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第1節 活用実験の目的と方法

1.実験の目的

 現代の社会には多様なメディアによる大量な情報があふれている。こ のような情報化社会に対応するために,主体的に情報を活用する能力の 育成が重要視されている。これまで,社会科の授業においては,精選さ れたひとつの資料を詳細に検討することで資料活用能力の育成を図るこ とが重要視されてきた。しかし,情報化社会の進展にともない,多様な メディアによる多様な資料を複数関連させて思考することも重要となっ てくるであろう。このことについて田中博之氏は「複数の映像情報から

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自らの課題解決に必要なものを選択することや,多くの情報を用いて問 題の多面性に幅広く検討を加えるということが重要な能力目標となって

くると思われる。」と述べている1)。

 開発した教材「日本の自動車工業」は,4つの設計理論に基づき,多 様な資料を多様なメディアで構成したハイパーメディア教材である。そ の内容面での特長は,データベース構造とハイパーテキスト構造,マル チシステム構造の教材では学習者が自由に課題を設定し,学習者自身の 興味・関心にしたがって自由に探求できるという点にある。チュートリ アル構造では,教材に課題が位置づきながらも,学習者はその課題の範 囲内で自らの興味関心に沿って教材を探索できるようになっている点に ある。また,構成面での特長は,データベース構造は教材における資料 が並列的・独立的な構成形態に,チュートリアル構造では単線的・系統 的な構成形態に,ハイパーテキスト構造は両者の構造それぞれの特長を 有し,非並列的・非線形的・非系統的な緩やかな構造となっている点で ある。そして,これらの教材は学習者が様々な構成形態による多様なメ ディアを双方向的に活用できるという特長を有しているのである。

 以上のように,これからの情報化社会に求められる資料活用能力とハ イパーメディア教材「日本の自動車工業」の特長を考え,活用実験の目 的を次のようにした。

(1)異なる設計理論の教材において,学習者が教師から何の指示も受   けない状態で,どれだけの課題を設定できるのか調査する。

(2)異なる設計理論の教材において設定された課題が,どれだけ複数   の資料を比較・検討し思考されたのか考察する。

(3)上記の結果から,各設計理論の特性を明らかにする。

以上のことから,学習者自らが主体的に学習に関与するハイパーメディ       一 133 一

ア教材を用いた社会科授業の可能性を示唆できると考える。

2.実験の方法

 上記の活用実験の目的から具体的な方法について述べる。

 まず,教材に位置づける資料の構成が異なるデータベース構造,チュ ートリアル構造,ハイパーテキスト構造の3つの設計理論に基づく教材 を選択した。選択した教材は,「自動車のまち 豊田市」(データベー ス構造),「自動車の開発」 (チュートリアル構造),「自動車工場を たずねて」 (ハイパーテキスト構造)の3つである。なおマルチシステ ム構造の教材については活用実験を行わなかった。教材内容によって3 つの設計理論を柔軟に組み合わせる理論であるため,基本的な教材設計 の理論は上記の3つに集約されるからである。次に活用実験は以下のよ

うな方法で行った。実験の対象は小学校5年生の児童12名である。

(1)異なる設計理論の3つの教材を学習者一人に活用させる。

(2)異なる設計理論の教材において,学習者がどのような過程で,ど   のように課題を設定し,解決していったのかを調査する。

(3)各設計理論の特性を明らかにするために,学習者がどれだけの資   料を比較・検討させて思考し課題を設定したのか,教材活用のプロ   セスと課題と答の内容から検討する。

 具体的には,小学校5年生の被験者(12名)に対して3っの教材を 活用させ,それぞれの教材から自由に課題と課題に対する解答を記入さ せる。なお,被験者に対する指示は,①教材の中から「どのように」

「どうして」「なぜ」といった疑問符のつく課題を設定すること。②そ の課題についてわかったことを記入すること。③導き出す課題の数は制 限しないこと。④教材を使ってみた感想を記入することの4点である。

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そして,この実験中に被験者がどのように教材の中の資料を見ていった のか,教材活用のプロセスと実験に要した時間を記録する。なお,実験 前に教材に慣れさせるために,3分程度教材の使い方を教え,10分か ら15分程度の時間,実験に活用する以外の教材を活用させた。

第2節 活用実験の結果と考察

 本節では,被験者が導きだした課題がどれだけの資料を比較・検討し 思考した課題なのかを,被験者の課題に対する解答とその教材における 被験者の教材活用のプロセスから分析する。そして,分析結果から,デ ータベース構造,チュートリアル構造,ハイパーテキスト構造の3つの 構造の特性を考察する。

 具体的には,まず12人の被験者が導きだした課題とその解答を示す。

そして,それらの課題の中から特徴的な事例を挙げ,被験者がどのよう なプロセスを経て課題を導き出したのか,どのように複数の資料を関連 させて比較・検討し思考したのかを,被験者の解答と活用のプロセスか ら検討する。

1。データベース構造の教材に関する実験結果の検討

 データベース構造の教材「自動車のまち豊田市」において12名の被 験者が導きだした課題は以下の通りである(表1)。

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表1:「自動車のまち豊田市」における課題と解答

   データベース構造における課題と解答

・ 日

1 A どのようにして き3 トたのか。

13:49 2 A どのようにしてあんなにたくさんの車

港から送るのか。

13:49 3 A どのようにしてあんなにたくさんの車

港に集めるのか。

13:49

4 A 豊田市にはトラックやバスだけ作って

骰H場があるなんて初めて知った。

13:49

5 A

豊田市の工業製品の出荷は8兆円ぐ一ら.

セそうです。そのうち7兆円が車の製 iが占めていることがわかった。

一  . 一   一

P3:49

6 A 豊田市の車に関係する工場がたくさん

?驍ニいうことはわかったが、100 ネ上もの工場があるなんて知らなかっ