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一がいる。」と答えている。これは,組み立てのノード(図14)と流 れ作業のノード(図10−1)を関連させて思考した結果である。

図14:組み立てのノード

 被験者Hは,2つのノードから課題を設定した後(28、29),自動車の 組み立ての一連の工程を学習する(30〜39)。そして,製品検査1を経 て部品納入,メーター生産,シート製作,ジャストインタイムのノード へ至る(38〜44)。このジャストインタイムのノード(図15)から

「なぜ,時間きっかりにシートを持ってこないといけないのか。」とい う課題を設定するのである。

図15:ジャストインタイムのノード

被験者Hは「(ベルトコンベヤーが)動くときにひとつの部品がないと 車が作れない。ベルトコンベヤーが止まって作業ができないから。」と 答えている。これは,被験者Hがこのノードで課題を設定するまでの,

自動車組み立ての一連の工程の学習が生かされているからである。つま り,流れ作業が自動車の組み立てに非常に重要であることを意識してい るからこそ,このような課題の設定が可能になったのである。

 以上のように被験者Hは「自動車工場をたずねて」の学習のプロセス の中で複数のノードを関連させて思考し,その結果3っの課題を設定し ているのである。

 以上のような活用実験の結果から次のようなことがいえる。ハイパー テキスト構造の教材は,多様なメディアによる多様な知識が非単線的,

非並列的,非階層的にリンクされている。つまり,データベース構造の ように並列的・独立的でもなく,チュートリアル構造のように単線的・

系統な構成でもない。両者の特性を合わせ持ち,関連する知識内容とメ ディアを含むノードが緩やかにリンクされているのである。

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 このような構造を持つ「自動車工場をたずねて」の活用実験で,3名 の被験者は次のように教材を活用していった。被験者Eは,データベー ス構造とチュートリアル構造の教材からは課題を設定できなかった。し かし,ハイパーテキスト構造による教材では,複数の資料を関連させて 2っの課題を設定し答を導き出したのである。被験者Gは,チュートリ アル構造による教材の活用と同様に,ハイパーテキスト構造の教材でも 具体的な映像情報を有効に活用し課題を設定した。被験者Hは,教材を 活用する中で有効に学習を進め,導きだした3つの課題すべてにおいて,

複数の資料を関連させて思考していた。このように,複数の資料を関連 させて思考し設定したと思われる課題は,11名の被験者が設定した課 題29のうち20にのぼる2)。

 これらのことからハイパーテキスト構造は,学習者にとって多様なメ ディアによる知識を複数にわたって比較・検討し思考することが容易な 構造であることは明らかである。多様なメディアによる知識を複数関連 させ思考することは重要なことである。学習者自身の思考に深まりがで てくるからである。ハイパーテキスト構造の教材は多様なメディアで多 様な知識が緩やかに構成されている。よって学習者は自らの興味・関心 にしたがって,深まりのある知識の探索を進めることができるといえよ う。しかもこれらのことは,とりたてて強い目的意識や学習意欲の喚起 が必要なくても可能なのである。

4.社会科ハイパーメディア教材の実験結果の考察

 以上,3つの設計理論によるハイパーメディア教材の活用実験の結果 について述べた。データベース構造は,多様なメディアによる多様な資 料を階層的・並列的・独立的に構成する,資料集的なハイパーメディア       一 163 一

教材の設計理論である。チュートリアル構造は,多様なメディアによる 資料を学習課題に基づいて単線的・系統的に構成する,いわば本のよう なハイパーメディア教材の設計理論である。ハイパーテキスト構造は,

多様なメディアによる多様な資料が非階層的・非単線的に緩やかに構成 する,双方の特性を兼ね備えたハイパーメディア教材の設計理論である。

この3つの設計理論は,社会科における現状のメディア活用を視点とし ている。データベース構造は,子ども主体の授業におけるメディア活用 の視点から,学習者が多様なメディアを主体的・双方向的に活用でき,

