =
C1
|x|n−2 +C2 (n 6= 2) C1log|x|+C2 (n = 2)
(C1, C2 は任意定数).
3.2.3 複素関数論から
(複素関数論の復習になってしまうが、重要なので一通り説明する) 正則関数の実部、虚部 は調和関数である。実際、Ωが複素平面 C の領域で、f: Ω→C が正則な関数であるとする とき、
f(x+iy) =u(x, y) +iv(x, y), u(x, y), v(x, y)∈R
によって実数値関数 u と v を定めるとき(ただしi は虚数単位を表す)、次の(1), (2) が成り 立つことは良く知られている。
(1) u,v は次の Cauchy-Riemann 方程式(Cauchy-Riemann equations) を満たす: (3.2.1) ux =vy, uy =−vx.
(2) u,v は C∞ 級である。
これから
4u=4v = 0 であることが以下のようにして分かる。
4u=uxx+uyy = ∂
∂xux+ ∂
∂yuy = ∂
∂xvy + ∂
∂y(−vx) =vyx−vxy = 0, 4v =vxx+vyy = ∂
∂xvx+ ∂
∂yvy = ∂
∂x(−uy) + ∂
∂yux =−uyx+uxy = 0.
3.2.4 熱伝導現象の定常状態
要点: 前章で述べた「定常解への収束原理」は多次元空間においても成立する。Poisson 方 程式、Laplace 方程式は、熱伝導方程式の定常問題である。
Rn の領域 Ωにおける熱方程式の初期値境界値問題
wt(x, t) =4w(x) ((x, t)∈Ω×(0,∞)), w(x, t) =ψ(x) ((x, t)∈Γ×(0,∞)), w(x,0) =φ(x) (x∈Ω).
の解 w=w(x, t) は、t→ ∞ のとき、ある関数u=u(x) に収束する:
tlim→∞w(x, t) =u(x) (x∈Ω).
ここでu は以下の二つの条件から定まることが知られている: 0 =4u(x) (x∈Ω), u(x) =ψ(x) (x∈Γ).
つまり
Laplace 方程式は、定常版の熱方程式である
以上の議論で、最初の熱方程式の代わりに
wt(x, t) =4w(x, t) +f(x) という方程式を考えた場合は、
tlim→∞w(x, t) = u(x), ただし
0 =4u(x) +f(x) (x∈Ω), u(x) =ψ(x) (x∈Γ).
すなわち w は Poisson 方程式の解に収束する。
3.2.5 静電ポテンシャル
電磁気学の基礎方程式であるMaxwellの方程式(1.1.1) (p.18)で、電場と磁場が時間によっ て変化しない場合を考えると、電場と磁場に相互作用はなく、特に電場E⃗ についての方程式は
divE⃗ = ρ ε0, (3.2.2)
rotE⃗ =⃗0.
(3.2.3)
ここで ρ は電荷密度、ε0 は真空の誘電率2と呼ばれる正定数である。
(3.2.3) より、E⃗ はポテンシャルを持つ3。それを−ϕ と書こう:
E⃗ =−gradϕ.
この ϕ を電位または静電ポテンシャルと呼ぶ。
この式を(3.2.2) に代入すると
div(−gradϕ) = ρ ε0, すなわち
(3.2.4) − 4ϕ =f, f := ρ
ε0.
つまり静電ポテンシャルは Poisson 方程式の解である。特に電荷がない(ρ= 0 となっている) ところでは、静電ポテンシャルは Laplace 方程式4ϕ = 0 を満たす。
静電場と同様のことが重力場についても成り立つ。すなわち重力ポテンシャル(重力の位置 エネルギー)は、Poisson 方程式を満たす。
3.2.6 3 次元の流れの場
3次元の速度場⃗v =⃗v(x, y, z) =
u(x, y, z) v(x, y, z) w(x, y, z)
について、
⃗
ω:= rot⃗v =∇ ×⃗v =
wy −vz uz−wx
vx−uy
を
う ず ど
渦度(vorticity) と呼ぶ。渦度が至るところ⃗0 である流れを渦無しであるという:
流れが渦無し ⇐⇒ rot⃗v = 0.
静電ポテンシャルの場合と同様に、ベクトル解析で良く知られた定理から、(少なくとも局 所的には4)⃗v のポテンシャル φ が存在する:
⃗
v = gradφ.
2ちなみにε0= 107
4πc2 ≒8.85×10−12F/m,c=真空中の光速度= 299,792,458 m/s. なお、クーロンの法則 に現われる比例定数 kとは、k= 1
4πε0 という関係にある(だからk=c2/107)。
3「単連結領域でrotf⃗= 0を満たすベクトル場f⃗はポテンシャルを持つ。すなわち、f⃗= gradU を満たす 関数U が存在する。」—ベクトル解析の常識。
4ここの議論では、⃗v の定義域を書いていないが、例えば単連結な領域であれば、領域全体でポテンシャルが 存在する。そうでない場合は、注目している点aの単連結な近傍、例えばε近傍B(a;ε)においてポテンシャル が存在する。
速度場にポテンシャルが存在する流れのことをポテンシャル流 (potential flow) と呼び、
そのポテンシャルを速度ポテンシャルという。
一方、非圧縮流ならば、
div⃗v = 0 が成り立つ。
ゆえに、渦無しの非圧縮流については
div gradφ = div⃗v = 0, すなわち
4φ= 0 が成り立つ。つまり
渦無しの非圧縮流はポテンシャル流で、速度ポテンシャルは調和関数である 注意 3.2.1 (2次元の場合) 2 次元の速度場⃗v =⃗v(x, y) = u(x, y)
v(x, y)
!
についても、渦度を
ω= rot⃗v := det
∂
∂x u
∂
∂y v
!
= ∂v
∂x − ∂u
∂y
と定義すれば、同様の議論が成立する5。さらに、2 次元の非圧縮流については div⃗v = 0 ⇔rot −v
u
!
= 0
!
から、
gradψ = −v u
!
すなわち
∂ψ
∂y =u,
−∂ψ
∂x =v
を満たす関数 ψ が存在することが分かる。このψ をベクトル場⃗v の流れ関数 (stream func-tion) と呼ぶ6。このとき
4ψ = ∂
∂xψx+ ∂
∂yψy = ∂
∂xv+ ∂
∂y(−u) = rot⃗v =⃗ω.
5⃗v(x, y, z) = (u(x, y, z), v(x, y, z), w(x, y, z))が 2 次元流であるとは、(i)w≡0 (ii)uと v はz に依存しな い、が成り立つことを言う。このとき rot⃗v=
0,0,∂v∂x−∂u∂y
が成り立つ。
6流れ関数の等高線がいわゆる流線(stream line)である。「流線形」という言葉は聞いたことがあるだろう。
ゆえに渦無しの非圧縮流の流れ関数も調和関数である。実はこの場合、ψ は φ の共役調和関 数なので7、
f(x+iy) :=φ(x, y) +iψ(x, y) (i は虚数単位) とおくと、f は正則関数になる。この f を複素速度ポテンシャルと呼ぶ。
ある意味で、2次元の渦無しの非圧縮流の理論は、1 変数複素関数論そのものであると言え る。このあたりのことは今井 [8] で明快に説明されている8。この本は複素関数論の副読本と して大いに勧められる (個々の正則関数に「流れのイメージ」を持つことが出来る)。