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小学校理科における子どものメタファーを生かした概念形成に関する研究 : 第6学年「電流のはたらき」の授業を通して

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(1)小学校理科における子どものメタファーを生かした概念形成に関する研究 一第6学年「電流のはたらき」の授業を通して一. 教科領域教育専攻 自然系(理科)コース. 衣 笠 高 広. 1 問題の所在. 本研究は、これらの研究における授業プログ. 子どもは理科授業を受けるが、実は子ども達. ラムをを小学6年生に適用し、二つの方向の授. の見方は授業によってあまり変わることはない。. 業を比較検討することで次に示す日的を達成す. このことに関する知見はこれまでしばしば報告. ることを目指すものである。. され、筆者自身も感じるところであった。電流. 2 研究の目的. に関わる単元も同様のことが言える。電流に関. 科学理論における比喩的な側面を踏まえ、理. する素朴概念が何ら変わることのないまま中学. 科授業において比喩を生かすことを前提にした. 校に進めば、彼らは中学校の電気に関する学習. とき、いかなる授業が考えられるか、その可能. に困難を感じるだろう。. 性を追究する。. そこで、小学校においても概念的に電流を取. その一環として本研究では、小学校6学年理. り扱う必要があると考える。その際、有効な手. 科「電流のはたらき」の学習指導において、メ. 段となる可能性があるのが比喩である。科学概. タファーを生かす二つの手法「子ども自身が生. 念の学習における比喩的な側面の重要性を指摘. み出すメタファー表現を生かす授業」と「アナ. する研究はしばしば目にする。. ロジーやモデルを概念の教授に利用する授業」. 比喩は科学の歴史の中でも重要な役割を演. を試み、科学的な電流概念の形成に関する指導. じている。また、中学校教科書等にも登場する。. 上の条件を明らかにする。. しかし、本研究では単に概念理解においてわか. 3 研究の方法. りやすさを与えてくれるだけの比喩にとどまら. まず、1998年1月に、子どものメタファ. ず、Posnerらのいう概念転換の条件をクリアさ. ーを生かした授業実践を行った。次に1998. せうるものとして授業に生かすことを考えた。. 年5月にモデルを科学概念の教授に利用する授. この点について実際の教授に比喩を生かし. 業実践を行った。これらの授業において、子ど. た研究があるが、課題も残されている。これら. もの実態を調べ、授業で取った手だてとの関連. は、比較的年齢の高い者を対象に行われている。. を見ながら、科学的な電流概念の形成に関する. また、比喩を生かす方向は大きく二つある。子. 指導上の条件を明らかにすることにした。. ども自身が生み出すメタファーによる表現を理. 4 第1次授業. 科授業に積極的に生かす面を強調する研究と、. この授業のねらいは、科学の営みを経験させ、. 教師によって吟味されたアナロジーやモデルを. 科学とはどういうものかを知ら章ることである。. 概念の教授に利用する面を強調する研究である。. また手だてについては、子どもが生み出すメタ.

(2) ファー表現を生かすことが中心となる。. 割の子どもが科学的な電流概念(循環説)へと. 具体的には、電流による発熱現象を観察した. 転じた。各事象は概念的な葛藤を引き起こすこ. 後、目に見えない電流の振る舞いを子どものメ. とをねらった課題で、ほぼそれぞれの事象のね. タファー(雷のようなもの・粒のようなもの・. らい通りに概念は克服されていった。. 水のようなもの等)を生かしながら、描画によ って表現させ、お互いの見方の交流を通して、 電流概念を発展させるというものである。. この授業では、電流による発熱を、電流を大 量の粒、発熱を網と粒との摩擦熱で説明する例 など、発熱現象の中ではとりあえず破綻点の少 ない、アナロジーの生成が一部見られた。. 授業過程における電流概念の遷移. 80 70 60 50 人 40 数 30 20 10. 、. 、. 、. 、. 0. 、. ㌧、. 、 、 、 、. 、. 、. 、. 、. 、 、. 、 、 、 、. 、、. 、. 、 、. ㌔. ;甕. 、 、 、 、. 、. 、. 、 、. 、. 、. 、、 、. 、. 、. 、 、. 、 、. 、 、. 、 、. 、 、. 、. 、. 、. 、. 、. 、 、 、 、. 、 、 、. 、 、. ㌧. 、 、. 壽 〒 篭 箋 覆 字 農 計. この授業では次のような結果を得た。. 列. 授業場面. ●発熱現象に関して、電流と抵抗的なものとを. 関係付けてみる見方が育った反面、電流の流. またモデルを利用した事象の予測を通してモ. れに関する衝突説等等の:克服の面では、それ. デルの有用性を感得させ、その後に行った応用. ほど変化は見られなかった。. 課題の一部に関しては、全国中学生1000名. ●科学の営みを経験させる意味で、メタファー. よりも良好な結果を得た。. 表現を生かしながら事象の記述を行う学習活. 6 結論. 動は有用であった。. ●小学6年生を対象にした、「子ども自身が生. 5 第2次授業. み出すメタファー表現を生かす授業」は、発. 第1次授業の課題として残ったのは、子ども. 熱現象の記述に限定して、メタファーを生か. 達の経験や知識が十分でないことから、メタフ. して考えることを奨励するという条件を満た. ァーを構造化し、アナロジー的なものにまで十. すことによって、科学の営みを経験させ、科. 分高めることができなかった点である。第2次. 学とはどういうものかを知らせるねらいを達. 授業では、子どものメタファーを生かしつつも、. 成できる可能性がある。. 確実に科学的な電流概念を獲得させることがね. ●小学6年生を対象にした「アナロジーやモデ. らいになる。. ルを概念の教授に利用する授業」は、二六フ. そこで、子どものメタファーを生かしながら. ァーを生かした事象の記述を通してメタファ. 事象の記述を行い、概念的にある程度の発展を. 一の構造化を図り、モデルを受け入れやすい. みた時点で、モデルを利用し、モデルを生かし. 状態に高めた上で、モデルを提示し、さらに. た事象の予測・応用課題の解決などの手だてを. 予測や応用的課題の解決をするといった条件. 取った。. を満たすことによって、科学的な電流概念の. この授業では、次のグラフのように、各授業. 形成というねらいに寄与する可能性がある。. 場面(事象の記述)を経るにつれ、子どものミ. 主任指導教官. 山下伸典. スコンセプションは克服され、最終的には約9. 指導教官. 松本伸示.

(3) 学位論文題目. 小学校理科における子どものメタファーを生かした概念形成に関する研究. 一第6学年「電流のはたらき」の授業を通して一. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科. 教科・領域教育専攻 自然系コース. M97606H 衣 笠 高 広. 主任指導教官. 山 下伸 典. 指導教官. 松本伸 示. 本研究の一部は、. 日本理科教育学会:第48回全国大会(平成10年8,月3日∼5日 長崎大学). 日本理科教育学会近畿支部大会(平成11年2月6日 京都市青少年科学センター) において発表を行った。.

