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176 HIV 感染症の臨床経過

 患者が HIV/AIDS に関する正確な知識を習得し、療養生活に必要なセルフケアを的確に実践 できるよう支援する。セルフケア支援は、患者個々の理解の程度や生活環境の変化、病状や治療 の変化に応じて繰り返し実施することが重要ある。

① ヒトの免疫システム

② HIV 感染症と AIDS の違い

③ 病気の経過

④ 検査データの見方

⑤ 抗 HIV 療法

⑥ 定期受診の必要性

⑦ 服薬管理

⑧ 合併症の予防・治療(日和見感染症・長 期合併症など)

⑨ 感染予防

⑩ 日常生活の注意点

⑪ 社会資源・制度利用

⑫ 専門職利用

⑬ 緊急時・相談時の連絡先・連絡方法

⑴ 日常生活への支援

 健康を維持し免疫力を保ち、自分や他者への感染に注意した生活を送る事が出来るよう日常 生活の注意点について説明し実践できるよう支援する。健康な状態を維持していくためには、

一般的な規則正しい生活が基本であることを理解する必要がある。患者自身が行動することが 重要であり、理解することと実践できることは必ずしも同じではない為、各自の行動に沿った 具体的な支援が必要である。

1 受診行動

①定期受診

• 自分の免疫状態を把握し、治療のタイミングを逃さないことが重要である。治療中の 患者は、副作用や関連疾患発症の有無、治療効果の把握が健康管理の動機づけに繋がる。

• 受診時に、患者が療養に必要な情報を得る機会とし、患者の生活状況を定期的に把握 し支援を行う。

• 定期受診の可否をアセスメントして受診継続の必要性を本人が理解し行動できるよう 支援する。受診や予約外受診に関する理解と行動確認を行う。

②他科外来・他施設の受診

• 眼科受診の継続は、サイトメガロウイルス網膜炎等の早期発見治療のため必要となる。

(免疫データにより受診頻度を決める)

• 婦人科受診は、子宮頸癌等の早期発見のために1年1回は実施する。(免疫や細胞診の データにより受診頻度を決める)

• 主治医から紹介(紹介状)をうけ、患者が安心して必要な診療が受けられるよう受診 調整する。他科受診の方法や流れについて説明する。

• 初診で他科受診時は、特にプライバシーへの配慮など必要に応じて受診科へ依頼する。

③緊急・体調変化時の対応

• 体調変化や緊急時は、医療者に連絡相談できるよう支援する。連絡先・連絡方法を知り、

行動できているか確認する。

• 通院医療機関以外に受診する場合や救急車利用時は、「HIV 感染で通院していること」

「通院医療機関との連携が図れること」を、医療者や救急隊員に伝えることで適切な対 応が可能となることを説明する。

HIV 感染症患者の看護 ~セルフケア支援~

HIV 感染症の臨床経過 177 2 日常生活の注意点

①口腔ケア

 HIV 感染症に特徴的な症状を患者が知り口腔内の変化を観察し、状態に合ったケアを 行えるように支援する。

②感染予防 a.免疫低下時

 外出時のマスク、外出後の含嗽、手洗い等一般的な感染予防行動の必要性が分かり 行動できるよう支援する。

b.2 次感染予防

 血液、血液の混入が考えられる体液が感染源となることを理解し、他者へ感染させ ないよう自分で対処行動が出来るようにする。また、この対処行動が自身の感染予防 になりうる事を知らせておくことも重要である。患者や周囲が慌てないように、出血、

嘔吐・下痢の対応について伝えておくことも大事である。

• 血液が混入している体液汚物は水洗トイレに流す。血液汚染物(血液で汚染された生 理用品、ガーゼ等)の処理は、自分でビニール袋に入れて結んで燃えるごみとして破 棄する

• 他者のものと一緒の洗濯でよい。しかし、衣類に血液等の体液付着時は、水洗い後、

塩素系漂白剤(ハイター等)キャップ一杯を 3 リットルの水に入れ、30 分浸した後、

通常通りに洗濯する

• 髭剃り、歯ブラシ、ピアス、かみそり、つめきりなどの共有をさける。

③ペットの飼育

 ペットを飼うことで生活は充実するが、ヒトにも感染する病原体を持っている可能性 がある。ペットから感染を受けないような感染予防行動をとり、ペットの健康管理が行 えるよう支援することが重要である。

④旅行の注意点

 旅行先や期間、活動内容に応じて注意点を医療者と確認する必要がある。海外渡航は 事前に医療者へ伝え、服薬中であれば時差に応じた服用時間の変更が必要なことを説明 しておく。

⑤予防接種

 免疫力が低下している場合、予防接種を受けることで感染予防や症状の軽減につなが るメリットがあるが、ワクチンそのものが病気を引き起こす原因になることがある。予 防接種については主治医に必ず相談することを説明する。

• 生ワクチンは打たない。

• A・B 型肝炎・肺炎球菌感染症の予防接種は受けておくことが望ましい。

• インフルエンザは流行2ヶ月前に実施の有無を医療者に相談する。家族がインフルエ ンザに罹患した場合は、可能な限り別室で過ごす事を伝える。

• 水痘・麻疹などに罹患している人と接した場合は、医療者に相談する。

HIV 感染症患者の看護 ~セルフケア支援~

178 HIV 感染症の臨床経過 3 生活習慣について

 療養を継続していく中で合併症の対策が重要であり、早期からのアプローチが必要となる。

HIV 感染症と生活習慣病の関連について知り、生活習慣の見直しと改善への支援を行う。

①食 事

 患者の症状や免疫状態等に合わせた食事指導が必要となる。免疫力低下時には感染予 防に留意した食生活が必要である。抗 HIV 薬開始後は消化器症状等の副作用に応じた支 援が必要となる。長期服用患者へは、脂質異常症、骨粗鬆症等の合併症の予防のための 食事療法が必要となる。血液検査値と照らし合わせ、生活に取り入れていく支援が必要 である。

