複雑な金融捜査を行う際、一方では資金源、他方では真の受益者を把握することが重要です。そし て、その両方を合わせ、当該事件を起訴するために必要な証拠を準備します。
法執行機関は、証拠取得のために金融機関に情報を要求することがあります。この情報は、起訴ま たは法廷に対する口座やその他資産の凍結要請の裏付けとして必要になります。問い合わせは、出廷 命令、召喚令状、捜査令状等様々な形式で行われることもあります。
これらの聴取は、基礎的な捜査テクニックであり、大抵の場合、訴訟手続きや公判が始まる前に行 われます。事件の規模や複雑性、または、適用される法律や規制によって、取調べの範囲や程度が 異なります。また、問い合わせは、他の法域(司法権の異なる国や地域)にある金融機関からの証拠 収集を必要とする場合があります。その場合、法執行当局や検察官は、条約やその他の法的手続きに よって、関係する法域当局からの情報を要求します。
一部の金融機関では、召喚令状や、記録もしくは証言への同様の要請は、“政府がすでに事件の捜 査に着手している”として、更なる検査や捜査は不要であると考える場合があります。これは、特に捜査官 が要請する情報から従業者の違法活動が明るみに出る可能性がある場合、大変危険な見解となります。
召喚令状、出廷命令書、もしくはその他政府からの要請を受領する際、求められる記録もしくは情報 の提出以上の準備が必要です。“召喚令状デュー・デリジェンス・プログラム”の構築と維持が大切にな ります。
金融機関は、政府機関による情報の要請について、調査グループに点検させ、銀行や他の法人にリ スクがあるかどうかを考えなければなりません。
捜査令状
金融機関が法執行機関から店舗の捜査令状を受け取る場合があります。捜査令状とは、裁判所が 法執行機関に対して、ある特定の建物や土地を捜索し、ある特定の種類の品目や情報を差押える許可
を与えることを指します。通常、要請には、犯罪証拠の特定に関する相当な理由を示す必要がありま す。捜査令状は、法執行官によって提出された宣誓供述書に含まれる情報に基づいて与えられます。
捜査令状が執行される際、慌てずに頭を使うことが大事です。各従業者は、一般的に捜査令状が強 制力を持たないと認識する必要があります。捜査令状は、捜索先に立ち入り、物品や情報を差押える 権限を与えるのみで、証言を強いる力を持ちません。従って、多くの場合、誰も尋問に応じる必要はな いのです。
捜査の妨害をしてはなりませんが、一方で、いかなる従業者も、会社の代表者も、進んで協力する 義務を感じる必要はありません。最善の対処は、恐怖心から行動するのではなく、以下のステップを踏 んで対応することです。
■すぐに弁護士を呼ぶ。
■できるだけ早く捜査令状を確認し、その範囲を理解する。
■捜査令状のコピーを求める。
■捜査令状の裏付けとなる宣誓供述書のコピーを求める。当局は宣誓供述書のコピーの提供 を義務付けられていないが、金融機関はそれを見る許可を与えられる場合、捜査の目的に ついて知ることができます。
■捜査官がすべての差押え物品のリストを記録する間立ち会う。捜査官が取っている記録に ついて把握する。
■棚卸リストのコピーを求める。
■捜索の主導を行った法執行機関の捜査管の名前と関係機関を書き留める。
弁護士/依頼者間の秘匿特権やその他の法的特権によって保護される書類やコンピューターの記録 は、普通の記録とは別に書き留めて保存します。特権が与えられる記録は、“弁護士/依頼者間の秘 匿特権”と記されたキャビネットに保管します。
捜査当局がこれらの記録を差押える場合、会社の代表者は異議を申し立て、代わりに、裁判所に保 管されるように提案します。従業者の全員に、捜索に対してどう行動するかが伝えられ、また、法律顧 問が到着するまでの間に捜査当局とのやりとりを行う担当者を任命します。
口座や資産の凍結命令
捜査の過程で、金融機関は、疑いのある犯罪者や資金洗浄者による口座の資金移動や資産へのア クセスを防止しなければならなくなる場合があります。
これは、国の法律および規制によって取り扱われます。通常、法執行機関や検察官は、禁止命令や 裁判所の命令を得て、口座凍結、資金移動もしくは引き出しの阻止を行います。一般的に、命令は、
宣誓供述書に基づいて与えられ、また、宣誓供述書が命令に含まれる場合もあります。この宣誓供述 書が命令の一部でない場合、金融機関は宣誓供述書の閲覧を求めることができ、顧客情報が要求さ れる理由を知ることができます。法執行機関による供述書の提供が義務付けられているかどうかは、各 国の法律や規則によって異なります。また、宣誓供述書が裁判所から入手できる場合もあります(“捜 査令状”に関するセクションを参照)。
出廷命令書および召喚令状
世界中で、マネー・ローンダリングの捜査において、法執行機関がアクセスできる情報量に関する法 律が緩和される一方で、特に厳しい銀行秘密に関する法律があるオフショア・ヘイブンにおいて、一部 の制約が未だに適用される場合があります。しかし、召喚令状、出廷命令書、裁判所の命令により、
金融機関に対して記録の提出が法的に求められる場合があります。
また、捜査対象となる顧客にその旨を知らせてはならないという命令が金融機関に出される場合(ほ とんどの場合そうですが)、金融機関はその命令に従う義務があります。
ジェームス・リチャーズ(James Richards)は、著書「国境を越えた犯罪組織、ネット犯罪、
