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〈予測に関するワークシート〉

電流を強くすると、発熱のしかたはどうなるだろうか。

※モデルを通して予想してみよう。

         ア 水のようなもの

◎もし電流が、  イ ビー玉のようなもの          ウ チェーンのようなもの          エ その他〔      〕 電流が強くなるというのは、

     何      どうなる

 このワークシートに書き込む際には、教師の方から、一つ一つわかるように解 説しながら、推論がうまくいくように助言した。

 そうして行った推論は、そのほとんどが妥当なものだった。妥当とは、電流回 路とモデルの対応する要素の関係付け、電流回路の各要素間の関係付け、そして モデルの各要素間の関係付けにおいて、正しく行われたということである。

 さらに、「推論の結果、電流が強くなると電熱線はより強く発熱するだろう。」

と予測した子どもは、86書中70名。あとの16名も、より弱く発熱する(冷 たくなる)と答えたわけではなく、問題に正対して答えを書かなかった子ども達

である。

 子ども達の多くにとっては、このように有効な推論を導き出すためのはたらき をしたと言えるのではないだろうか。この後実際に推論の通りになることを観察

した子ども達は、「やっぱりね。」「思った通りだ。」と満足げであった。第1次授 業で、「おもしろかった。」「○○くんの考えはなるほどと思った。」などの感想が 多かった。第1次授業と第2次授業の子どもの反応を比べてみると、推論したこ とを実験で確かめられたときの感動は、推論のみで終わるときよりも、理解の度 合いからも、心情的な面からも大きいもののように思われるのである。

 以上のことから次のようなことが言えるのではないか。

 モデルを通した推論を行うと、条件によっては、子ども達に電流に関わる 事象を科学的に予測させることを可能にする。その条件とは、観察・実験に

よって確かめる活動を推論の後に位置づけること、そして子ども達の、比喩 的推論の熟達度に応じて、教師が支援することである。

(2)電流モデルについて

   これまで小学校においては、電流に関するモデルを提示する授業はそれほど行   われてこなかったはずである。小学校においては、現象をとらえることが学習の   中心になるからである。現象の背後にある、目に見えない電流の振る舞いを考え   るような活動は、そのねらいからしてあまり行われない。

   しかし、中学校における電気単元は、小学校に比べると格段に抽象度が高く、

  6年生までに抽象的な電流概念に関して学習してこなかった子ども達にとって、

  かなり理解の困難な単元の一つである。このことは前に述べたとおりで、これが   本研究の一つの問題提起であった。

   ただ、第1次授業において、子ども達の電流に関する経験の少なさから、子ど   ものメタファー生成を積極的に奨励しても、なかなか比喩を構造化できず、結果

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的に科学的な電流理解に十分に導くことができなかった。

 そこで、メタファーを生かしつつ事象の記述を行い、素朴概念について葛藤を 起こさせた上で、子ども達自身に受け入れられる可能性の高いモデルを提示する 授業を行った。これが第2次授業の主眼である。ここでは、それぞれのモデルが 子ども達にとってきちんと意味づけできるかが重要になってくる。

 実際の授業では、子ども達はモデルと電気回路の対応する要素をきちんと指摘 できた。それを利用して正しく電流に関わる事象を予測できた。さらに、応用的 な課題の解決にかなりの好影響を与えた。一方、応用課題の一部には、十分に生 かし切れずに、解決することができなかった。

 このような経過を見てみると、子ども達にとって今回提示したモデルは「電流 は一方向に流れ、回路に於いて一定に保たれる」という宣言的な知識を獲得する のにかなり有効な手段となり得た。しかし、子ども達の知識は、まだ十分に応用 できるほど構造化していない。そのことに対しては、今回1回限りのモデル提示 は、それほど貢献していないということが言えるのではないか。

 もう一つモデルに関する重要な観点は、電気回路に対してどの部分が写像でき、

どの部分が写像できないかを子どもが指摘できることである。

 この観点に関して言えば、モデルそのものはかなり単純化していて、肯定的な アナロジーを子どもは指摘できる。しかし、否定的なアナロジーを同時に指摘す る場を設定すれば、モデルの提示は、科学的な電流理解にさらに貢献する可能性 があるのではないだろうか。

 Heywoodらが重要視した「アナロジーの破綻」はまさにこの点である。子ど も達は、そのモデルで説明できない事象に気づいたときに新たな探究を始める。

理解を促すと同時に、疑問を生み出す。そういう役割を引き出すようなモデルの 提示の仕方が今後求められると思う。

 以上の点をまとめると、次のようなことが言えるのではないか。

● 子ども達にとって今回提示したモデルは「電流は一方向に流れ、回路  に於いて一定に保たれる」という宣言的な知識を獲得するのにかなり有  効な手段となり得たが、その知識を応用できるほどの構造化には、それ  ほど貢献していない。

● 提示の場面において、肯定的アナロジーのみならず、否定的アナロジ  一を指摘することが、さらなる電流理解につながる。

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第4節 事後調査   1事前調査との比較

    子ども達の電流概念について、事前調査と事後調査を比較したデータ(図6      −25)を示す。

電流概念の事前事後比較(第2次授業)

 80

 70

 60

 50