(4) 第1章. 問題の所在_.._.._.__..___._.,...._._..._._._..._.._..._.__.。.._........._..,....5. 第1節. 電気単元指導上の問題..____..___.__._._......._.._..___.___.__.._.._....。一_5. 第2節. 電流に関する一般的な代替枠組み_.____...____._._____.._____._._5. 第3節. 小学校と中学校のギャップ,.____.__.___..._...._.....___..._...__._._。..._._一..._.6. 第4節. 電流概念を取り扱う授業の必要性__._._._..._.._....__.._._...,_........_._..___一_._.6. 第2章. 理科授業におけるメタファーの意義..........._...._..__....._.__...._..._._...._._._.7. 第1節 第2節. 科学概念の学習における比喩的な側面の重要性_____._.____.__._.____.__.7 アナロジー・メタファー・モデル・メンタルモデル.。._.___._._...._...__.._._一.,_...._...8. 1 アナロジー___..._,_.,_..__一...,,_,_,_,_.,._.._._.__..._.,_..._....__,,_.____.__8. 2 メタファー______.______。___.___..___..__.___.___,______..._.9 3 ぞデ:ノ玩_____.____.__,__.____....___.__.______,______.,___._10 4 メンタルモデノ玩_.,__._,..._..._.__....__.....__一._._.,.._。.__..._.._._,,_.ρ__._一9_.刀. 第3節. 科学概念の比喩的な構成_....__._.___.__._._..__..._.,____。__.◆__._.._._。_.12. −1. 科学多とノ君喩の縣._,_.,.._.,._,_._..,......_..,._.._.._...,_.。_.,.9._._,..σ._...._._._.__._12. 2四四の蝦1∼ごおしグる此喩.._._.__.___,..______._____._9.__.____..______13 第4節 理科授業に比喩をどう生かすか,_._._..._.._._........._._......_.__........__._.____..14. 1 灘書ノごノ諺ら,∼Zる此鍮_.,.____,__ρ.___.__._...______,_,__.___,_____.._..Z4. 2. ノオ喩を∠靖づ∼プ,虐蝶の一二っ4)方向_...___.__,_..._._._._._._,_._._.__..___,.17. 3 概念蕾灘こおノプる5θ雌81θ”θ蝦6θゴ釦∂1卿の葡性___..______.______..____18 4 子ど甑独βの欝練とアナロジーの娚._.__._...___.___._____ρ._.______.,19 第3章 研究の目的_....._._...。....._...._._.___._......._._.._._..。._.___..._._..._22. 第4章. 研究の方法______...______,______.._。_____.._.__.. 第1節 第2節. 研究方法の概要_.. ..22. 調査のインストルメンツ.._. .24. 1 第1次諜.____.._____,..______ρ______.______._.__.. 2. .曾.曜.......◎.22. __9.__....24. (1) 電流概念の変容の調査_. .24. (2) メタファーの変容の調査____,.__._.,. .24. (3) メタファーと形成された電流概念との関連___. .25. 窮2次蝶_____.____.__._.___,__,____,__,.____.__..___ (1) 電流概念の変容の調査_.._____.__._.一,._____.._,...,..。._.___... (2) 授業過程における電流概念の変容__....______ 第5章. ...._.9_..,..,.,26. ,26 .26. 子ども自身が生み出すメタファー表現を生かす授業..._..._一....__._一_........ 1. ............,..◎28.

(5) 第1節. 1. 調査・授業対象__._.._..,.._...._..__.__..._.._.......9..._.__..G......._,_.__,._...99._29. ヌプ劇瞳.σ___....._.9...9.9.._...._._._,_,_,_....,._._._.__._._9_.___,._._,..,_..,,.__29. 2」労元,_____._._____.__.____..______..______...__.____.__.___29 (1) 単元名__________.___._.,___.,..._..,__一._._.,_.__.__,..__.,,.___,..,___29 (2) 指導計画__.._._。_..._._._.__.___,___._.__..__.._._一__,.____.__...,.,._,._,29. 3 」三元齪の混翅___,______.___._.__.______.___._.__.____,_._.30 第2節. 事前調査._.___._.___.__._____._...__.___._.__.__..______...31. 1 斑のβ!級び方法___.______.____.__.__.___._,,_._____.___.,___31 2調聯ま契_____._.,_____,_.__.___._._____..___.___..______....,___32 (1) 電流の流れに関する素朴概念__,_,_,____._._,_.._..._,__._._一_。_.,.___._.._._.32 (2) 電流による発熱に関する素朴概念_,._...,_.,.__._、__._._._._....__._._,_._..,_.____.32 (3)電流に関するメタファー.,_,,,,_.__._..,,_.___,,,_.,_.,.._一_._,,_._..__,_。__...,_.._,..,.34. 第3節 1. 授業における子どもの電流概念_.._.___.___.__.______.._____.__.36. ぐβグじ,老∠醐多ま易ゲ〃、ノを∠亟Z日日6ク蓮〃、〉を∠・“クノ謬τ〃、るが航...._....,...r.....,.........._.,._,..,..,..._....、..,.36. (1) 学習活動のねらい_____,____,..,_...,..._.,,_..,,_.___._.___.,.__._._.,_,__.._,36. (2) 〈閉じた回路と開いた回路の違い〉への子ども達の見方.._.________.._._,,.__.,__._._,37. 2. 〈導搬の質∼こ:dζる発1光の仕方の淫’シ、〉をどう月でいるか_..__.__,____..___.__._._..40 (1) 学習活動のねらい...._.....,__..._.,_一一_._._..,.._一__._._.._一._..__..__.._一,,._._._.,,一40. (2) 〈導線の質による発光の仕方の違い〉への子ども達の見方___..__.._.._._._..,__,_.__....41. 3. ぐ轍の費’〆ごよ’る秀禦の両方の蓮’〃、〉をま“ラ児でいる,か.__,.___.___,._._____,___44 (1)学習活動のねらい_.___._.,,,,.._...._..__,_,..,__.,.._._._,_......__.._____..__._..,._44. (2) 〈導線の質による発熱の仕方の違い〉への子ども達の見方.._一....一,,,._一.,_._,_,..._.,_,._._,._45. 4 ぐ翻の強さκよる燃の仕方の薗ウをどう児で〃るか____._____1_.____48 (1)学習活動のねらい__._..._._一.___._,,____._..__.._,__。_._...._._,__._,,...,,_..._.48. (2) 〈電流の強さによる発熱の仕方の違い〉への子ども達の見方..___...__一.,._,_,_.....__._._,,49 5. 〈’翫の強(iざと轍の質灘デ4こdζる莞「燕の蓮〃、〉をどう見でレ、る2ラ).....__.._._......,......__54 (1)学習活動のねらい_._._,,,._._._._._、_.__、..__.._._,.,.._._.__,__.,_._...,_..,,_._._..54. (2) 〈電流の強さと導線の質双方による発熱の違い〉への子ども達の見方______,_____.,_54 第4節 事後調査______.__.___。______.______._..____.______..,64 1. 写舅)養鯉と專後講6クL比較,...,......_.,.。_._..._,......._,,,,..,..,....9_.,..._._..._._._..._.__..。64. (1)電流の流れに関する概念の変容..._,__.,__,.._..,_.,_.__....__一___.__..,_,_._.,,_,,_64 (2) 電流による発熱に関する概念の変容.,_...,。,_。,._..__._.,_.._..._._._._....,_一_.__......『.__.67. (3)電流に関する子どものメタファー_____.___.__.______.______.._____70 (4)子どものメタファーと電流概念との関連____._.______._._____._____.__71. 2 学翌終ア髪の子どもの露羅念____,______,9__”____.____.__,______73. 2.

