各国は次々に、その多くはオサマ・ビン・ラディン(Osama bin Laden)が率いるテロリスト・グ ループ、またはその他のテロリスト・グループにつながる銀行口座に関する国際的な捜査に影響を受け
た結果、テロリズムに資金を供給する金融ネットワークの内部要素を壊すために全力を注いできました。
2001年9月11日のテロ攻撃の後、先進7カ国グループ(G-7)の財務相らは、2001年10月7日にワ シントンD.C.で会合を開き、把握しているテロリストの資産を凍結するよう、すべての国に対して促しま した。それ以来、多くの国が、当局がテロとの関連を疑っている個人および組織の情報を金融機関に 与えて警告することにより、テロ資金供与の阻止に向けた協力に尽力してきました。
G-7各国は、国際的なマネー・ローンダリングへの対抗を目的として1989年に設立され、パリに本拠 地を置く金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)(国際基準の章を参照)を招 集し、2001年10月29日にワシントンD.C.で“特別総会”を開きました。
テロ資金供与とマネー・ローンダリングの相違点と類似点
今日、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与は、同時に語られることが多いのですが、この2つ の間には決定的に重要な相違があることは、あまり認識されていません。事業者が導入すべき対策で さえ、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与の両方に対する対策として機能するように作られてい ます。金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)による2002年の「テロ資金供 与の検知に関する金融機関へのガイダンス」(Guidance for Financial Institutions on Detecting Terrorist Financing)に記載された、テロ資金供与の可能性を示す指標も、マネー・ローンダリング 対策としてすでに確立されているものと大きく異なってはいません。
しかし、この2つは別の犯罪です。テロリストの活動を識別するのに役立つような財務上のプロファイ ルはまだ存在しませんが、コンプライアンス担当者が相違を理解し、マネー・ローンダリングと疑わしい テロ資金活動とを区別するのに有効で重要な相違点は存在します。
テロ資金供与とマネー・ローンダリングの最も基本的な相違は、問題の資金がどこから出ているかと いうことに関係しています。テロ資金供与は、違法な政治的な目的のために資金を使用しますが、資金 自体は、違法に生み出されたものとは限りません。一方、マネー・ローンダリングには、違法な行為か ら得た資金が絡んでいます。マネー・ローンダリングの目的は、その資金を合法的に使えるようにするこ とです。
ジェイムス・リチャーズ(James Richards)は、2005年3月に開かれた、マネー・ローンダリング・
アラート(Money Laundering Alert)の第10回年次国際会議におけるプレゼンテーションで、一部 の相違点について説明しました。彼は、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の元マネー・
ローンダリング対策責任者であり、現在はウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)に在籍しています。彼の 分析に基づき、そして、これらの犯罪の検知を支援する目的で、以下に、世界的に問題になっている2 つの犯罪の相違点に関する詳細な分析を紹介します。
テロリストの資金源は合法的なものであることが多く、このことから、マネー・ローンダリング対策を テロ資金供与に適用すると、重要な法的問題が生じます。国によっては、テロ資金供与は、マネー・
ローンダリングの定義の中にまだ含まれておらず、また、マネー・ローンダリングの前提犯罪として扱わ れない場合があります。したがって、こういった国ではマネー・ローンダリングの防止および抑制の対策 をテロ資金供与に対して適用できない可能性があります。
技術的な面からみると、テロリストのマネー・ローンダリングの手口と、それ以外の犯罪組織のマ ネー・ローンダリングの手口は似通っています。合法的に得た資金に洗浄は不要である、というのは一 見論理的に思えますが、テロリスト・グループにとっては、彼らと合法的な資金源とのつながりを偽る必 要があるのです。それを実行する過程で、テロリストは、犯罪組織の手法に似た手法を使います。例え ば、現金密輸、ストラクチャリング、通貨代替物(Monetary Instrument)の購入、電信送金、デビッ ト・カードやクレジット・カードの利用等です。ハワラ・システムも、テロリストに関係する資金を移動す るのに、一定の役割を果たしています。また、テロリスト・グループのために集められた資金は、通常は ごく一般的な費用(食費および賃料等)に使われ、直接にテロ活動自体に使われることはありません。
