第 2 章 熱方程式 57
2.13 エネルギーを用いた議論
を見ると、第 n 項には、時間に関係する因子 exp (−n2π2t)がかかっていて、これは t >0の とき、n の増加につれ急激に小さくなる。従って、初期条件 f =f2 が微分可能でなくとも、
少しでも時間が経過すると、u(·, t) は高い微分可能性をもつ (実は無限回微分可能になる) こ とが導かれる。
実際に、すでにt = 0.001 という早い段階で角が消滅していることがわかる。
凹凸の消滅 さらに時間が経過するにつれ、凹凸の激しいところほど急速に変形して消滅し、
グラフが平滑な形に近づくことが見てとれる。凹凸が激しい (変化が急)なところがあるのは、
大きな番号 n に対する sinnπx の項が大きな割合を占めているからであると推測できる。し かし n が大きいほど、時間に関係する因子 exp (−n2π2t) は、t の増加につれて速く小さくな る。そのため、凹凸の変化が激しいところほど早く消滅する、と考えられる。
漸近形 解の公式において、t が非常に大きくなると、 n = 2, 3, · · · の項は n = 1に対応す る項 b1exp(−π2t) sinπx に比べて無視できるほど小さくなることがわかる。すなわち t が大 きいところでは、
(2.12.2) u(x, t)≒b1e−π2tsinπx.
これはグラフでいうと、形がサイン・カーブの半周期分に近づくことを意味する。実際、図 2.18 ではそうなっている。
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=100, lambda=0.25
図 2.13: t= 0
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=100, lambda=0.25 t = 0.001
図 2.14: t= 0.001
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=100, lambda=0.25 t = 0.002
図 2.15: t= 0.002
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=100, lambda=0.25 t = 0.003
図 2.16: t= 0.003
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=100, lambda=0.25 t = 0.004
図 2.17: t= 0.004
heat equation, Dirichlet B.C.
theta=0, N=100, lambda=0.25 Tmax = 0.2, interval = 0.01
図 2.18: t = 0 ∼ 0.2,∆t = 0.01
また
J(0) = Z 1
0
u(x,0)dx= Z 1
0
f(x)dx であるから、
J(t) = J(0) + (B−A)t = Z 1
0
f(x)dx+ (B−A)t (t∈[0,∞)).
これから次のことが分かる。
• A=B のとき、J(t)は定数 Z 1
0
f(x)dx に等しい。物理的には、針金の左端から流入す る熱量と、右端から流出する熱量が等しい場合は、針金の総熱量(平均温度)は不変であ る(ゆえに初期時刻におけるそれと等しい)、と解釈できる。
• A > B のときは、J(t)は減少関数でいくらでも小さくなり、A < B のときは、J(t)は 増加関数でいくらでも大きくなる。特に A6=B のとき、定常解は存在しない。
2.13.2 Dirichlet 問題 , Neumann 問題の解の一意性の別証明
t∈[0,∞) に対して
E(t) := 1 2
Z 1 0
u(x, t)2dx
とおく。これは物理的には特に意味がないようであるが、以下に見るように役に立つ補助関数 である。
uが以下の二つの境界条件のいずれかを満たすと仮定する。
u(0, t) = u(1, t) = 0 (t ∈(0,∞)) (DBC)
ux(0, t) = ux(1, t) = 0 (t∈(0,∞)).
(BBC)
このとき、実は初期条件 f ≡ 0であれば E(t)≡0, 従って u≡0 であることが以下のように して証明できる。
まずt >0 とすると E′(t) =
Z 1 0
ut(x, t)u(x, t)dx= Z 1
0
uxx(x, t)u(x, t)dx
= [ux(x, t)u(x, t)]x=1x=0− Z 1
0
ux(x, t)ux(x, t)dx
=− Z 1
0
ux(x, t)2dx≤0.
さらに
E(0) = 1 2
Z 1
0
u(x,0)2dx= 1 2
Z 1
0
02dx= 0 であるから
E(t)≤E(0) = 0 (t∈[0,∞)).
ところが明らかに
E(t) = 1 2
Z 1 0
u(x, t)2dx≥0 であるから、
E(t) = 0 (t ∈[0,∞)).
このことから、初期値と、Dirichlet境界値またはNeumann境界値が等しい(すなわち u(0, t) = A, u(1, t) = B (t ∈(0,∞)),
あるいは
ux(0, t) =A, ux(1, t) = B (t∈(0,∞))
という境界条件を課す)ならば、解はただ一つに限る、すなわち解の一意性が成り立つことが 分かる。
注意 2.13.1 我々のもともとの (H-IBP) の古典解の定義では、ut(x, t), ux(x, t), uxx(x, t) は
x= 0, 1 に対して存在するとは限らないのであったから、以前と同じ一意性定理(系 2.4.4)が
証明できたわけではない。古典解の条件を少し強めたので、結果として得られる一意性定理は 少し弱くなったと言える。しかし、上の議論は見通しが良いし、同じやり方で Neumann境界 条件の場合も扱えることは大きな魅力と言える。
余談 2.13.1 (多次元への一般化) この節の議論は、解の公式を用いていない。そのため、容 易に多次元の一般領域での熱方程式の初期値境界値問題に拡張される。興味のある人はやっ てみると良い.そのためには、Green の公式(定理3.5.3)が役立つ。