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リスクの評価およびリスク評価モデルの構築

イントロダクション

優れたプログラムを構築するには、金融機関、従業者、顧客に課される法規制の理解が必要不可 欠です。しかし、法規制が存在する一方で、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:

FATF)は英国や米国等の多くの加盟国と共に、法的要件の如何によらず、リスクベースの管理を強く 呼びかけています。

論理的に考えて、金融機関が、マネー・ローンダリング等の顧客によるすべての違法行為を検知する ことは不可能です。しかし、よりリスクの高い顧客や取引を検知し、モニタリングし、報告するシステム や手続きの構築は、犯罪による被害、および政府による制裁や罰則を回避することに繋がります。

リスクベース・アプローチを採るためには、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与に係る特定の リスクに見合ったシステムや統制を採用することが必要です。リスクの評価は、優れたマネー・ローン ダリング対策のコンプライアンス・プログラムの構築にあたり、最も重要な手順のひとつとされます。マ ネー・ローンダリングのリスクがより高い場合は、リスクが比較的低い顧客や国に対するときよりも、さ らに厳格な統制を必要とします。しかし、リスクの高低にかかわらず、顧客の本人確認の検証や顧客確

認(Know Your Customer:KYC)等の統制を適用することで、リスクを軽減する必要があります。

マネー・ローンダリング対策およびテロの資金供与対策においては、次の理由から、規範重視のアプ ローチよりもリスクベース・アプローチの方が適切であると、世界中の政府によって考えられています。

■リスクベース・アプローチは、より柔軟である。マネー・ローンダリングおよびテロ資金 供与のリスクは、法域(司法権の異なる国や地域)、顧客、商品、デリバリーチャネル、

時間軸によって異なる。

■リスクベース・アプローチは、より有効である。企業の方が、規制当局よりも直面するマ ネー・ローンダリングおよびテロ資金供与のリスクをより効果的に評価、軽減できる。

■リスクベース・アプローチはよりバランスがとれている。リスクベース・アプローチは、

従来の“チェック・ボックス”アプローチよりも、マネー・ローンダリングおよびテロ資金 供与対策に関する常識や知的なアプローチを促進する。また、合法的な顧客に及ぼすマ ネー・ローンダリング対策の手続きによる悪影響を最小限に抑えることが可能になる。

リスクの決定要因

組織が直面するリスクは、顧客基盤、地域、商品、サービス、事業規模等、多様な要因によって決 まります。

リスクは動的なものであるため、リスク評価が常に現実的かつ実態と関連性を保つものであるために は、継続的に管理していく必要があります。新しい商品を提供する前に、その商品が悪用される危険に ついて評価することが大切です。

ところで、リスクベース・アプローチとは一体何でしょうか。そして、リスク評価モデルとは一体どのよ うなものでしょうか。以下の質問を通じ、金融機関におけるマネー・ローンダリングおよびテロ資金供 与に対する脆弱性を評価することができます。

顧客に係るリスクとは?

地理的な所在

法域(司法権の異なる国や地域)リスクに係る検討はリスク評価モデルの設計において極めて重要 です。顧客はどの国や地域に居住するのか。顧客企業の本社はどこにあるのか。一部の顧客は、マ ネー・ローンダリングのリスクが高い国に所在しているかもしれません。

地域や国を、マネー・ローンダリングの傾向に基づいて分別するような、明確で独立したシステムは 存在しないため、ほとんどの企業は独自の手法を確立する必要があります。特にマネー・ローンダリン グのリスクを検討する際、英国金融庁、米国外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control:

OFAC)、米国財務省金融犯罪執行機関連絡室(U.S. Financial Crimes Enforcement Network:

FinCEN)、欧州連合(European Union:EU)、世界銀行、国際連合安全保障理事会による法的 な禁止事項や指定事項等の、政府や国際機関によって公表されるテロ、制裁リストから見始めるのは 有効です。また、ある国が金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)の“非協力

国および地域”(Non-Cooperative Countries and Territory:NCCT)リストに記載されているか、

FATFの加盟国であるか、また、マネー・ローンダリング対策(Anti-Money Laundering:AML)の 規制が、国際的なベスト・プラクティスと同等程度か、もしくはその水準に不備があるか等を検討する モデルもあります。

さらに、企業は、問題となっている国の総合的な評価を考慮する必要があります。現金が標準的な 交換媒介物として利用されている国もあり、また、政治的に不安定な体制、および公共もしくは民間 部門における腐敗が目立つ国もあります。さらに違法な薬物の生産地、通過地域として広く知られて いる国かもしれません。では、どのようにそのような国を識別するのでしょうか。米国務省は、年次で 100カ国以上の国のマネー・ローンダリング対策を評価する「国際麻薬取引報告書」(International Narcotics Control Strategy Report )を発表しています。トランスペアレンシー・インターナショナ ル(Transparency International)は、100カ国以上の国の汚職に関して評価した“腐敗認識指数”

