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HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~ケジラミ症~

 ケジラミ症は、ケジラミが陰毛や肛囲の毛に寄生して生じる性感染症の一つであるが、頭髪の 直接的な接触や帽子・寝具類を介して感染することもある。寄生を受けて 1 ヶ月以上経過してか ら寄生部位の掻痒を生じ、掻破痕を認めるが、自覚症状を欠く場合もあり個人差が大きい。

診断:毛髪に付着したケジラミの虫体、虫卵をダーモスコピーや検鏡で確認する。

治療:スミスリンパウダー ®、あるいは、スミスリンシャンプー ®を薬局で購入してもらい、3

~ 4 日おきに 1 回、計 3 ~ 4 回処置する(スミスリンは虫卵には効果がないため複数回の 処置が必要)。剃毛により肛門周囲や腋窩など他の発毛部に虫体が移動することがあり、

必ずしも剃毛する必要はない。

(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)

90 HIV 感染症の臨床経過

7- 6 軟性下疳

HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~軟性下疳~

 軟性下疳は、ヘモフィルス属の菌種であるグラム陰性通性嫌気性連鎖状桿菌の軟性下疳菌

(H.Ducreyi)による性感染症の一つで、性交後 3 ~ 7 日で感染部位に小豆大までの小丘疹が発 生し、2 ~ 3 日のうちに膿疱となり、破れて疼痛の強い潰瘍を生じる。約半数で鼠径部リンパ節 が化膿して腫脹し、急性化膿性リンパ節炎(有痛性横痃)をきたし、発熱、頭痛、食欲不振、全 身倦怠感がみられる。梅毒にみられる硬性下疳と違い、硬結を触れない。男性患者が圧倒的に多 く、女性の無症候性キャリアの存在が推定されている。本邦ではほとんどみられず、輸入感染症 の 1 つと考えられる。

診断:上記臨床症状に加え、培養でヘモフィルスを同定すれば診断は確実であるが、培養で検出 されないことも多く、確定診断に苦慮することがある。

治療:CDC のガイドラインでは、アジスロマイシン 1g 経口単回、セフトリアキソン 250mg 筋 注単回、シプロフロキサシン 1g 分 2、経口 7 日間、エリスロマイシン 2g 分 4、経口 7 日 間などが推奨されている。テトラサイクリン系薬には耐性菌が存在するので注意する。セッ クスパートナーの治療も行う。

(皮膚科 浜出 洋平 2013.07)

HIV 感染症の臨床経過 91

7- 7 淋 病

 淋病は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症であり、主に男性の尿道炎、女性の子宮 頸管炎を起こす。淋菌は、グラム陰性双球菌で乾燥、熱、低温で容易に死滅し、通常の環境では 生存することかできない。したがって、性感染症として、人から人へ感染するのが主な感染経路 である。

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臨床症状

診 断

治 療

⑴ 男性淋菌性尿道炎

 感染後 2 ~ 7 日の潜伏期ののち、尿道炎症状である排尿時痛、尿道分泌物が出現する。分泌 物は多量、黄白色で膿性である。これらの症状はクラミジア性尿道炎に比べ顕著である。淋菌 性尿道炎が治癒されないと、尿道内の淋菌が管内性に上行し淋菌性精巣上体炎が引き起こされ る。局所の炎症症状は強く、陰嚢内容は腫大し強い疼痛を認める。多くは発熱、白血球増多な ど全身性炎症症状を伴う。両側性で高度になれば閉塞性無精子症を生じる場合がある。

⑵ 淋菌性子宮頸管炎

 分泌物を生じることもあるが多くは無症状である。子宮頸管から感染が管内性に拡大し、骨 盤内炎症性疾患(子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎)を起こすと半数程度に発熱、腹 部疝痛による急性腹症を生じる。

⑶ 淋菌性咽頭炎

 オーラルセックスの普及により、性風俗嬢のみならず一般の女性の咽頭からも淋菌が検出さ れる。男女性器の淋菌感染症の 10 ~ 30%の咽頭より淋菌が検出される。ほとんど無症状であ るが、時に咽頭痛、嗄声など急性咽頭炎の症状を呈する。

