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目 次 1 HIV 感 染 症 の 臨 床 経 過 1 2 HIV 感 染 症 の 検 査 / 診 断 5 3 抗 HIV 療 法 11 4 HIV 薬 剤 耐 性 とその 検 査 23 5 血 友 病 患 者 の 診 療 26 6 AIDS 関 連 症 候 群 (ARC)の 診 断 と 治 療 2

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1 HIV 感染症の臨床経過 1 2 HIV 感染症の検査/診断 5 3 抗 HIV 療法 11 4 HIV 薬剤耐性とその検査 23 5 血友病患者の診療 26 6 AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 29 6 - 1. 症候による診断手順 29 6 - 2. カンジダ症 37 6 - 3. クリプトコックス症 40 6 - 4 クリプトスポリジウム症 44 6 - 5. サイトロメガロウィルス(CMV)感染症 47 6 - 6. 非結核性抗酸菌症 50 6 - 7. ニューモシスチス肺炎 53 6 - 8. 結核症 55 6 - 9 サルモネラ感染症 59 6 - 10. イソスポラ症 61

6 - 11. リンパ性間質性肺炎(Lymphocytic interstitial pneumonia : LIP) 63

6 - 12. 本邦ではまれな ARC 65

6 - 13. HIV 消耗性症候群 68

6 - 14. 悪性リンパ腫 70

6 - 15. HIV 関連神経認知障害(HIV 脳症) 73 6 - 16. 進行性多巣性白質脳症(Progressive maultifocal leukoencephalopathy;PML) 76

6 - 17. トキソプラズマ脳症 79 7 HIV 感染症に合併しやすい性感染症 83 7 - 1. 梅毒 83 7 - 2. 尖圭コンジローマ 86 7 - 3. 疥癬 87 7 - 4. 性器ヘルペス 88 7 - 5. ケジラミ症 89 7 - 6. 軟性下疳 90 7 - 7. 淋病 91 7 - 8. 非淋菌性尿道炎 93 7 - 9. アメーバ感染症(赤痢・肝膿瘍) 95 8 HIV 感染症に伴う慢性合併症 97 8 - 1. HIV 感染症と肝炎 97 8 - 2. HIV 感染症と腎障害 104 8 - 3. HIV 感染症と脂質代謝異常 / 心血管障害 108 8 - 4. HIV 感染症と骨代謝異常 111

目  次

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9. HIV 感染者の皮膚症状 113 10. 妊婦および新生児の HIV 118 11. 小児の HIV 感染症 127 12. 眼科の HIV 感染症 138 13. HIV 感染症と精神疾患 141 14. HIV 感染血友病患者の関節症の治療 148 15. HIV 感染症患者のリハビリテーション 155 16. HIV 感染症の口腔病変と歯科治療 159 17. HIV 感染症患者の心理的支援 166 18. HIV 感染症患者の看護 170 18 - 1. 看護師の役割 170 18 - 2. HIV 検査支援 171 18 - 3. 初診時の支援 173 18 - 4. セルフケア支援 176 18 - 5. 服薬支援 179 18 - 6. サポート者形成支援 181 18 - 7. セクシャルヘルス支援 182 18 - 8. 在宅医療支援 183 19. 外国人患者への対応 186 20. HIV 暴露時の対応と安全対策 188 20 - 1. 針刺し・切創及び皮膚・粘膜暴露時の対応 188 20 - 2. 外科領域での安全対策 204 20 - 3. 検査・輸血部領域での安全対策と検査項目 207 20 - 4. 感染予防と消毒 212 21. 医療福祉制度と支援 215 22. HIV 感染症とインターネット情報 225 23. HIV 相談室について 230 24. 抗ウィルス薬 233 25. 国内未販売薬 269 26. 拠点病院の医療体制 280 付録 282

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1 HIV 感染症の臨床経過

HIV 感染症の臨床経過

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 HIV(human immunodeficiency virus)感染症の臨床経過は、⑴感染初期(急性期)、⑵無症候期、 ⑶ AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)発症期の 3 期に分けられる。HIV に感染する と多くの症例では 2 ~ 3 週間後にインフルエンザ様の急性期症状があり、その後長期間の無症候 期に入る。この間に HIV は宿主内で盛んに増殖し、CD4 陽性リンパ球数は徐々に減少していく。 CD4 陽性リンパ球数の減少により細胞性免疫不全が進行していくと、表在リンパ節が腫脹した り発熱や下痢を繰り返したり、体重の減少がみられるようになる。さらに CD4 陽性リンパ球数 が減少していき、200 個 /µℓ以下となると様々な日和見感染症を発症する。表 1 に我が国におけ る AIDS 診断の診断基準を示すが、ここにあげた 23 の指標疾患のどれかが現れたときはじめて AIDS と診断する。 図 1 HIV 感染症の経過(模式図) ⑴ 急性期  HIV に感染すると、HIV は宿主内で急速に増殖し、CD4 陽性リンパ球数は一過性に減少す る。この時期には感染者の約 90% に何らかの急性レトロウイルス症候群の徴候を認めるが(表 2)、多くの症状はインフルエンザ様で非特異的であるため HIV 感染と認識されないことが多 い。問診などから積極的に HIV 感染を疑い、HIV-RNA の増加が確認できれば「急性 HIV 感 染症」と診断可能である。その後、宿主の免疫反応により血中ウイルス量は低下し、2 ~ 3 週 間で急性感染の症状は消退する。CD4 陽性リンパ球数も回復し、抗 HIV 抗体が陽性となり (seroconversion)無症候期に移行する。低下した血中ウイルス量は感染約 6 ヶ月後にはある 一定のレベルに保たれるようになる(セットポイント)。

HIV 感染症の臨床経過の全体像

HIV 感染症の臨床症状

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2 HIV 感染症の臨床経過 ⑵ 無症候期  急性期を過ぎた後の症状のない時期をさし、一般に潜伏期とも呼ばれる時期である。この間 も HIV は盛んに増殖を繰り返しているが、宿主の免疫反応により長期間の平衡状態が保たれる。 CD4 陽性リンパ球数は徐々に減少していくが、その減少スピードは HIV のウイルス量に依存し ている。以前は、無症候期の期間は 5 ~ 15 年と言われていたが、最近では感染から 3 ~ 4 年で AIDS を発症することもまれではなく、無症候期が短くなってきていると言われている。 ⑶ AIDS 発症期  HIV の増殖と宿主の免疫反応による平衡状態が破綻すると急速に HIV-RNA が増加し、 CD4 陽性リンパ球数も減少し細胞性の免疫不全が顕著となってくる。CD4 陽性リンパ球数が 200 ~ 500/µℓの時期は細菌性肺炎、肺結核、帯状疱疹、口腔カンジダ症、口腔毛状白板症や カポジ肉腫などを合併する。更に CD4 陽性リンパ球数が 200/µℓ以下に低下すると消耗が進行 し、様々な日和見感染症、悪性腫瘍や神経症状を合併するようになり(表 1)、AIDS と診断さ れる。AIDS の診断基準を満たす日和見感染症などの症状や診断・治療法については各論に詳 述する。適切な抗 HIV 療法(ART:antiretroviral therapy)が行われなかった場合、CD4 陽 性リンパ球数が 200/µℓ以下に低下してからの生存期間中央値は 3.7 年、AIDS を発症してか らの生存期間中央値は 1.3 年と報告されている。しかし例え AIDS を発症しても適切な抗 HIV 療法を行うことにより免疫系の再構築が成され、感染症の回復、社会生活への復帰が可能となっ ている。実際に、ART 後に CD4 陽性リンパ球数を 500/µℓ以上に維持できた患者は、健常者 と同じ生命予後を得ることも報告されている。 表 2 急性 HIV 感染症の症状と徴候 発  疹:顔面及び体幹の他、ときに手掌・足底を含む四肢に病変を有する紅斑性丘疹 ときに口腔、食道または生殖器に及ぶ皮膚粘膜潰瘍を形成 神経症状:髄膜脳炎または無菌性髄膜炎末梢神経障害または神経根障害/顔面神経麻痺/ ギラン・バレー症候群/上腕神経炎/認知障害または精神障害 症 状 割 合 発 熱 96% リンパ節腫脹 74% 咽頭炎 70% 発 疹 70% 筋肉痛と関節痛 54% 下痢 32% 頭 痛 32% 悪心、嘔吐 27% 肝脾腫 14% 体重減少 13% 口腔カンジタ 12% 神経症状 12%

