第 2 章 熱方程式 57
2.15 この後の熱方程式の勉強
とおくと、
vt(x, t) =vxx(x, t) + (2A+p)vx(x, t) + (A2+pA)v(x, t) (x∈(0,1), t∈(0,∞)),
v(0, t) = v(1, t) = 0 (t∈(0,∞)),
v(x,0) =e−Axf(x) (x∈[0,1])
ゆえに A=−p/2 と選べば
vt(x, t) =vxx(x, t)−p2 4v(x, t) となる。上の例から
v(x, t) = X∞ n=1
bne(−p2/4−n2π2)tsinnπx, bn= 2 Z 1
0
epx/2f(x) sinnπx dx (n ∈N).
ゆえに
u(x, t) = e−px/2v(x, t) =e−px/2 X∞ n=1
bne(−p2/4−n2π2)tsinnπx.
上の例の問題はかなり難しい。その理由は、これは対称な問題ではないからである。固有関 数を求めてみると分かるが、普通の内積について直交性は成り立たない。だから直接 Fourier の方法を使うのは苦労する。
練習問題 熱方程式の初期値境界値問題(H-IBP) において、初期値が 1/2に関して対称であ る (初期温度分布が左右対称である)場合、任意の時刻 t において、解u(·, t)は 1/2に関して 対称であることを示せ。
(ヒント: 例えばf が 1/2 に関して対称であるとは
f(1−x) =f(x) (x∈[0,1]) と書ける。そこで
v(x, t) =u(1−x, t)
をおいて、v がどういう初期値境界値問題の解になっているかを考えると…)
(1) 有界開区間 (a, b). 変数変換で (0,1) の場合に帰着できる。— この場合についてこの講義 で学んだわけである。
(2) 数直線R= (−∞,∞).
(3) 半無限開区間(a,∞) or (−∞, b) (a, b ∈R). いずれも変数変換で (0,∞) の場合に帰着で きる。
(2), (3)の場合については、例えば藤田他[59] に詳しい説明がある (お勧め)。 例えば(2) における熱方程式の問題は、境界条件がなくなって
ut(x, t) =uxx(x, t) (x∈R, t >0), u(x,0) =f(x) (x∈R)
という形になるが、このように微分方程式以外に初期条件だけでできている問題を初期値問題 (initial value problem)または Cauchy 問題(Cauchy problem) と呼ぶ。
解の一意性 古典解の一意性はやはり最大値原理を用いて証明するのだが、一意性を得るため には、解について自明でない条件を課す必要がある。つまり初期条件が単に連続というだけで は解の一意性が成り立たない例がある。この反例については、ケルナー[27] または熊ノ郷[24]
を見るのを勧める。
ケルナーからの引用
ここでわれわれが得た新しい解は、無限遠からの爆発的な熱の流入を表わしており、少し考えれ ば、この現象は熱の伝播速度に上限がないために起こっていることがわかる。したがって、どんな 遠方の撹乱でもそれが十分大きければ、原点の温度を素早く変えてしまう。例67.4のような解は、
もし波動方程式のように撹乱の伝わる速さが有限であれば生じることはなく、また、熱方程式でも 無限遠での増大度を制限すれば排除することができる。
解の存在 — 熱核を用いた解の表示 解の存在については、やはりFourier 解析を用いて解を 構成することで証明されるが54、この場合はFourier 級数でなく Fourier 変換を用いることに なる。結果だけ書いておくと(付録E.2の例E.2.2 を参照せよ)、
u(x, t) = Z
R
H(x−y, t)f(y)dy,
ただし H は次式で定義される関数で55、熱方程式の基本解(fundamental solution)あるい は熱核(heat kernel) と呼ばれる56。
H(x, t) = 1
√4πt exp
−x2 4t
. 関数 H(·, t) :x7→H(x, t) のグラフは,例G.5.2 (p. 238) にある。
54伝統的なテキストでは、Fourier 変換を用いて基本解(熱核)を求めるのが「普通」であるが(付録 E の例
E.2.2参照)、最近は自己相似性を利用して基本解を計算する手法が流行っているらしい。俣野[70], 神保[34]な
どを見よ。
55確率論を勉強した人は、H が平均0,分散2tの正規分布の確率密度関数に等しいことに気付くであろう。
56熱方程式の初期値問題のGreen関数と呼ぶこともある。
超関数の言葉を用いると、H はデルタ関数を初期値とする初期値問題の解である。すなわ ち次の条件を満たす。
Ht =Hxx (x∈R, t >0), H(x,0) =δ(x).
(物理的には、H(x, t) は、時刻t= 0 に原点に単位熱量があり、それ熱伝導していった場合の
温度分布を表す。t= 0 では、原点 x= 0 に熱が集中しているので、その点の温度は無限大で ある。)
2.15.2 多次元領域における熱方程式
(この項工事中で,かなり粗いです。)
多次元空間における熱方程式についても、古典解に関する最大値原理はそれほど難しくなく 拡張できるので、古典解の一意性の証明は簡単である。それに比べると解の存在証明はなかな か難しい。
考えている領域が全空間 Rn の場合は,1 次元の場合の自然な拡張として,初期値問題の 解が
u(x, t) = Z
Rn
Hn(x−y, t)f(y)dy, Hn(x, t) = 1
(4πt)n/2 exp
−|x|2 4t
. と表わされる(この Hn は1次元の場合のテンソル積になっている57)。
問題 18. ∂Hn
∂t =4Hn が成り立つことを確かめよ。
(検算用に途中計算結果を記しておく: ∂Hn
∂xi =Hn(t, x)−xi
2t , ∂2Hn
∂x2i =Hn(t, x)x2i −2t 4t2 , ∂Hn
∂t = Hn(t, x)|x|2−2nt
4t2 =4Hn.)
