第 2 章 熱方程式 57
2.6 Fourier の方法で解を求める (1) 解の形式的な導出
2.6.1 第 1 ステップ : 変数分離解を探せ
まず(IC) は無視して、(HE), (DBC) の変数分離解、すなわちu(x, t) = ζ(x)η(t) の形をし
た (HE), (DBC) の解を求めることを目標にする。
計算に入る前に、定数関数 0 は条件を満たすことを注意しておく。これは自明解であるか ら、以下ではそれ以外のものを求めることにしよう26。
u(x, t) =ζ(x)η(t) を (DBC) に代入すると
ζ(0)η(t) = ζ(1)η(t) = 0 (∀t >0).
21NHK放送50周年記念番組をまとめた「未来への遺産1」,学研(1974)から引用した。数学者でもあった、
というような書き方でちょっと愉快である。なお、様々な数学者のエピソードを集めてあるベル[69] (これは楽 しい読み物である)にもFourierの話が載っている。
22波動方程式の場合には、変数分離解は固有振動を表すので、意味が分かりやすい。
23そもそも sinやcosのような解析関数は、これ以上ないというくらい滑らかな関数であるのに、それらを項 に持つ級数で、微分不可能な関数はおろか、不連続な関数まで表示できるというのは、実に大胆な主張である。
巾級数が解析関数しか表現できないのとは対照的である。
24後になって分かったように、Fourier級数が収束しない連続関数も存在するので、関数の範囲の制限や収束 の意味づけについて考える必要がある。しかし、当時は関数概念すら現在のようには定まっていなかった時代だ から、Fourierがきちんと定理を述べるのは不可能であったと言えよう。
25大抵の人は、Carleson-Huntの概収束定理(1966, 1968)「p >1なる実数pに対してf ∈Lp ならば、f の
Fourier級数はほとんど至るところf に収束する」でカタがついたと思っている。もっとも、現代の数学は、ま
だ Fourierの主張 (思想?) を汲み取っていない(もっと奥が深いのだ)、という人もいるようである。
26以下の計算のあちらこちらで定数関数0が出て来る。これは確かに解であるが、一々それを相手にすると面 倒なので、最初に注意しておいた。
これから
(2.6.1) ζ(0) =ζ(1) = 0
が得られる。実際、もしもそうでなければ
η(t) = 0 (∀t >0)
となり、u(x, t) = ζ(x)η(t)≡ 0 が得られるが、これは定数関数0 以外のものを求めるという
目標に反する。
次にu(x, t) =ζ(x)η(t) を (HE) に代入すると
ζ(x)η′(t) =ζ′′(x)η(t).
これから
η′(t)
η(t) = ζ′′(x) ζ(x).
この式の値は、左辺を見れば x によらず、右辺を見ればt によらない、したがって、xにも t にもよらない定数であることが分かる。それを λ とおく:
(2.6.2) η′(t)
η(t) = ζ′′(x) ζ(x) =λ.
これから
ζ′′(x) = λζ(x), (2.6.3)
η′(t) = λη(t) (2.6.4)
が得られる。(2.6.3) は定数係数線形常微分方程式であるから、特性根の方法で解ける。特性 根を s と書くことにすれば、(2.6.3) の特性方程式は
s2 =λ であるから、特性根は s=±√
λ.
(i) λ= 0 の場合、特性根は s= 0 (重根) となり、(2.6.3)の一般解は ζ(x) = Ax+B (A, B は任意定数).
定数 A, B を (2.6.1) が成り立つように定めるとA=B = 0. これから ζ(x)≡0となり、
不適である。
(ii) λ6= 0 の場合、(2.6.3) の一般解は ζ(x) = Ae
√λx+Be−
√λx (A, B は任意定数).
定数A, B を (2.6.1) が成り立つように定める。
ζ(0) =ζ(1) = 0⇔A+B = 0 and Ae
√λ
+Be−
√λ
= 0
⇔B =−A and A(e
√λ−e−
√λ
) = 0.
もしも A = 0 ならば B = 0 となり ζ(x)≡ 0 が導かれ不適である。ゆえに A 6= 0 とす るとe√λ−e−√λ = 0, すなわち
(2.6.5) e2
√λ = 1.
したがって (後述のよく知られた補題により)、
∃n∈Z s.t. 2√
λ = 2nπi, i=√
−1.
ゆえに √
λ =nπi, λ=−n2π2. 対応する ζ は
ζ(x) = A(enπix−e−nπix) = 2iAsinnπx.