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3 HIV 感染症の臨床経過 表 1 AIDS 診断のための指標疾患 A.真菌感染症   1  カンジダ症(食道、気管、気管支または肺)   2  クリプトコッカス症(肺以外)   3  コクシジオイデス症    ①全身に播種したもの    ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの   4  ヒストプラズマ症    ①全身に播種したもの    ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの   5  ニューモシスチス肺炎 B.原虫症   6  トキソプラズマ脳症(生後 1 ヶ月以後)   7  クリプトスポリジウム症(1 ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)   8  イソスポラ症(1 ヶ月以上続く下痢を伴ったもの) C.細菌感染症   9  化膿性細菌感染症(13 歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以 下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)    ①敗血症 ②肺炎 ③髄膜炎 ④骨関節炎     ⑤中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍  10 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)  11 活動性結核(肺結核叉は肺外結核)※  12 非結核性抗酸菌症    ①全身に播種したもの    ②肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの D.ウイルス感染症  13 サイトメガロウイルス感染症(生後 1 ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)  14 単純ヘルペスウイルス感染症    ① 1 ヶ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの    ②生後 1 ヶ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの  15 進行性多巣性白質脳症 E.腫瘍  16 カポジ肉腫  17 原発性脳リンパ腫(年齢を問わず)  18 非ホジキンリンパ腫    LSG 分類により    ①大細胞型     免疫芽球型    ② Burkitt 型  19 浸潤性子宮頸癌※ F.その他  20 反復性肺炎  21 リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13 歳未満)  22 HIV 脳症(認知症又は亜急性脳炎)  23 HIV 消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病) ※C 11 活動性結核のうち肺結核およびE 19 浸潤性子宮頚癌については、 HIV による免疫 不全を示唆する症状および所見がみられる場合に限る。

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4 HIV 感染症の臨床経過HIV 感染症の臨床経過

■参考文献■

1 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 16 版.2012 年 12 月

2 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2009-2010,15th Edition. Published by Johns Hopkins University School of Medicine,2009

3 DHHS.Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents.February 12,2013

4 平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の 課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2013 年 3 月

5 Lewden C,Chene G, Morlat P, Raffi F,Dupon M,Dellamonica P,Pellegrin JL,Katlama C, Dabis F,Leport C;ANRS Study Group. HIV-infected adults with a CD4 cell count greater than 500 cells/mm3 on long-term combination antiretroviral therapy reach same

mortality rates as the general population. J Acquir Immune Defic Syndr.46:72-77,2007. (血液内科 遠藤 知之 2013.07)

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5 HIV 感染症の臨床経過 HIV 感染症の検査/診断

HIV 感染症の検査/診断

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HIV 関連検査の種類と特徴

⑴ スクリーニング検査

 酵素抗体法(ELISA 法)、粒子凝集法(PA 法)、免疫クロマトグラフィー法(IC 法)によ りHIV-1及びHIV-2に対する抗体を測定または同定する。感度は高いが、特異度は低いため、0.1 ~ 1% 程度の偽陽性が生じる。一方、感染してから抗体が検出されるまで通常 3 ~ 4 週間かか るため(window period(WP))、結果が陰性でも急性感染を否定できない。感染初期数週間 は HIV 抗原(p24 抗原)が上昇し ELISA 法で検出可能となる。WP を短縮するため現在、北 海道大学病院ではスクリーニング用検査として HIV-1,2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査(第 4 世代検査キット、アボット社の HIVAg/Ab Combo, CLIA 法)を使用している。

⑵ 確認検査

 Western blot 法(WB 法)、間接蛍光抗体法(IFA 法)により HIV-1 と HIV-2 それぞれ に対する特異的な抗体タンパクの存在を確認する検査である。院内では 1 WB と HIV-2 WB の検査が可能。特異度は高いが、感度は低いため、感染初期には検出できない。HIV-1 WB と HIV-2 WB の間には交叉反応が生じるため判定には注意を要する。

⑶ HIV 抗原検査 〈HIV-1 RNA 定量〉

 PCR 法と核酸 hybridization 法を組み合わせて HIV-1 の RNA を高感度に検出できる検査で、 北大病院では 2008 年 2 月からロシュダイアグノスティクス社のコバス TaqMan HIV-1 オー ト(TaqMan PCR 法)を使用している。HIV-RNA の定量は急性感染の診断に不可欠であるが、 HIV-2 は検出できない。病勢、治療効果のモニタリングとしても有用である。

〈HIV-1 proviral DNA〉

 リンパ球を検体として PCR 法にて細胞内の proviral DNA を検出する検査であり、極めて 感度は高いが、測定系が標準化されていないため普及していない。抗体検査での判定困難例や WP 時期での感染確認、治療中の潜伏感染ウイルスの評価に用いられる。本邦では母子感染の 早期診断として保険適応がある。 〈p24 抗原〉   HIV-1 のコアタンパクである p24 を ELISA 法で検出する。特異度は高いが、感度が低いため、 感染初期数週間と感染後期にしか検出できない。前述の抗体価測定と組み合わせてスクリーニ ングで用いられる。 ⑷ 簡易迅速抗体検査キット  前述の IC 法により抗 HIV 抗体を同定するキット。本邦ではダイナスクリーン・HIV-1/2 が 使用されている。15 分で結果が得られるため、即日検査として保健所、各種医療機関で 2001 年以降導入され、自発検査や早期発見、感染不安をもつ人への利便性により普及している。偽 陽性が約 1%あるため、結果が陽性の場合、通常のスクリーニング検査と同様に確認検査の追 加が必要である。院内では針刺し等の緊急時にのみ用いられる。

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6 HIV 感染症の臨床経過

⑸ HIV 薬剤耐性検査

 血液中に存在する HIV の抗 HIV 薬に対しての耐性、感受性を調べる検査であり、genotype 検査(遺伝子型解析)と phenotype 検査(表現型解析)の 2 種類がある。院内では genotype 検査が可能。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項を参照。

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HIV 感染症診断法の実際

⑴ スクリーニング検査

 院内では HIV-1,2 抗体価と HIV-1 抗原同時測定検査(HIVAg/Ab Combo)に加えて、追加 スクリーニング検査としてアボット社のダイナスクリーン・HIV-1/2(IC 法)、バイオラッド 富士レビオ社のジェネディア HIV-1/2 ミックス PA(PA 法)の異なる 2 法を実施。初期スクリー ニング検査を含めた 3 法中、2 法以上が陰性の場合に「陰性」、2 法以上が陽性の場合に「陽性」 と判定する。 〈「陽性」または「保留」と判定された場合〉   確認検査を行う。 〈「陰性」と判定された場合〉   感染のリスクが無い場合には「感染無し」と診断する。感染のリスクがある場合や急性感染 を疑う場合には RT-PCR による HIV-1 RNA 定量検査を行う。この結果が「陰性」でも期間 を空けて再検査を行う。 ⑵ 確認検査

 日本エイズ学会では確認検査として HIV-1 WB 法と HIV-1 RNA 定量検査を同時に行うこ とを推奨している。(表 1)

〈HIV-1 WB 法が「陽性」〉

 HIV-1 の感染者と判定する。但し HIV-1 RNA 定量検査が陰性の場合は高感度法で再検査 を行う。高感度法でも陰性であれば HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染 を否定できない。

〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「陽性」〉

 HIV-1 急性感染者と考えるが、確定診断には後日 HIV-1 WB 法の「陽性」を確認する必要 がある。

〈HIV-1 WB 法が「陰性」または「保留」で HIV-1 RNA 定量検査が「測定感度以下」〉

 HIV-2 WB 法を実施し、「陽性」であれば HIV-2 の感染者と判定。HIV-2 WB 法が「陰性」 または「保留」であれば、2 週間後にスクリーニングからの再検査を勧める。