マネー・ローンダリング:法執行官、監査人、金融捜査管のためのハンドブック」(Transnational Criminal Organizations, Cybercrime, and Money Laundering: A Handbook for Law Enforcement Officers, Auditors, and Financial Investigators)の中で、政府によるマネー・ロー ンダリングの捜査における4つの基礎的な段階について説明しています。以下は、CRC出版社により出 版された本からの抜粋です。
■第1段階—違法活動の特定:政府によるマネー・ローンダリングの捜査の多くは、麻薬取 引、ギャンブル、密輸等、捜査対象者違法活動に関する捜査から始まります。限られた前 提犯罪のリストが使われる国もあれば、すべての重要犯罪が、マネー・ローンダリングの 前提犯罪として扱われる国もあります。捜査官は、適切な規制の下で、当該違法活動がマ ネー・ローンダリングや没収の起因となる前提犯罪であると確認しなければなりません。
多くの場合、マネー・ローンダリングや没収の規制は、洗浄行為を立証するのに、捜査対 象者が“違法活動”および前提犯罪の収益を使った取引に関与したことを示す必要がありま す。また、国の法律によっては、麻薬密輸、詐欺、銀行業務違反、恐喝等、最低でも1つ の前提犯罪から資金が派生したことを証明しなければなりません。
■第2段階—取引の特定と把握:第2段階は、“金を見せろ(麻薬販売代金の出所を明らかに する)”の捜査段階にあたります。多くのマネー・ローンダリングの現地捜査が、麻薬関 連の逮捕や捜査から発生します。通常、末端のディーラーの逮捕が、麻薬取引のサプライ ヤーの捜査につながります。捜査官は、捜査対象者の財務状況の確認と追跡を、以下のよ うに行うべきです。
■捜査令状の執行中に押収された書類:両替の領収書、仲介業務の明細書(多くの場合、
ブローカーの返送用住所が記載された封筒しか保管されていませんが、こういった封筒 は、捜査対象者が保有している可能性のある口座の捜査を開始するのに十分です)、電 信送金、郵便為替の受領書、貸金庫の記録、自動車の記録、クレジット・カードの明細 書、カジノの会員カード、旅行代理店関連の書類(旅行代理店は、オープン・チケッ トの購入およびその販売を認めることにより、マネー・ローンダリングの機会を与えま す)を探します。
■法執行機関のデータベース:資金情報機関(Financial Intelligence Unit:FIU)の
データベースを、すべての金融捜査の出発点とすべきです。
■商用データベース:信用調査所の報告書、法律または法廷訴訟事件一覧表は、起訴され たまたは起訴した証人につながる場合があり、捜査対象者に関する豊富な情報が得られ る可能性があります。
■公的記録:会社の記録、社会保障、破産裁判所の記録、離婚および遺言検認裁判所の申 請、不動産の公的記録が非常に有益な場合があります。
■許可証事務局:自動車の運転記録、結婚許可証、酒類販売許可証、公証人の記録も良い 結果をもたらす可能性があります。多くの場合、ピザ店、レッカー車会社、送金会社、そ の他各種現金中心のビジネスを営む小さな店を介して、不正な資金が洗浄されます。ポ ケットベルや携帯電話を扱う送金会社は、麻薬売人の“ワンストップ”ショップとして利用 される場合があり、注意が必要です。捜査対象者が小企業と関係を持っている場合、捜 査官は、帳簿レビューを検討する必要があります。帳簿レビューの目的は、合法な収益が 裏金と混ぜられているかを確認する、売上および収益比率を他の類似企業と比較する、お よび、取引高を測定することです。これは、購入された商品と報告されている売上との整 合性に関するサプライヤーおよび卸売業者への確認、銀行の記録および預け入れパターン の分析および預金と売上の比較による取引パターンの観察から行われます。
■第3段階—捜査対象者の財務分析:マネー・ローンダリング捜査の対象者が、“正業を営 んで暮らしている”ことを反映した消費性向を示しているかを判定するために利用する ことができるツールがあります。このツールは、“非合法的な”資金源による収益かどう かを判定するために、捜査対象者が“合法な”収益を超える資産を入手したかどうかを表 します。1つ目は、“純資産方式”と呼ばれ、米国の税務当局である内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)が利用し、中でも、アル・カポーネ(Al Capone)という有 名なマフィアに対して適用したことが最も広く知られています。純資産方式は、一般的 に、捜査対象者が明確な資産を有する場合に使用され、消費性向が有形資産の取得お よび処分を反映している場合に役立ちます。合衆国対ソレンティノ(United States v.
Sorrentino)事件で、米国最高裁判所は純資産方式について次のように述べています。“合 理的な確実性をもって被告人の期首純資産を確定し、問題となっている各年の純資産の増 加に、各年の非控除出費を加え、明らかにされている非課税収入を除いた額が、申告され ている課税所得を相当な金額で超過する場合、そして、政府が考えられうる資金源を示す 場合または非課税所得源泉をすべて否定する場合に、陪審員は超過純資産の増加が、申 告されていない課税所得を示すものと推論し、政府は、一応有利な事件とすることができ る。”もし捜査対象者が、明確な消費性向を示す場合、捜査官は“資金源とその利用の分析”
を行う必要があります。これは、消費性向が一時的な性質を持つ場合に役立ちます。分析 の計算式は単純で、未確認の現金=現金支出総額−現金収入総額で表されます。
■第4段階—資産の凍結と没収:多くのマネー・ローンダラー、特にマネー・ローンダリン グのサイクルにおいて仲介者の役割を果たす者は、ある一定期間に資金を蓄積し、その期 間の終わりに資金を分散するため、押収を成功させるためにはタイミングが重要になりま