(6) (1)乾電池貯蔵庫モデルとの関連_.___.__,『.._._._...._..___,_._._.__.__.__,._..._.,.__73. (2) 電流が強くなることをどう理解したかということとの関連..._..,_.__._._._...__..._,_.._._...75. (3)電流の流れやすさをどう理解したかということとの関連。,..___..._._._._._._.,,..,.__._.__..76 第5節. 第1次授業の総括_.___..___...__._。_.___..._..._.__.__.....。。____.__._._.78. 1 」皆業との翻点からの偲拷_._____._,__.___,_._____一_.,______._.___._,解. 2研紐〃ク翻点力⊃らの羅i括P9_9.___..___._____.._._,_.____.______99______79 第6章. アナロジーやモデルを概念の教授に利用する授業.._...._......_.....__._..___....._.84. 第1節 調査・授業対象.____._._∴.____。._.____.______.______.____85 1 慰劇腫_____.______.__.__._._..____.__.__.____,______.___.85 2.単元___.__._._____,.__.____..._,_____..___.___..___9___.____._.85 (1) 単元名____.______.__一._....___,_...,__._.,..____.__._._,,,,_._.__.__85 (2) 指導計画,._____,.___.,__.__...__._.,_一__...._,...._,_._..._._,__..__.__,._,..,_85. (3) 単元選定の根拠.__.,_._一._.._._._._,.,_._._,_,_.__一_._.._.._.__.._..______一_..86 第2節. 事前調査__...__._..__.._..._....._一._,__.__......_....6_.._..__....◆____.__..87. 1 細6つβ「級乙べZ気∼装,._.___.σ___._____._...,______..___.___.____.__.._.87. 2訪笠練_____.______._____,._.__,___._.______.__.____.__,_88 (1) 電流の流れに関する素朴概念_一,,_,.___._.___,_.__._一,._._.._,._._.._..._._.._.._..88 (2) 電流に関するメタファー_.._.___,,__,__._._..,_,_......__.__._,_..,,,._.,._,,_..,,_.89. 第3節 1. 授業における子どもの電流概念______.______.._____.._____._◆_90. 孝壊の謎の局面〆乙おγプる子どら6z)児方..._,..レ...............,.r............,.._,..,..,.....,.....,...,....P.9.....。..91. (1) 単純な電気回路への子どもの見方______...._,,,__,._,..,__,__.,___..___._._.__91. (2) 回路の開閉課題のおける子どもの見方..___.__.,_.__..___.,_____,____,,__,.._..g4 (3) モーター課題における子どもの見方__._____.._._,._.._,__._______.,__.._,__,.97 (4) 乾電池直列課題における子どもの見方__...『_...,,._一_...一.__.,____._..__._._,_,__,_.gg (5) 電流計課題における子どもの見方_.__.__..,..._._....._._.._...._.__._._....__._.._.._....101. (6) 手回し発電機課題における子どもの見方._._一一,._..._.._..,._..,.__._,.一.,。..,..____一_一_._103. 2 翫ぞテン礎示の局面_._,._,..,..__._.._._._”_....__......_,___,_....._._,__....103. 3 齪のよる秀辮に欝ナる予卿の局颪____一._____._.______.__.____..___106 4ノ胡7の局面____.._._____σ______..,____.__.._____.._g__.__.__,___107 5礫鰭の考禁「_.___.___.__._.___.___....______.____.ρ__.______.,.,111. (1)予測の段階への比楡的表現の位置づけについて___..__._._____.__.___。____._112 (2)電流モデルについて__一.,.__._.____.____.._,_._..___,._,_.__._一,,___.一.._._114 第4節. 事後調査__..∴.__._.__...._.__.__.___._,.._._.._..一.__.._...__._._._.._.....116. 1 葡纏「との比較____,______.____.__..___,.__,_._____.______116. 3.

(7) 2. 蝶遺1程ノこお!プる翫欝の聯多_._._...._,._._,.__..,_....,_..,__.._...._._.__._._,117. 第5節 第7章. 第2次授業の総括______.______.______.______.______.__玉21. 第1次授業と第2次授業の比較検討_._...__..._..._一_...._.._............._._........124. 第1節. 科学的な電流概念への転換_一_。___.______.______.._____.。____124. 第2節 子どもの電流概念の様相__..___._____...______._____.。_._____.127 1 抵拗なノ冠方_._,,_.__..._._.._....._.._._.___.._...._,_σ_...σ9,..,_._._,_,._,_.,._,_,.Z27. 2翻6ク継:拶1鋤詑∼ごつ〃、て∵..__,__.__.__..____._,__.___。__.__,__σ__.___128 3 翫の強(ざ〆ごつ〃、で...._..の.....9._....._..._.........,_.。..,...._,..,、......,,...,..._9....._.,.............._,..,129. 第3節. メタファーと形成された電流概念との関連......_....._...__._.._.._._._。_...._._..一.._130. 第8章 研究のまとめ____.__..___.__一。___._.__.______.._._____..132 第1節. 二つの授業の意義と関連する指導上の条件______.__..____。.____一_.___.132. 1 子と祐身身が1生み躍ナメタファー表1現を二生かナ疫業’.,_,_._..,,..._..。._.,..._..,_,._._,...,_..,132. 2 アナ々ジーやぞデ1ノ〃を概徐の教授に瑚ナる麟.__.____._____._.______,_134 第2節. 先行研究からのDIscussloN____..____.__.._____._._____.______.135. 1 勘膨ooげの三二から6ク曲。召58加.___.__.______9____9_._.______...___135 2肋η8の研窃}らの{ガ50α85foη_._____.__..____,,______.____,__.____138 第9章. 結論...._.一...__...._.....__一......_..__一.._._.一._...._._____..._._.......一141. 第10章. 提言___.__.______._._____.._____._.._._______141. 4.