⑶ 母子感染の診断

 母親から児へ抗体が移行するため、抗体検査は有用でない。HIV-1 抗原(p24 抗原)、HIV-1 RNA 定量検査を実施し判定を行う。

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7 HIV 感染症の臨床経過 表1 HIV-1/2 感染症診断のためのフローチャート HIV-1/2 感染症の診断法 2008 年版(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法) HIV-2 確認試験が陽性の場合は HIV-2 感染者 両者が陰性の場合は非感染者6) HIV-1 検査結果 判定・指示事項 WB 法 RT-PCR 陽性 陽性 HIV-1 感染者 検出せず HIV-1 感染者3) 保留 陽性 急性 HIV-1 感染者4) 検出せず HIV-2 の確認検査を実施、陰 性時は保留とし2週間後に再 検査5) 陰性 陽性 急性 HIV-1 感染者4) 検出せず HIV-2 の確認検査を実施、陰 性時は保留とし2週間後に再 検査5) HIV-1/2 スクリーニング検査法1) ELISA・PA 法など ※感度が十分に高い検査法であること 陽性 保留 陰性 非感染またはウインドウピリオド2) HIV-1 確認検査法(両法を同時に行う) WB 法及び RT-PCR 1 明らかな感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は抗原・抗体同時検査法 によるスクリーニング検査に加え HIV-1 核酸増幅検査法による確認検査を行う必要がある (ただし、現時点では保健適応がない)。 2 急性感染を疑って検査し、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエスタンブロット(WB)法が 陰性または判定保留であり、しかも HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR 法)が陽性であった 場合は、HIV-1 の急性感染と診断できるが、後日、HIV-1/2 スクリーニング検査とウエス タンブロット法にて陽性を確認する。 3 HIV-1 感染者とするが、HIV-1 核酸増幅検査法(RT-PCR:リアルタイム PCR 法または従 来法の通常感度法)で「検出せず」の場合(従来法で実施した場合は、リアルタイム PCR 法または従来法の高感度法における再確認を推奨)は HIV-2 WB 法を実施し、陽性であれ ば HIV-2 の感染者であることが否定できない(交差反応が認められるため)。この様な症例 に遭遇した場合は、専門医・専門機関に相談することを推奨する。 4 後日、適切な時期に WB 法で陽性を確認する。 5 2 週間後の再検査において、スクリーニング検査が陰性であるか、HIV-1/2 の確認検査が陰 性 / 保留であれば、初回のスクリーニング検査は疑陽性であり、「非感染(感染はない)」と 判定する。 6 感染のリスクがある場合や急性感染を疑う症状がある場合は保留として再検査が必要であ HIV 感染症の検査/診断

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8 HIV 感染症の臨床経過 る。また、同様な症状を来たす他の原因も平行して検索する必要がある。 注1 妊婦健診、術前検査等の場合にはスクリーニング検査陽性例の多くが偽陽性反応によるた め、その結果説明には注意が必要。 注2 母子感染の診断は、移行抗体が存在するため抗体検査は有用でなく、児の血液中の HIV-1 抗原、または HIV-1 核酸増幅検査法により確認する必要がある。

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HIV 感染者の検査

HIV 感染症の検査/診断 ⑴ 進行を把握するための指標 < CD4 陽性リンパ球数>  HIV により破壊された宿主の残存免疫力を反映し、病態の進行度や治療開始を考慮する重 要な指標となる。測定はフローサイトメトリーを用いて行われ、健常人では 500 ~ 1400/µℓ であり、HIV 感染者で 200/µℓ未満になると種々の日和見疾患のリスクが高まる。未治療者で は 2 ~ 6 ヶ月毎、治療中の患者では初期は毎月、その後は 2 ~ 4 ヶ月毎に検査を行う。測定値 の変動が大きいため複数回の検査で評価する。 <血中 HIV-RNA 定量>  血中のウイルス量は CD4 の低下速度と相関しており、予後予測の指標となる。また治療効 果を判定するのにも重要な指標となる。男性に比べ女性では低値となる。未治療者では 3 ~ 4 ヶ 月毎、治療開始または変更した患者では 4 ~ 8 週毎に測定し、検出限界以下に到達したら 2 ~ 4 ヶ月毎に測定する。ウイルスが測定限界以下に低下しても体内から HIV が消失したことに はならない。ウイルスが検出限界以下に到達した後に血中ウイルス量が 2 回連続で 200 コピー /mL 以上となった場合には、治療失敗の可能性があり、薬剤耐性ウイルスの存在やアドヒア ランス低下など、原因の検索を行う。 ⑵ 検査チェックリスト : 以下、当院で使用している HIV 感染者の検査チェックリストを記す。 【初診時の検査】 □ 検尿一般・尿沈渣 □ 末梢血一般 (白血球分画も) □ 生化学一般 (アミラーゼ、CPK、血糖、血清脂質も) □ T 細胞サブセット (CD4 絶対数も) □ HIV-RNA 定量 □ HAV 抗体 ※ 陰性症例は、必要時にワクチン接種も考慮。 □ HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗体 ※ いずれかが陽性なら HBV-DNA を追加する。 ※ すべて陰性時は、ワクチン接種も考慮。 □ HCV 抗体 □ 梅毒血清反応(RPR 定性、TPLA 定性) ※ 陽性なら定量検査を追加。 □ サイトメガロウイルス IgG ※ 陰性なら、輸血が必要な際に CMV 陰性製剤を使用。 □ トキソプラズマ IgG

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9 HIV 感染症の臨床経過 HIV 感染症の検査/診断 ※ 陽性なら、CD4<100 で一次予防を開始する。 □ 水痘・帯状疱疹ウイルス IgG ※ 陰性なら、水痘患者との接触を極力避ける。 □ クオンティフェロン □ 赤痢アメーバ抗体半定量 □ C7HRP(CD4 が低い症例のみ) □ 胸部 X-P □ 心電図 □ 眼科受診 ※ CMV 網膜症等の眼底スクリーニング。特に CD4 が低値の症例。 ※ 梅毒陽性者は梅毒性網膜炎・ブドウ膜炎のスクリーニングが必須。 □ 婦人科受診(女性のみ) ※ 子宮頚癌健診を行ってもらう。 【ART 開始前の検査】 □ 検尿一般・尿沈渣

□ 尿クレアチニン、尿蛋白定量、尿 NAG/Cre、尿β 2MG/Cre、尿アルブミン /Cre、尿 Ca、尿 P ※ 治療開始前のベースラインとしてとる。 □ 末梢血一般(白血球分画も) □ 生化学一般(アミラーゼ、CPK、血糖、HbA1c、血清脂質、Ca、P も) □ シスタチン C □ T 細胞サブセット(CD4 絶対数も) □ HIV-RNA 定量 □ HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗体 ※ いずれかが陽性なら HBV-DNA を追加する。 □ HCV 抗体 □ 妊娠反応 ※ 女性の場合。 □ 薬剤耐性検査 □ HLA-B5701 の検査 ※ 無料で検査可能。陽性者では ABC の使用不可。 ※ 特に外国人では必要。 □ 胸部 X-P □ 心電図 ※ 不整脈の副作用のある薬剤があるので、ベースラインとしてとる。 <治療前のベースラインとして可能ならとるもの> □ 骨塩定量検査(DEXA:腰椎・大腿骨) □ I-PTH □ TRACP-5b □ 骨型 ALP ※ ART による骨粗鬆症のベースラインとしてとる。

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10 HIV 感染症の臨床経過 □ ABI/PWV ※ ART による動脈硬化のベースラインとしてとる。 【慢性合併症の検査】 <最低年 1 回行う検査> □ 検尿一般・尿沈渣

□ 尿クレアチニン、尿蛋白定量、尿 NAG/Cre、尿β 2MG/Cre、尿アルブミン /Cre、尿 Ca、尿 P □ 血清 Ca、血清 P □ シスタチン C □ 血糖、HbA1c □ 血清脂質(TG、LDL、HDL) ※ 上記の検査で異常があれば 3 ヶ月に 1 回行うことが望ましい。 < 2 ~ 3 年に 1 回行う検査> □ 胸部 X-P □ 心電図 □ 骨塩定量検査(DEXA:腰椎・大腿骨) □ I-PTH □ TRACP-5b □ 骨型 ALP □ ABI/PWV ※ 上記の検査で異常があれば 1 年に 1 回行うことが望ましい。 ■参考文献■

1 Bartlett JG et al.Medical Management of HIV Infection 2009-2010,15th Edition. Published by Johns Hopkins University School of Medicine,2009

2 日本エイズ学会.診療における HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン 2008(日本エイズ学会・ 日本臨床検査医学会 標準推奨法).日本エイズ学会誌 11:70-72,2009

3 DHHS.Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents.February 12,2013 4 平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症及びその合併症の 課題を克服する研究班編.抗 HIV 治療ガイドライン.2013 年 3 月 5 HIV 感染症治療研究会編.HIV 感染症「治療の手引き」第 16 版.2012 年 12 月 (血液内科 遠藤 知之 2013.07) HIV 感染症の検査/診断

