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社会科ハイパーメディア教材の設計理論と開発 : 小5自動車工業を事例として

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(1)研究題目. 社会科ハイパーメディア教材の 設計理論と開発 一小5自動車工業を事例として一. 兵庫教育大学大学院. 学校教育研究科. 教科・領域教育専攻. 社会系コース. 学籍番号 M92506D. 岡 崎. 均.

(2) 目 次 はじめに…一一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 第1章 社会科ハイパーメディア教材の課題と研究目的一一…… 第1節 社会科ハイパーメディア教材の課題… …・一■・・・・…一・・. 1. 5 5. 1 ハイパーメディア教材の定義… ■一・・・・・… ■■・・・・・・…. 5. 2 社会科ハイパーメディア教材の検討・・・・・・・・…一一■■…. 7. 第2節 社会科ハイパーメディア教材の研究目的・・・・・・・・・・・…. 23. 第∬章社会科ハイパーメディア教材の設計理論・■一・・・…i一・・…. 27. 第1節 社会科ハイパーメディア教材の設計の方法・・… ■一・・・…. 27. 第2節 社会科ハイパーメディア教材の設計理論・・… ■e・・・・…. 35. 1 ハイパーメディア教材の設計理論の視点・・… 一・一一・・一一・. 36. 2 データベース構造の設計理論・・・・・・・… 一・・… 一・・一・. 39. 3 チュートリアル構造の設計理論・・・・・・・・・・… ■一・・・・…. 41. 4 ハイパーテキスト構造の設計理論・・・・・・・・・・…■■・一・・. 42. 5 マルチシステム構造の設計理論・・・・・・… 一■一e・・■一・・…. 47. 第皿章 社会科ハイパーメディア教材 「日本の自動車工業」の開発・■・t−t■一一・. 53. 第1節 ハイパーメディア教材「日本の自動車工業」の 知識ベースとデザイン・・……. 54. 1 「日本の自動車工業」の知識ベース・・・・・・・・… 一t・・…. 54. 2 「日本の自動車工業」のデザイン・・… ■一・・一一・・一一・・…. 61. 第2節 データベース構造に基づく ハイパーメディア教材の開発事例・・・…一一e・…. 64.

(3) 1 「自動車工業資料集」の開発・・・・・・・・・・・・…■■・・・・…. 64. 1−1 「自動車工業資料集」の知識モジュールー・… 一. 64. 1−2 「自動車工業資料集」のノードとリンク・・・・・…. 65. 第3節 チュートリアル構造に基づく ハイパーメディア教材の開発事例・・・・…一一…. 67. 1 「自動車の開発」の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 67. 1−1 「自動車の開発」の知識モジュール・・・・…■t…. 68. 1−2 「自動車の開発」のノードとリンク・・一・・・・・…. 71. 第4節 ハイパーテキスト構造に基づく ハイパーメディア教材の開発事例・・・・・・・・・…. 74. 1 「自動車と私たちの生活」の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 74. 1−1 「自動車と私たちの生活」の知識モジュール・…. 75. 1−2 「自動車と私たちの生活」のノードとリンク・…. 76. 2 「自動車産業の発展と私たちのくらし」の開発・・・・・…. 80. 2−1 「自動車産業の発展と私たちのくらし」の 知識モジュール・…. 80. 2−2 「自動車産業の発展と私たちのくらし」の ノードとリンク・…. 82. 3 「自動車のまち 豊田市」の開発… 一■・・・… 一■・・t一■一・. 86. 3−1 「自動車のまち 豊田市」の知識モジュール・…. 87. 3−2 「自動車のまち 豊田市」のノードとリンク・…. 88. 4 「自動車工場をたずねて」の開発・・・・・・・・・・…一一・・…. 92. 4−1 「自動車工場をたずねて」の知識モジュールー・・. 93. 4−2 「自動車工場をたずねて」のノードとリンク・…. 94. 5 「シート工場を訪ねて」の開発…一一一t一一ttt一一t…・…. 99. 5−1 「シート工場をたずねて」の知識モジュール・…. 99. 5−2 「シート工場をたずねて」のノードとリンク・一“・. 102.

(4) 第5節 マルチシステム構造に基づく ハイパーメディア教材の開発事例・・・・・・・・・… 109 1 「自動車と貿易」の開発……・・・・・・・… ’・・・… ∴… 109. 1−1 「自動車と貿易」の知識モジュール・・・・・・・・・… 110 1−2 「自動車と貿易」のノードとリンク・・・・・・・・・… 112. 2 「自動車と環境」の開発・…・・… …・・… …・…・…119 2−1 「自動車と環境」の知識モジュール・… 一・・・… 120. 2−2 「自動車と環境」のノードとリンク・…・9・・・… 122. 第IV章 社会科ハイパーメディア教材 「日本の自動車工業」の活用実験… 一■・・… 132 第1節 活用実験の目的と方法・…・…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 132. 1 実験の目的・…・・…………・・… …・・・・・・・・… …132 2 実験の方法……・・……・・・・・・・・・・・・・・……・・・… 134 第2節 活用実験の結果と考察・・・・・・・・・・・・・・… ∵・・・・・・・・… 135. 1 データベース的構造の教材に関する 実験結果の検討・一t・…■一・135. 2 チュートリアル的構造の教材に関する 実験結果の検討・・・・・・・… 141. 3 ハイパーテキスト的構造の教材に関する 実験結果の検討・・・・・・・… 151. 4 社会科ハイパーメディア教材の実験結果の考察・…・… 163. おわりに… ■■・・■■・・一■’■・”●・.●●■■”●.’●■{●’■■●●●.●’”■一’■.’●168.

(5) はじめに 社会科では,ビデオ,写真,グラフ,地図,図表,文字等の実に多様 なメディアを活用する。これらのメディアの活用は社会科の授業形態と 深く関係している。教師主導型の授業では,学習内容に沿って教師がメ ディアを選択し,提示順序に意味を持たせた単線的,系統的な活用を行 う。個別学習や小集団といった子ども主体の授業では,子どもがメディ アを選択するが,各メディアを関連づけて思考することが少ない並列的 独立的な活用に終始する。特に,ビデオや写真などの映像資料は教師か ら学習者へと一方向的に活用されることが多く,学習者が自らの興味・ 関心に沿って主体的にこれらの映像資料を活用することは少ない。つま り,教師主導型の授業におけるメディア活用と子ども主体の授業におけ るメディアの活用には,相反した要素が多いという課題が存在する。. 近年,コンピュータの導入が学校現場にも進み,コンピュータを使っ た授業実践も数多くみられるようになってきた。しかし,その教材とな る学習ソフトには,質が低く実際の授業に使えないものも少なくない。. 教育の内容(何を学ぶのか)と教育の方法(どう教えるのか)を混同し た学習ソフトや,安易に旧来の教材をシリーズ化した学習ソフトの多さ には目を覆うばかりである。. 例えば,チュートリアル形式の学習ソフトでは,解説の後に「何時何 分か答えなさい。」とコンピュータによって指示され子どもが答える。. 正解であれば○,誤答であればxと表示される。本来,教える側や学ぶ 側がするべきことをコンピュータに代用させている。また,従来のドリ ル学習の問題をディスプレイに表示しコンピュータが採点する。そして. 1.