テロ資金供与の検知
合衆国に対するテロ攻撃に関する連邦調査委員会(National Commission on Terrorist Attacks Upon the United States)は、2004年の「テロ資金供与に関する学術論文」(Monograph on
マネー・ローンダリング テロ資金供与
動機 ■利益 ■イデオロギーに関するもの
資金源 ■犯罪組織において内部で入手 ■ 自ら資金を供与するグループ内部 で入手 (犯罪活動を中心に集 められる傾向にある)
■ 後援者、資金調達者等外部か ら入手
ルート ■公式の金融システムが好まれる ■ キャッシュ・クーリエあるいは、非 公式な金融システム、例えば、
ハワラ、両替所等 発見のポイント ■ 顧客の財務状況または想定され
る活動からみて不自然にみえる預 け入れ等、何らかの関係を示唆 する、疑わしい取引
■ 関係のなさそうな相手との電信送 金等、取引関係に結びつく、疑 わしい関係
取引金額 ■ 金額は大きく、報告の対象となら ないように、小分けにされること が多い
■ 金額は小さく、通常、報告の対 象とならない金額である
金融活動 ■ 取引関係が複雑であり、シェル 会社、フロント会社、無記名株 式、オフショアの銀行秘密ヘイブ ンなどが関係する
■ 米国9/11委員会によると、作 戦に配備されたテロリストを識別 するための、実務的な財務特性 は把握されていない
資金の流れ ■ 循環的 資金はそれを生み出し
た人物のところへ戻る ■ 直線的 生み出された資金は、
テロリスト・グループやテロ活動 を広めるために使われる
出典:ジェームズ・R・リチャーズ(James R. Richards)
Terrorist Financing)の中で、9 / 11同時多発テロのハイジャック犯も、彼らを財務面で支援した者 たちも、国際金融システムの利用については専門家ではなかったと述べています。彼らは、犯人同士、
または犯人と支援者を結びつける書類の証拠を残しています。それにもかかわらず、彼らは大量殺人に 専念しているテロリストであることはもちろんのこと、犯罪者であることすら露見することなく広大な国際 金融システムの中に紛れ込んだのです。当時のマネー・ローンダリング対策は、麻薬密輸と大規模な金 融詐欺に集中しており、ハイジャック犯らの取引を発見することができませんでした。そもそも、当時の 対策はハイジャック犯らが行っていたような日常的な取引を検知または阻止することを意図していません でしたし、また実際そのような取引を検知または阻止することはできませんでした。
実例
9・11テロのハイジャック犯たちは、彼らの資金を保有、移動、回収するために、米国と 外国の金融機関を利用しました。彼らは主に、電信送金および、海外から持ち込んだ現金ま たはトラベラーズ・チェックの預け入れにより、米国の口座に資金を預けました。彼らの中 には、海外の口座に資金を保有し、ATMやクレジット・カードを利用して米国から口座に アクセスしている者もいました。犯人たちは、ドイツやアラブ首長国連邦の支援者から資金 を受け取りました。また、彼らは米国に来る前にパキスタンを通過した際、カリド・シー ク・モハメド(Khalid Sheikh Mohamed) (KSM) から直接資金を受け取りました。この計 画には、アルカイダ(Al Qaeda) が40-50万ドル程度の資金を出していると見られ、そのう ちのおよそ30万ドルが犯人たちの米国の銀行口座を経由しています。犯人たちは、テロ攻 撃前におよそ26,000ドルをUAEのある支援者に返しています。米国滞在中、犯人たちの資 金使途は主に、飛行機の操縦訓練、旅費、生活費(住居、食費、車、自動車保険等)でし た。さらなる捜査の結果、米国内には主たる財政支援の資金源はなかったことが明らかにな りました。
入手した金融情報を再構成した結果、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:
IRS)と連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation:FBI)は、9・11テロのハイジャッ ク犯たちが、どのように資金を受け取り、資金はどのように口座から引き出されたかを立証 しました。
19人のハイジャック犯は、24の国内の銀行口座を4つの別々の銀行に開設しました。以下 の財務上のプロファイルは、犯人らの国内の口座を調べて明らかになったものです。
口座の特徴:
■口座は、平均3,000-5,000ドルの、現金または現金等価物を預けて開設された。
■口座開設に使われた身分証明書は、外国の政府が発行したビザであった。
■口座は、米国への入国後30日以内に開設された。
■すべての口座が、デビット・カード付きの通常の当座預金であった。
■犯人らは、3または4人のグループで口座を開設する傾向があった。
■口座のうちいくつかは、共同口座であった。