(Corruption Perceptions Index)を公表しています。これは、www.transparency.orgで閲覧で きます。主要なニュース、メディアをモニタリングするのもよいでしょう。また、国のリストは更新される ため、3カ月ごとに国のリストをモニタリングする必要があります。また、各国のマネー・ローンダリング の法規制の質や金融業界の強さもリスクの大きさを決める要因になります。

リスクの比較、理解が完了したら、各法域(司法権の異なる国や地域)を下記のように分類します。

■禁止—この対象の国とは一切の取引を行いません。テロ制裁リストに記載されている国 は、取引禁止対象国となる可能性が高いです。

■高もしくは中から高のリスク—対象国との取引は必ずしも禁止されないものの、強化され た顧客管理や高度な取引モニタリングを行う必要があります。例えば、FATFのNCCTリ ストに記載されている法域(司法権の異なる国や地域)に関しては、自動的に高いリスク と見なします。一部の法人では、FATFによるリスク評価を3年を基準に使用しています。

直近3年間を超えてNCCTリストに掲載されている場合、1年につき1ポイント加算されま す。ポイントが大きいほど、リスク・レーティングが高いことを意味します。

■低もしくは低から中のリスク—対象国における事業運営や口座関係を維持することに関し ては、特に支障が見られないため、通常のビジネス・ルールが適用されます。FATF加盟 国は通常、低リスクとされますが、常にそうとは限りません。例えば、ロシアや湾岸協力 理事会の国々(イラク等)は、強化された顧客管理措置の対象となります。

企業がリスク・レベルに基づいて、数値を割り当てる場合もあります。例えば、高リスク国には数値 10 が割り当てられます。その数値は後に、リスク評価モデルにおける他の要因(数値)と合わせて商 品、顧客等の種類に沿って総合的なリスク評価が計算されます。

ビジネスの種類

ここでは、銀行と関係を築こうとする個人、上場企業、非上場企業、ジョイント・ベンチャー、パー トナーシップ、金融機関やその他の様々な種類の顧客について、商品の販売先が誰か、あるいはどのよ うな企業か 、 送金サービス会社、外国の政府職員、旅行代理店、他の銀行、高リスクの法域(司法 権の異なる国や地域)であるか、等を検討します。

リスク評価においては、金融機関や企業が提供する商品やサービスの利用者に関して分析をするこ とが重要です。前述の質問に対する回答に基づき、金融機関や企業が直面するマネー・ローンダリン グおよびテロ資金供与のリスクを評価します。過去に犯罪活動への関与がある者は、高リスクとされま す。政治家やその他政治組織に所属する者に対しては最も高いリスクが付与されることが多く、多国籍 企業の役員よりも高いリスクが設定されます。例えば、銀行がある非上場企業と接触した場合、非上場 企業は大規模な企業に比べて、顧客管理を実施しにくいため、リスクが高くなります。逆に、公開情報 が多い場合、公開情報の少ない小規模な非上場企業よりも、リスクは低くなります。

法律および取引上の構造

マネー・ローンダラーが、信託、慈善寄付、有限責任会社、その他資金の真の受益者を特定しにく い組織等、法人格に身を隠す場合、リスクは一般的に高くなります。マネー・ローンダリング対策の方 針が不十分な国を基盤とする企業に関しては、リスクはさらに高くなります。

その他特定顧客に係るリスクは、商品の引き渡し経路や顧客の紹介方法等によっても決定されます。

商品もしくはサービスに係るリスクとは?

リスク評価において、新規、既存の商品やサービスが、どのようにマネー・ローンダリングおよびテロ 資金供与に悪用され得るかを検討することが重要です。コンプライアンス担当者は、新規の商品やシス テムに対して適切な統制を特定するプロジェクト・チームをリードする必要があります。

自身の会社で提供している商品やサービスのうち、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与に悪 用されやすいものはどれでしょうか。インターネット口座、プライベート・バンキング、送金サービス、株 式売買サービス、年金、保険商品、オフショア・サービス、マネー・オーダー(Money Order)、コ ルレス・バンキング、自動車や不動産等の非金融商品やサービスの販売等でしょうか。

顧客が求める商品の種類に基づくリスク評価は、商品に関連する多くの要因によって計算されます。

リスク評価は、特に、商品がマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与に悪用され得る度合いに依拠 します。金利スワップがテロ資金に利用されるとは想像し難いかもしれませんが、有価証券にはその可 能性があります。それぞれの金融機関の直面するリスクの程度は多様なため、商品の共通採点方法は ありません。

特定の新規もしくは既存の商品やサービスに関する次のような質問への回答を検討する必要がありま す。

■特に高い取引もしくは投資価値を有するか。

■第三者への支払が許可されているか。

■異常に複雑か。

■顧客の適格性について、政府の確認を要するか。

リスク評価モデルには数値を使う場合があります。例えば、潜在的もしくは既存の顧客に対する、各 要因につき、10を最高リスクとして、1から10のスコアが与えられます。複数のカテゴリーを統合し、再 び1から10で表わされる集成値を計算します。1とされた人物に関しては、リスクは極めて低いとされ、