(6) その得点に応じてKRメッセージが表示される。これまで,紙のメディ アで行ってきた旧来の教材を単にコンピュータに置き換えているに過ぎ ないのである。. これらの問題点は,教育現場のコンピュータを使った教育に対する認 識の不足と,開発課の安易な開発姿勢と教育に対する理解不足が主な原. 因と考える。つまりfコンピュータでもできる」学習ソフトと「コンピ ュータでできる」学習ソフト。教師の代わりの学習ソフトと教材として の学習ソフト。これらを理論的に整理しないままに,教育現場へのコン ピュータの導入が進んでいることに現在の問題がある。. 特に社会科においては,数多くの教育ソフトが開発されているが,そ の内容は貧しいと言わざるを得ない。市販の教育ソフトは旧来のドリル や問題集を安易に教材化した「コンピュータでもできる」教師の代わり としての学習ソフトがほとんどである。また,教師自作の教育ソフトも 単元のごく一部にしか使えないものであったり,内容面において偏りが みられたりする場合が少なくない。これは,社会科という教科の性質上,. 従来のプログラム学習に基づくCAIの理論を適用できないことが原因 であろう。よって,現在はコンピュータをデータベース等のように道具 的,資料集的に活用する方向へ向かっている。しかし,コンピュータに 位置づける知識とメディアの構成が並列的であり相互に関連していない ため,学習者に強い目的意識を持たせなければ,主体的な活用ができに くいという課題が指摘できる。. ところが最近のコンピュータの技術の発達により,文字,静止画,音 声,動画といった多様な形態のメディアをコンピュータ上で同時に扱え る環境(ハイパーメディア)が整ってきた。しかもハイパーメディアは, 多様な形態のメディアを自由に構成できるという特性を持っている。 一2一.

(7) そこで,社会科における学習ソフトウェアの活用の課題とメディア活 用の課題をふまえ,多様な興味関心に沿って学習者が主体的に学習する ことが可能な「コンピュータでできる」学習ソフトの開発をハイパーメ ディアを用いて行う。学習者の多様な興味関心に対応するためには,多 様な資料を多様なメディアで多様に構成することが必要である。そのた. めには,これまでとは違ったメディアの構成とCAIの設計理論とは異 なる社会科に適合する学習ソフトの設計理論が必要となる。. 本研究は,ハイパーメディアという全く新しい形態のメディアを用い た,新しい社会科学習ソフトの設計理論とその開発の実際を示すもので ある。. 第1章では,社会科ハイパーメディア教材の定義を行い,その課題と 研究の目的について述べる。第H章では,社会科ハイパーメディア教材 の設計方法を知識ベース,知識モジュール,.ノードとリンクの関係で整. 理する。そして,教材の設計理論として,社会科におけるメディア活用. の傾向からデータベース,チュートリアルの2つの設計理論を示す。ま た,従来の社会科のメディア活用の傾向とは異なζ観点から,ハイパー. テキスト,マルチシステムの2つの新しい設計理論を示す。第皿章では 社会科ハイパーメディア教材の設計のプロセスと設計理論に基づき,小. 学校5年生の自動車工業を事例とした教材開発の実際を示す。第IV章で は,開発した教材の中から,データベース,チュートリアル,ハイパー. テキストの異なる設計理論に基づく教材を選択し,小学校5年生の児童 に対して活用実験を行った結果を述べる。. 3一.

(8) なお開発にあたってはシステムの構成面で富士通株式会社の協力を得 た。システム構成は以下の通りである。. 1.ハードウェア. ○パソコン本体 FM−TOWNS■ SR−100 CD−ROM,120MBハードディスク内蔵 メモリ12MB O周辺機器. 3.5インチ光磁気ディスクドライブ. イメージスキャナ EPSON GT−6000 2.ソフトウェア ○基本ソフト. Town.sシステムソフトウェア. V2. 1 L20 ○ソフトウェア. TownsGEAR V2. 1 L20 (Townsシステムソフトウェア標準添付). TownsPAINT VI.1. LiveMovie VL I. 一4一.

(9) 第1章社会科ハイパーメディア 教材の課題と研究目的 第1節 社会科におけるハイパーメディア教材の課題. 1。ハイパーメディア教材の定義 ハイパーメディアの語源となるハイパーテキストについては,浜野保 樹氏がその著書の中で以下のように述べている。. 1967年,ネルソンは「ハイパーテキスト」という言葉を初めて使 い,ハイパーテキストを実現する「ザナドゥ」というシステムを提案し た。ネルソンはハイパーテキストを次のように定義している。 「コンピ. ュータによって対話型の枝別れ機能をもった自然言語の組み合わせ,あ るいは通常の紙に印刷することができない直線的でない文章のダイナミ ックディスプレイ」。この定義はわかりにくいが,相互参照できる文章 のことで,最初は参照できるものが文章だけに限られていた1)。. このことを図に表現すると次のようになる(図1)。. 5.

(10) 人種. アメリカ ー産業一一一…一一 二二. F癒二一;≡il. 一一… C候一. ラ貿易. 産業. …輸出・一…・. 一貿易一一…一一一. 図1:ハイパーテキスト. 例えば,アメリカという1枚の文書(テキスト)があったとする。す ると,アメリカの中の産業や人種,気候といった項目について,関連す るテキストとリンクしており,さらに,具体的な貿易や輸出といった項 目のテキストにもリンクされ,これらが自由に参照できるようになって いる。このように従来と全く違った形態の文章をネルソンはハイパーテ キストという言葉を用いて提唱したのである。. そして,1988年に開発されたApple社のコンピュータMachintosh用 のソフトウェアHyperCardにおいて,このハイパーテキストが文章だけで なく映像や音声など異種のメディアを自由に関連づけてリンクできるよ. うになった。ここにHyperMediaという言葉が生まれ,さらに1992年 になって,ApPle社のMachintoshや富士通社のFM−TOWNSでは動画を扱う環 境が整い,ハイパーメディアの用途が大きく広がってきたのである。. 大阪教育大学の田中博之氏はハイパーメディアを「多様な情報を統一 的な方式で自由に扱うことのできるコンピュータである。」2)と定義し ている。さらに,大阪大学の水越敏行氏は,ハイパーメディアの特徴を 一6一.

(11) 「①多種多様な・そして異質な情報を並列提示できる。②教材の提示順. 序が柔軟で,非直線的でかつ非構造的である。③生徒がコンピュータの モニター上の画面と相互作用しながら,マイペース,マイコースの学習 ができる。④生徒が自分で教材の順序を変え,書き加え,かっ編集する ことができ,新たな教材として使用することも可能である。」3)の4つ にまとめている。つまり,ハイパーメディアとはビデオの動画,地図や イラスト・写真などの静止画,音声,文字といった異質なメディアを, コンピュrタのモニター上に自由に関連づけて提示できるのである。 以上のように,自由な構造の多様なメディアを学習者が自由に扱える という点において,ハイパーメディアは社会科における新たな授業の可. 能性を示唆するものと考える。本論文では,ハイパーメディア教材を 「コンピュータのディスプレイに,多様なメディアを自由な構成方法で 提示する学習ソフトウェア」として定義しておく。. 最近マルチメディアという言葉が頻繁に使われているが,現時点では マルチメディアの明確な定義はない。Apple社系のコンピュータで扱えば ハイパーメディア,MS−DOS系のコンピュータで扱えばマルチメディアと いう単純な考え方もある。しかし本論文においては,マルチメディアを. コンピュータやVTR, LDなどのメディアを総合的に扱うものとして とらえている。つまり,マルチメディアは多種多様で異質なメディアを 統一的に扱う点ではハイパーメディアと同じであるが,その提示方法を コンピュータに限らない点に根本的な相違がある。. 2.社会科ハイパーメディア教材の検討. 社会科におけるハイパーメディア教材に関する研究は,教科教育の分. 一7一.