なお複数の資料を関連づけて思考させることをねらっている。チュート リアル構造は,教師主導の授業におけるメディア活用の視点から,学習 者が多様なメディアによる資料を課題に基づいて系統的に学習でき,な おかっ学習者の興味・関心に適応することをねらっている。ハイパーテ キスト構造は,子ども主体と教師主導の授業形態におけるメディア活用 の相反する要素を埋める視点から,学習者が課題を導き出し興味・関心 に沿って,主体的に複数の資料を関連させて思考することをねらってい

る。

 データベース構造の教材「自動車のまち豊田市」の活用実験では,次 のような結果が得られた。学習者は自分の興味・関心に沿って資料を選 択し学習を展開した。しかし,選択した資料を複数関連させて比較・検 討することは困難であった。学習者に教材活用の目的や視点がなかった からである。これは,階層的に資料を分類し並列的・独立的にリンクす るデータベース構造の特性が原因と考えられる。よって,データベース 構造の教材を活用する場合には,学習者に強い目的意識と学習意欲の喚 起が必要となる。

 チュートリアル構造の教材「自動車の開発」の活用実験では,次のよ

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うな結果が得られた。学習者は系統的に提示される自動車の開発に関す る資料を順に選択して学習を展開した。そして,系統的なリンクの中で 学習者は興味・関心に応じて教材を活用した。これは系統的・単線的な リンクの中にも,関連する内容について複数のノードをハイパーテキス ト的にリンクしていたからである。この複数のノードをリンクする構造 から,学習者は複数の資料を比較・検討し思考したのである。しかし,

学習者の設定した内容は,複数のノードをハイパーテキスト的にリンク させた内容に偏る傾向がみられた。

 ハイパーテキスト構造の教材「自動車工場をたずねて」の活用実験で は,次のような結果が得られた。学習者は,非線形的・非系統的に緩や かにリンクされた多様なメディアによる多様な資料を,主体的に選択し 学習を展開した。そして,学習者のほとんどが複数にわたって資料を関 連させた思考を行ったのである。さらに,学習者の導きだした課題の内 容も広範囲にわたっている。

 以上の実験結果に基づいて3つの設計理論の特性を,学習者が複数の 資料を関連させて比較・検討する視点と学習者の設定した課題内容に関 する興味・関心への適応性の視点からまとめると次のようになる(図

i7)o

165

チュー

ハイパーテキスト

データペース

トリアル

     低      高       資料の関連性

図17:資料の関連性からみた社会科ハイパーメディア教材の設計理論     の特性

 学習者がどれだけ複数の資料を比較・検討できるのかという視点から は,ハイパーテキスト構造が最も有効であり,データベース構造はその 並列的・独立的な構成から難点がみられる。同様に学習者の興味関心の 視点からは,ハイパーテキスト構造による課題内容が最も広範な内容を 含み,データベース構造においては課題の設定自体が困難であった。こ のことから,複数の資料の比較・検討や興味・関心への適応性に難点が みられるデータベース構造については,授業などの教材以外の外的要因 によってこれらのことを補う必要がでてくる。また,複数の資料の比較

・検討や興味・関心への適応性が高いハイパーテキスト構造については,

外的要因に頼ることなく学習者の興味・関心や複数資料の比較・検討が

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可能である点から,より質の高い知識の獲得を目指した授業展開の可能 性がでてこよう。

 データベース構造とチュートリアル構造はこれまでの社会科授業にお けるメディア活用を背景としている。その隔たりを埋める視点から,ハ イパーテキスト構造が存在する。このことから,3つの教材設計の理論 に基づく本教材は非常に活用の幅が広い汎用性の高い教材であるといえ る。しかも,多様なメディアによる多様な知識を,学習者が主体的・双 方向的に活用し,深まりのある学習が可能になるのである。

<注>

1)田中博之 「子どもの情報能力を育てるマルチメディア学習システム の開発」大阪教育大学研究紀要 第IV部門 第40巻 第2号(1992年2

月)P.144,

2)「自動車工場をたずねて」の活用実験において被験者の設定した課題 29のうち複数の資料を比較・検討したと考えられる課題の番号は,1

A一

@3, 5, 7, 9  一 1 1, 13 A一 1 5, 1 8, 20  v2 3, 2 5, 2 7,

29,30である。

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