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二つの授業の意義と関連する指導上の条件     1子ども自身が生み出すメタファー表現を生かす授業

第8章 研究のまとめ

第1節  二つの授業の意義と関連する指導上の条件     1子ども自身が生み出すメタファー表現を生かす授業

で、子ども自らの概念発展のツールとして描画法を使うには、わかりやすさを与 えてくれるメタファーは有効である。特に、子ども達の電流のイメージは、かな り共通する経験に基づいており、そうした条件の下では、メタファーやアナロジ ーはいよいよ効果を発揮する。このことは、網を用いた障害物で、抵抗・発熱な

どを説明した子どもの見方に、多くの子どもが納得し、見方を変更してきた事例 からも窺える。彼らはメタファー表現に依ったからこそ、その見方をintelHgible

と認め得たのではないだろうか。

 第二の条件は、発熱現象に絞って記述をしたことである。

 発熱現象に絞って記述をしたことの効用を一言で言えば、焦点化によってメタ ファーの構造化が容易になった点である。

 例えば、電流を粒で見立てた子どもが、発熱現象を粒と粒の摩擦や衝突で説明 したり、さらに発展して、網を持ち出して抵抗を説明したり、抵抗の程度を説明 するのに網目の細かさで説明したりなど、要素や関係が徐々に構造化されてきた 事例があった。これは、電熱線部分における発熱現象に絞って、数時間かけて集 中的に検討を加える場を設定したことと関係するのではないだろうか。

 これをさらに広げて、電流の流れとか、乾電池の役割とかの概念形成をねらえ ば、子どもは矛盾を抱えたままで、統一的な説明にこだわることなく、全く別の メタファーを用いて説明したかもしれない。その予兆は、授業においては発熱現 象を粒で説明することに賛意を示した子どもが、事後調査では電流を光のような もので描いていることにも現れている。子ども達のメタファーは未だ曖昧模糊と しており、構造化は容易なことではないのである。

 そうした意味で、メタファーによる記述を発熱現象に絞ったことは、限られた 範囲内において、とりあえず破綻点のない構造化には成功したと言えるだろう。

 ただし、この点は両刃の剣でもある。とりあえず発熱現象に関して満足のいく 説明にたどり着いた子ども達は、それを敷街して回路全体を説明しようとしたと

きに、誤った見方をしたまま満足してしまう可能性もある。例えば、粒の見立て では、「非常に小さな電気の粒が乾電池の中のたくさん貯蔵されていて、それが 乾電池から飛び出していっているのだ。」と乾電池のはたらきを説明できてしま う。乾電池貯蔵庫説は、粒による見立てをしている子どもに多いことも第5章で 報告したとおりである。

 こういう具合に、構造化する範囲を広げようとしたとき、それまでの見方に満 足している度合いが高いほど、それを捨て去ることが困難になる。メタファーに は誤概念助長の可能性が大いにある。このことをいかにクリアするかは今後の課 題となろう。

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2アナロジーやモデルを概念の教授に利用する授業

 第1次授業の成果と課題を検討して実施した第2次授業は、科学的な電流概念 形成に一定の成果を上げた。衝突説を支持する子どもが、全体の60パーセント から5パーセントへ、循環説を支持する子どもが2パーセントから87パ旧年ン  トへと転じたことは、授業の成果だと認められるであろう。

  この成果を得たことと関連する条件は、何だったのかをここで検討する。

 第一の条件は、モデルの提示である。

 第1次授業の最大の問題点は、子どものメタファー生成を重視するあまり、科 学的な電流概念の形成が不十分であったことである。むしろミスコンセプション

を助長した節もあった。

 経験の浅い子ども達は、メタファーを構造化する面においても、べ一スドメン インの検索においても未熟であった。構造化を基礎とした事象の推論は、彼らに

とってレベルの高すぎる認知的行為だったと言える。

 そこで、この問題点の克服のために、いくつかのモデルの提示を授業に位置づ けた。これらのモデルは、将来彼らが電流に関わる事象を記述したり、予測した

りするとき、fruitfulな見方として、概念形成に寄与する可能性のあるモデルで

ある。

  なぜならば、第1次授業において、子ども達の電流概念が科学的な方向に向か  うかどうかは、ひとえにそうした見方を提案できる子供の存在にかかっているこ

とがわかったからである。このことは、第1次授業の3つのクラスのうち、そう した子どものいたクラスの概念形成の様相が、他のクラスとははっきり傾向が違 っていたことからもわかる。科学的な見方を提案できる子どもが仮にいなくても、

科学的な概念形成をより確実に実現するには、モデルの提示を行うことが必要で あると判断した。

 そして、このモデルを受け入れ活用することで、電流による発熱現象の予測や、

一部の応用課題がうまく解決できたことは、モデルの提示が効果を発揮した可能 性が高いと考えられる。。

 第二の条件は、モデルを唐突に提示しない工夫である。

 必要性のあったモデルの提示だが、唐突に提示したのではない。子どもが最初 に表現した各自のメタファーを生かしながら、電流に関わる事象を記述し、当初 見られたミスコンセプションを一つ一つ克服しながら、「では、電流はどのよう な振る舞いをするのか」と新しい電流のモデルを希求する状態に高めておいて初 めて提示した。

 結果的に、このような工夫をした教授方法が、科学的な電流概念の形成に好影 響を与えたのだと考えられる。

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 このことは、子どもの電流概念の遷移を見るとわかる。一つ一つの事象の記述 の過程を踏むにつれて、子ども達は徐々に科学的な電流モデルを支持するような 方向で、概念的な発展をみているからである。

 第2次授業における以上のような条件が、科学的な電流概念の形成に関連して いると考えられる。