(12) 野では行われていない。しかし教育工学の分野からは,ハイパーメディ アに関して数多くの研究がなされている。特に最近はハイパ「メディア,. マルチメディアへの志向が強まり,社会科においてもいくつかの教材の 開発が行われている。これらの研究を以下の3つの側面から検討する。 (1)主体的な学習を展開できる社会科ハイパーメディア教材の性格的 側面 (2)学習内容と多様なメディアをどのように関連させていくのかとい う設計方法からの側面 (3)・社会科ハイパーメディア教材におけるノードとリンク4)の方法と. いう設計理論からの側面. 2−1 社会科ハイパーメディア教材の性格的側面からの検討 ハイパーメディア教材は「コンピュータのディスプレイに,多様なメ ディアを自由な構成方法で提示する学習ソフトウェア」である。そして,. 社会科は多くの資料を多様なメディアで活用する。この社会科の特性を 考えると,ハイパーメディア教材の社会科への応用は,新しい社会科の 授業の可能性を示唆するものであろう。多様なメディアを自由に構成で きるというハイパーメディアの特性は,学習者自ら課題を設定し興味・ 関心に沿って主体的に学習を展開する教材の開発が可能であることを示 しているといえる。よって,学習者が主体的に学習を展開できるかとい う視点,すなわち質的側面から社会科ハイパーメディア教材を検討して おく必要がある。. 検討する事例は,学習システム研究会によって開発された教材「輪中 のくらしと治水」5)である。この教材は富士通FM−TOWNS上で動作するソ フトTOWNS−GEARで開発されている。多数の写真資料と地図によって構成 一8 一一.

(13) されており,洪水の様子などもシミュレーションできる優れた教材であ る。具体的な構成は以下のようになっている。. この教材は「郷土を開く」と「低地の人々のくらし」の2つの選択メ ニューで構成されている。そして,「低地の人々のくらし」は「土地の 様子はどうなっているのだろう。」「どんな住まいにすんでいるのだろ う。」「田や畑ではどんな仕事をしているのだろう。」「おそろしい水 害の様子」「生まれ変わった輪中の様子」「輪中の新しい地域の問題」. の6つの課題の選択メニューで構成される。さらに,その6つの課題に. 関してより具体的な21の選択メニューが表れる(図2)。. 「輪中のくらしと. 治水」のメイン・ _ユー. 図2:「輪中のくらしと治水」の画面例. 9.

(14) 鑑慧響饗. 「低地の人々のく. らし」の課題選択 メニュー. 「低地の人々のく. らし」の画面例. 図2:「輪中のくらしと治水」の画面例 「郷土を開く」も同様で「江戸時代のころ」「薩摩藩による工事」「明. 治の工事」の3つの課題と具体的な7っの選択メニューで構成されてい る。そして,より具体的な選択メニューからは写真,地図,テキストが 順次提示されていく。非常に数多くの写真や地図が使われており,選択 メニューに従って進めば,輪中のくらしや治水,郷土の歴史について理 解できるようになっている。 10.

(15) しかし,これらの数多くの課題は教材の開発者によって分類・整理さ れたものであり,その課題に基づいて資料を単線的にリンクしているの である。このことによって,学習者は自ら課題を考える必要もなく,簡 単に選択メニューから課題を選択できる。学習者に問題意識を持たせた り学習意欲を高めたりするためには,この教材は見せてはならないとい うことになる。すなわち,授業で行う課題に対する答がこの教材なので ある。このような教材の構成は学習システム研究会の授業と結び付いた 資料集としての教材開発の視点に基づくものである5)。しかし,実際に この教材を授業に使うとして,もし教師や子どもがこの教材とは異なる 課題の設定を行ったときはどのように対応するのか疑問が残る。. この教材をハイパーメディアで教える教材と位置づけるならば,非常 に優れた教材であろう。しかし,ハイパーメディアで学ぶ教材として考 えた場合,次々と課題がメニューによって提示される教材の構成は,学 習者が主体的に学ぶためには障害となる。. 2−2 社会科ハイパーメディア教材の設計方法の側面からの検討 ハイパーメディアはビデオの動画,地図やイラスト,写真などの静止 画,音声,文字といった異質なメディアを,コンピュータのモニター上 に自由に関連づけて提示できる。よってハイパーメディア教材の開発に あたっては,学習内容とこれらの多様なメディアをどのように関連させ て設計していくのか,具体的な方法論が必要となろう。よって,これま で行われた研究・開発の事例の中から,この方法論の側面から検討する。 宮前忠司氏らは,環境問題を題材としてエキスパートシステムを取り 入れたマルチメディア教材を開発している6>。この教材は,環境問題の 学習をした後に,子どもが町づくりのシミュレーションゲームを行い, 一一 11 一.

(16) 作った町について,コンピュータが知的推論を行いその町を評価すると いうものである7>。環境問題を題材としていることから,厳密には社会. 科という教科のジャンルに当てはめることには無理があるが,内容面に おいてはいくらか関わりのあると考えられる。また,ハイパーメディア 教材の設計の方法という観点で検討を行う目的から,この研究をとり上 げた。この教材における学習内容は次のようになっている(表1)。. 表1:環境問題についての学習内容 森林の役割 一一=一=一一一一一一. ①水を貯える ・ダムの役目. ②空気をきれいに ・光合成によるガ ス交換. ③世界の森や緑 ・世界の森林の現 状 ④動物のすみか ・開発と動物達 ⑤保安林 ・保安林の種類と. その説明 ⑥日本の森や緑. ・F,本の三一. 1大気汚染について. ゴミについて. ①搬ゴ・についゆエネルギーにつt①煩汚濁につい て. いて. ト太蹴. ○燃えるゴミ ・生ゴミ. 1・太陽熱. ・紙類. 1:麟. ・その他. 1:騒力. ○燃えないゴミ ・びん類. ・その他. ・かん類. する方法 ②富栄養化 ③水の浄化作用 ④海洋汚染 ・赤潮. ◎エネルギーと大 ☆飢餓と飽食につ 気汚染の関係に司◎汚染を防ぐため 1に自分達にできる いて いて ②粗大ゴミについ} こと. ・垂えるゴ・} 1②酸性雨について ○燃えないゴミ. ξ. 1. ついて 1④オゾン層につい. るか ・資源としての木. ◎以上のようなゴi て. 働き ・土壌の役割. リサイクルについ1◎汚染を防ぐため て自分達でできる1に自分達にできる. ⑧環境を調節する・を減・す工夫・1. 窪書函畿ドと こと. て ・生活排水の種類 と汚れを少なく. ・その心. ・その他. ③地球の温暖化に ⑦木は何に使われ. 水質汚濁について. ?鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈鼈黷e一一一一一一一一. }こと. l l. 12 一.

(17) また,学習内容の基づく「ゴミについて」の教材の構造は次のように なっている(図6)。 メイン画面. 増えるゴミ. 「=二一. 解説. 1一般ゴミ. 粗大ゴミ. ゴミの種類. 一. 解説 燃えるゴミ. 燃えない. 生ゴミ. 減 す工夫. 飽食. i. 1減らす工夫. i. 鰍1. 一. 燃えない. 燃えるゴミ. ゴミ. @. ゴミ. リサイクル. s法投剣. 1. 学習履歴 かん類 リサイクル. リサイクル. その他. 図6: 「ゴミについて」の教材の構造 この学習内容は広範囲に環境問題に関する知識を取り上げているが, その分類において疑問が残る。例えば,森林の役割,ゴミ,大気汚染,. 水質汚濁と4つの内容を上位概念としているが,森林の役割の内容と他 の3つの内容のレベルが一致しない。また,大気汚染について酸性雨と 地球の温暖化が下位項目に位置づけてあるが,その因果関係を考えると 酸性雨と地球の温暖化が上位概念になるのではないかと考えられる。 一一 13 一.