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11 HIV 感染症の臨床経過

抗 HIV 療法

3

1

治療開始時期

抗 HIV 療法

 現在行われている多剤併用での抗 HIV 療法(antiretroviral therapy=ART)による HIV 増 殖抑制効果は強力であり、治療開始早期に HIV ウイルス量を測定感度以下に押さえ込み、徐々 に CD4 リンパ球数を回復させ、免疫機能を回復・維持することが可能である。しかしながら、 ART の継続によっても HIV の体内からの完全な排除には平均 73.4 年かかると推定されており、 現時点では一度治療を開始すれば、生涯に渡り治療を継続する必要がある。また、十分な服薬遵 守(アドヒアランス)が維持できなければ、薬剤耐性ウイルスが誘導され、結果的に治療の失敗 につながる。また ART の長期継続により軽視できない種々の副作用が出現してくる。以上の理 由から、以前は ART の開始をできるだけ遅らせるという考え方が主流であった。しかし、最近 の大規模試験において、ART を早期に開始することにより、CD4 陽性リンパ球数を高く維持で きる、HIV 増殖によってもたらされる可能性のある心血管疾患や腎・肝疾患のリスクを減らせ る、CD4 陽性リンパ球数が高くても発症する可能性のある HIV 関連疾患のリスクを減らせる、 パートナーへの感染を減らせるなど、早期治療のメリットが示され、さらに、飲みやすく副作用 の少ない薬剤が増えたことなどの理由から、治療開始時期は早まる傾向にある。米国保健福祉 省(Department of Health and Human Services = DHHS)のガイドラインでは、2012 年 3 月か ら 「CD4 陽性リンパ球数の値にかかわらず、すべての患者で治療開始をすべきである」 と改訂 された。但し CD4 陽性リンパ球数が 500/µℓ以下の患者への治療開始は「強く推奨」だが、CD4 陽性リンパ球数が 500/µℓを超える患者では「中程度に推奨」と表記されている。2012 年 7 月版 の International AIDS society-USA(IAS-USA)のガイドラインも同様の推奨であるが、2012 年 11 月版の European AIDS Clinical Society(EACS)のガイドラインでは、CD4 陽性リンパ球 数が 500/µℓを超える患者では「治療は延期」を推奨している。治療開始に際しては患者の状態、 服薬アドヒアランスへの意識・理解度、副作用および薬物相互作用なども考慮し、入念なカウン セリングや教育を行った上で判断を下す必要がある。 <未治療患者に対する ART 開始基準> ① AIDS および HIV に関連する症状がある場合 CD4 陽性リンパ球数・血中ウイルス量の数値にかかわらず → 治療開始 ② 無症状の場合 CD4 陽性リンパ球数 ・≪ 350/µℓ → 速やかに治療開始 ・350 ~ 500/µℓ → 治療開始を推奨(EACS では治療開始を考慮) ・≫ 500/µℓ → 治療開始を推奨(DHHS、IAS-USA)、治療は延期(EACS) CD4 陽性リンパ球数にかかわらず以下の患者では治療開始 ・妊婦 ・HIV 腎症の患者 ・HBV 重複感染者 ・性交渉によるパートナーへの感染を予防する必要がある患者

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12 HIV 感染症の臨床経過

▷ EACS では HIV 関連神経認知障害(HAND)、ホジキンリンパ腫、ヒトパピローマウ イルス関連癌(肛門管癌など)の合併患者にも治療開始を推奨 CD4 陽性リンパ球数にかかわらず以下の患者では治療開始を考慮 ・急性 HIV 感染 ・HCV 重複感染者(genotype 1 で、CD4 が 500/µℓを超えている場合には抗 HCV 療法を先行) ・高齢者(DHHS では 50 歳、IAS-USA では 60 歳を超える患者) ▷ EACS では非エイズ関連悪性腫瘍合併、HIV 関連の自己免疫性疾患合併、心血管系疾 患(CVD)ハイリスクまたは既往患者にも治療開始を考慮 <治療を早期に開始した場合の利点と欠点> 利    点 欠    点 免疫機能の保持(無症候期の延長) 服薬による QOL の低下、重篤な副作用 他人への伝播のリスクを低下出来る 将来の治療選択肢の範囲が狭まる CD4>350/µℓでも発症する可能性のある HIV 関連合併症(結核、非ホジキンリンパ腫、カ ポジ肉腫、末梢神経障害、HPV 関連悪性腫瘍、 HIV 関連認識機能障害等)のリスクを減らす ことができる 内服不十分による耐性獲得の危険 (耐性ウイルス伝播のリスク) HIV 増殖により発症・増悪する可能性のある 疾患(心血管系疾患、腎疾患、肝疾患、非 AIDS 関連悪性腫瘍・感染症等)のリスクを 減らすことができる アドヒアランス維持のために必要な服薬開始 前の準備期間が短くなる 将来さらに強力で低毒性の ART 開発の可能性

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初回抗 HIV 療法

 HIV 感染症の治療は、血中ウイルス量を検出限界以下の抑え続けることを目標に、強力な多 剤併用療法(ART)を行う。以下に DHHS、IAS-USA、EACS のガイドラインで推奨される初 回治療 regimen を示すが、患者のライフスタイル、合併症、他の薬剤との薬物相互作用、薬剤 耐性検査の結果などを総合して個々の患者に最も適切と考えられる regimen を選択すべきであ る。またガイドラインは最新の臨床データに基づいて定期的に更新されるため、治療も最新の情 報に基づいて決定されるべきである。 <抗 HIV 薬の種類> 左から略号、一般名、商品名 核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI) プロテアーゼ阻害剤(PI)

AZT zidovudine レトロビル IDV indinavir クリキシバン ddI didanosine ヴァイデックス SQV saquinavir インビラーゼ 3TC lamivudine エピビル rtv(boosting) ritonavir ノービア d4T stavudine ゼリット NFV nelfinavir ビラセプト ABC abacavir ザイアジェン LPV/rtv lopinavir/ritonavir カレトラ

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HIV 感染症の臨床経過抗 HIV 療法

TDF tenofovir DF ビリアード ATV atazanavir レイアタッツ FTC emtricitabine エムトリバ FPV fosamprenavir レクシヴァ AZT/3TC コンビビル DRV darunavir プリジスタ ABC/3TC エプジコム インテグラーゼ阻害剤(INSTI) TDF/FTC ツルバダ RAL raltegravir アイセントレス 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) 侵入阻害剤(CCR5 阻害剤) NVP nevirapine ビラミューン MVC maraviroc シーエルセントリ EFV efavirenz ストックリン NRTI と INSTI の合剤

DLV delavirdine レスクリプター EVG/COBI/TDF/FTC elvitegravir/cobicistat

スタリビルド ETR etravirine インテレンス /TDF/FTC

RPV rilpivirine エジュラント

※ ritonavir は抗 HIV 活性を有するが、PI の boosting 目的に少量で併用される(小文字で表記)。 ※ cobicistat は抗 HIV 活性を有さない強力な CYP3A 阻害薬で、EVG の boosting 目的に併用される。 ⑴ DHHS ガイドライン(2013 年 2 月版)で推奨される初回療法の組み合わせ ○ 優先療法   NNRTI ベース   ・EFV/TDF/FTC   PI ベース   ・ATV + rtv + TDF/FTC   ・DRV(1 日 1 回)+ rtv + TDF/FTC   INSTI ベース   ・ RAL + TDF/FTC   妊婦の場合   ・ LPV/rtv(1 日 2 回)+ AZT/3TC ○ 代替療法   NNRTI ベース   ・EFV + ABC/3TC   ・RPV/TDF/FTC   ・RPV + ABC/3TC   PI ベース   ・ATV + rtv + ABC/3TC   ・DRV + rtv + ABC/3TC   ・FPV + rtv(1 日 1 回または 2 回)+ ABC/3TC または TDF/FTC   ・LPV/rtv(1 日 1 回または 2 回)+ ABC/3TC または TDF/FTC   INSTI ベース   ・EVG/COBI/TDF/FTC   ・RAL + ABC/3TC

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14 HIV 感染症の臨床経過 ⑵ IAS-USA ガイドライン(2012 年 7 月版)で推奨される初回療法の組み合わせ ○ 推奨療法   NNRTI ベース   ・EFV/TDF/FTC   ・EFV + ABC/3TC   PI ベース   ・DRV + rtv + TDF/FTC   ・ATV + rtv + TDF/FTC   ・ATV + rtv + ABC/3TC   INSTI ベース   ・RAL+TDF/FTC ○ 代替療法   NNRTI ベース   ・NVP + TDF/FTC または ABC/3TC   ・RPV/TDF/FTC または RPV + ABC/3TC   PI ベース   ・DRV + rtv + ABC/3TC   ・LPV/rtv + TDF/FTC   ・LPV/rtv + ABC/3TC   INSTI ベース   ・RAL + ABC/3TC   ・EVG/COBI/TDF/FTC ⑶ EACS ガイドライン(2012 年 11 月版)で推奨される初回治療の組み合わせ カラム A と B から一つずつ選択 ○ 推奨療法

カラム A(key drug) カラム B(NRTI)

