第 3 章 Laplace 方程式、 Poisson 方程式 137
B.2 厳選定理集
B.2.1 合成関数の微分法
次の定理は多変数の微分積分学を扱うすべての本に載っているはずである。
定理 B.2.1 (面倒なので仮定は省略)
(g◦f)′(a) = g′(b)f′(a), b =f(a).
あるいは
∂zi
∂xj = Xm k=1
∂zi
∂yk
∂yk
∂xj.
この定理は式を覚えるのは簡単だが、実際に習得して使いこなすのにはそれなりの練習が 必要である(波動方程式の章の計算を追うのは良い練習になるので、この機会に頑張ってくだ さい)。
問 (平面極座標による Laplacian 表示)R2 において、
4u= ∂2u
∂r2 + 1 r
∂u
∂r + 1 r2
∂2u
∂θ2 であることを示せ。
B.2.2 コンパクト集合の常識
この講義で直接必要になるのは定理B.2.4だけであるが、そのもととなる二つの定理(ここ では補題としておく)も忘れてはならない。
証明は例えば杉浦[36] の §1.7「コンパクト集合」を見よ(定理 B.2.4の証明だけならば大抵 の微分積分学のテキストにある)。
補題 B.2.2 (Rn のコンパクト部分集合) Rn の部分集合A について、A がコンパクトで あるための必要十分条件は、A が有界閉集合であることである。
補題 B.2.3 (コンパクト集合上の実数値連続関数は最大値・最小値を持つ) 連続関数によ るコンパクト集合の像はコンパクト集合である。特に空でないコンパクト集合上の実数値 連続関数は最大値と最小値を持つ。
定理 B.2.4 K を Rn の空でない有界閉集合、f: K →R を連続関数とするとき、f は K の上で最大値と最小値を取る。
B.2.3 2 階導関数と極値問題
次の定理も多くの微分積分学のテキストにある。例えば杉浦[36]定理 8.4 など。
定理 B.2.5 (2階導関数による極値の判定) Rn の開集合 Ωで定義された C2 級の実数値 関数f: Ω→R が、a∈Ω で
f′(a) = 0, Hesse 行列
∂2f
∂xi∂xj(a)
は正定値
を満たすならば、f は a で狭義の極小値を取る。つまり十分小さな正数 δ を取ると、
f(a)< f(x) (0<kx−ak< δ, x∈Ω).
B.2.4 積分記号下の微分、微分と積分の順序交換
等式
d dt
Z
A
f(t, x)dx= Z
A
∂f
∂t(t, x)dx
が成り立つことを、「積分記号下の微分が出来る」とか「微分と積分の順序交換ができる」など と言う。色々なもの (微分方程式の解など)を積分表示するので、頻繁に利用することになる。
以下に一番単純な場合を紹介しておくが、これ以外に
1. ルベーグ積分の収束定理 (項別積分定理) の系として得られる場合2 2. 広義積分で一様収束の議論で得られる場合3
がある (いずれも伊藤[5] にある4。なお杉浦 [36] IV.14も参考になる。)。
定理 B.2.6 (積分記号下の微分、微分と積分の順序交換) A を Rn のコンパクト集合, I を Rの区間として、K =A×I とおき、f: K →Cは連続とするとき、次の (1), (2) が 成り立つ。
(1) F(t) :=
Z
A
f(x, t)dx (t ∈I) はI で定義された連続関数となる。
(2) ∂f
∂t が K で連続ならば、F は I 上 C1 級で、F′(t) =R
A
∂f
∂t(t, x)dx.
(例えば杉浦 [36] 定理14.1 を見よ。)
2大学院の入試問題の種になったりする。
3これは実はルベーグの収束定理の守備範囲外である。
4楽屋裏から: この講義では、無限領域での微分方程式はほとんど取り扱っていない。Fourier 級数は大いに 利用するが、Fourier変換はあまり使わない。その理由は無限領域の問題に必要なテクニックは一段高度になり (例えばこの積分記号下の微分も積分範囲がコンパクトでないと難しくなるわけである)、学習に負荷がかかると 考えたためである。
B.2.5 一様収束
解析関係のあちこちで出て来たが、復習には微分積分学の教科書、例えば杉浦[36]を勧める。
一様収束の判定法としては、次の定理が良く使われる。
定理 B.2.7 (Weierstrass の M test, 優収束定理) 空でない集合Aを定義域とする複素 数値の関数列{fn}n∈N に対して、
|fn(x)| ≤Mn (x∈A, n∈N), X∞
n=1
Mn<∞ を満たす数列 {Mn}n∈N が存在するならば、関数項級数
X∞ n=1
fn は A で一様に絶対収束 する。
(例えば、杉浦 [36] の定理 13.5)
定理 B.2.8 (一様収束ならば項別積分可能) 測度有限の可測集合 A 上定義された可積分 な関数からなる関数列{fn}n∈N がA 上一様収束するならば、
nlim→∞
Z
A
fn(x)dx= Z
A
nlim→∞fn(x)dx.
(例えば、杉浦 [36] の定理 13.6)
定理 B.2.9 (形式的に項別微分した関数列が一様収束するならば項別微分可能) R の 有 界閉区間I = [a, b]上定義されたC1 級の関数からなる関数列 {fn}n∈N が、条件
(i) 任意の x∈I に対して lim
n→∞fn(x) = f(x) が存在する。
(ii) 導関数からなる関数列{fn′} は I 上一様にある関数 g に収束する。
を満たすならば、f は I で C1 級でf′ =g.