(18) 次に,この学習内容に基づきハイパーメディア教材の設計を行い,そ の構造を示している。しかし,学習内容からどのようにして教材の設計 を行ったのか,そのプロセスが具体的に提示されていない。つまり,学 習内容に基づいてどのように知識を整理し,どのようなメディアを選択 し,どのようにノードにまとめ,どのようにリンクするのか,そのプロ セスがハイパーメディア教材の設計においては重要なのである。特に社 会科は多様な資料を多様なメディアを用いて活用する教科である。よっ て,社会科におけるハイパーメディア教材の開発を行うためには,学習 内容を明確に教材に位置づけるための具体的な方法論が必要となってく る。そのことで,知識内容が偏らない教材の開発が可能になり,教材自 体の汎用性も高まるのである。しかしこれまでの研究では,学習内容と ハイパーメディア教材の構造とを結ぶ方法論を示すものは見あたらない。. 2−3 社会科ハイパーメディア教材の設計理論の側面からの検討 ハイパーメディアは非線形的,非階層的な緩やかな構造を持っている。. 社会科においても,この特長に基づいていくつかの研究・開発が行われ てきた。しかし,社会科ハイパーメディア教材の設計理論そのものをと り上げた研究は見あたらない。よって,これらの研究の中から,教材の 設計について言及しているものについて検討する。. 田中博之氏は「子どもの情報能力を育てるマルチメディア学習システ ムの開発」において,映像データベース型のハイパーメディアの開発を 行っている8)。この研究は,子どもの情報活用能力を育てるために,総 合学習単元「水の学習」の開発を行い,その授業の中において子どもの 調査・体験学習と関連させて,映像データベース型のハイパーメディア を活用した優れた研究実践である。 一一 14 一.

(19) この研究で開発された映像データベース型のハイパーメディアは以下 のようになっている。このシステムは,コンピュータ(Aplle Macintos h)とビデオデッキで構成され,コンピュータによってビデオデッキの映. 像を制御するというものである。具体的には,水の循環の画像から4つ のテーマを選択し,選択した領域の映像資料リストが示される。学習者 はそのリストから興味のある映像を視聴できるようになっている(図3)。 スタート画面 水の循環の絵. 地上に落ちる. ワでの酸性雨. 森や林の酸性. 湖や貯水タン. J. J. パンジーの花. 中国での. 日本の森に表. 酸性の湖の生. @ 酸性雨 _性雨の調査 _性雨に含ま 黷髟ィ質の調. 黷ス酸性雨の. ィへの影響 山の薬をま ュスウェーデ 唐フ湖等. ク等. e響. クっていく西 hイツの森等. 町の中の酸性. Nの酸性雨. ノ現れた酸性. Jの影響. ャでみられる _性雨のつら 逑. 酸性雨でなぜ. 酸性雨に含ま. 日本各地の酸. リが枯れるの ゥPHの詳しい. 黷髟ィ質 ネぜ雨が酸性 Jになるのか. ォ雨の強さ. 燒セ. oHの詳しい 燒セ等. 図3:映像データベース型コンピュータ教材の内容 しかし,このハイパーメディア教材には次のような問題点がある。ま ず,子どもの情報能力を育てる見地から,視聴・検索カードを用いて学 習者の映像資料の活用の視点を明確にした上で,このハイパーメディア 教材を活用し,試聴した映像資料に碁ついて調葦体験学習へと発展して いくという点である。子どもの情報能力を育てる見地からは非常に優れ 15.

(20) た研究であるが,ハイパーメディア教材が授業構成と密接に関係させる ことを前提として開発されているために,教材自体の汎用性に欠けると いう問題点が指摘できる。つまり,このハイパーメディア教材だけでは,. 子ども自らが課題を設定し思考するという,主体的な学習への関与が保 障されにくいと考えられる。. 次に,このハイパーメディア教材の構造について検討する。この教材 は基本的には映像データベースであるから,そのリンクは階層的・並列 的なものになっている。しかし,ハイパーメディアの特性を考えた場合,. 非階層的,非並列的な多様な資料のリンクの方法があってよいはずであ る。. このことについて黒上晴夫氏は次のような研究を行っている9)。氏は. 小学校4年生の社会科「交通安全」の単元において映像インデックス型 のハイパーメディア教材を開発している。この過程で学習情報と学習情 報のリンクに着目し,従来の授業で用いられた教材問のリンクをフロー 型に,ハイパーメディアでの教材はネットワーク型に位置づけて次のよ うに分類している(図4)。. 16.

(21) フロー型. ネットワーク型. トップダウンツリー型. リニアー型. ボトムアップツリー型. 図4:学習情報のリンク そして,この分類に基づき開発されたハイパーメディア教材の構造は. 次のようになっている(図5)。この図をみる限り,この教材は砂上氏 の分類によるネットワーク型には当てはまらない。このことについて氏 は次のように述べている。. コースの出発点である課題選択メニューから次にいけるのは,「自転 車メニュー」ではなく,「自転車の構造」である。これは,自転車の整 備や,ブレーキのメカニズムを学習する映像だが,教師の「自転車コー スを選んだすべての子どもに自転車の構造について学習してもらいたい」 という願いを反映したリンク構造になっている。つまり,必ずしもすべ ての学習情報がネットワークで結ばれていて自由探索の対象にはなって いないのである。これは,やはり一定の「学習してもらいたい内容」が 存在する以上当然のことかも知れないユQ)。. 17.

(22) 「駐車車両かb. 大阪府の自転. の飛び出し」 「自転車:に車検. 車事故(統計). ・. /. はないけれど」. 難欝’. 層\. 欝 趣‘ i七三嚢iiiii……. ({gii}). ハイパーメディア. 標識スライド. の内部映像. ⊂⊃外部囎 [コ外部酬 図5:自転車メニューに結びついた学習情報 しかし,「学習してもらいたい内容」の存在によって,ハイパーメデ ィアの多様なリンクの特長が限定されてしまうと:するには,いささか無. 理があると考える。学習してもらいたい内容は,自転車の構造だけとは 限らないし,教材の中にどうしても「学習してもらいたい内容」が存在 するならば,それを教えればすむからである。黒上氏の研究は,ハイパ ーメディアとはどのようなもので,何ができるのかを「学習情報」に焦 点をあてて研究したものであり,多くの示唆を得た。しかし,社会科ハ イパーメディア教材におけるノードのリンクに焦点をあてれば,ネット. 一18一.

(23) ワーク型の構造の類型に基づく,映像インデックス型のハイパーメディ ア教材の構造はリンクに多様性がみられず,理論的に整理されていると はいえない。. 2−4 社会科ハイパーメディア教材の問題点 社会科ハイパーメディア教材を性格的側面,設計方法の側面,設計理 論の側面から検討を行った結果に基づいて,社会科ハイパーメディア教 材における問題の所在を明らかにしておく必要がある。. 第1の問題の所在として,「ハイパーメディア教材で教える」のか 「ハイパーメディア教材で学ぶ」のか,その基本的性格が明確にされな いまま教材の開発が行われているという点が挙げられる。. これまでの社会科学習ソフトの多くは,教えることと学ぶことを明確 に区別しないままに開発されてきた。その中で.コンピュータでもでき る程度のレベルに過ぎないドリル形式のソフト,プログラム学習に基づ. くCAIの設計理論によって学習者を答に導くチュートリアルのソフト が開発されてきたのである。社会科におけるハイパーメディア教材の開 発においても,この問題性を残したまま研究が進んでいるといえる。 まず,「ハイパーメディア教材で教える」という立場に立った教材に ついて整理しておきたい。教材の中で明確に課題を示し,それに対する. 答を提示していくことは,開発者の学んでもらいたいという願いを具現 化することである。つまり,教材に位置づける課題と答は開発者の教え たい内容であるから,必然的に教える教材となるのである。教材に課題 を明確に位置づければ,それに伴い知識内容が限定され,活用される資. 料の数も少なくなってくることが指摘できる。また,教えるためには学 習者にとってわかりやすい構成を追求する必要がある。. 一19一.

