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1 臨床症状(AIDS 関連リンパ腫の特徴)

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AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~悪性リンパ腫~

 HIV 感染後に起こる原発性リンパ腫は AIDS 関連リンパ腫といわれ、持続性全身性リンパ節 腫脹(PGL)との鑑別が必要で、種々の画像診断と病理組織診断が重要である。AIDS 指標疾患 である全身性の非ホジキンリンパ腫、原発性中枢神経リンパ腫及び原発性滲出液リンパ腫と、非 AIDS 指標疾患であるホジキンリンパ腫に大別される。HIV 感染それ自体は直接的な発癌性はな いと考えられているので、EBV、HHV8 など種々のウイルス再活性化やサイトカインの産生異 常、あるいは癌遺伝子の活性化が、病因の一つに考えられている。AIDS 関連非ホジキンリンパ 腫の発生頻度は、HIV 感染者では一般人に比較して 60 ~ 200 倍高いとされ、AIDS 患者の生涯 で約 5 ~ 20%に合併するため、患者の長期予後を規定する最重要因子といえる。また、バーキッ トリンパ腫や原発性中枢神経リンパ腫の発症リスクは約 1,000 倍であり、ホジキンリンパ腫も非 感染者の 8 倍と高頻度である。他の日和見疾患は HAART 採用後その発症頻度が減少してきた が、非ホジキンリンパ腫の発症は減少していないとする報告が多い。また、HAART の導入以来、

欧米では非ホジキンリンパ腫の合併率は低下しているが、国内ではむしろ報告が増加している。

HAART による HIV 感染者の長期予後の改善が HIV 関連リンパ腫の増加につながっている可能 性がある。HIV 感染の診断がされておらず AIDS 関連リンパ腫で発症して病院を訪れる「いき なり AIDS」症例もあるが、施設当たりの症例経験数が少なく、難治性かつ再発性で、AIDS 特 有の合併症も多く、標準的治療の早期確立が望まれている。

⑴ 臨床的特徴

1 悪性リンパ腫で頻用される Ann Arbor 分類の、B 症状(発熱、盗汗、体重減少)を呈す ることが多い(75 ~ 85%)。HIV 感染者で見られる原因不明の熱では、悪性リンパ腫の B 症状を鑑別に挙げる必要がある。

2 節外性リンパ腫(中枢神経系、消化器系、呼吸器系、生殖器系、骨髄浸潤など)の形態を とるものが多く、診断時にすでに進行期の stage IV であるものが多い。

3 中枢神経リンパ腫が高頻度にみられ、しかも無症状のものも多い。また、トキソプラズマ 脳症、AIDS 脳症、CMV 脳症などとの鑑別が重要である。

4 予後不良因子として① CD4 陽性リンパ球数 <100/μℓ、② stage III あるいは IV、③年齢 35 歳以上、④ PS 不良、⑤ AIDS 発症、⑥麻薬常用者、⑦ LDH 高値、⑧ HAART への反応 不良、などが挙げられている。

⑵ 病理学的特徴

1 リンパ腫細胞の帰属が、B 細胞性のものが多い。

2 組織学的には、immunoblastic、diffuse large B-cell(DLBCL)、Burkitt に分類される、

悪性度の高いものが 70 ~ 90% と多い。稀ではあるが、ホジキンリンパ腫や MALT リンパ 腫などが発症することもある。

3 HIV 感染者に特徴的なリンパ腫として、原発性中枢神経リンパ腫、原発性滲出液リンパ腫、

口腔内を好発部位とする形質芽細胞性リンパ腫なども見られる。

HIV 感染症の臨床経過 71

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診断方法

治療方法

AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~悪性リンパ腫~

 画像診断(X-P、CT、MRI、US、EGD、CS、67Ga-Scinti、FDG-PET など)と病理組織診断(腫 瘍生検、骨髄生検)、細胞診(腰椎穿刺・胸水穿刺など)が主体となる。髄液中の EBV-DNA の 検出は、原発性中枢神経リンパ腫を示唆する感度・特異度ともに極めて高い傍証となる。

⑴ 治療の原則

1 治療することによる骨髄抑制・免疫不全の進行が原疾患に与える影響と、治療困難な中枢 神経原発が多いことが問題となる。

2 多剤併用化学療法を施行する場合、dose attenuation や G-CSF の使用などに工夫が必要 である。

3 日和見感染予防対策を、並行して十分に施行する必要がある。IDSA のガイドラインでは、

好中球 100/μℓ未満が 7 日以上続くことが予測される場合にフルオロキノロン、抗真菌薬、

抗ヘルペス薬などの抗菌薬を予防薬として使用することが推奨されている。

4 HAART:HAART 導入により化学療法後の骨髄抑制や日和見感染症がコントロールしや すくなり、結果として AIDS 関連リンパ腫の完全寛解率が有意に上昇した。化学療法併用時 の HAART 薬剤選択には、抗腫瘍薬の血中濃度に影響を与える CYP3A 阻害作用が少なく、