NNRTI ベース ・EFV ・RPV ・ABC/3TC ・TDF/FTC ・NVP ・TDF/FTC PI ベース ・ATV+rtv ・DRV+rtv(qd) ・LPV/rtv(qd or bid) ・ABC/3TC ・TDF/FTC INSTI ベース ・RAL ・TDF/FTC ○ 代替薬剤   PI   ・SQV + rtv   ・FPV + rtv(qd or bid)   NRTI   ・TDF + 3TC   ・AZT/3TC 抗 HIV 療法

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15 HIV 感染症の臨床経過   ・ddI + 3TC or FTC(他の薬剤が使用できない時のみ)   CCR5 inihibitor   ・MVC(指向性検査で R5 tropic が確認された場合) ⑷ 主要な薬剤の使用上の注意事項 NRTI ・TDF:腎機能低下例には慎重に投与

・ABC:HLA-B*5701 陽性例には使用しない。HIV-RNA が 100000 copies/ml を超えるま たは CVD 高リスクの患者では注意して投与。 NRTI ・EFV:妊娠の希望がある、あるいは妊娠する可能性のある女性では使用を避ける。 ・RPV:HIV-RNA が 100000 copies/ml を超える、または CD4 数が 200/μℓ未満の患者で は推奨しない。プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2 受容体拮抗薬、制酸剤との併用で血中 濃度が低下するため、PPI との併用は禁忌。他とは投与時間の調整が必要。 ・NVP:中~重度の肝障害を有する、または CD4 値が女性で 250/μℓ、男性で 400/μℓを超 える患者では使用しない。 PI ・ATV:PPI、H2 受容体拮抗薬、制酸剤との併用で血中濃度が低下するため、併用を避けるか、 投与時間の調整が必要。 INSTI ・EVG/COBI/TDF/FTC:Ccr 70ml/ 分未満では使用しない。Ccr 50ml/ 分未満に低下し たら投与中止。 ⑸ 推奨されない抗 HIV 療法 <推奨されない抗 HIV 療法>  ・NRTI の単剤療法  ・NRTI の 2 剤併用療法

 ・NRTI3 剤(ABC + AZT + 3TC or TDF + AZT + 3TC 以外)   → 何れも耐性を誘導し治療失敗のリスクを高める <抗 HIV 療法の一部として推奨されない薬剤または組合わせ>  ・d4T + ddI(末梢神経障害などの毒性↑)  ・TDF + ddI(ddI の血中濃度↑)  ・AZT + d4T(HIV に対する拮抗作用)  ・FTC + 3TC(単剤と同じ効果)  ・Unboosted DRV または SQV(効果不良)  ・ATV + IDV(高ビリルビン血症)  ・妊娠初期、妊娠可能な女性への EFV(催奇形性)  ・CD4 高値(女性で 250/μℓ以上、男性で 400/μℓ以上)への NVP(急性肝障害↑)  ・NNRTI 2 剤併用(副作用を高める)

 ・ ETR + Unboosted PI(ETR により PI の代謝促進の可能性)  ・ETR + boosted ATV、 FPV(ETV により PI の代謝促進の可能性)

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16 HIV 感染症の臨床経過 ⑹ 1 日 1 回療法  血中または細胞内半減期の長い薬剤の開発により、1 日 1 回投与可能な薬剤のみの組み合わせ で ART を組み立てることが可能となり、アドヒアランスの向上さらには患者の QOL 改善が期 待されている。しかし、飲み忘れによる耐性誘導のリスクが上昇することが懸念されるため、服 薬指導が従来以上に重要となる。 < 1 日 1 回投与が可能な薬剤>( )内は投与剤数

2NRTI NNRTI PI INSTI+2NRTI ・TDF/FTC(1) ・ABC/3TC(1) ・ddI*+3TC or FTC(2) ・EFV(1 or 3) ・RPV(1) ・ATV ± RTV**(2-3) ・FPV+RTV***(3-4) ・DRV+RTV***(2-3) ・LPV/RTV(4) EVG/COBI/TDF/FTC(1)カプセル剤(ヴァイデックス EC)のみ ** TDF との併用時は ATV の AUC が低下するので RTV 併用が必要。 *** 1 日 1 回投与は国内では初回療法のみの適応。 抗 HIV 療法

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抗 HIV 薬の副作用

 全ての抗 HIV 薬で副作用が報告されており、治療の変更や中止、アドヒアランスの低下の重 要な要因となっている。副作用の中には継続することで徐々に軽減するものから重篤となり死に 至るものまで様々であるが、各薬剤の副作用の種類と発現時期、その対処法について十分熟知し、 患者にも投薬前に十分説明して理解を得る必要がある。以下に発現時期別に主要な副作用につい て概説する。個々の薬剤の副作用については「24.抗ウイルス薬」の項を参照。 ⑴ 開始直後から出現 <消化器症状>  AZT、TDF、ddI とすべての PI、EVG/COBI/TDF/FTC で悪心、嘔吐、腹痛が出現す ることがある。また NFV、LPV/RTV、ddI では下痢の頻度が高い。いずれも継続と共に軽 快することが多いので、初期は制吐剤や止痢剤などで対応する。 < EFV による中枢神経症状>  EFV の投薬により半数以上の症例で眠気、不眠、異常夢、めまい、集中力低下が出現するが、 2 ~ 4 週で減弱消失することが多い。症状が持続する場合には薬剤の変更を考慮する。 <高ビリルビン血症>  ATV と IDV の内服により高率に間接型ビリルビンの上昇が認められるが、これは肝臓で グルクロン酸包合に係わる酵素を薬剤が阻害するためであり、臨床的に問題となることはほ とんど無く継続投与が可能である。 ⑵ 開始後数日~数週で出現 <皮疹>

 NNRTI での発現頻度が高い。PI では ATV、FPV、NFV、DRV で発現頻度が高い。多 くは軽~中等度であるが、稀に Stevens-Johnson 症候群や中毒性表皮壊死症などの重症型薬 疹に進展することがあるため、発熱や粘膜の潰瘍を伴う場合には直ちに投与を中止する。

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17 HIV 感染症の臨床経過抗 HIV 療法 < ABC による過敏症>  投与から 6 週間以内に高熱を伴う皮疹、全身倦怠感、消化器症状、呼吸困難などを呈す。 発症の中央値は 9 日目。発現時は全ての抗 HIV 薬を中止し、ABC の再投与は禁忌である。 発症と HLA-B*5701 と関連があると報告されており、日本人ではこの遺伝子型は少ないた め発症頻度は低いと考えられている。 < NVP による過敏症・急性肝障害>  発現時期は投与開始から 16 週以内で、多くは 6 週以内に出現。症状は消化器症状、黄疸、 発熱、皮疹で、急速に肝壊死が進行し肝不全に至る可能性がある。CD4 値が女性で 250/μℓ 以上、男性で 400/μℓ以上で有意に発現率が高いため投与は避ける。発現時は全ての抗 HIV 薬を中止する必要があるが、肝障害が進行する場合もある。再投与は禁忌である。 ⑶ 開始後数週~数ヶ月で出現 < AZT による骨髄抑制>  AZT 投与から数週から数ヶ月後で貧血や好中球減少が認められる。高度の場合は多剤へ の変更を考慮する。 <腎障害>  TDF 投与後に腎尿細管障害が出現することがあり、多くは無症候性だがまれに急性腎不 全を生ずる場合があるため、既に腎障害のある場合は投与を避ける。IDV では薬剤の結晶 により高率に腎結石を生じ、さらに膿尿を伴う腎不全を合併することがあるため、予防的に 1 日に 2L 程度の水分摂取の継続が必須となる。ATV でも腎結石や胆石の合併が報告されて いる。EVG/COBI/TDF/FTC では COBI のクレアチニン分泌阻害作用により Ccr の低下が 生じる。Ccr 50ml/ 分未満に低下したら投与を中止する。詳しくは「8-2.HIV 感染症と腎 障害」を参照 <膵炎>  ddI 単独投与で 1 ~ 7% に合併の報告があり、d4T や TDF との併用では更に頻度が上昇 する。直ちに ddI を中止し、適切な管理を行う。 < PI による出血傾向>  すべての PI によって、特に血友病患者で出血傾向増強が認められることがある。凝固因 子製剤の使用頻度を高めるか、高頻度であれば NNRTI への変更も考慮する。 <免疫再構築症候群>  厳密には薬剤の直接的な副作用ではないが、ART による免疫回復に伴い、軽快していた 日和見感染症(OI)が逆に増悪したり、新たな OI が顕在化する現象を指す。ART 開始から数ヶ 月以内(多くは 8 週間以内)に発症し、ART 開始前の CD4 数は通常 50/μℓ未満である。頻 度の多いものは CMV 網膜炎、MAC 感染症、結核であるが、B 型や C 型肝炎の報告もあり 注意を要する。ART は原則継続し、OI に対する治療と NSAIDs の投与で対応するが、炎 症所見が高度であれば PSL 30 ~ 60mg/ 日の併用による過剰免疫の抑制も考慮する。ART の中止を余儀なくされる場合もある。 ⑷ 開始後数ヶ月~数年かけて出現 <乳酸アシドーシス / 肝脂肪変性>  NRTI によるミトコンドリア障害が原因で、非特異的な消化器症状を前駆症状として呼吸 困難、ギランバレー症候群様の症状が進行する重篤な副作用である。発症頻度は 0.5 ~ 1.0%