(24) 「ハイパーメディア教材で教える」ことの是非を論ずるつもりはない。 しかし,開発者の願いによって設定した課題と教材を活用する教師や子 どもとの課題の設定のズレが生じた場合,その教材の汎用性は失われて くる。また,子ども自らが教材を活用して課題を設定しようとしたとき, 教材に位置づけている課題が障害となるのは事実であろう。 次に, 「ハイパーメディア教材で学ぶ」という立場に立った教材につ. いて整理しておく。子どもがハイパーメディア教材で主体的に学ぶため には,教材の中に課題を位置づけてはならない。つまり,学習課題の設 定といった学習目標に関わることは,授業のほかの場面で教師や子ども が自由に設定すればよいのである。課題は示さないが,教材を開発する 以上学習内容は存在する。多様な学習内容を自由に関連させて主体的に 学習していくのは学習者であるから,「ハイパーメディアで学ぶ」教材 には,わかりやすさは重要ではない。その意味ではデータベースや資料 集といった性格の学習ソフトウェアは学ぶ立場に立った教材であるとい える。. しかし,ハイパーメディア教材だけを用いて教師や子どもが課題を自 由に設定するとなると,非常に広範囲の知識内容を網羅しなければなら ず,多様なメディアによる多くの資料が必要となる。よって,この問題 を解決するためには必然的に授業のある部分において活用可能なハイパ ーメディア教材の開発という方向に向いてくる。田中・黒磯両氏の研究 の過程で開発された教材は,この方向に沿ったものといえる。問題点は ここに存在する。つまり,教材を選択する教師がハイパーメディア教材 を活用しようとしたとき,活用したい教材が限定されることは,やはり 教材の汎用性が低下するからである。. 以上のように2つの立場それぞれに問題があるが,ハイパーメディア 一2e一.

(25) の非構造という特性,教材の汎用性,主体的学習の保障といった要素を 考慮すれば,やはり「ハイパーメディア教材で学ぶ」という立場に立っ ての教材開発を目指すべきであろう。. 第2の問題の所在は,教材に位置づける学習内容に基づいて,多様な メディアと多くの資料をどのように具体的に教材にしていくのか,その 方法論がないという点が挙げられる。. ハイパーメディアは緩やかな構造性を持ち,多様なメディアで多くの 資料を自由に構成することができる。さらに,開発するハイパーメディ ア教材の汎用性を高めようとすれば,非常に広範囲の知識内容を網羅し なければならず,同時に教材に構成するメディアと資料も増えてくる。 それ故に,設計理論の一般化の困難さがあるといえよう。. ハイパーメディア教材の開発にあたってまず学習内容を決定する。そ して,この学習内容に基づいてノードとリンクを決定していく。しかし,. 汎用性の高い社会科ハイパーメディア教材の開発を考えたとき,広範囲 の知識内容と多くの資料が必要になる。さらに,ひとつの資料を表現す るメディアも多様なものがあるから,教材を構成するノードの要素は非 常に多くなってくる。子どもの主体的学習を促すための社会科ハイパー メディア教材では,課題を明確に位置づけず学習内容を自由に探索・関 連させて思考させる必要がある。そのために広範な知識内容を含む多く の資料を,学習内容に沿ってノードに構成し多様にリンクしていかねば ならない。. しかし,これらの広範な知識内容と多様なメディアによる多くの資料 を,どのようにノードにまとめ,どのようにリンクするのであろうか。. これまで,ノードとノードをリンクする方法についてはいくつか提案さ れてきた。しかし,広範な知識内容と多様なメディアによる多くの資料 一一 21 一一.

(26) をどのようにノードにまとめていくのか,その方法を示した研究は見あ たらない。. よって,社会科ハイパーメディア教材の設計理論と開発をより具体的 に示すには,このプロセスを明らかにしておく必要がある。. 第3の問題の所在としては,ハイパーメディアの非構造という特性を 生かすための多様なリンクの方法論がないという点が挙げられる。. 田中氏の開発した映像データベース型の教材は,階層的・並列的な資 料のリンクを行っている。黒算氏の映像インデックス型の教材は,ネッ トワーク型の考えに基づきながらも,選択した資料から必ずメニューに 戻るリンクになっている。宮前氏らの環境問題の「ゴミについて」の教 材は階層的なリンクと単線的なリンクが混在している。しかし,これら の教材のノードとノードのリンクを検討しても理論的な一貫性は見られ ない。また,もっと多様なリンクの方法が考えられてよいはずである。. 「ハイパーメディア教材で学ぶ」立場に立って教材を開発するならば, 具体的な課題は位置づけてはならないが,教材を開発する以上学習内容 は存在する。これらの学習内容を,学習者が多様なメディアによる多く の資料を探索し,関連させながら思考するためのリンクの方法が必要な のである。しかし,これまでの研究は教材の開発を主体とした性格の研 究であるため,子どもの主体的学習を保障するための具体的リンクの方 法論について述べたものではない。ハイパーメディアの非構造性を生か して,なお子どもの主体的学習を保障することのできるリンクの方法論 が明確になっていないのである。. よって,これまでのリンクの方法を整理し必要があればつけ加え,子 どもの多様な興味・関心に応じ主体的な学習を保障するためのノードと ノードのリンクの方法は,どうあればよいのかを研究することが重要で. 一22一.

(27) ある。このことで,社会科ハイパーメディア教材の開発の設計理論が一 般化される可能性が広がるからである。. 第2節 社会科ハイパーメディア教材の研究目的. 以上のような社会科ハイパーメディア教材のかかえる問題性をふまえ て,本節では研究の目的について述べる。本研究の目的は以下のように なる。. ・. (1)「ハイパーメディアで学ぶ」立場に立ち,学習者が主体的に学習 を展開できる汎用性の高い社会科ハイパーメディア教材を開発する。 (2)汎用性の高い社会科ハイパーメディア教材の開発を行うために,. 広範な知識内容と多様なメディアによる多くの資料をノードにまと めていくプロセス,すなわち社会科ハイパーメディア教材の設計の 方法を明らかにする。. (3)明らかにした設計方法と関連させて,学習者が興味・関心に沿っ て主体的に学習を展開できる,多様なノードとノードのリンクの方 法を整理・付加し,社会科ハイパーメディア教材の設計理論として 示す。. (4)開発した教材で活用実験を行い,学習者が主体的に学習を展開で きる教材の設計理論の特性を明らかにする。. 以上の目的にしたがって,第H章では社会科ハイパーメディア教材の 設計の方法と設計理論について述べる。. 23 一.

(28) 〈注>. 1)浜野保樹「ハイパーメディアと教育革命」 アスキー出版局(1990)p.157.. 2)田中博之「ハイパーメディアは教育の可能性をどう広げるか」 教育とマイコン(1992,10)学習研究社 P.42,. 3)水越敏行「メディアが教育を変える」同上書 p.32,. 4)ノードとは本来,結び目の意味であるがハイパーメディアにおいては,. 種々のメディアによって構成された,ディスプレイ上に提示される1枚 のフレームの意味で用いられる。このノードをつなぐのがリンクであり, ボタンやテキストなど多様なリンクの方法がある。 5)学習システム研究会は岐阜大学の村瀬康一郎氏らが中心となってマル チメディア教材を開発しているグループである。視聴覚教育(1993,3,pp,. 25−26,)に村瀬氏は,研究会で開発しているマルチメディア教材の位置づ けについて次のように述べている。. マルチメディア教材の中を学習者が興味関心のおもむくまま自由に動 きまわって,発見や知識の構成を行うという図書館学習的・博物館学習 的な学習スタイルに重きをおくのではなく,通常の授業枠組み,すなわ ち,教科・単元・時間という授業の中での教材をマルチメディア化しよ うというものである。一中略一 この使い方はマルチメディア的ではあ るがハイパーテキスト的ではないと言うことができる。ただ,ハイパー テキストの特徴をまったく使わないのではなく,リンク機能はページの ジャンプや関連する情報を引き出すための操作ボタンとして使う。教師 には,情報間を自由に動きまわることで新しい発見や知識,あるいは解 決方法を学習者の中で構成・変容させようという形より,映像や音声や 文字が統合され,ボタンーつで関連する情報も取り出せる知的な資料集 一24一.

