ビジネスにおける疑わしい取引の兆候について、実証された、完全なリストというものは存在しませ ん。ただし、金融犯罪とマネー・ローンダリング活動の両方に共通する兆候は、数多くあり、それに対 して備えることが可能です。
マイケル・ケルシー(Michael Kelsey) は、ワイドナー大学法学部(Widener University School
of Law) の非常勤教職員であり、銀行のコンプライアンスとAMLの問題に、18年取り組んでいる専門 家です。金融機関は、以下に挙げるような、疑わしい特徴に注意すべきであると述べています。これら の特徴は、以下のような既存のシステムによってすでに検知されている可能性があります。
■ATMの利用:ATMは、その利便性によって、マネー・ローンダラーやテロリストにとっ て、理想的な金融サービスの場を提供してくれます。マネー・ローンダラーは、米国に ある口座を使用して、米国内で預金を行い、そして、別の人物が国外でそれを引き出しま す。また、国内のテロリストにとって、(国外に)旅行する際、口座にアクセスできるこ とは大変便利です。預金口座にさまざまなアクセスがある場合、ATMの悪用の兆候かも しれません。金融機関は、ATMを通した国際的な取引を把握するために、データの調査 を考慮すべきです。
■顧客の転居:毎月転居する顧客、特に顧客の情報から頻繁に行われる転居を裏付ける正当 な理由が見いだせない場合は疑わしいかもしれません。
■予備源泉徴収(Backup…Withholding):金利が発生する口座から、わざわざ政府に源 泉徴収をさせるでしょうか。このような口座には注意が必要です。とりわけ、口座の所有 者の納税者番号が、非居住者の外国人のものや、期限切れもしくは無効になっている場合 は要注意です。
■預金もしくは投資口座の開設:新規の顧客に対して、資金源について質問することに加 え、金融機関は、顧客の最初の取引の経緯についても確認するべきです。特に要注意なの は、国外からの電信送金、通貨代替物(Monetary Instrument)、そして勿論、高額紙幣 を用いた多額の現金取引も要注意です。
■商圏外の話がうますぎる顧客:あなたの金融機関に今現れたばかりの顧客の話がうますぎ るように思われたら、その考えは正しいかもしれません。その顧客の住所があなたの金融 機関から遠く、その金融機関と取引を始める特別な理由がない場合、特に注意が必要で す。顧客の住所により近く、同じサービスを提供できる金融機関があるのではありません か。もしその顧客が事業会社なら、離れた金融機関を使うのは、結局のところ事業の実体 がないことを、あなたが確かめにくいようにするのが狙いかもしれません。新規のビジネ スをとるためなら“何も質問しない”主義の営業員に押し切られてはなりません。
もちろん、予備源泉徴収(Backup Withholding)をされている顧客がすべてテロリストというわけ ではありませんし、住所が金融機関から離れている顧客(話がうますぎる顧客)が、すべてマネー・
ローンダラーというわけでもありません。上記に掲げたのは、より厳しい監視に値するかもしれない“リス クの高い”口座を識別するために、金融機関が参考にできるいくつかの要素にすぎません。AMLコンプ ライアンスの態勢が、このような取引に備え、また潜在的には、犯罪が起きる前に防止することができる ような方策を探す必要があります。
金融関係の複雑さが増し、金融機関を通して資金を世界中に移動する手段が増えるにつれ、マ ネー・ローンダリングの手口はより巧妙になってきています。
2005年10月に、FinCENより発行された「疑わしい取引の届出のレビュー:傾向、助言、諸問題
(SAR Activity Review: Trends, Tips and Issues)に、証券会社での取引開始にみられる犯罪の
兆候について書かれています。口座の悪用を意図した取引もあれば、個人が証券会社に示した投資目 的とは矛盾する方法で証券会社の口座を利用しようとするものもあります。
実例