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18 HIV 感染症の臨床経過 程度であるが、一度発症すればその死亡率は高い。理論的には全ての NRTI で起きる可能 性があるが、とりわけ d4T と ddI での報告が多い(AZT ではまれ)。血清乳酸値 5 mM(45 mg/dl) 以上では直ちにすべての ART を中止する必要があるが、回復までは 4 ~ 48 週必要 とされる。ビタミン B1、B2 などの投与が有効とする報告もある。但し、無症候性の高乳酸 血症(2 mM(18 mg/dl)以上)は 8 ~ 20% に認められるため、ルーチンの測定は推奨され ない。 < lipodystrophy/ インスリン抵抗性 / 高脂血症>  ART の長期継続により引き起こされる代謝異常。体幹と内臓に脂肪は蓄積する一方で、 四肢と皮下の脂肪は萎縮する。更にインスリン抵抗性と高脂血症も合併し、結果的に心筋梗 塞などの心血管イベントのリスクが高まることが報告されている。原因としては NRTI、PI との関連が報告されているが、その作用は各薬剤間でも異なり、NRTI の中では d4T で脂 肪萎縮や中性脂肪の上昇の頻度が高く、ABC、ddI と心筋梗塞リスクとの関与を示す報告も ある。一方 PI では ATV は代謝への影響が少ない。治療方針は確立していないが、運動・ 食事療法、薬物療法、影響の少ない治療 regimen への変更などが有効とされる。詳しくは「8-3. HIV 感染症と脂質代謝異常 / 心血管障害」を参照。 <骨壊死 / 骨粗鬆症>  ART の長期継続により 0.08 ~ 1.33% に症候性の骨壊死が合併、さらに MRI で確認され る無症候性の骨壊死は 1.33 ~ 4.4% に合併すると報告されている。多くは大腿骨頭病変を有 す。アルコール、高脂血症、糖尿病、ステロイド使用、TDF 使用などの関与が疑われている。 骨密度の低下は ART 導入前の HIV 感染者でも報告がある。詳しくは「8-4.HIV 感染症と 骨代謝異常」を参照。

⑸ 薬物相互作用について

 NNRTI と PI はすべて肝のチトクローム P450(CYP)により代謝を受けるため、抗 HIV 薬 同士、または同じ CYP で代謝される薬剤との併用では相互作用が生じる可能性がある。また NRTI でも同様の薬物相互作用が報告されている。代謝低下により抗 HIV 薬の濃度が上昇す れば、副作用の出現や増強が生じ、一方、代謝促進により抗 HIV 薬の濃度が低下すれば、十 分なアドヒアランスが維持できていても、治療の失敗に繋がる可能性があるため、投薬に際 しては薬物相互作用に十分な注意が必要である。薬物相互作用が疑われる場合には後述する TDM が有用である。個々の薬剤の薬物相互作用について DHHS guideline の Table 15 を参照。 ⑹ ART の治療中断について  種々の抗 HIV 薬の副作用やその他の理由で ART の中断を余儀なくされる場合には、薬剤 耐性の発現を阻止するために、すべての抗 HIV 薬を原則、同時に中止する。但し、NNRTI の EFV と NVP は半減期が極めて長いため、同時に中止すると、事実上 NNRTI の単剤治療を行っ ていることとなり、NNRTI に対する耐性変異を誘導する結果となる。このため EFV と NVP 中止時には、NRTI を 1 週間長く継続してから中止するか、代わりの PI を 1 週間追加投与し てから、全ての薬剤を中止する方法が推奨される。  ART を計画的に中止したり再開したりすることで、HIV 特異的免疫反応を刺激し、ウイル ス抑制能を高め、結果的に ART による長期毒性を回避する目的で計画的治療中断法(Structued treatment interruptions = STI)が試みられてきたが、大規模な study である SMART study の中間解析では、治療継続群に比較し STI 群で有意に OI 発症率と死亡率が増加し、試験は中

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19 HIV 感染症の臨床経過

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特別な状況での抗 HIV 薬療法

止された。この結果からも、現時点では治療安定期における STI は推奨されないと考えられる。 急性 HIV 感染症治療後、妊婦における ART 後の治療中断についても有益性は確立していず、 現時点では推奨されない。 抗 HIV 療法 ⑴ 急性(初期)HIV 感染症  これまで急性 HIV 感染症への治療開始は任意とされていたが、2013 年 2 月改訂の DHHS ガ イドラインでは「中程度に推奨」に変更となった。治療を開始した場合には慢性感染の治療と 同様に HIV-RNA 量を測定限界以下に到達させるのが目標となる。また治療開始前の薬剤耐性 検査の実施を考慮する。薬剤耐性検査結果判明前に治療を開始する場合には 2NRTI+boosted PI で治療を開始する。また原則、急性 HIV 感染症に対する ART は中止せずに継続する。 ⑵ 妊婦に対する抗 HIV 療法  児への感染を予防するために、基本的には CD4 数に係わらず全ての妊婦に対して治療を行う。  HIV 感染妊婦からの母子感染予防は、以下の 3 つの治療で構成される。 ① 母体に対する ART による子宮内感染の予防 ② 分娩中の AZT 点滴投与+選択的帝王切開術による産道感染の予防 ③ 人工栄養による母乳感染の予防と児に対する AZT 投与    妊婦が ART を行っていない場合で、HIV の治療適応がある場合は、緊急性がない限り妊娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始し、分娩中や出産後も継続する。HIV の治療適応がない 場合でも母子感染予防の観点から妊娠 14 週から AZT を含んだ ART を開始する。分娩時は抗 HIV 療法を継続するが、出産後は治療継続の必要性を再検討する。妊娠判明以前から ART を 行なっている場合は、一般的に器官形成期の間(妊娠 14 週まで)も ART を中止すべきではない。 妊婦に使用する抗 HIV 薬については以下の表を参照。 < HIV 感染妊婦に対する抗 HIV 薬の推奨度> 推奨度 NRTI NNRTI PI その他 推  奨 ・AZT ・3TC ・NVP ・LPV/rtv(1 日 2 回)・ATV+rtv 代  替 ・ABC ・FTC ・TDF ・DRV+rtv ・SQV+rtv 代替薬がない場合 のみ使用可能 ・ddI ・d4T ・EFV ・IDV+RTV ・NFV ・RAL データ不十分 ・ETR ・RPV ・FPV(+rtv) ・MVC 具体的な治療方針については「10.妊婦・新生児の HIV」の項を参照。 ⑶ HIV と HBV の重複感染時の抗 HIV 療法  抗 HIV 薬の内、3TC、FTC、TDF は抗 HBV 活性も併せ持つ薬剤であり、3TC は単剤で HBV 治療薬としても使用される。HIV/HBV 重複感染患者に HBV 治療目的に 3TC が単剤で