②飲 酒

 過度な飲酒は肝機能障害や免疫機能低下の要因になることがある。また、飲酒により 判断力が低下し、アドヒアランス低下やアンセーファーなセックスにつながる可能性が あるため、適度な飲酒や禁酒への支援が必要である。

③喫 煙

 HIV の感染により、健常人より喫煙による肺癌、血管障害、呼吸器感染症などの危険 性が増す。喫煙の害について振り返る機会を持ち、禁煙に繋がる支援する。

④代替療法

 健康食品・サプリメント等の中には、抗 HIV 薬の効果が低下するものがあるため、使 用希望時は医療者に確認が必要なことを説明する

⑤運動・活動

 骨粗鬆症予防目的で日光浴を行うことや、疲れない程度の運動が身体機能の活性化や、

生活習慣病予防になるので情報提供と行動確認をする。

 血友病の関節障害に対しては、関節の状態に応じた運動を実施することが重要である。

そのためにも定期的な整形外科受診が望ましい。

4 薬物使用

 麻薬など薬物注射の回し打ちによる注射器・針の共有により、薬剤耐性ウイルス・肝炎 ウイルスの感染リスクがあり、更に、他の感染症のリスクも高まる。性行為時の薬物使用 では、薬物による影響を本人が理解してリスク行動が低減できるように支援する。

 薬物依存がある場合、身体的、精神的な影響はもちろん、アドヒアランス低下や薬物相 互作用による抗 HIV 療法の失敗等、様々な不利益を生じやすい。離脱には専門的治療が必 要となるため、適切な専門機関へつなげる必要がある。

<相談・資料入手先>

  ・ダルク(ドラッグ アディクション リハビリテーションセンター) 

     03(3844)4777  HP http://jcca.client.jp/

  ・北海道ダルク 011(221)0919 http://h-darc.com/

  ・アジア太平洋地域アディクション研究所(アパリ)

    03(5830)1790  HP http://www.apari.jp/npo/

  ・北海道立精神保健福祉センター 相談電話 011(864)7000      http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/

  ・札幌こころのセンター 相談電話 011(622)0556

    http://www.city.sapporo.jp/eisei/gyomu/seisin/index.html

HIV 感染症患者の看護 ~セルフケア支援~

HIV 感染症の臨床経過 179  抗 HIV 療法は、生涯にわたり服薬継続が必要であり、アドヒアランスを維持することが重要 な治療である。アドヒアランスが低下すると、不十分な薬剤血中濃度が持続し、耐性ウイルスが 誘導され治療が失敗する可能性があるため、服薬時間を守り飲み続けることが重要である。この ような厳密な服薬管理を一生涯継続することの決断は容易ではない。看護師は治療に関する正確 な情報を提供するとともに、患者の思いに沿い納得して自己決定できるように支援することが必 要である。アドヒアランスを維持することで治療効果を長期にわたり維持できるよう継続した服 薬支援を行う必要がある。

 服薬支援における各時期のポイントを以下に記す。

⑴ 抗 HIV 療法開始前

①治療開始の時期と抗 HIV 薬の選択は患者自身が納得して意思決定できるよう支援する。

②患者のライフスタイルに応じた服薬時間を決めてシュミレーションを行い、患者自身が服薬 開始へのイメージ化が図れるよう支援する。

③服薬シュミレーションにより、服薬の問題を明確にし、対処方法を相談して安心して服薬を 開始出来るよう支援する。

④経済的負担は服薬継続中断の要因にもなるため、治療開始前に医療費負担が軽減できるよう、

社会制度を利用するなど、MSW と事前準備が整えられるよう支援する。

⑤予め起こりうる副作用症状を説明し、症状出現時の対処や連絡行動がとれるよう具体的な方 法を話し合い準備しておく。

⑵ 抗 HIV 療法開始後 1 抗 HIV 療法開始直後

①服薬開始 2 週後に受診し、副作用の有無や程度、観察や対処行動の状況を確認する。

②この時期の服薬経験が今後のアドヒアランスに影響を与えるため、服薬の継続を実感でき るような支援を行っていく。

2 抗 HIV 療法半年以内

①副作用症状や服薬行動の生活への影響、対処行動がとれているか確認し、服薬が継続でき るよう支援する。

②服薬忘れや服薬困難な時、服薬が実践できている状況の振り返りを行い、今後の服薬行動 を一緒に考える。

③免疫再構築症候群が起こりうる時期であり、患者が身体症状を観察し必要な報告ができる よう支援する。

④血液検査データを提示し、治療効果を評価し治療継続の意欲につながるよう支援する。

3 抗 HIV 療法半年以降

①服薬を継続できた自信や自己効力感が得られる反面、慣れによる服薬の失念や長期服薬へ の精神的疲弊が生じることも考えられる。服薬行動により起こる悩みや不安への対処を一 緒に考え長期服薬においてもアドヒアランスが維持できるよう支援が必要である。

②ライフイベントや生活環境の変化を定期的に把握し、服薬行動が継続していけるよう支援

HIV 感染症患者の看護 ~服薬支援~

18- 5 服薬支援