(29) としての方が,マルチメディア教材をイメージし易いし,授業でも使い 易いようである。. 6)宮前忠司ほか 「環境問題を扱ったILE型マルチメディアCAIの 開発と子どもの構え」 日本教育工学会第9回大会講演論文集(1993) pp, 70−71.. 7)このシステムは,子どもがコンピュータの画面上で自らが市長となっ て町づくりを行う。その結果を,工場が多すぎるとか汚染防止の手だて が必要であるといった評価を,コンピュータに組み込まれた推論のシス テムによって行うものである。システム自体は非常に優れたものである と考えるが,本来学習の過程で子どもや教師が主体になって行うべき評 価をコンピュータに行わせてよいのかという問題が指摘できる。つまり, 子どもがシミュレーションによってつくった町を互いに評価し合うこと で,学習が成立するという見方もできるからである。また,環境問題は すぐに解決できるものではない。科学的にまだ証明されていない事柄も. 多いし,南北問題といった国家レベルの問題も存在する。この知的推論 のシステムにおける理想的な町とはどんなものであろうか。この推論の システムは設計者がプログラムしたものであり,その評価は設計者の考 えである。しかし,使う側はコンピュータが判断したものと錯覚してし まう。. このように考えると,学習の根幹部分に関わるものや人間が主体とな って判断しなければならないものまで,エキスパートシステムやファジ ィ推論によって行うことには疑問を感じる。教育にこのようなシステム がどのように活用可能なのか,その検討が必要であろう。. 25.

(30) 8)田中博之 「子どもの情報能力を育てるマルチメディア学習システム. の開発」大阪教育大学研究紀要 第IV部門 第40巻 第2号(1992年2 月) pp.131−152.. 9)黒上晴夫. 「学習情報とハイパーメディア」大阪大学人間科学部紀要. 第18巻(1992)pp.119−135. 10)同上論文 p,130.. 26.

(31) 第III章. 社会科ハイパーメディア 教材の設計理論. 本研究において開発する教材は,「ハイパーメディアで学ぶ」立場に 立ち,学習者が主体的に学習を展開できる汎用性の高い社会科ハイパー メディア教材を目指している。このことを教材の内容面から考えれば,. 非常に広範囲の内容を含めなければならなず,単元レベルでの教材開発 が必要となろう。具体的な教材の内容と開発の概要については,第皿章 で述べる。本章においては,研究の目的にしたがって,「ハイパーメデ ィアで学ぶ」立場に立った,社会科ハイパーメディア教材の設計の方法. と理論について述べる。具体的には,第1節では,広範な知識内容と多 様なメディアによる多くの資料をノードにまとめていくプロセス(設計. の方法)について述べる。第2節では,社会科における学習形態とメデ ィアの活用の傾向を視点にし,学習者が興味・関心に沿って主体的な学 習が展開可能な,リンクの方法(設計の理論)について述べる。. 第1節 社会科ハイパーメディア教材の設計の方法. 社会科の授業では,ビデオ,写真,グラフ,地図,図表,文字,音声 等の実に多様なメディアを活用し,学習者はこれらの多様なメディアを 通して様々な知識を獲得していく。社会科ハイパーメディア教材の設計 ・開発は,これらの多様なメディアと学習者が獲得すべき知識を再構成. 27.

(32) する作業であるといってもよい。つまり,多様なメディアとそれに関係 する知識が混沌としている状態から,「どのような知識を,どのような. メディアで,どのように構成するか」が重要となってくるのである。 「ハイパーメディアで学ぶ」観点に基づく汎用性の高い社会科ハイパー. メディア教材は,非常に広範囲の学習内容と多様なメディア,多くの資 料が必要になってくる。さらに,ハイパーメディアの持つメディアの多 様性と緩やかな構造性が,知識の位置づけと活用メディアの選択をより 困難にしているとも考えられる。よって,社会科ハイパーメディア教材 の設計・開発にあたっては,その方法を明らかにしておくことが重要と なる。. そのため,社会科ハイパーメディア教材の設計を8っのプロセスに分 割した。次に示す図は,教材設計の方法をまとめたものである(図1)。 教材の選択・教科書研究 知識ベースの作成. ←教材の基本概念. 資 料 収 集 取材資料の知識ベースに基づく分類 ハイパーメディア教材の構造図の作成 知識モジュールの作成. ←設計理論の選択 ←教材に位置づける知識 と活用メディアの選択. 〆. ノードとリンクの決定. ←ノードへの分割 リンクの技法の選択. 教材の設計図の作成・教材開発. 図1:社会科ハイパーメディア教材の設計・開発のプロセス 一28一.

(33) 図1にしたがって, (1)∼(8)の順に具体的に社会科ハイパーメデ ィア教材の設計の方法について述べる。. (1)教材の選択と教科書研究 学習者の多様な興味・関心に対応するための,社会科ハイパーメディ ア教材の教材研究では,多様な知識を広範にわたってとらえておく必要 がある。教材に位置づける知識が偏らないためにも,十分な教材研究を 行うことが重要である。よって,基本的には教科書を中心として教材に 位置づける知識内容の概要を定め,概要に基づいて教材研究を行えば汎 用性の高い教材になってくる。. (2)知識ベースの作成 教材研究から知識ベースを作成する。社会科ハイパーメディア教材を 設計する上で重要となるのが,どのような知識を中心概念として教材に 位置づければよいかということである。そこで,社会科ハイパーメディ ア教材の設計・開発のコンセプトとなる知識や概念を知識ベースと呼ぶ ことにする。知識ベースは教材の核となるものであるから,その作成に あたっては,教材研究と往復しながらできるだけレベルの高いものにし たい。. (3)資料の収集 決定した知識ベースをもとに資料の収集を行う。社会科ハイパーメデ ィア教材の資料の収集はそのメディアの多様性ゆえに,非常に広範囲に 行わなければならない。特に,より具体的な資料となるビデオや写真を できるだけ多く収集・取材しておくことが重要であろう。. (4)収集資料の知識ベースに基づく分類 取材した資料を知識ベース毎に分類し,さらにメディア別に整理して おく。特にビデオの分類・整理は重要である。ビデオは,シーケンシャ. 一29一.

(34) ルに構成されており,製作者の意図が強く反映しているものが多い。よ って,ハイパーメディア教材に映像を位置づけるためには,ビデオの映 像を知識ベースに対応するように分割・整理しておかねばならない。. (5)ハイパーメディア教材の構造図の作成 各知識ベースと取材資料をもとに,教材の全体構造図を作成する。こ の段階で,社会科ハイパーメディア教材の設計理論(データベース,チ ュートリアル,ハイパーテキスト,マルチシステムの4つの理論。後述。) を選択し,全体構造を決定する。. (6)知識モジュールの決定. ハイパーメディア教材の全体構造が決定すると,具体的に教材を開発 していく。しかし,知識ベースと取材資料だけでは,教材を「どのよう な知識を,どのようなメディアで,どのような方法」で開発していくの か具体性に欠ける。そこで,知識ベースに基づき,知識モジュールを作 成する。. 知識モジュールとは,ノードのようにメディアや知識が細かく分割さ れたものでもなく,知識ベースのような基本概念でもない。その中間に 位置するものである。つまり,教材に位置づけるべき知識と活用するメ ディアの形態を含んだ構造化されていない状態のまとまりを言う。次の. 図は,実際の教材の設計において用いた知識モジュールの一部である (表1)。. 30.

