第 3 章 Laplace 方程式、 Poisson 方程式 137
3.5 調和関数の積分表示、 Laplace 作用素の基本解 , Gauss の球面平均定理
3.5.7 おまけ : デルタ関数と基本解
以下のやりとりは半分は架空、半分は実話(実際にあった話を脚色した、ということ)。 甲 「超関数論と言っても、ちょっと聞いたことがあるくらいで、よく知らないのですが。」
乙 「関数を拡張した概念で、微積分が自由にできるように考えられたもの、とかいうけれど、んー、
短くうまく説明できる自信がないですね…Dirac のデルタ関数は知っているのかな?」
甲 「ええと、原点だけでピョコッと尖っているグラフを見た覚えが…それで δ(0) = +∞, δ(x) = 0 (x6= 0)
というような性質を持つとか聞いた覚えがあります。」
乙 「まあそうだけど、その式だけではデルタ関数を捉えきれてないね。できれば Z ∞
−∞f(x)δ(x)dx=f(0) (f は任意の連続関数) と言って欲しいな。じゃなかったら、せめて δ(0) = +∞ に換えて
Z ∞
−∞δ(x)dx= 1
を覚えてもらいたい。積分すると 2とか 3 ではなく、ぴたり1となる程度の無限大だというこ とだね。」
甲 「はあ。で、これが超関数とどういう関係があるんでしょう?」
乙 「ああ、デルタ関数は普通の関数じゃないんだよ。」 甲 「無限大なんて値を取るからですか?」
乙 「うーん、どちらかと言うとハズレ。Lebesgue 積分論などで、無限大という値を取る関数を認 めたりするけど、デルタ関数はそういうような関数の仲間にもなれない。」
甲 「どこがまずいんでしょ。」
乙 「積分の勉強をしたとき『一点の測度は0 だから、一点での関数の値を変えても、積分の値には 影響がない』とか聞いたことありませんか?」(そういえば自分が教えたときに、ちゃんとそう 説明したっけ? )
甲 「そう言えばそんな気もします」(覚えはないがこう言っておこう。)
乙 「そうでしょ。すると、デルタ関数はx= 0 をのぞいて、値は 0なのだから、その積分は定数 関数 0 の積分つまり 0と変わらないはずなわけ。
Z ∞
−∞D(x)dx= Z ∞
−∞0dx= 0 (D は原点以外では 0であるような任意の関数) この式の Dにデルタ関数 δ を代入すると矛盾するでしょ。」
甲 「じゃデルタ関数は存在しない。」
乙 「そう。積分論が展開できるようなまともな関数にはならない。だから超関数。(強引な説明だ が、まあ、いいだろう。)」
甲 「そんなものがどうして役に立つのでしょう?」
乙 「ええと、そうねえ…数学的な説明としてはデルタ関数は
た た み こ み
畳み込みの単位元であるという性質が ある。」
甲 「畳み込みって何でしたっけ?」
乙 「Fourier 解析で習ったはずだから知ってるはずだけど。関数f,g に対して、
h(x) = Z ∞
−∞f(x−y)g(y)dy
で定義される h をf とg の畳み込みと言って、f∗g と書く、というやつ。畳み込みでなくて 合成積と習ったかも知れない。この式の g のところにデルタ関数を強引に代入してみると?」
甲 「???」
乙 「デルタ関数の特徴づけ(積分の変数を y に書き換えておく) Z ∞
−∞f(y)δ(y)dy=f(0) (f は任意の連続関数) のf(y) の代わりにf(x−y) になっているので、
f∗δ(x) = “関数 f(x−y) のy= 0 での値” =f(x).
だから f∗δ =f.」
甲 「はあ。まだご利益がわかりません。」
乙 「例えば− 4 の基本解 E というのは、− 4E =δ を満たすということをノートの本文に書い ておいたけど、それから
u(x) = Z ∞
−∞E(x−y)f(y)dy (これは E と f の畳み込みE∗f に他ならない) で定義される u が− 4u=f を満たすことが次のように理解できるようになる。
− 4u=− 4(E∗f) = (− 4E)∗f =δ∗f =f.
ここで ∂
∂xj
(f ∗g) = ∂f
∂xj ∗g という公式も使わせてもらったけど。」
甲 「何か強力そうなのは分りました。後で考えてみます。」
乙 「デルタ関数は元々は物理学者が考えたくらいで、物理的な説明というのも難しくはないけど、
やってみようか?」
甲 「物理はあまり…」
乙 「あまり気嫌いしないで。例えば電磁気学的にデルタ関数は点電荷として解釈できる。」
甲 「は? それはずいぶん簡潔な説明ですね。(それじゃわからないよ。)」
乙 「力学でも『質点』とか考えるけど、体積を持たない点が正の質量とか電荷を持つのって、よく 考えてみると凄い理想化だと思わない? 密度(電荷量/体積) は無限大になるでしょ?」
甲 「ああ、そういうことですか。本当はとても小さな体積に電荷が分布しているけれど、体積を0 にした極限を考える(理想化) ということですね。」
乙 「そうそう。つまり Z ∞
−∞δ(x)dx= 1 は電荷の量は 1. それで
δ(x) = 0 (x6= 0)
は電荷が原点一点だけに集中している、ということ。そうか、単に点電荷と言うよりも、
デルタ関数は、電荷量 1 の点電荷 (単位点電荷) の電荷密度の数学的表現 と言った方が正確だな。」
甲 「まあデルタ関数の式のイメージはつきました。」
乙 「静電場の説明をしてあるところで、電荷密度ρ で電荷が分布しているとき、それが作る電場の 静電ポテンシャル (静電位) ϕは
− 4ϕ=ρ
を満たすというのを説明したけど18、これを− 4 の基本解の条件
− 4E =δ と見比べると、(δ は単位点電荷の電荷密度なのだから)
基本解 E は単位点電荷の作る電場の静電ポテンシャルである
ということになります。基本解の『基本』のニュアンスが伝わるでしょう。」 甲 「ははあ。」
乙 「単位点電荷の影響『基本解』が分れば、任意の電荷の影響は数学的にすべて分る、とまとめら れるかな。」
18ノートには誘電率ε0 という比例定数が書いてあるけど、単位を適当に取り替えてε0= 1にしたと考えてく ださい。