(8) 小学校理科における子どものメタファーを生かした概念形成に関する研究 一丸6学年「電流のはたらき」の授業を通して一. 教科領域教育専攻 自然系(理科)コース. 衣. 笠. 高. 広. 第1章問題の所在 第1節. 電気単元指導上の問題. 電気単元の指導は難しいということがよく言われる。それは、抽象的な観念を用 いて思考することを要求されるからである。たとえば、電圧・電流・抵抗等である。 これらはすべて間接的に計器を用いて計ることはできても、目に見えて観察するこ とができないが故に、子ども達にとってかなりの難物となる。 ただこれは中学校以降言えることである。日本の小学校においては、次のような. 具体的な活動・観察が取り扱われている。1. ●小学校3年. 乾電池にいろいろな物をつないで回路を作り、物の性質を調べる。. ●小学校4年. 乾電池や光電池、豆電球やモーターなどを使い、電気や光のはた らきを調べる。. 忌小学校6年. 電磁石の導線や電熱線に電流を流して、電流のはたらきを調べる。. この活動を見る限り、抽象的とは言えず、そう難しい学習指導ではないような気 がする。事実、筆者がこれまで指導してきた中でのいわゆる業者テストによる評価 では、子ども達の点数が特別低かったという記憶はない。. しかし、ここにも問題がある。それは、「テストで点は取れても、実は子どもの 電気に関する概念はあまり変容していない。」ということである。. 第2節 電流に関する一般的な代替枠組み これまで述べてきたような、子どもはそう簡単に概念転換をしないとの実態を示. す知見は、理科教育研究の中で数多く見られる。Roger Osborne&Peter Freyberg. は、その著書の中で、簡単な電気回路の電流の流れについての子ども達の考え方に 関しての研究を世に出した。それがその後の構成主義的学習論の火付け役になった ことは周知の通りである。. そこでは、「回路のすべて部分で同じ強さを持っているという簡単な回路の電流 についての考え方が、比較的年齢の高い子ども達でさえ、効果的に学習されてきて 5.

(9) いないことを示している。」2とある。いわゆる、電流の流れに関して単極モデル・. 衝突モデル・減衰モデル・循環モデルなどの異なった考え方を子ども達が持ってい ることを、調査を元に示した。. また、David Shipstoneは、電流に関する一般的な代替枠組み3として「電池の ような電気を供給する物があり、電球やモーターのようなそれを消費するものがあ るというとらえ方」があると示唆している。もう少し詳しく言えば、「電気、電流、. 電力、ボルト、エネルギー、ジュース、またはそれに類するものが、電源の中に蓄 えられていて、それらが消費される負荷に流れる。この過程では、負荷が受け取る ものであるとともに、電池は、通常、エネルギーを持つものかまたは与えるものと してとらえられている。ただし、負荷を活動の行為者と見なして、電池から必要と. するものを抜き出して持ち去るものととらえていることもよく見られる。」これら を名付けて「電源一消費者型の枠組み」とShiptoneは呼んでいる。さらに加えて、. 子ども達は状況に応じてモデルを別なモデルに切り替えるという状況依存性に関 しても言及している。. 第3節 小学校と中学校のギャップ このように電気にかかわる概念も例外でなく、概念変換はかなり難しい課題であ る。ちなみに、日本の小学校6学年の電気単元においては、具体的な活動を通して、 「電流は磁力や熱に変わり、エネルギーが変換されると言う見方を育てるとともに、. 電流の性質やはたらきを利用した道具を作ったり、生活に活用したりすることを含 めて、電気のはたらきを意欲的に追求する態度を育てること」4がねらいとなって. いる。しかし、これまで述べてきたような電流に関する代替枠組みを保持したまま 中学校の電気単元を学習したならば、電圧・電流・抵抗などの抽象的概念の理解が かなり困難になってくるのは想像に難くない。. 中学校においては、電流の向き、保存、電圧の配分、抵抗、電力・電力量、電子、. 磁界、電磁誘導などを取り扱う。その学習は、小学校と比べると格段に抽象度が高 くなっている。小学校で、一度も電流に関する概念を取り扱うような学習をしてこ. なかった子ども達に対して、目に見えない電流を想像させ、そのうえ、定量的な実 験・処理もさせていく。こうしてみると、どれほどの子ども達が中学校を終了した 時点で、科学的な電流概念を獲得しているかは、はなはだ疑問である。. 第4節 電流概念を取り扱う授業の必要性 小学校6年の時点である程度、電流に関する概念を取り扱うような学習活動が考 えられてもよいのではないか。そうすることにより、少なくとも「電流が回路の中 を一定方向に流れ、そして一定に保たれる」という範囲内の科学的な心的モデルに. 6.

(10) 賛成する程度には、子ども達を変えていけるのではないだろうか。そのことが中学. 校におけるスムーズな電気単元の学習に一定の役割を果たすのではないかと考え る。. 第2章理科授業におけるメタファーの意義 第1節 科学概念の学習における比喩的な側面の重要性 理科授業において、概念を取り扱う授業の必要性を第1章で述べた。そうした科 学概念の学習を進めるにあたって、役割を果たす可能性があるのが「比喩」である。 科学概念の学習あるいは科学的推論において、比喩的な側面の重要性はしばしば指 摘されてきた。. Posne■らは、概念変換のより急進的な形式を調節(accomodation)と呼び、そ の調節の条件として4つの条件を設定している。すなわち、「既存の概念に対する 不満」「新しい概念はわかりやすくなければならない」「新しい概念はまずまこと しゃかであるように見えなくてはならない」「新しい概念は実り多い研究プログラ. ムの可能性を示唆しなければならない」の四つである。このうち2番目の「わかり やすさ(intelligible)」に関してアナロジーとメタファーの重要性を、彼らは強調. した。その理由は、それらは新しい概念にさしあたりの意味とわかりやすさを貸し. 与えてくれるからであると述べている。5 また、J.OHeadらは、『科学の歴史においては、「として見る」という現象がき わめて卓越した役割を果たしてきており、新しい思考構造の発達のきっかけとなつ てきた。燃焼をフロギストン素の脱出として見ることから、空気から何かを吸収す ることとしてみることへの移行はまさにその一例である』と述べ、認知構造に関す る情報を引き出す際の一つの技法として、『比喩的あるいは類推的用語で自らの洞 察を明確に述べるよう子ども達を励ますこと、及びこのタイプの彼らの自発的な発. 表の収集』6を勧めている。Headらの主張によると、学習者の認知構造の理解に関 して、子どもの経験と表現にもっと注意を払うべきで、「それはあたかも」とか「…. のような」等の比喩的な用語による表現がそれに役立つと考えられる。 これまで述べてきた二つの主張は、「概念転換を促す」「子どもの認知構造を理 解する」などいずれも教育の場面において、直接的に影響を与えるように思われる。 しかし、さらに一歩進んだ明確な主張は、次に示すG.:La:koffとM.Johnsonに よる比喩的概念に関する主張である。彼らは『我々の通常の概念体系は、その大部 分がメタファーによって構造を与えられている』7と述べる。彼らの説に従えば、 科学で扱う概念もほとんどが比喩を通して構成されていると推定される。しかし、. レイコフ自身も指摘8しているように、すべての概念が比喩を通して構成される保 7.