以下,そうでない場合,簡単のため Ω が Rn の有界領域の場合に,1次元のときと同様な 初期値境界値問題
ut(x, t) =4u(x, t) ((x, t)∈Ω×(0,∞)), (HE)
u(x, t) = 0 ((x, t)∈∂Ω×(0,∞)), (DBC)
u(x,0) =f(x) (x∈Ω) (IC)
を考える。
Fourier の方法を実行してみよう。(HE), (DBC) の変数分離解 u(x, t) =ζ(x)η(t) で,非自 明なもの (u(x, t)6≡0)を求める。
ζ(x)η′(t) = 4ζ(x)η(t) (x∈Ω,t ∈(0,∞)), ζ(x)η(t) = 0 (x∈∂Ω, t∈(0,∞)) から次のような固有値問題が導かれる。
4ζ(x) =λζ(x) (in Ω), ζ(x) = 0 (on ∂Ω), ζ(x)6≡0.
実は1次元のときと同様の性質を持つ固有値{λn}n∈N,固有関数 {ζn}n∈N が存在する:
57H(x1, t)H(x2, t)· · ·H(xn, t) =Hn(x, t)という意味である。
(i) 0 > λ1 ≥λ2 ≥ · · · → −∞. (ii) λm 6=λn =⇒ (ζm, ζn) = 0.
(iii) {ζn}n∈N は完全系をなす。
これを用いると,初期値境界値問題 (HE), (DBC), (IC) の解は次のように与えられる:
u(x, t) = X∞ n=1
bneλntζn(x), bn= (f, ζn) (ζn, ζn).
残念ながら,固有値問題が具体的に解けるのは,領域が本質的に58 1次元の開区間の直積で あるような、次のような場合に限られる59。多次元空間では領域 (連結開集合)がバラエティー に富むので,多くの場合は Fourier の方法による具体的な計算で,解を得ることは出来ないこ とになる。
(1) 長方形(R2 の場合),直方体 (R3 の場合) など
(桂田 [18] 第2章第2節に長方形の場合の議論が書いてある) (2) 円板(R2 の場合), 円柱または球(R3 の場合) など
(桂田 [19] に円盤、円柱の場合の議論が書いてある)
(1) のうち,例えば長方形領域 Ω = (0, W)×(0, H)については,
λm,n :=
m W
2
+ n
H 2
π2, φm,n := sinmπx
W sinnπy
H (m, n∈N) が固有値問題の解である。
(2) についてはBessel関数などの特殊関数を使うことになるが(結構面倒であるが、勉強し た人には「面白い」となかなか好評であることが多い —案外勧められる?)、議論の大筋は 1 次元の場合の Fourier級数と同様である。例えば単位円盤領域の場合,
λm,n :=−µ2m,n,
φm,n(r, θ) := Jn(µm,nr) cosnθ (n = 0,1,2,· · ·; m= 1,2,· · ·), ψm,n(r, θ) := Jn(µm,nr) sinnθ
である。ここで Jn は n 次の Bessel関数 Jn(z) :=
X∞ k=0
(−1)k k!(n+k)!
z 2
n+2k
(n = 0,1,· · ·), µn,m は Jn の正の零点を小さい方から順に並べたものである:
0< µn,1 < µn,2 <· · ·< µn,m < µn,m+1 <· · · → ∞.
一般の領域における解を構成する方法(いずれも具体的な表現は得られず、抽象的と言わざ るを得ない)としては以下の二つを紹介しておこう。
58例えば円板については、極座標を用いることによって問題を変換すると、領域は(0, R)×(0,2π)という1次 元区間の直積になる。
591次元区間の直積になっている場合にのみ、さらに変数分離ができて結局1次元の固有値問題に帰着される ことになり,具体的に解けることになる。
(i) Green 関数を構成して、それを用いて解を構成する。
(ii) 作用素の 1パラメーター半群理論を用いる。
(i) はかなり面倒な議論を必要とするが、一度Green 関数を構成してしまうと、それを利用 して解の性質の詳しい解析ができる。日本語で読める Green 関数の構成法の説明としては伊 藤 [7]がある60 (読みやすくはないので、強くは勧めない)。Green 関数を用いて解の性質を引 き出す議論については、伊藤 [6]が大いに参考になる(こちらは興味がある人には推奨できる)。
(ii) も決して簡単ではないが、熱方程式以外への応用も広範にあるので、学ぶに値する理論 である。ただし、解の性質を詳しく解析する目的にはあまり向かない (と思う)。少し関数解 析についてトレーニングを積んでから取り組むのがよい。短時間で読める解説 (証明がついて いるわけではない) として藤田 [62]がある。その他にブレジス [67]などが勧められる。