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20 HIV 感染症の臨床経過

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治療効果判定と薬剤変更

投与された場合には、2 年で 50% に 3TC 耐性が誘導されたと報告されている。このため HIV/ HBV 重複感染患者に ART を行う場合には、3TC、FTC、TDF を単独で含む regimen は避け、 TDF+FTC または TDF+3TC を NRTI 2 剤として用いることが推奨される。3TC,FTC,TDF の単剤使用が避けられない場合には ART に加えて entecavir(バラクルード ®)の併用が推 奨される。Entecavir、adefovir は HIV に対する活性も有し、重複感染者に単独で使用すると 薬剤耐性を誘導する可能性があるので、必ず適切な ART と併用する。治療開始時の CD4 数 が低値の場合には、免疫再構築症候群による肝炎の増悪が起きる場合がある。詳細は「8-1. HIV 感染症と肝炎」の項を参照。 ⑷ HIV と HCV の重複感染時の抗 HIV 療法  HIV/HCV 重複感染患者では HCV 単独感染患者に比較し、肝炎の進行が急速であり早期 に肝硬変、肝癌への進展がみられ、主要な死因となっている。このため HIV/HCV 重複感染 患者では肝疾患の進行を阻止するために、より早期の ART を導入を考慮すべきである。ま た、CD4 数が低下していると抗 HCV 療法の有効率が低下するため、CD4 数が 200/μℓ未満で は、先に ART を開始し、免疫能を回復させてから抗 HCV 療法を導入する。一方、CD4 数 が 500/μℓを超えている場合には抗 HCV 療法を先行すべきとの意見もある。現在、ペグイン ターフェロンとリバビリン(RBV)の併用療法が標準的な抗 HCV 療法であるが、ddI や d4T は RBV との併用で乳酸アシドーシスや膵炎、急性肝不全などの重篤な副作用の報告があり、 また AZT は RBV による貧血が高度となる可能性があるため、これらの薬剤との併用は避け ることが推奨される。また HCV プロテアーゼ阻害薬である telaprevir を併用する場合も、抗 HIV 薬との相互作用に注意する必要がある。当院では「HIV・HCV 重複感染症診療ガイドラ イン第 5 版(2012 年 10 月改訂)」を作成しており、詳細はこちらを参照(http://www.hok-hiv.com から download 可能)。 (5)結核合併時の抗 HIV 療法  活動性結核の合併時には速やかに結核治療を開始する必要があるが、結核では ART による 免疫再構築症候群の合併頻度が高く、また使用薬剤による副作用の発現頻度も高いことから、 結核の治療を先行することが望ましい。DHHS ガイドラインでは CD4 数が 50 未満の場合に抗 結核治療開始から 2 週以内に、CD4 数が 50 以上の場合で重症と判断される場合には、抗結核 治療開始から 2 ~ 4 週以内に、CD4 数が 50 以上の場合で、重症と判断されない場合には、少 なくとも 8 ~ 12 週までに ART を開始することを推奨している。また結核治療に重要な薬剤 である rifampicin は CYP 誘導作用があるため、全ての PI または NNRTI と薬物相互作用を 生じる。薬物相互作用のため rifampicin の使用が困難な場合には、rifabutin を選択する。ま たこれらの薬剤の併用時には投与量の調整が必要であり、具体的な投与量については DHHS guideline の Table 15 を参照。具体的な治療法については「6-8.結核症」の項を参照。 ⑴ 治療反応性のモニタリング < HIV-RNA 量>  治療開始時と開始 2 ~ 8 週後に測定する。十分な治療効果とアドヒアランスが維持されて いれば少なくとも月に 1.0 log10コピー /ml 以上の減少が期待出来る。その後は 4 ~ 8 週毎に 抗 HIV 療法

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21 HIV 感染症の臨床経過 測定し、開始 16 ~ 24 週後に検出限界以下に到達させるのが目標となる。検出限界以下に到 達したら 3 ~ 4 ヶ月毎に測定する。 < CD4 リンパ球数>  治療開始時と開始後は初期は毎月、その後は 2 ~ 4 ヶ月毎に測定する。通常は上記 HIV-RNA 量と同時に測定する。HIV の抑制が十分であれば通常、年に 100/μℓの割合で上昇が みられる。 ⑵ ART 失敗の定義 <ウイルス学的失敗> HIV-RNA 200 コピー /ml 未満を維持できない。 <不完全なウイルス学的効果>  治療開始 24 週後も、2 回連続して HIV-RNA 200 コピー /ml を超えて検出される。 <ウイルスのリバウンド> ウイルス学的抑制後に HIV-RNA 200 コピー /ml を超えて検 出される。 <持続性低レベルウイルス血症> HIV-RNA 1000 コピー /ml 未満で検出される。 <ウイルスの blip > ウイルス学的抑制後に HIV-RNA が一過性に検出されて、再び検出 限界以下に戻る。通常はウイルス学的失敗にはつながらない。 <免疫学的失敗> 明確な定義はないが以下の様な場合と定義されることがある。 ・治療開始後ある期間(4 ~ 7 年など)に CD4 数がある値(350 あるい は 500/μℓ以上など)まで増加しなかった場合。 ・特定の期間で治療前よりある値(50 あるいは 100/μℓ以上など)まで 増加しなかった場合。 ⑶ ART 失敗時のアプローチ  ART 失敗の原因を究明することが重要であり、以下の評価を行う。 <アドヒアランス>  アドヒアランスが不十分な場合にはその根本的な原因(服薬方法、食事の影響など)を特 定し、それに対処する。可能であれば 1 日 1 回療法の様な処方の簡略化を行う。 <副作用>  副作用が原因でアドヒアランスの低下が生じる可能性も考慮する。 <薬物血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitorig = TDM)>

 服薬時間の非遵守(食後投与など)や薬物相互作用、遺伝学的な個体差などにより抗 HIV 薬の濃度が目標レベルに到達していないことが予想される場合に行う。本邦では「抗 HIV 薬の血中濃度に関する臨床研究」班(ホームページ http://www.psaj.com)を通して測 定が可能である。NRTI については細胞内濃度が重要であり、細胞内濃度と血漿中濃度の関 係が確立していないが、上記研究班では TDF のみ血中濃度測定が可能である。 <薬剤耐性検査>  ウイルス学的失敗が認められた患者において、治療方針を決定する際には、特に薬剤耐性 検査が有用である。薬剤非存在下では野生株が優勢となり、変異株が検出されなくなるため、 検査は治療中または治療中止後 4 週間以内に実施する。HIV-RNA が 1000 コピー /μℓ未満 では実施できないことが多い。検査の詳細については「4.HIV 薬剤耐性とその検査」の項 を参照。 抗 HIV 療法

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22 HIV 感染症の臨床経過 < ART 治療歴>  現在は服用していないが、過去に使用した抗 HIV 薬に対しては、薬剤耐性検査では耐性 が検出されなくても耐性株が存在している可能性があることを念頭に置く必要がある。 ⑷ 薬剤変更の実際 <薬剤耐性が認められない場合>  薬剤耐性検査のタイミングとアドヒアランス、服薬について再評価を行い、この結果に基 づいて必要があれば同じ薬剤を継続するか、薬剤の変更を行うかを決定する。再投与後は早 期に薬剤耐性検査を再検する。 <薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から少なくとも二つ以上の有効な薬剤が存在する場合>  少なくとも 2 種類(可能なら 3 種類)の薬剤を含んだ治療法に速やかに変更し、これ以上 の耐性変異の拡大を抑え、HIV-RNA を検出限界以下に到達することを目標とする。新規作 用機序の薬剤も考慮する。 <薬剤耐性検査の結果と過去の治療歴から二つ以上の有効な薬剤が存在しない場合>  この場合の治療の目標は免疫機能を維持し、疾患の進行を防ぐことである。薬剤の変更は 行わずに、現行の治療を継続し経過観察するのが妥当である。治療の中止・短期間の中断は 疾患の進行に繋がるため推奨されない。1 種類の有効な薬剤の追加は急速な耐性の誘導を促 すため一般的には推奨されないが、CD4 数が 100/μℓ未満で臨床的進行のリスクが高い場合 には、一時的な効果を期待して行われる場合がある。 <ウイルス学的には安定だが、免疫学的に失敗した場合>  免疫学的失敗への対処については一定の見解がない。ウイルス量がコントロールされてい る状況で治療の変更すべきかどうかは明らかではない。それまでの治療に 1 剤追加したり、 更に強力な治療に変更したりすることもある。HIV-2、HTLV-1 の重複感染や薬剤毒性など の評価も必要である。 ■参考文献■

1 Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents (DHHS).February 12,2013(http://aidsinfo.nih.gov/)

2 Thompson MA et al.Antiretroviral Treatment of Adult HIV infection:2012 Recommendations of the International AIDS Society-USA panel.JAMA 308:387-402, 2012 (http://www.iasusa.org/)

3 The European AIDS Clinical Society(EACS)guideline.Version 6.1(November 2012)(http:// www.europeanaidsclinicalsociety.org/)

4 Recommendations for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV Transmission in the United States(DHHS).July 31,2012(http://aidsinfo.nih.gov/)

(血液内科 藤本 勝也 2013.08)

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23 HIV 感染症の臨床経過

HIV 薬剤耐性とその検査

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薬剤耐性 HIV とは?

HIV 薬剤耐性検査とは?