(11) 障はない。そこで、里岡・中山らは中学生と大学生を対象とした「複数の比喩の連 結」を用いた調査によって、「熱」の概念に「心」「恋」「空気」「音」「電気」「太陽」. などによる比喩で構造を与えていることを確かめた。この調査結果から、少なくと. も中学生や大学生のレベルでは日常的な概念や科学概念は、比喩によって構成され る面があると結論づけている。. このように、これまで取り上げてきた議論をふまえると、理科学習の中に子ども の比喩的な表現を位置づけることは、有益な結果をもたらす可能性があると言えよ う。. 第2節 アナロジー・メタファー・モデル・メンタルモデル 科学概念や科学的推論の比喩的側面にかかわる議論でしばしば用いられる用語 に、「アナロジー」「メタファー」「モデル」「メンタルモデル」がある。ここでは、. 中山の説9を中心にして、それらの意味を検討し概念規定をする。そして、小学校 6年生の理科授業に生かす可能性を探ることにする。. 1アナロジー 「アナロジーは、(source dOlnain)から知識を移すことによって、新たに目. 標となっている問題に適用可能な新しいルールを生成するために用いられる」10 理科の教科書では、直流電流を水流に対応させるアナロジーがよく取り上げられ る。たとえば次の表のようである。. 基底領域 (base domain). 目標領域 (target d。main). 電流回路 電流 導線 抵抗. 水流回路 水流 管. 管の細い部分 ポンプ 水圧差. 電池 電圧. 表2−1 アナロジーにおける対応関係 ある学習者が電流回路について水流回路を通して理解しようとする場面を想 定してみる。学習者は水流回路についてよく理解しているので、一つ一つの要素 の関下付けは既によくできている。学習者は例えば次のように関係づける。「ポ ンプで送り出された水が管の中を流れ、管の細いところでは流れにくくなる。こ. のとき、ポンプの両端には水圧の差ができる。これが、水が流れ続ける原因とな 8.

(12) っている。管の細い部分の両端にも水圧の差ができている。」このような基底領 域間の要素の関係付けがあったとして、一つ一つの要素を電流回路の要素に対応 させてみる。すると、水流一電流、管一導線、管の細い部分一抵抗、ポンプー電. 池、水圧差一電圧という関係が成立する。それに気づいたとき、電流回路に関す るこれらの働きが予測あるいは解釈可能になる。これが、アナロジーによる推理 である。. このように見ていくと、アナロジーの特徴は、既知の知識領域から選択された 要素がその内部で関係づけられると同時に、未知の知識領域と関係づけられて、 構造化されるところに特徴がある。. 2メタファー メタファーは、より抽象的でわかりにくい対象を、より具体的でわかりやすい. 対象に「見立て」ることであると瀬戸は述べている。11アナロジーとの意味の比 較で参考になるのは、瀬戸が示した次の説明である。. A:/ Bタフ∴〕、≧ 口:ジと 一=:、諮r;ぞ. i覗一…一一コr=:玩 i笹㍗ i守 i ’、」. し,,〆・’. アナQシ. 図2−1 この図は、メタファーは点対応、アナロジーは面対応ということを示している。. 瀬戸は次のように言う。「たとえられるものA(未知)が、たとえるものB(既 知)との点対応によって理解される一これがメタファー、たとえられるものA(未 知)の諸特質(a、、a2、 a 3…)が、たとえるものB(既知)の諸特質(b、、 b2、 b3…)との面対応によって理解される一これがアナロジー。アナロジーと は、一貫したメタファーの連続的対応のことをいう。」12. つまり、メタファーとアナロジーの基本的な違いは「構造」にある。メタファー がより構造的になったものがアナロジーである。この点について中山は、「メタ ファーは{通常は、一つの特徴を明確にするために用いられるのに対して、アナ 9.

(13) ロジーは、いくつかの特徴が関係づけられたシステムの特徴を明確にするために 用いられるといってもよい。」13と述べている。. 構造という点で違いが見いだせるメタファーとアナロジーだが、「見立て」に 伴う制約という点では両者は共通している。しかし、注意しなければならないの は、メタファーやアナロジーは、「見立て」によって対象の「ある面は際だたせ、. ある面を隠す」という点である。子どもの概念形成にこれらを生かそうとした場 合、際だった面のみが理解されて、結果的に誤った方向に子ども達を導く危険性 もある。指導者としては、メタファーやアナロジーが有効であると同時に「ある 面は隠されている」ことを知った上で用いる必要がある。 コ 3 モ丁ル. モデルという言葉は、一般的には、「型」「模型」「模範」などの意味に用いら. れることが多い。理科教育においては、学習者が感覚的にとらえにくいものをわ かりやすくするするための手段として、例えば天球模型、地層模型、原子模型な どがモデルとして使われている。一方、ある概念をイメージ化するために、上の. ような「物」ではなく、図や式を用いて表したものも理科教育においてはモデル といっている。従って、モデルとは「事象あるいは概念を理解しやすくするため に工夫された表現である。」と広い意味に言い換えることもできる。. モデルの備えるべき条件として、岡田は次の特徴を指摘する。14. ● モデルは、実験や観察による事実を、うまく説明しているものでなくてはな らない。. ● モデルは、予見性に富んだものでなくてはならない。 また、モデルの限界として次のようにも述べる。 ● モデルは実際とは違うため、混同が起こることがある。. 例えば、原子分子を球状と思いこむなどの例のように、実際とモデルの間に対 応関係が必ずしも成り立たない部分があるということである。 これらの特徴には、いずれもアナロジーとの共通点が特に見いだされる。また、. 対象の振る舞いや構造を別の類似物に見立てて表現したものという点では、アナ ロジーやメタファー両方と共通している。. ここであげた特徴に関連して、ヘッセはモデルは理論を作るための単なる補助 手段ではないという立場から、モデルについての議論を展開している。15彼女は モデルを構派する3つの要素を掲げている。すなわち、 ● 否定的アナロジー(類比における異質項). 10.

(14) ● 肯定的アナロジー(類比における同質項) ● 中立的アナロジー〈類比における未定項). これらは、先ほどあげた岡田のアナロジーの特徴と一致する。否定的アナロジ ーはモデルと実際と異なる点であるし、肯定的アナロジーは、事実をうまく説明 する点であるし、中立的アナロジーは予見可能な点である。. ヘッセの説によると、科学理論はこれらのうち肯定的アナロジーと中立的アナ ロジーのみを含むものであると見なされる。さらに、電流の水流によるアナロジ ーのような、否定的アナロジーを含むものも「モデル」であると言う。ただし、. この場合は「モデル2」として、いわゆる科学モデルのようなものとは区別して いる。ヘッセの言う「アナロジー」は、既知の知識領域と未知の知識領域の、個々. の要素の類比による対応関係を表しており、「モデル」が、その全体の対応を表 している。従って、通常の意味での「アナロジー」は、ヘッセの定義では、「モ デル2」として、「モデル」の中に包含されるものとされる。. こうしてみてみると、モデルという概念は幅広い意味内容を持ち、立場によっ てその定義は異なっているが、比喩的な側面が含まれている点では、モデルとア ナロジーは本質的に共通していると言える。. 4メンタルモデル メンタルモデルも、アナロジー・メタファー・モデルに近接する概念である。 メンタルモデルの定義に関連してジョンソンレアードは次のように述べている。 16「その構造は表現する状況の構造に相当する。」このことは、アナロジーと共通. する点である。つまり、対象に含まれる各要素と、要素間の関係が構造的にメン タルモデルに写像しているわけである。. また、ジョンソンレアードは次のようにも述べている。「それは知覚可能な実. 体に相当する要素のみからなり、知覚の上でも想像上でもイメージとして実現さ れる。もしくは抽象概念に相当する要素を含み、それらの意味はモデルを操作す る手続きにきわめて依存する。」つまり、メンタルモデルの各要素は、必ず知覚 可能な実体に対応しているか、もしくは「こう操作すれば、こういうことが起こ る。」「もし∼の場合には、∼すればよい。」という手続き的な形式に依存する抽. 象的要素である。このことは、アナロジーでいうところの要素の写像・関係の写 像と共通する部分である。こうしてみてみると、メンタルモデルにも比喩的な側 面があることは確かである。. さらに中山17によれば、「メンタルモデルは、人間が動的な現象を予測したり説. 明したりする際に、それをシミュレーションするために頭の中に作り上げる内的 なモデルで、しかも厳密なルールのみによる記述ができないものといってよい。」 11.