(35) 表1:知識モジュール 知識内容と活用メディア 知識モジュー. 自動車生産. 生産の努力や工夫. 1. 工場立地. 2. 工場における. 工場での. 週休2日(文). J働条件. ゥ動車生産(V). Q直交代制の生産(文). …. P日の生産台数(文). 3. oブレス. プレス機(写). vレスの様子(V). 4. 5. 溶接. 塗装. ボディー溶接(写). ロボット使用の利点(文). 鴻{ット溶接(V). 闕?ニの溶接(写). 錆止め塗装(V). ロボット使用の利点(文). {ディー塗装(V) {ディー塗装(写). 0内は活用メディアの種類を表す。 この知識モジュールは,自動車工場の知識ベースと自動車工場の取材 資料を基本にして作成している。横軸は,知識ベースに基づいた自動車 工場の知識内容である自動車生産に関する知識,生産の努力や工夫に関 する知識,工場に関わる知識などを位置づけている。縦軸には,教材で ある自動車工場を構成する要素となる工場立地,労働条件,プレス,溶 接などを位置づけている。そして,このマトリクスに従って,実際に取. 材した資料と活用するメディアをプロットしていくのである。この知識 モジュールの作成を行うことで,教材に位置づける知識内容と活用メデ ィアが混沌とした状態から,知識内容が偏ることなく具体的にまとめる 31.

(36) ことが可能になってくる。よって実際の教材の設計は,この知識モジュ ールを基本として,ノードへの分割とリンクを行っていく。 (7)ノードとリンクの決定. 全体構造図に沿って,各教材の知識モジュールからノードへの分割を 行いリンクの技法を決定する。ノードとは本来結び目の意味であるが,. ここでは教材のフレームを意味し,映像,写真,グラフ,地図,テキス トなどの多様なメディアが選択された状態で1枚のフレームにまとめた ものである。. ノードへの分割は,知識モジュールをさらに細かく分割する方向で行. う。つまり,1枚のノードにまとめられる知識とメディアを選択し,上 位のノードと下位のノードに分類しておく。. ノードが決定するとノードとノードをつなぐリンクの方法を決定する。 具体的なリンクの方法は,ボタンによるリンク(button),テキストによ るリンク(text),隠しボタンによるリンク(hiden)が挙げられる。ボタン. は実際の画面に配置したボタンから他のノードヘリンクするものである。. テキストは画面の文字から他のノードヘリンクするものである。隠しボ タンは,画面上には見えない状態のボタンから他のノードヘリンクする ものである。. 一32一.

(37) 具体的に開発した教材の画面を例に挙げて示しておく(図2)。. ■囲■弼謝■囲翻■四■皿■■■霞函駆剛四. 、∴襲∴,・嘉。誌.=ξ 豊田市の中心を走っているのが東 名高速道路です。この高速道路や. テキストによるり. 産業道路をつかって、豊田市に多. ンク。実際の画面. くの部品を運んだり、完成した自. 動車を近くの港まで運んだりしま. では赤い文字で表. す。. ぎ譲. 華示している。. 1箸. 1響‘一. _凋. ドこ’羅{」一=. 鯵一 ・・:,ド1‘. ゙1 Q. 趨・一. 、11 ド 、1 ,,/:・li ’ 1 ;一9ト ,]”L,:・/,a;,,,/ ・ 11 ” L://::,:.,, ”trrf //.i.” hII・II■II l I「」1幽そ.≡.’「㌧ IFI ・I. I. 一 一. 諏1為藷謡言繍篭、1臨藤雇蕪福=淫盤彗壷繍il奮闘紬墨㌧1・L’.瓦憂ぎ蛸1・瞠.藤.轟、,蜜. ボタンによる リンク。. 隠しボタンによる リンク。この写真. の中に5ヶ所のボ タンが隠されてい る。. 図2:ボタン・テキスト・隠しボタンの例 ・一. @33 一.

(38) なお,知識モジュールを基本としたノードとリンクの決定には,次の ようなシートを用いた(表2)。実際の教材開発に用いたシー,トの一部 である。. 表2:ノードとリンクを決定するシート ノードとリンクの技法・方向 ソユー 1. 一“ P. センーノー. 工場立地. 自動車組立・T→. 「工場. lB↓. フ、色 :T→. 2. 工場におけ. 髦J働条件 3. ←T:自動車生産(V):. }. ゥ動車工場iB↓. ウ門(写)i. oブレス. lH→. t 溶接. @. :H→. i. lH→. ←B:プレス機(写)lT→ ォTl. l. 1←B:ロボット使用(文) lT→. 牽. ォT: ↑Tl. 平面図(図)l. @. 12直交代制(文)1←T・工場の広さ(V渥. ↑Tl溶接(写). ゥ動車工場1. 塗装. @ 樋休2日(文)レ. ・T→. F. 4. “∵場の遠景(v}. iH一. ゥBi錆止め塗装(V)i↓Tl. 1 l. :. 10内は活用メディアの種類。Tはテキストによるリンク,. ↑Tiポデ仁塗装(写)1. 囁#Qツト塑搬⊥㌃達. Bはボ. タンによるリンク,Hは隠しボタンによるリンク,→はリンクの方 向を表す。. センターノードとは知識モジュールから導き出される教材を構成する 中心資料を意味する。ノードはセンターノードと関連する知識を含むフ レームを意味するので,センターノードに比べより具体的になる。. 横軸には知識モジュールから分割するノードを位置づけ,縦軸には知 識モジュールとセンターノードを位置づけた。そして,ノードとノード. をリンクする技法をB(ボタン),T(テキスト),H(隠しボタン) で表し,リンクする方向を←で示した。知識モジュールを分割し,ノー ドとリンクの技法をシートにプロットしていくことで,教材に位置づけ. 一 34 一一.

(39) る知識内容と活用メディアが明確になり,かっ,開発する教材の設計が 容易になる。. (8)教材の設計図の作成・教材開発 知識モジュールに基づきノードとリンクが決定されれば,具体的な設. 計図を作成する。詳細は第m章第3節∼5節における教材の構造図を参 照されたい。なお,ハイパーメディアの設計にはフローチャートのよう な統一した表記方法がないため,全体の構造,活用するメディア,リン クの方法が分かりやすくなるように表記している。. 以上のように,社会科ハイパーメディア教材の設計は,教材研究から 知識ベースの作成へ,知識ベースから全体構造図の作成と知識モジュー ルの作成,そしてノードとリンクの決定というプロセスを経て行う。こ のプロセスは,教材における知識内容と活用メディアを,混沌とした状. 態から段階を追って次第に明確化していく過程である。よって,この方 法にしたがって社会科ハイパーメディア教材の設計を行うことで,教材 の知識内容が広範囲に位置づき,質の高い教材の設計と開発が容易にな ってくるのである。. 第2節 社会科ハイパーメディア教材の設計理論. 社会科ハイパーメディア教材の設計は,端的に言えば「どのような知 識を,どのようなメディアで,どのように構成するか。」ということに. つきる。教材に位置づける知識を偏らないものにし,知識内容と知識の 媒体となるメディアの関係をより明確にしておくために,第1節では社. 35.

(40) 会科ハイパーメディア教材の設計の方法について述べた。本節では,学 習者が自由に課題を設定し,主体的に学習を展開できる多様なリンクの 方法,すなわち教材の設計理論について述べる。. 1.社会科ハイパーメディア教材の設計の視点 社会科では,ビデオ,写真,グラフ,地図,図表,文字等の実に多様 なメディアを活用する教科である。よって,社会科ハイパーメディア教 材の設計理論について述べる前に,社会科の授業においてどのようなメ ディアの活用の傾向があるのか考察しておく必要がある。. 社会科における学習形態は一斉学習による教師主導型と個別学習・グ ループ学習による子ども主体型に大別できよう。実際の授業において,. 教師は単元や1単位時間の指導でこれらの学習形態を,様々に組み合わ せて授業を構成していくのである。この2つのタイプの学習形態におけ るメディアの活用について考察してみる。. 教師主導型の授業において活用されるメディアは,その提示方法や構 成方法に,強い順序性が見られる。つまり,教師はより質の高い知識の 獲得をねらい,学習内容に沿って教師自身がメディアを選択し,提示順 序に意味を持たせた単線的・系統的な活用を行う。しかし同時に,子ど もの興味関心に応じた学習形態はとりづらくなるという問題点が生じる。. 特に,時間軸のあるビデオなどの映像資料は,教授側から学習者側へと 常に一方向の活用に終始していた。. 子ども主体型の授業において活用されるメディアでは,その活用方法 に順序性がみられなくなってくる。つまり,学習課題に沿って子ども自 身がメディアを選択するが,各メディアを関連づけて思考することが少 ない並列的・独立的な活用に終始する。しかし同時に,子どもの興味関. 一36一.