この分野で報告されている顕著な例は、ある口座に資金を送金したものの、資金を寝かせ たままにしておくというものです。投資口座には利息がつかないものもあり、資産を投資に 回さないのなら、通常は損失です。したがって、投資口座に動きがないのは、証券会社に とってレッド・フラッグと考えられます。動きのない時期が長く続いた後で、口座から突然 引き出された場合に、疑わしい取引の届出の提出が決定されるというのが、よくある例でし た。その引き出しは、小切手を振り出す、ATMでデビット・カードを使う、経済的に明ら かに利益があるわけでもないのに国外へ資金を移動する、等の形で行われます。証券会社お よび先物取引業者等が提出した疑わしい取引の届出(SAR)には、過度な海外への電信送金 が、共通して見られました。初期段階での兆候としては、証券口座開設から1年以内の、
こういった取引に関係する個人が海外へ送金するケースはよくあるということです。カナダ あるいはメキシコとの国境に近い金融機関から、届出がいくつか提出されました。その届出 は、動きのなかった証券口座の資金が、海外の金融機関(カナダやメキシコの)へ、税金逃 れのために送金されていたのではないかという、強い疑いを報告するものでした。
下記の状況は、マネー・ローンダリングを示唆するかもしれません。このリストは完全ではありません が、参考にはなるでしょう。
顧客の疑わしい行動
■顧客が、不自然にまたは極端に神経質な態度をとる。
■顧客が、金融機関の記録保持義務・報告義務について、明らかにそれらを避ける意図を もって相談する。
■顧客が、義務付けられている記録や報告をさせないよう、従業者を脅す。
■顧客が、ある取引について当局への報告が必要だと告げられた後、その取引を行おうとし ない。
■顧客が、従業者に心づけを渡す意思をほのめかす。
■顧客が、隠された思惑を持っている、または、不自然な行動をしているように見える。例 えば、口座の残高が大きいのに、より高い金利を得るチャンスを拒絶する、等。
■政府職員である顧客が、家族の名前で口座を開設する。その口座には、家族の合法的な収 入源とは不釣り合いな多額の預け入れが最初になされる。
■顧客が、現金を数えずに高額の現金預け入れをする。
■顧客が、頻繁に少額紙幣を高額紙幣に換える。
■顧客の現金預け入れに、偽造紙幣や、古いまたは極端に汚れた紙幣が混ざっていることが
多い。
■学生である顧客が、不相応に大きな額の送金や両替を行う。
■口座に、資金のめまぐるしい動きがみられるが、毎日の開始残高および終了残高は、低く 抑えられている。
■取引にかかる通信文が、レターヘッド入りの原本ではなくコピーで届く。
■取引に、よく知られた合法的な金融機関と類似する名前のオフショアの金融機関が関与し ている。
■地図帳や地図にも見つからないような、見慣れない国や島が関係する取引が行われる。
■代理人、弁護士、財務アドバイザー等が、適切な書面(委任状等)なしに、他の人物の代 理で行動する。
疑わしい顧客の本人確認の状況
■顧客が、不自然なまたは疑わしい身分証明書を示す。個人の身元データの提供を嫌がる。
■口座開設の際、個人の身元情報の提供を顧客が嫌がる。
■顧客が、身分証明、照会先、住所を提出せずに、口座を開設する。
■顧客の定住所が、銀行のサービス区域から外れている。
■顧客の電話(自宅もしくは会社)が繋がらない。
■顧客の本人確認に関する情報の使用目的および提出先ついて、顧客が数多くの質問をす る。
■事業会社である顧客が、事業の詳細を明らかにすることや、関係会社について金融機関に 情報を出したり文書に書いたりすることを、避けようとする。
■ローン申込の際、顧客が過去や現在の勤務先の記録を出さない。
■顧客は法執行機関の職員であると主張し、おとり捜査を行っていると言っているが、その 有効な裏付けがない。
疑わしい現金取引
■顧客が、他の顧客と一緒に銀行の店舗に入ってきて、別々の窓口係のところへ行って、報 告基準未満の金額の通貨取引を行う。
■顧客が、500ユーロ紙幣や100米ドル紙幣等の高額紙幣を多数含む、多額の現金預け入れ を行う。
■顧客が、単独もしくは複数の名前で、複数の口座を開設し、複数の現金預け入れを行うも のの、1件あたりの金額は報告基準未満である。
■不正行為から得られた資金が預金されている口座から、顧客が100ドル紙幣で現金を引き 出す。引き出す金額は報告基準未満である。
■顧客が、夜間金庫を利用して不自然な現金取引を行う。特に、顧客のビジネスと不釣り合