骨髄障害の弱いものを組み合わせるとよい。骨髄抑制の強い AZT、末梢神経障害の多い d4T/ddI、抗腫瘍剤の血中濃度が上昇するプロテアーゼ阻害剤、抗腫瘍剤の作用を減弱させ る EFV/NVP、過敏症の起こりやすい ABC 等をなるべく避け、TVD+RAL などが初回治 療として検討されている。その際は、化学療法による嘔吐・嘔気による服薬困難を考え、十 分な制吐剤の投与を考慮する。

⑵ 治療の実際

CHOP 療法(3 ~ 4 週間毎に 4 ~ 6 サイクル)

 CY 750㎎ /㎡ iv day 1  ADM 50㎎ /㎡ iv day 1  VCR 1.4㎎ /㎡ iv day 1  PSL 60㎎ /㎡ po day 1 ~ 5

1 DLBCL では CHOP 療法がスタンダードレジメンと考えられるが、HIV 非感染者と異なり、

高度免疫不全状態では潜在的な骨髄機能が低下しており、上記の薬剤をそのまま使用できな いことが多い。標準的な CHOP 療法での完全寛解率は 45 ~ 65% となっている。欧米から の良好な成績に倣って、本邦でも dose adjusted-EPOCH 療法で好成績が得られつつある。

2 non-AIDS で CD4 陽性細胞が 200/μℓ以上であれば通常量を、AIDS の状態もしくは CD4 陽性細胞が 100/μℓ以下であれば減量を考慮し、日和見感染の既往歴のあるものは、さらに 減量する。

3 DLBCL では、非 HIV 感染者における R-CHOP といった標準的治療が確立しておらず、

rituximab は CD4 陽性細胞が 50/μℓ以下の場合には治療関連死亡(治療後早期の感染症)が 生じやすくなるので使用しない場合が多いが、HAART により HIV 感染が良好にコントロー ルされている場合には、rituximab 併用により良好な成績が期待出来る。

72 HIV 感染症の臨床経過

4 予 後

4 中枢神経原発のものは、ステロイド薬を併用した 40 Gy 程度の放射線照射で 20 ~ 50% 程 度の完全寛解が期待できるが長期生存は難しい。病変が孤立性病変であっても、原発性中枢 神経リンパ腫は基本的に多発性病変であることを考慮に入れ、全脳照射を行う必要がある。

放射線療法以外では、非 HIV 患者と同様にメトトレキサート 3g/㎡による大量療法を用い た報告もある。

5 自家末梢血幹細胞移植:初回治療後の再発や難治症例では自家末梢血幹細胞移植が試みら れ、一定の成績を上げている。

6 Burkitt リンパ腫:DLBCL に有効な化学療法では有効性が乏しく、非 HIV 感染者同様、

CODOX-M/IVAC、hyperCVAD などの強力な化学療法が推奨されている。髄膜播腫予防の ため、抗がん剤の予防的髄注が必要である。

7 ホジキンリンパ腫:本邦の全国調査で 19 例の報告があり、非感染者のホジキンリンパ腫 と比較してより治療予後が悪いが、現時点では標準的化学療法が推奨される。

AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~悪性リンパ腫~

 HAART 時代に入って、AIDS 関連リンパ腫の予後は改善し、R-CHOP 施行群で完全寛解率 77%、2 年全生存率 75% という良好な成績の報告もある(HAART 導入以前は平均生存期間の中 央値が1年以内)。治療抵抗性あるいは再発症例に対しても、ESHAP 療法や ICE 療法等のサル ベージ治療を施行後、自家末梢血幹細胞移植により長期寛解を得られる症例がある。原発性中枢 神経リンパ腫治療後の長期生存例では白質脳症などによる高次脳機能の低下が問題となる。

■参考文献■

1 Comparable survival between HIV+ and HIV-non-Hodgkin and Hodgkin lymphoma patients undergoing APBSCT.Blood 2009;113:6011-6014

2 HIV 感染症と悪性腫瘍~手術・化学療法~. 医薬の門 2010;50:487-489 3 悪性リンパ腫.日本臨床 2010;68:491-496

4 HIV 関連リンパ腫.HIV 感染症と AIDS の治療 2010;1(No.2):31-35

5 Clinical practical guideline for the use of antimicrobial agents in neutropenic patients with cancer.CID 2011;52:e56-e93

6 Clinical characteristics of HIV-associated HL patients in Japan.Int J Hematol 2012;96:

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7 AIDS-related NHL in the era of HAART.Adv Hematol 2012;2012:485943 8 エイズ関連悪性リンパ腫 治療の手引き ver 2.0.日本エイズ学会誌 2013;15:46-57

(血液内科 橋野 聡 2013.07)

HIV 感染症の臨床経過 73 AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ HIV 関連神経認知障害(HIV 脳症)~