(41) 心に応じた学習形態はとれるが,種々の資料を関連づけて思考すること が困難になってくるという問題点が生じる。以上のように,教師主導型 の授業と子ども主体型の授業では,メディア活用の傾向には相反した要 素が存在する(図3)。 教師主導型 単線的 系統的. 学 習 形. 並列的. 態. 独立的. 子ども主体型. 低. 高 興味・関心への適応性. 図3:学習形態と興味・関心への適応性からみたメディア活用 理想とする学習は,教師と子ども,子どもと子どもそれぞれの相互作 用により知識の質が次第に高まり,それが子どもの中に定着していくも のであろう。子どもが教師やまわりの子どもに働きかけ,その応答によ って自ら思考し学ぶという双方向性が重要なのである。そして,その媒 介として教材が存在し,多様なメディアが活用されるのである。その意. 味では,メディア自体にも学習者との相互作用が必要となってくる。子 どもが自らの興味・関心に沿った資料を必要とするとき,即時に応答し 資料を提示する。提示された資料をもとにさらに子どもが思考を高めて いく。子どもが教師,子ども,メディアといった環境に働きかけること. 一37一.

(42) によって,より高度な学習が可能になってくるのである。しかし,社会 科の授業におけるメディアの活用には,このような相互作用は保障され ているとは言い難い。上述したように,学習形態の側面と子どもへの興 味・関心の適応性から非常に大きな相反する要素が存在するからである。. そして,これは現在のメディアの限界性によるものであろう。このよう な問題性を改善する意味から,多様なメディアを自由に構成できるハイ パーメディアの存在の意義は大きい。. では,「ハイパーメディアで学ぶ」観点に基づく汎用性の高い社会科 ハイパーメディア教材において,主体的学習を保障する設計理論にはど のようなものが考えられるのか。社会科におけるメディア活用の傾向と 関連させて述べる。. まず,子ども主体の学習形態に視点をおくと次のように考えられる。. 子どもが自由に活用できる並列的・独立的なメディアの構成とし,なお 種々の資料をある程度関連づけて思考でき,映像資料等の双方向的活用 が可能なリンクの方法(データベース構造)が考えられる。 次に,教師主導の学習形態に視点をおけば以下のように考えられる。. 学習課題を教材に位置づけ知識を確実に伝達できる単線的・系統的なメ ディアの構成とし,なお子どもがある程度自由に活用でき,能力や興味 ・関心に応じた双方向的活用が可能なリンクの方法(チュートリアル構 造)があろう。. そして,子ども主体と教師主導の学習形態のどちらにも属さず,双方 のメディア活用の問題性を埋める視点からは次のように考える。学習者 が自由に課題を設定し探求を進めることが可能で,しかも,種々の資料 を関連づけて思考し,双方向的活用が可能なリンクの方法(ハイパーテ キスト構造)があろう。. 一38一.

(43) さらに,これらの3つのリンクの方法を多様に組み合わせることで,. 学習者が多様な構成形態によるメディアを双方向的に活用しながら課題 を把握し,解決を図ることが可能になるリンクの方法(マルチシステム 構造)があろう。. 以上の4つの考え方に基づき,社会科ハイパーメディア教材の具体的 設計理論について述べる。. 2.データベース構造の設計理論 データベース構造は,子ども主体型の学習形態に視点をおき,子ども が自由に活用できる並列的・独立的なメディアの構成とし,なお種々の 資料をある程度関連づけて思考でき,映像資料等の双方向的活用が可能 な教材の設計理論である。この構造は,多様なメディアにより種々の資 料が並列的・独立的に構成されるが,教材の知識内容に沿って階層性を 持たせた構造となっている。. 資料集や教科書などの教材では,学習者は必要な情報を選択するため に,索引をさがしたりページをめくったりする作業を行わねばならない。 つまり,紙による情報の媒介のため学習者が瞬時に必要な情報を活用で. きにくい側面がみられた。さらに,ビデオなどの映像情報はVTRの台 数などのハードウェア面での制約があり,ビデオ教材はその目標に沿っ てシーケンシャルに構成されているため,学習者にとって必要な情報を 瞬時に引き出すことが困難となっている。. しかし,ハイパーメディアでは,ビデオ,写真,音声,地図,グラフ,. 図表,文字等の情報をコンピュータで扱うことができる。よって,これ らの多様な情報をコンピュータで扱うことにより,学習者が必要な情報 を自由に選択できるという双方向的活用ができる教材の開発が可能にな 一39一.

(44) ってくる。特に,ビデオや音声など学習者がより認識を深めやすい情報 を組み込むことができる点は有利であろう。. 具体的には前述の知識ベースをもとに知識内容ごとに資料を分類し, さらに分類した資料を知識モジュールをもとに整理しておく。そして,. これらの資料を階層的に配置すればよい。そのことで,学習者は瞬時に 興味・関心に応じた資料を選択できると同時に,知識内容に応じた階層 性から複数の資料を比較・検討することが可能になるのである。つまり この構造は,コンピュータによる種々のメディアのデータベースという べきものである(図4)。. データベース構造の教材を十分に活用するためには,学習者に強い意 欲や目的意識が必要となろう。学習者の目的意識が薄ければ,どのよう な資料を選択しても,各資料を関連させて思考することができないから である。よって,データベース構造の活用には,学習目標の設定や学習 意欲の喚起などと:密接に結び付いていることが重要な条件となろう。. 選択メニュー. 分. 分. ゙ 類 ? 項 レ. 目. サブメニュー 分 @ 分. @類 @ 項 @ 目. ゙. 類晒. 〕[百’ 、. サブメニュー 分 ’ 、. レ 目. _.ノー一ご=._ド.._学習に必要な各資料. Oラフ,写真,映像. n“など 図4:データベース構造. 40.

(45) 3.チュートリアル構造の設計理論 チュートリアル構造は,教師主導の学習形態に視点をおき,学習課題 を教材に位置づけ知識を確実に伝達できるメディアの構成とし,なおか っ子どもがある程度自由に活用でき,能力や興味・関心に応じた双方向 的活用が可能なハイパーメディア教材の設計理論である。この構造は,. 学習内容に沿って資料の提示順序に意味を持たせた,単線的・系統的な 構造になっている。しかし,順次提示する資料の中で関連する資料をリ ンクさせておくことで,学習者への興味や関心にある程度自由に対応で きるようになる。. 教師主導型の授業では学習課題が明確に位置づき,そのメディアの活 用は教授側から学習者側へと学習課題に沿って一方向に提示される。こ の活用形態は,知識伝達には有効であるが子どもの興味・関心や能力に. 適応することは困難であった。しかし,ハイパーメディア教材では双方 向に学習を展開でき,子どもの能力に適応したメディアの活用が可能に なる。しかも,教材の構造が単線的・系統的になっており,必要に応じ 関連する資料をリンクさせる構造となっている。よって,学習者はある 程度自由に資料を探索でき,学習内容に沿った順次知識を獲得できると いう特性を備えている。. 具体的には,知識ベースに基づいて分割した知識モジュールをセンタ ーノードとし,それを順序性に従って配列する。そして,必要に応じて. 各センターノードに1次ノード,さらに2次ノードへとテキストやボタ ンを介してリンクすることで,学習者の興味・関心に適応することがで きるのである(図5)。. 41.

参照

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