 男性尿道分泌物のグラム染色による塗抹標本の鏡検では、淋菌は白血球内に貪食されたグラム 陰性双球菌として容易に発見できる。しかし、女性の子宮頸管炎では分泌物中に雑菌の混入が多 く、鏡検の信頼性は低い。確定診断は分離培養法、または核酸増幅法で行う。淋菌の培養は一般 細菌に比べ手間がかかるのに対して、核酸増殖法は PCR 法、TMA 法、SDA 法が保険適応となっ ており、迅速で信頼性の高い検出が可能である。20 ~ 30%にクラミジアの混合感染が認められ るのでクラミジアの検出も同時に行うのが望ましい。核酸増殖法では 1 検体で淋菌とクラミジア の同時検査が可能である。

 ニューキノロン系およびテトラサイクリンの耐性率は、いずれも 80%前後であり、感受性が あることが確認されない限り使用すべきではない。第三世代経口セフェム系の耐性率は 30 ~ 50%程度と考えられている。従って、保険適応を有し、確実に有効な薬剤は、セフトリアキソン、

セフォジジム、スペクチノマイシンの 3 剤である。日本性感染症学会のガイドラインに基づいた

HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~淋病~

92 HIV 感染症の臨床経過

実際の投与法を下記に示す。尿道炎、子宮頸管炎、精巣上体炎、骨盤内炎症性疾患などは上記の 3 剤の使用が勧められるが、咽頭炎に関してはセフトリアキソンが最も有効とされている。よっ て尿道炎、子宮頸管炎に対しても咽頭炎の合併を考慮した場合セフトリアキソンが第一選択とな り得る。この 3 剤以外で治療する場合には、薬剤感受性を確認し、症状が改善しても淋菌が陰性 化したことの確認が必須である。また、20 ~ 30%にクラミジア感染を合併しているため、陽性 の場合はクラミジアの治療も同時に行う。

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治癒判定

淋菌感染症の治療

HIV 感染症に合併しやすい性感染症 ~淋病~

 セフトリアキソン、セフォジジム、スペクチノマイシンは尿道炎、子宮頸管炎に対して、

100%に近い有効性を有すると考えられるので投与後の検査の実施は必須ではない。しかし、尿 道炎、子宮頸管炎以外の淋菌感染症では投与後の淋菌検査を要する。また、上記以外の薬剤を使 用した場合には、自覚症状が改善した場合であっても治癒していないことも多く、治療終了後、

3 日間以上後に淋菌検出のための検査を行う必要がある。

淋菌性尿道炎及び子宮頸管炎 淋菌性精巣上体炎及び骨盤炎症性疾患

⒈ セフトリアキソン(ロセフィン)

静注 1.0g 単回投与

⒈ セフトリアキソン(ロセフィン)

重症度により、静注 1 日 1.0g × 1 ~ 2 回 1 ~ 7 日間投与

⒉ セフォジジム(ケニセフ、ノイセフ)

静注 1.0g 単回投与

⒉ セフォジジム(ケニセフ、ノイセフ)

重症度により、静注1日 1.0g × 1 ~ 2 回 1 ~ 7 日間投与

⒊ スペクチノマイシン(トロビシン)

筋注 2.0g 単回投与

⒊ スペクチノマイシン(トロビシン)

重症度により 2.0g 筋注単回投与 3 日後に、両臀部に 2g ずつ計 4g を追加 投与

淋 菌 性 咽 頭 感 染

⒈ セフトリアキソン(ロセフィン)

  静注 1.0g 単回投与

⒉ セフォジジム(ケニセフ、ノイセフ)

  静注 1.0g または 2.0g × 1 ~ 2 回、1 ~ 3 日間投与

■参考文献■

1 日本性感染症学会:淋菌感染症.性感染症 診断・治療ガイドライン 2011,日性感染症会 誌 22 suppl:52-59,2011

2 濱砂良一,松本哲朗:淋菌感染症について,泌尿器外科,25(9)1771-1777,2012

(泌尿器科:堀田 記世彦、野々村 克也)

HIV 感染症の臨床経過 93

4 治癒判定