(15) つまり、モデルに対比して考えると、モデルが対象の振る舞いを記述した物や 式・図であるのに対して、メンタルモデルはそれをシミュレートするための頭の 中の心的過程というわけである。. アナロジー・メタファー・モデル・メンタルモデルという四つの概念に対して、 中山は暫定的に次のような定義を採用している。18 (1) アナロジー:既知の知識領域からいくつかの要素を選択し、それらの. 振る舞いを相互に関係付け、さらに未知の領域の振る舞いと関係づける こと。. (2) メタファー:既知の知識領域の中のある要素と未知の知識領域のある. 要素を対応させること。多くの要素を明示したり関係づけたりせず、1 体1の対応で特徴を際だたせるもの。 (3) モデル:予測あるいは説明を要する対象(自然の事物・現象)の振る. 舞いを、メタファーやアナロジーなどの対応関係を利用して記述したも の。. (4) メンタルモデル:アナロジー・メタファー・モデルを利用して現象を. 予測あるいは説明する人間の心的過程. 4つの隣接する概念に関してとりあえずの定義を示したが、小学生の理科授業 の中にこれらをどう位置づけるかが、本研究にとっては重要である。. 本研究では、第1次授業において子どものメタファー表現を、彼らの電流概念 把握のために生かすとともに、事象の観察や話し合いを通してアナロジー的なも の、つまりある程度の構造を持った電流概念へと高めることをねらった。次に第 2次授業では、子どものメタファー表現から、それを生かした形でモデルを作り、 電流に関するある程度の科学的な概念を獲得させることをねらった。. 第3節 科学概念の比喩的な構成. 1科学と比喩の関係 これまで、メタファーを始め、隣…接する概念であるアナロジー、モデル、メン. タルモデルを含めて考察を進めてきたが、特に科学の分野においてこれらはどの ような役割を果たすだろうか。. メタファーと科学の関係について、瀬戸は次のように述べている。19『一見し. たところ、このような比喩的思考法は、科学とは無縁であるように思える。観察 と実験と厳密な論証に支えられた理論に、メタファーやアナロジーが入り込む余 12.

(16) 地はあるのだろうか。たとえあるとしても、それは、その初期の段階で限られた 補助的役割を果たすという程度のものではないのか。科学は、何よりも真実を目 指す。あやふやな比喩やたとえで満足するはずはないだろう。このように思える 人は、電気が、水の流れのメタファーで説明されるという例をどのように考える. だろうか。いや、これなら、単に教育上の配慮のためとの反論があるかもしれな い。確かに、「電池」は「電気の池」、「電流」は「電気の流れ」、「ショート」は. 「電気の近回り」という説明は、素人向きである。では、原子のモデルを、太陽 系のメタファーに求めたのはどうだろう。また、電気の磁場について考察する際、 ファラデーが磁力を帯びた砂鉄の描く筋模様を使ったのはどうだろう。メタファ ーとアナロジーは、科学的研究の周辺にあったのではなく、常に中心にあったと. 考えてよい。そして、今なおそうである。かつての光の性質についての論争一光 は粒子なのか波動なのか一も、メタファーの論争であった。粒子と見立てたほう がより多くの光の現象を統一的に説明できるのか、それとも波動と見立てたほう. がよりいっそう有効な説明が与えられるのかという争いであった。量子力学の現 在では、光は、粒子でもあり波動でもあるということになっているらしい。』. このように瀬戸は、メタファーとアナロジーが科学的研究のむしろ中心にあっ たと主張する。中心にあったとはつまり、アナロジー的な推論が、科学的な発見・. 洞察・説明において重要な役割を演じてきたということであろう。. 2科学の歴史における比喩 科学の歴史の中においても、比喩は登場する。例えば、17世紀の著名な天文 学者ヨハンネス・ケプラーは「私はアナロジーを何もの以上に大切にしている。. それはもっとも信頼できる教師なのである。アナロジーは自然の秘密を何でも知 っている…」ケプラーは惑星の運動のような天文学的な現象を厳密な自然法則で. 説明しようとしていた。1605年のケプラーの書簡を紹介したSM.Glynnの 論文から引用してみる。20 「私は物理的原因の探究にとりつかれている。このようなことをする私の目的. は天空の機構は神が創造した有機体というよりも、むしろ時計の仕組みににてい ることを示すことにある。つまり、多くの動きが単一の全く簡単な磁気的な力に よって生み出されるという限りにおいて、ちょうど時計のすべての動きが簡単な 重なりによって生じているように…。しかもその上、私はこの自然に対する考え 方は計算と幾何学で示すことができることを明らかにする。」. さらにアナロジーが科学における発見、洞察、説明を支援しているという考え. 方に対する強力な賛意の一つは、イギリスの物理学者N,R,キャンベルが19 20年に公刊した「物理学、その基礎」に登場する気体に関する運動学的理論と. 13.