(例えば、杉浦 [36] の定理 13.7)
積分と違って微分は局所的な演算だから、定理 B.2.9 の仮定 (ii) における「一様収束」は
「広義一様収束」に置き換えてもよい。
B.2.6 3 次元ベクトル解析から
定理 B.2.10 (Gauss の発散定理) C1 級の境界∂Ω を持つRn の有界領域Ωと、Ω 上の C1 級ベクトル場 f⃗: Ω→Rn に対して、
Z
Ω
divf⃗(x)dx= Z
∂Ω
f⃗·⃗n dσ.
ただし、dσ は ∂Ωの面積要素、⃗n は ∂Ω 上の点におけるΩの外向き単位法線ベクトルを 表わす。
(例えば杉浦 [37] の定理 5.3 を見よ (n = 3 として説明してあるが、何次元でも同じである)。
「C1 級の境界を持つ」や「閉集合上での C1 級関数」の意味の説明は、ここでは省略する。)
定理 B.2.11 (渦無しベクトル場はポテンシャルを持つ) Ω を R3 内 の 単 連 結 領 域 、 f⃗: Ω→R3 を C1 級のベクトル場とするとき、次の (i), (ii) は互いに同値である。
(i) f⃗はポテンシャルを持つ。すなわちf⃗= gradφ を満たすC2 級の関数φが存在する。
(ii) f⃗は渦無しである。すなわち Ω 内の至るところで rotf⃗=⃗0 が成り立つ。
(例えば杉浦 [37]の定理 6.4 を見よ。)
余談 B.2.1 (ベクトル解析の勉強) 筆者自身は、最初は電磁気学の中で古典的な 3 次元ベク トル解析として学び(参考書は『ファインマン物理学』[57] だった)、数学の中で微分形式を 用いた外微分法として再度5学び直すことになった。二度手間であるようだが、どちらか一方 だけで済ませようとするのは無理があると思う6。最近、物理を履修していない数学科の学生 が増えつつあるのは正直困っている(履修しなくて済むようになってしまっているわけだが…
実は数学のカリキュラムは self-contained ではなかったということか)。電磁気学の説明をす る数学書が増えたのも7「なるほど」と思う。
B.2.7 Fourier 級数
周期2π の関数 f: R→C に対して、
an= 1 π
Z π
−π
f(x) cosnx dx, bn = 1 π
Z π
−π
f(x) sinnx dx で定義される {an}n≥0, {bn}n≥1 を f のFourier 係数、
a0 2 +
X∞ n=1
(ancosnx+bnsinnx)
5実は解析と幾何で合計二回。
6杉浦[36], [37]では、3次元ベクトル解析として説明してあり、それを採用した理由を述べてある。出版され
た当時、私の周りでは「そういう書き方にしたんだ(外微分法にしなかったんだ)」とやや残念がる人が多かった が、今では私は杉浦先生に賛成である。
7深谷賢治,電磁場とベクトル解析,岩波講座 現代数学への入門,岩波書店(1995)や落合卓四郎・高橋勝雄,多 変数の初等解析入門,東京大学出版会(2002) など。
を f の Fourier 級数と呼ぶ。
多くの場合に、Fourier係数はもとの関数を再生する(一意的に決定する)のに十分な情報を 持つ8。以下に紹介する簡単な場合には、Fourier級数が通常の意味で収束し、和は f(x)その ものに等しい。
定理 B.2.12 (連続区分的に C1 級関数の Fourier 級数の収束) f:R→C は周期2π の 周期関数で、連続かつ区分的にC1 級とするならば、
(B.2.1) f(x) = a0 2 +
X∞ n=1
(ancosnx+bnsinnx) (右辺は R 上一様絶対収束).
ただし{an}n≥0, {bn}n≥1 は次式で定義される数列である: an:= 1
π Z π
−π
f(x) cosnx dx, bn := 1 π
Z π
−π
f(x) sinnx dx.
この定理の証明は、高木 [42] 『解析概論』, 藤田[61],あるいは大抵の Fourier 解析のテキ ストに載っている。これを認めれば、以下の系は簡単な計算で導出できる。
系 B.2.13 (偶関数、奇関数の Fourier 級数展開) 上の定理B.2.12 の仮定に加えて、
(1) (Fourier余弦展開) f が偶関数である場合は、
f(x) = a0 2 +
X∞ n=1
ancosnx (右辺は R 上一様絶対収束), an= 2 π
Z π
0
f(x) cosnx dx.
(2) (Fourier正弦展開) f が奇関数である場合は、
f(x) = X∞ n=1
bnsinnx (右辺は R 上一様絶対収束), bn = 2 π
Z π
0
f(x) sinnx dx.
任意の周期関数は簡単な変数変換で周期2π の周期関数に変換されるので、任意の周期関数
が cos, sin で展開されることになる。例えば f が周期 T の周期関数である場合は
f(x) = a0
2 + X∞ n=1
ancos2nπx
T +bnsin2nπx T
,
an:= 2 T
Z T /2
−T /2
f(x) cos2nπx
T dx, bn := 2 T
Z T /2
−T /2
f(x) sin2nπx T dx となる。
関数が有限区間で定義されている場合、適当な方法で周期関数としてR 全体に拡張できる ので、やはり cos, sinで表現できる。この「微分方程式2」では次の形で利用することが多い。
8分かりづらい表現かも知れないので少し補足する。通常の意味では収束しなくても、和の取り方や (色々な
「総和法」がある)、位相を変える(例えばHilbert空間L2や、超関数の導入が有名)ことで元の関数に収束させ られることが多い。普通の意味ではFourier級数は元の関数に等しくならなくても、元の関数の情報はもれなく 保存している、と言えるであろう。