HIV 薬剤耐性とその検査

 抗 HIV 薬剤に対する感受性が低下した HIV を薬剤耐性 HIV といい、その原因は HIV ゲノム

の変異にある。HIV は増殖速度が非常に速くかつ複製エラーが高率(10-4~ 10-5、1 回の複製に つき 1 カ所変異する)に起きるため、適切な抗 HIV 薬剤による治療が行われなければ、薬剤耐 性 HIV が出現する危険性が高い。近年では約 10% の新規未治療感染者から、何らかの薬剤に耐 性を有する HIV が検出されることから、治療変更時だけではなく初回治療開始時にも HIV 薬剤 耐性検査により適切な抗 HIV 薬剤を選択することが重要である。 ⑴ 薬剤耐性検査の特徴と意義  HIV 薬剤耐性検査とは、血液中に存在する HIV がどの薬剤に感受性があるかを評価する検 査であり、適切な治療薬選択の指標となる。その意義については多くのコホート研究で薬剤耐 性検査による治療薬の選択が良い治療効果を得る上で有効であることを報告している。薬剤耐 性検査にはジェノタイプ検査(遺伝子型解析)とフェノタイプ検査(表現型解析)の 2 種類が あるが、現在ではジェノタイプ検査が主流である。 ⑵ ジェノタイプ検査  ジェノタイプ検査は簡便かつ比較的短時間に結果が得られることから世界中で実施されてい る検査である。薬剤はいくつかの決まったアミノ酸変異を誘導するため、変異のパターンをデー タベースや評価アルゴリズムと照合することで、耐性を示す薬剤とその耐性度を間接的に評価 することができる。具体的には血漿中 HIV より抽出した RNA を RT-nested PCR にてプロテ アーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ領域を増幅し、DNA sequencing により塩基配列を決定 し、耐性変異アミノ酸の有無を調べる。  ジェノタイプ検査の結果を解釈する際には、以下の事を考慮する必要がある 1 長期間の薬剤使用により耐性変異が集積された場合、変異同士の相互作用により変異と薬 剤の対応関係が崩れ、ジェノタイプ検査による評価と実際の臨床経過の間に乖離が生じる場 合がある。 2 血液中に優位(約 20% 以上)に存在する HIV の耐性変異しかみることができない。 3 検査可能なウイルス量の目安としては 1,000 コピー /㎖以上である。 4 抗 HIV 薬投与中止後は野生株が増殖し、薬剤耐性 HIV の割合が減少しているため正確な 結果が得られないことがある。 5 治療継続中であってもかつて投与したことがある抗 HIV 薬に対する耐性株は検出できな いことがある。

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24 HIV 感染症の臨床経過

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薬剤耐性検査をいつおこなうか?

薬剤耐性変異の判定

HIV 薬剤耐性検査の依頼方法

 薬剤耐性検査は、抗 HIV 薬剤を変更する際に有効である。しかし、高額な検査であり(保険点数: 6,000 点)ため、必要以上の検査の実施を防ぎ、適切なタイミングで検査を行うことが重要である。 我が国のガイドラインで示された実施のタイミングを以下に示す。 1 新規診断時(急性感染症例および慢性症例を含む) 2 治療開始時 3 治療開始後十分な治療効果が認められない時 4 治療中薬剤耐性 HIV の出現が疑われた時 5 ウイルス学的失敗以外の理由で薬剤を変更する時 6 治療の中断と再開時 7 HIV 感染妊婦において予防投与を行う時 捕捉 1:針刺し事故など感染者血液への暴露があった場合の予防的措置 補足 2:血中 HIV RNA コピー数が 102のレベルで持続して検出される場合 (HIV 薬剤耐性検査ガイドライン ver.6,http://www.hiv-resistance.jp/index.htm より引用)  判定は耐性変異と薬剤との関係が記載されている耐性変異表や薬剤耐性評価アルゴリズムを用 いた WEB での解析によりおこなう。耐性変異表には IAS-USA(International AIDS Society-USA) が 作 成 し て い る Drug Resistance Mutations in HIV-1、WEB 解 析 に は Stanford HIV Drug Resistance Database が広く用いられている。詳細は HP(IAS-USA:http://www.iasusa. org/、Stanford HIV Drug Resistance Database:http://hivdb.stanford.edu/)を参照。薬剤耐 性アルゴリズムは薬剤耐性検査結果の解釈を容易にするためのものであり、上記以外に The Agence Nationale de Recherche sur le SIDA(ANRS)や REGA が公開されている.これらの アルゴリズムによる主要な耐性変異の判定はほぼ一致するが、完全には一致しないため、解釈が 困難な場合については専門医に相談することが望ましい。 HIV 薬剤耐性とその検査  HIV 薬剤耐性検査は 2006 年 4 月 1 日より保険適用となり、抗 HIV 薬の選択および再選択の目 的で行った場合に、3 カ月に 1 回を限度として 6,000 点を算定できる。依頼は病院情報システム から行う。 ⑴ 依頼方法  依頼画面は[6.感染]→[HIV 確認検査]→[薬剤耐性検査]  依頼種は 2 種類あり、担当医の判断で選択する。 ① HIV 薬剤耐性検査(保険適用)  治療薬剤選択および再選択を目的とする場合 ② HIV 薬剤耐性検査(受託研究費)  ・3 カ月に 2 回以上おこなうとき  ・治療選択目的以外でおこなうとき(含初診時)

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25 HIV 感染症の臨床経過

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指向性検査

HIV 薬剤耐性とその検査 ①②いずれの依頼でも、プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼの 3 領域を解析する運用 としている。 ⑵ 検体採取  採血管は EDTA-2Na(紫シール栓、7㎖用)に 5㎖以上採血し、採血後はよく転倒混和する。  検査室では HIV RNA 定量検査済の残余検体を検査終了後 5 年間凍結保存しているので、薬 剤耐性検査の後追い検査が可能である。保存検体で薬剤耐性検査を行いたい場合は遺伝子検査 室(内 5714、藤澤)に連絡する。必要量あることが確認できたら病院情報システムにてオー ダ入力し、バーコードのみを検査室に提出する。 ⑶ 検査所要時間と結果参照

 薬剤耐性検査には HIV RNA 量のデータが必要なため HIV RNA 定量検査を経てから検査を 実施する。そのため所要時間は HIV RNA 定量検査終了後、約 10 日を要する。ただし所要日 数は短縮できることもあるので、結果を急ぐ場合は遺伝子検査室(内 5714、藤澤)に連絡する。  耐性判定は IAS-USA と Stanford HIV Drug Resistance Database での判定結果を採用して いる。検査結果は 2 通りの方法で参照できる。ひとつは、詳細報告書(PDF 形式の電子報告書) であり、画像情報システム(PACS)で参照可能である。もうひとつは、簡易報告であり、薬 剤ごとの耐性判定のみ(Susceptible、Low-level resistance、Intermediate resistance、High-level resistance、Potential low-resistance、High-level resistance の 4 段階)を通常の検査結果報告画面で参照 することができる。ウイルス量が少ないなど検査ができなかった場合には検査結果報告画面で 「測定不可」の報告のみとなり、電子報告書はない。  新たな抗 HIV 作用を示す薬剤として CCR5 阻害剤が使用されている。HIV は標的細胞に侵入 する際に CD4 とケモカインレセプタ(CCR5、CXCR4)との結合が必要であり、CCR5 阻害剤 は CCR5 と結合する HIV(R5)と CCR5 との結合を阻害する抗 HIV 薬剤である。しかしながら、 CXCR4 と結合する HIV(X4 ウイルス)には効果がないため、CCR5 阻害剤を使用する際には R5 ウイルスの感染を確認する必要がある。指向性検査はどちらのケモカインレセプタに結合す るか(指向性)を調べる検査である。今までは指向性を調べるためにはフェノタイプ検査が行わ れてきたが、HIV の gp120 V3 領域を含む塩基配列から X4 指向性を評価するアルゴリズムが開 発されたことで、より簡便に検査をおこなうことが可能となった。しかしながら、複数の判定基 準(FPR、false-positive rate)が提案されていること、サブタイプにより判定基準が異なるこ とから、その判定には注意が必要である。本検査は保健適用ではない(2013 年 7 月現在)。 (北海道大学院保健科学研究院 吉田 繁、 検査・輸血部 藤澤 真一 2013.07)

表 2 CNS 移行 - 有効性(CPE)スコア CPE ランキング 4 3 2 1 NRTIs ジドブジン アバカビル エムトリシタビン ジダノシンラミブジン スタブジン テノホビル ザルシタビン NNRTIs ネビラピン デラビルジン エファビレンツ エトラビリン PIs インジナビル -r ダルナビル -r ホスアンプレナビル -r インジナビル ロピナビル -r アタザナビル アタザナビル -r ホスアンプレナビル ネルフィナビルリトナビルサキナビルサキナビル -r チプラナビル -r 侵入 / 融

参照

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