(17) してのビリヤードボールモデルの記述に見ることができる。. 『アナロジーは理論を確立するための「手助け」ではない。それは全くもって 理論の本質的な部分である。それなしには理論は全く無価値なものになり、理論 という名に値しなくなる。アナロジーは理論の形成を導くけれども、一度理論が. 形成されてしまうとその役割を終え、取り去られたり、忘れられてもよい、とよ く言及される。このような考え方は、全くの誤りであり、とんでもない誤解であ る。』. この他にも、グリンの論文の中には、ジョセフ・ブルーストリーの「電気力の 法則」の提唱にかかわるアナロジー的思考の指摘、また》R,オッペンハイマー の所見などが紹介され、いかにアナロジーが科学的な理解に対して貴重な援助と なるかが述べられている。. このように見てくると、メタファーをはじめとした比喩と科学とは、全く別物 とするのはどうも当たらないようである。これまで、比喩と科学との関係は必ず しも良好でなく、「比喩は文学・言語学にかかわる概念。客観性を重視する科学 とは相容れない」とされる向きが強かった。比喩の持つその主観性故である。. しかし、特に理論やモデルの発想の時点では比喩が影響しているとは言えるよ うである。レイコフとジョンソンは、「優れた科学者の才能は、精密化により広 範囲の現象適合する一連の一貫した自然な比喩を考え出す能力にある。科学にと って、比喩が不可欠であることを認識することは重要である。」21と言う。科学者. の仕事は、事象の観察からその背後にある目に見えないメカニズムを想定し、研 究プログラムを創出し、新たな理論を導き出すことにあるとすると、観察事実の 解釈からメカニズムを想定する段階において、比喩を用いていかにつじつまのあ った法則を考えつくかが必要となってくるに違いない。. また、ラカトシュは、理論は新しい研究プログラムを導くことでその価値が認 められると指摘する。22未知の事象についての予見性を持つことが必要というわ けである。この点で、モデルのうちで観察事実と整合するかどうか不明な部分「中. 立的アナロジー」は重要である。未知の部分についての予測力を持つモデルには 「中立的アナロジー」が必ず含まれ、それが新しい理論に向けての研究プログラ. ムを導出するのである。つまるところ、科学は比喩と別物ではなく、むしろ中心 に位置していると言えるのではないだろうか。. 第4節 理科授業に比喩をどう生かすか. 1教科書に見られる比喩 科学の世界において、比喩は重要な役割を演じていることをこれまで述べてき た。科学理論やモデルには比喩的な側面があることは少なくとも言えそうである。 14.

(18) では、科学教育においては、これまでどのような形で比喩が生かされてきたであ ろうか。もっとも卑近な例は、理科の教科書である。. 電気単元は比喩による解説がもっとも多く見られる分野である。目に見えない 電気に関して、その振る舞いを説明する電流・電圧・抵抗・電子等の概念を獲得 させるのに比喩が有効と考えられるからであろう。. ここで気をつけなければならないことは、例えば人体における循環器の働きを 説明するのに模式図を提示することがあるが、これが果たして比喩といえるかど うかである。比喩を語るときの要素には、未知の領域と既知の領域があるが、そ うした模式図の場合既知の領域が何かというとどうも曖昧になってくる。そこで. 本稿では、粒なり水流なり、既知の領域が構造を持った実物として存在する物に 関して、比喩という概念を適用することにする。これにより、比喩の範囲が限定 され、論の拡散を防ぐことになるだろう。. さて、教科書の具体例を実際に示してみる。. 〈電子の流れで見たオームの法則〉. }電圧. L. 台をかたむけると、球はくいと衝突し、〈いにじゃまされながら動く。この衝突が金属の 電気抵抗に相当し、台の高さが電圧に相当する。. 図2−2 電気抵抗のモデル 大日本図書「中学校理科1分野下」より抜粋 上の図は、電子の流れが、抵抗によって妨げられる現象のモデルである。学習 者が初めて「抵抗」という言葉に出会うとき、その語感から「何かの動きを妨げ るものであろう」というぐらいの理解は示すだろうが、言葉だけの理解では限界 15.

(19) がある。電子を粒に見立てたときのくいが電気抵抗であることを示すこの図の提 示によって、より深い理解に導くことができる。. さらに次のような電気分解のモデルもよく見られる。. 図2−3 電気分解を考える 学校図書. 「中学校理科1分野下」より抜粋. このモデルでは、イオンを人間に見立て、人間という既知の領域における「移 動する」「行くべき方向を見分ける」「人間としては同じでも、ある観点から分類. できる」などの要素をイオンの振る舞いに写像している。人間に関する概念は、. 学習者にとってもっともよく概念が獲得されているものの一つであろう。既知の 領域として何を採用するかというときに、いかによく知っているかは重要である。. さらに典型的な電流に関するモデルとして取り上げられるものに図2−4の ような電気回路の水流モデルがある。. 細覆乳は. 図2−3 電流の水流モデル 東京書籍. 「新しい科学1分野下」より抜粋. 電流の水流モデルは、しばしば教科書に登場する。というのも、対応する要素、. 16.

(20) ヘッセ流に言えば、肯定的アナロジーが比較的多いからである。肯定的アナロジ ーが多いほど、そのモデルは優れていると言えよう。. ただ、これらはすべて中学校の教科書からの抜粋で、小学校の教科書には登場 しない。小学校では、概念を取り扱う学習があまりなされていないからである。 比喩的な解説と言っても、先に述べた模式図的な図解にとどまる。. このように中学校以降、比喩的な記述は至るところに見られる。これらの主た る目的は、「概念をわかりやすくすることjであろう。一通りの学習をして、そ のまとめの段階などに比喩を用いることによって、これまで得た知識を単純化し たり構造化したりして、理解を容易にする手段としての用いられ方が一般的であ る。. しかし、単にわかりやすくなればそれで比喩の役割は終わるかというと、「そ うではない」というのが、筆者の立場である。比喩が科学概念の中心に位置し、. 人間の概念の一部は比喩的であると述べた。そして、構成主義的学習論の立場に 立つならば、子どもは自分が既に持っている概念をそう簡単に捨て去ることをし ない。このような観点に立つと、今既に子どもの中にある概念を比喩の形で把握 し、科学的に発展させることができるのではないか。単に与えるものとしての比 喩の活用にとどまらず、子どもの素朴概念の把握に役立てられないか。また、 Posnerの言う概念転換の4つの段階のうち、 intelhgibleな考え方としてとらえ させる場面に適用できないか。あるいは前段階「dissatisfactionを感じさせる場. 面」や後段階の「plausibleな概念として獲得させる場面」にも適用可能ではな いかと考えるのである。. この点実際に教授活動に比喩を適用した実践的先行研究が存在する。婚衣にお いてその詳細を述べることにする。. 2比喩を位置づけた授業の二つの方向 理科教育における比喩の位置づけとして中山は、「子ども自身が生み出すメタ ファーによる表現を理科授業に積極的に生かす面を強調する研究」と「教師によ って吟味されたアナロジーやモデルを概念の教授に利用する面を強調する研究」 を挙げている。23また、理科授業における比喩の位置づけとして考えられる二つ の方向として指摘しているのは、「現在の科学で容認されている科学概念を学習 者が獲得するために用いる」そして「子どもが自然についての独自の概念体系を 構築するために用いる」というものである。. これらの対応関係を図示すると、図2−5のようになろう。大筋ではこの関係 は成り立つのではないだろうか。. 子どもの生み出すメタファー表現を生かそうとすれば、子どもは自らの考え方 17.

