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第5節 第2次授業の総括
子どものメタファー表現を生かしつつも、「電流が回路の中を一定方向に流れ、
そして一定に保たれる」という範囲での科学的な概念に賛成する程度には、子ど も達の概念を転換させたいというのが第2次授業の目標の一つであった。
詳しくは次章に譲るが、結果としては第2次授業ではある程度この目標が達成 できたように思える。かなり多くの子どもが循環説に賛成するようになった。こ こでは、この結果をどう見るかについてもう少し掘り下げてみたい。
一つはモデルの提示そのものに関してである。
モデルを提示するのは結局教え込みではないかという疑問がある。いくら子ど ものメタファーを生かして記述をし、子どものメタファーに対応する形でモデル を提示したにしても、モデルを構築する段階で、子ども達の方から、「こういう モデルはどうか」といった提案は出てこなかった。そこで曲がりなりにも子ども がモデルの提案ができるのであれば、モデル提示も意味が出てくるが、そこまで 高まっていない子ども達にモデルを提示しても、それは子どもにとって「何だ。
これは。」と思われても仕方のないものではないだろうか。結局子どもは信じ込 むしかなかったのではないだろうか。
とは言え、子どもの素朴概念からは少し離れたところにあった科学的な電流概 念をあからさまに教え込むことにならないように、最大限の努力はした。とにか く子ども達は、モデルを生かして予測をし、一部の応用課題を中学生達よりも高 い割合で解決したのである。子ども達が自分でモデルを構築できなかったが、そ れを使うことはかなりできたと言える。今回の授業で採用した教授方法は、子ど ものメタファーを生かすことで、できるだけ教え込みにならないように科学概念 121
を獲得させる「橋渡し的な教授方法」の試みであったと位置づけられるかもしれ
ない。
現段階では、教え込みであったかどうかという問にはっきりと答えることはで きないが、方向として教え込みにならないように工夫したことは確かである。そ
して、それは一定の成果を収めたとだけは少なくとも言える。
二つ目は、モデルの危険性についてである。
モデルやアナロジーの危険性については、十分意識して指導した。電流に関す る全ての事象が、一つのモデルで説明できるわけではないことも授業の中で触れ た。ただ、口頭で触れるだけでなく、子どもとの対話の中で、アナロジーの破綻 を経験させ、子ども自らそれに気づかせる手法も考えられていいように思う。
Glynnが提唱するアナロジーによる教授TWAモデル35では、そうした実践が 奨励されている。その実践をかいつまんで述べてみる。
子どもにモデルと実際の電気回路の各要素の対応を指摘させ、アナロジーによ る推論をさせる。しかし、あるところまで行くと教師はわざと対応できない点に ついて子どもに考えさせる。例えば、導線の一部を切断したとしたらどういうこ とが起きるかというような問である。水流モデルで考えていた子どもは、果たし て「電気が外に漏れ出す」と答える。そこで教師は、アナロジーが万能でないこ
とを知らせる。子どもは、もしそうならアナロジーによる推論は使うべきではな いと反論する。教師はそこで、アナロジーには有用な面と危険な面があることを 説き、科学の分野でも貢献してきたこと、他の教科にも応用できる強力な道具で
あることを知らせるのである。
このTWAモデルは、7学年生を対象にしたとあるので、日本で言えば、小学 6年生か中学1年生の辺りであろう。かなりスムーズに流れているようであるが、
実際の授業でここまで子どもが理解を示すとはどうも考えにくい。しかし、アナ ロジーはどこかで破綻することを子どもが了解した上で推論に使用するなりし ないと、概念転換どころか、よく指摘されるところのミスコンセプションの原因 となってしまう。今回の授業では、具体的にアナロジーによる推論が誤った方向 に子どもを導いた場面はなかったが、十分に留意すべき点であることは間違いな
い。
一方、アナロジーの破綻を科学概念の発展に生かすという研究があることは前 にも述べた。今後、アナロジーの破綻という点に関しては、一つの研究課題とし てとらえていきたい。
三つ目は、発熱現象を説明するモデルの開発についてである。
電流のさまざまな振る舞い、電気回路の構造などを最もよく写像できる優れた モデルは、水流モデルである。水流モデルは、肯定的なアナロジーを最も多く含 122
んでいるのである。その水流モデルの弱点が、発熱現象である。水流モデルでは、
どうもうまく説明できない。説明が付けば、水流モデルは、かなり強力な推論の 武器となる。
そこで、水流モデルで発熱現象が説明できないかと考えたのが次のモデルであ る。これは実際の授業場面で使う機会がなかったが、今後その有効性を検討して みたいモデルである。
図6−31水流を利用した発熱現象の説明モデル
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このモデルは、「熱」を「ガラス管の中の水面の上昇」に写像する。熱を目に 見える形で示すために、水温の上昇で測る実験がよく行われるが、その応用とも 言える。熱を測定可能な水面上昇の距離で表せると言うところの特徴がある。
これを使うには、子どもがこのモデルそのものをよく知らなくてはならない。
よく知った上で使うならば、水流モデルの一つの発展型として利用できる可能性
がある。