• 検索結果がありません。

 以上のように,本教材はハイパーテキスト構造の複合型によって,自 動車会社と関連工場の関係を表す図から,それぞれ第1次から第3次ま での規模の違う工場を仮想的に見学する構成とした。つまり,自動車会 社と1次〜3次までの関連工場数と関係を示す図をメインのセンターノ ードとし,自動車組み立て工場(「自動車工場をたずねて」にリンクし ている。),第1次関連工場,第2次関連工場,第3次関連工場の4っ の工場ヘリンクしている。さらに,各工場では工場の平面図をサブのセ ンターノードとし,部品生産の様子や働く人々の努力や工夫,関連工場 との関係を表す1次ノード,2次ノードヘリンクしている。そして,部 品生産の工程の順にしたがって,関連する1次ノードをリンクしている。

よって,学習者は興味・関心に沿って様々な規模の関連工場を仮想的に 見学し,自動車工業を支える関連工場に関する知識を獲得していけるよ

うになっている。

 なお,本教材ではできるだけ取材した事実に基づいて教材を構成した。

よって,労働環境の厳しさを強調したり,努力や工夫を強調したりする ことはあえて避けている。これは,あくまで教材をどのように解釈する かという教材観の問題であり,教材を解釈するのは指導する教師であっ て開発者ではないからである。

 以上第4節では,ハイパーテキスト構造に基づく教材の開発事例を示 した。この教材には,知識ベースと知識モジュールに基づく多様メディ アによる多くの資料が緩やかにリンクされている。また,学習課題はい っさい存在しない。よって,学習者は自らの意欲や興味・関心に沿って 自由に課題を設定し,学習を展開していけるのである。

108

第5節マルチシステム構造に基づくハイパーメディア教材の開発事例

 マルチシステム構造は,・データベース構造,チュートリアル構造,ハ イパーテキスト構造の3つの理論を柔軟に組み合わせる設計理論である。

社会科の学習では,前提となる知識から発展させて,学習者に思考を促 す展開を行う内容がある。このような場合,ひとつの設計理論だけで教 材を構成することは不可能になってくる。よって,前提となる知識の獲 得とより発展的な学習への展開それぞれをひとつのシステムととらえた のが,マルチシステム構造である。本節では,マルチシステム構造によ る教材の開発事例を示す。「自動車と貿易」では,ハイパーテキスト構 造とチュートリアル構造を組み合わせ教材を構成した。 「自動車と環境」

では,ハイパーテキスト構造とハイパーテキスト構造を組み合わせ,教 材を構成した。

1. 「自動車と貿易」の開発

 戦後,わずか30数年の間に日本はアメリカから品質管理や大量生産 の方法を学び,世界一の自動車生産国に発展した。そして,自動車の輸 出によって日本は多くの利益を上げ,それと共に私たちの生活も豊かに なっていった。しかし,1980年に日本が世界一の自動車生産国にな った時点から対米貿易摩擦が発生する。自動車産業はすそ野の広い産業 だけにその国に与える影響は大きい。アメリカでは自動車工場の閉鎖が 行われ失業者が増大した。日本は,輸出の自主規制と海外生産の展開の 両方向から解決を図ったのである。自動車輪出の自主規制は現在も続い ており,海外で生産する自動車も増大している。さらに日本の自動車は,

109

かつての低価格・高品質から高価格・高品質へと変化してきている。そ の背景には,日本の経済の発展による円高があることは言うまでもない。

そして,現在その円高不況といわれる中で,現地生産の増大と共に輸出 の不振が自動車メーカーを直撃している。

 このような自動車の輸出に関わる経過を日米両国の立場に立った上で 教材を構成することが重要である。本教材は1980年の日米貿易摩擦 の時点をひとつの区切りとし,日本がアメリカに追いつき世界一の自動 車生産国になり自動車貿易摩擦が発生した時点までをハイパーテキスト 構造で構成し,1980年以降の経過をチュートリアル構造で構成した。

1980年の日米貿易摩擦の時点で教材を分割したのは,以下のような 理由による。1980年までは,日本は品質の高い製品を低価格で輸出 することが自由主義貿易の原則であるとし,集中豪心的に輸出を行い多 くの利益を得た。しかし,自動車の貿易摩擦の発生以後,集中豪雨的な 輸出は相手国の産業に深刻な打撃を与えることから,輸出の自主規制と 海外生産への展開へと方向を転換せざるを得なくなった。つまり,国際 協調を考えたグローバルな視点で生産活動を行うようになったのである。

1980年の事件はその意味では自動車のみならず,貿易立国である日 本にとって非常に重要な転換点だからである。

1−1 「自動車と貿易」の知識モジュール

 「自動車と貿易」の知識ベースは,貿易摩擦,海外生産,現在の輪出 の3つの要素で構成した。そして,本教材では日米の貿易摩擦が起こる

までの経過とその事実を両国の立場からとらえさせる教材と,その後,

貿易摩擦の解決のために日本のとった方策とその現状の2つの教材に分 割している。

      一 llO 一

 まず,日米貿易摩擦の発生の経過の事実をとらえる教材の知識モジュ

ールは, 「自動車の輸出」「1920年〜40年代」「1950年代」

「1970年忌」「1980年」「貿易摩擦の解決に向けて」の6つに

分割した。そして,教材に位置づける知識を,両国の立場から日本のあ ゆみ,.アメリカのあゆみ,努力・工夫の3つの項目とし,知識モジュー ルを作成した(表17−1)。

表17−1:教材「自動車と貿易」の知識モジュール(貿易摩擦の事実

         把握)

       教材「自動車と:貿易」の知識モジュール

〈貿易摩擦の事実把握〉

知識内容と活用メディア

知識モジュール 日本のあゆみ アメリカのあゆみ 努力・工夫

1980年置での日米自動車

1

自動車の輸出

生産台数の推移(グ)

アメリカへの自動車輸出(V)

日本の自動車輸出港(写)

1947年生産の日本車(V) 1927年当時の自動車生産 2

1920年代〜 1945年

とニューヨークの様子(V)

1940年代 終戦直後の東京(写) 自動車の普及(文)

品質のよい自動車を

生産する力のない日本(文)

1958年生産の日本車(写) 1956年高速道路建設(V) 日本の自動車会社の アメリカに輸出された日本車

自動車王国アメリカ(文) 品質向上の努力(文)

3

1950年代

が高速道路を走る様子(V)

日本の道路事情(V)

日本車の品質の悪さ(文)

1970年発売の日本車(写) 1970年分のアメリカの 日本の自動車会社の

1 日本車の品質の向上(文) 大型車(V) 品質向上の努力(文)

4ド970年代

@【

1962,67,70、74、79,83、87、92

Nに発売の各日本車(写)

Aメリカ車の品質の低下(文)

1980年発売の日本車(写) 日本車のCM(V)

低価格・高品質の日本車(文)

自動車生産台数世界一(文) 日本車のシェア(グ)

閉鎖される自動車工場と

1 活気のないデトロイト(V)

 !511980年 ヨ

職を求める

@ デトロイトの人々(V)

ヨ連工場や商店の被害(文)

i

日本車を壊す

1 アメリカの労働者(V)

日本車の

輸入制限への動き(文)

6 貿易摩擦の

日本の対応の必要性(文)

解決に向けて

※()内は活用メディアを表す。(写)は写真、(V)はビデオ、(グ)はグラフ、(文)は文字情報。