(21) 比喩に関する理科教育の研究 ・》’. ヲい一. 、. 、. 、. 謹. 、. A. 、 、. 子ども自身が生み出すメタフ. @ーによる表現を理科授業に. ♂. @ ’. [やモデルを概念の教授に利用す 髢ハを強調する研究. 、. 、. 比喩を位置づけた理科授業. ・. A. 子どもが自然についての独自の. T念体系を構築するために用い. 、. 教師によって吟味されたアナロジ. マ極的に生かす面を強調する 、、. ㌦こ 、. ご. 現在の科学で容認されている科学’・概念を学習者が獲得するために用、. 顎. 、. 、 、. 、. ∴㍉ @、嵐. 、 、 、 、 、. 『モ’ @ 、. 、. 、. いる. ミ ㍉さ・、、. ュ艶. 図2−4 理科教育における比喩研究の二つの方向 を自由に発展させ、独自の概念体系を構築することをねらう方にシフトしている ように感じられる。一方、科学で容認されている科学概念の獲得には、教師によ って吟味されたアナロジーやモデルが有効であるかのように思われる。. しかしこの点に関して中山は次のように弱点を指摘する。24「現在容認されて. いる科学概念を獲得させるという目標だけで理科授業に比喩を活用するやり方 には弱点もある。それは、子どもにとっての比喩が、単に教え込まれるものにす ぎなくなるという危険性があるからである。子どもが、その比喩の基底領域とな る知識を十分置持ち合わせていない場合には、アナロジーなどの比喩は効果がな いばかりか、子どもにとって負担になる場合すらある」. 子どもが既に対象となる事象に対して、その子なりの素朴概念を保持している とすれば、比喩が単に教えこまれるものになってしまわないようにしなければな らない。そういう意味では、子どもの生成するメタファー表現が、科学者の問で. 容認されている科学概念の獲得という目的のために生かされる道も探っていく 必要があるように思われる。いやむしろ、構成主義的学習論の立場に立てば、両 者は概念転換という同じ座標軸において語られる性質のものかもしれない。. 3概念転換におけるsel仁generated analogyの有効性 Wongは、「selβgenerated analogyの使用は、一中略一概念的な成長を容易に するかもしれない。」と言う。25彼が指摘する有用な点とは、「新しい状況に親し ませる」「個人の事:前知識の詳細において問題を表現する」「基礎となる構造や. パターンに関する抽象的な思考を刺激する」の3点である。これらは、比喩の特 18.

(22) 性を知るならばうなずける点である。さらに彼は、se1£generated analogyを位 置づけた授業により次のような結果を得た。. ① まず、ただ単に問題を解くのと反対で,学生が問題を発見する好機を与え られる。一中略一生徒は,彼ら自身の認識と状態の理解の詳細に基づいて問 題を見いだし、表現する方法を知る必要がある。(学習者自身による問題の 発見). ② 第二に、問題が学習者の事前知識の詳細から出現することから、これらの 質問は学習者にいっそう興味深く、些細でなくて、そして個人的に学習者に 関係がある可能性が高い。(学習者自身の問題意識の醸成). ③第三に、一人一人が、教師のような部外者からの最小の指導によってプリ コンセプションを識別し、対面し、そして解決するようにすることができる。. ミスコンセプションを扱うよう意図されて、学習環境は,生徒が彼らの理解. と現実の間の相違への気付きを確実にするようにしばしば高度に構成され る。(学習者自身による解決). これらは、学習者自身による問題発見と説明の発展を言い表しており、主体的 な学びの過程が、se艮generated analogyによって可能になると言えるだろう。. 比喩を生かした授業には大きく二つの側面があるが、Wongが提案するような、 二つを融合した形も考えられていい。つまり「子どもが自分で生成するアナロジ ーを生かしながら、最終的にミスコンセプションに置き換わる代替的な説明を供 給する」、そういう授業を模索する価値はあるように思われる。. 4子ども独自の概念体系とアナロジーの使用 ここまで述べてきたのは、科学的な概念の獲得をねらう上でのアナロジーの使. 用に関してであった。しかし、理科授業において必ずしも科学概念の獲得を目指 さない場合も考えられていいのではないかという議論がある。. 理科授業で比喩を使用するという前提に立つと、科学的な概念を学習者が獲得 するという目標だけでは、前にも述べた通り比喩が単に教え込まれるものにすぎ なくなる危険性がある。また子どもがその比喩の基底領域となる知識を十分持ち 合わせていない場合には、効果がないばかりか負担にすらなるのではないかとい う危惧がある。. これに対して、学習者が自分なりの説明体系を発見するためにメタファーやア. ナロジーの生成・評価・修正を奨励する授業がある。ここでは、子ども自身が比 19.

(23) 喩を媒介として理論を構築し、自然事象を予測・説明するという科学的な活動に 従事することによって、科学がどのようなものであるかを知ることが重視される。. 例えば、M.Cosgroveは、子どもの電気に関するアナロジーの生成とscience− in−the−makingに関わる研究の中で「概念の生成と発展に従事することで、学習 者はscience−in−the−ma㎞g(Latour 1987)に参加する。そして科学者たちがど. のようにして彼らの知識を構築し、その使用を確信するようになるかを見る。」 と述べている。26. また、Heywood&Parkerは、「Cosgroveが説明するように、科学の学習は、た だ単に教師の科学的な知識を生徒に与えるものではない。むしろ、それは学習者 に、問題の知的な吟味を通して、彼ら自身の考えを生み出すよう奨励することを 含む。これを効率的にするためには、教師は電気の概念的な問題に、子ども達と 一緒に自信を持って携わり、子ども達の探究を奨励し、何が起きているかについ て彼らの考えを構成するのを手伝う熟達を必要とする。」と指摘する。27. Heywoodらは、小学校の教師を対象にしたプログラムにおいて、電流に関す る典型的なアナロジー(人の循環器アナロジー・群衆移動アナロジー・水流アナ ロジーの3っ)を紹介し、これらのアナロジーが思考と学習においていかに有用 であるかを見いだすように学習者(小学校教師)に求めた。学習者は、どういう. 現象を記述するのにそのアナロジーが有用か、あるいは逆に問題があるか、グル ープ討論をした。. この中でHβywoodらが注目したのは、そのアナロジーでは現象がうまく説明 できない点への学習者の気づき、彼らが呼ぶところの「アナロジーの破綻」であ る。彼らは「アナロジーが破綻したとき、問題の発生に有意な増加があった。」 と指摘する。そして「概念的な理解は、アナロジーがベースドメイン(基底領域). からターゲットドメイン(目標領域)までリンクを作ることにおいてもう学習者 を支援しない時、発展し続けることができる。」と言う。. つまり、これまで用いていたアナロジーが快適で安定した状態にあるときは、 探究は停滞するが、ある現象に対して適用できないという不満が発生した時点で、. 探究が発生する。そして、「このような学習者自身の探究過程、あるいは同窓生. と教師と学習者間のself・generated analogyは、 Cosgroveが言うところの science−in−the−ma㎞gである。」と主張する。つまりHeywoodらは、アナロジー. の破綻・アナロジーの生成によって、科学の営みに従事し、科学とはどういうも のかを知ることを重視しているようである。. この中で、彼らは「このような状況(アナロジーが破綻したとき)において、. 他のアナロジーは学習者から進化するか、あるいは教師によって提供されるであ ろう。」と述べている。彼らは、このプログラムの中で学習者に他のアナロジー. 20.

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