ここで A は任意定数であるので、n と −n が同じ ζ, λ を与えること、それから λ 6= 0 に注意すると(0 や負の整数は捨ててしまって)、n は N 全体を動くとして構わない。
一方η については、
η(t) = Ceλt (C は任意定数).
こうして (HE), (DBC) の変数分離解として
u(x, t) =ζ(x)η(t) = cnun(x, t), un(x, t) :=e−n2π2tsinnπx (cn は任意定数,n ∈N) が得られた(cn= 2iAC であるが、A,C とも任意定数だったので、cnも任意定数である)。こ の結果に任意定数が入っているのは、(HE), (DBC)が線形同次方程式だからであり27、この定 数は他の条件がないと定まらない。
(2.6.5) を解くのに使った補題を説明しておこう。
補題 2.6.1 C上の方程式 ez = 1 の解は z = 2nπi (n∈Z). ただし i は虚数単位である。
注意 2.6.2 この補題2.6.1 は,複素対数の定義をするための次の命題の特別の場合とも考えら
れる。
∀z ∈C, ∀r >0,∀θ ∈R に対して,
expz =reiθ ⇔ ∃n ∈Z s.t. z = logr+i(θ+ 2nπi).
(ただし logr は実関数としての対数関数を表すとする。すなわち ex =r を満たす unique な x∈R のことを logr と書く。)
証明 z =x+iy (x, y∈R) とすると、
ez =exeiy =ex(cosy+isiny)
27線形同次という言葉の意味は(線形代数などで学んでいるはずであるが念のため)後述する。
であるが、|ez|=ex であることに注意すると、
ez = 1⇔ex = 1 and cosy+isiny= 1
⇔x= 0 and ∃n∈Z s.t. y= 2nπ
⇔ ∃n ∈Z s.t. z = 2nπi.
注意 2.6.3 ((2.6.2) の分母= 0 が気になる人へ) 上の議論で、
(2.6.6) η′(t)ζ(x) =η(t)ζ′′(x) ((x, t)∈(0,1)×(0,∞)) を
η′(t)
η(t) = ζ′′(x) ζ(x)
と変形して議論しているが (こうするのが普通のテキストの相場である)、分母が 0 になると ころではどうするか、ちょっと気になるところである28。実は次の命題が成立するので、すっ きり解決する29。
命題 2.6.4 (たすき掛けが等しければ比例している) 空でない集合 A, B とその上で定義 された複素数値関数ζ1, ζ2: A→C, η1, η2: B →C が条件
ζ1(x)η1(t)6≡0,
(2.6.7) ζ2(x)η1(t) =ζ1(x)η2(t) ((x, t)∈A×B) を満たすならば
∃λ∈C s.t. ζ2(x) =λζ1(x) (x∈A) かつ η2(t) =λη1(t) (t ∈B).
証明
恒等的に0 でないという仮定から
∃x0 ∈A ∃t0 ∈B s.t. ζ1(x0)η1(t0)6= 0.
(2.6.7) に x=x0,t =t0を代入して、ζ1(x0)6= 0, η1(t0)6= 0 に注意すると ζ2(x0)
ζ1(x0) = η2(t0) η1(t0).
28時々、期末試験の答案の中で、分母が0 にならないことを「証明してしまって」いる人がいるが、この議論 の後で出て来る結果(ζ(x) =Csinnπx,n∈N)を見ると、それは成り立たないことが分かる(もちろん「証明」
は間違いである)。
29まあ、あまりうるさいことを言わない方が良いのかもしれない…
この等式の値を λ とおく。(2.6.7) に x=x0 を代入して整理すると η2(t) = ζ2(x0)
ζ1(x0)η1(t) =λη1(t) (t ∈B).
同様に (2.6.7) に t=t0 を代入して整理すると ζ2(x) = η2(t0)
η1(t0)ζ1(x) =λζ1(x) (x∈A).
この命題は、筆者が自力で発見したのだが、後になって、ほぼ同様のことが、ペトロフス キー [68] 第2章 §21 に書いてあるのを発見した。この本には、その他にも、類書には見られ ない、ていねいな議論が載っていて (名著とされているので、こう言っては失礼かもしれない が)非常に感心した。
問 未知関数がベクトル値関数である場合も「割り算」は問題となる。恒等的に 0 ではない 関数 u(x, t) =ζ(x)η(t)が
∂u
∂t =Lu
という微分方程式を満たしている場合はどうなるか調べよ(L は x についての微分作用素, ζ はベクトル値関数, η はスカラー値関数とする)。