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小児の HIV 感染症

以下の症状のうちの 2 つ以上を示すが、B 群または C 群の症状を欠く児

・リンパ節腫脹(2 か所以上で 0.5㎝以上。対称性は 1 か所とみなす)

・肝腫大

・脾腫大

・皮膚炎

・耳下腺炎

・反復性または持続性の上気道感染、副鼻腔炎、中耳炎

小児の HIV 感染症

128 HIV 感染症の臨床経過

表 3 小児 HIV 感染症の分類

表 2 年齢に応じた HIV 感染小児の CD4 陽性 T リンパ球数

(全リンパ球に対する比)による免疫学的ステージング(CDC、1994)

B 群(中等症)

A 群または C 群以外の症状を示す児。

以下は症状の例示であり、これのみに限定されない

・30 日以上続く貧血(< 8g/dl)、好中球減少症(< 1000/μℓ)、または血 小板減少症(< 10 万 /μℓ)

・細菌性の髄膜炎、肺炎または敗血症(1 回)

・6 か月以上の児で 2 か月以上続く口腔、咽頭カンジダ症

・心筋症

・生後1か月以前に発症したサイトメガロウイルス感染

・反復性または慢性の下痢

・肝炎

・反復性単純ヘルペスウイルス口内炎(1 年以内に 2 回以上)

・生後 1 か月以前に発症した単純ヘルペスウイルス気管支炎、肺炎または 食道炎

・2 回以上または 2 つの皮膚節以上の帯状疱疹

・平滑筋肉腫

・リンパ性間質性肺炎(LIP)または肺のリンパ過形成(PLH)

・腎症

・ノカルジア症

・1 か月以上続く発熱

・生後 1 か月以前に発症したトキソプラズマ症

・播種性水痘

C 群(重 症) AIDS の診断基準に含まれる症状(LIP を除く)

小児の HIV 感染症

児の年齢

1 歳未満 /μℓ(%) 1-5 歳 /μℓ(%) 6-12 歳 /μℓ(%)

カテゴリー 1(正   常) ≧ 1500(≧ 25) ≧ 1000(≧ 25) ≧ 500(≧ 25)

カテゴリー 2(中等度低下) 750-1499(15-24) 500-999(15-24) 200-499(15-24)

カテゴリー 3(高 度 低 下) <750(<15) <500(<15) <200(<15)

臨床分類

N(無症候) A(軽症) B(中等症) C(重症)

免疫学的分類

カテゴリー1(正   常) N1 A1 B1 C1

カテゴリー2(中等度低下) N2 A2 B2 C2

カテゴリー3(高 度 低 下) N3 A3 B3 C3

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小児における HIV 感染症の診断

小児における HIV 感染症のモニタリング

小児の HIV 感染症  新生児のウイルス学的検査の中では、サブタイプ B を検出する DNA PCR のデータが確立さ れており、生後 48 時間以内に約 40%の症例で DNA PCR が陽性となり、1 週目の検出率は同レ ベルにとどまるものの、2 週目になると検出率が上昇して、生後 14 日目には 90%以上、生後 3 から 6 カ月には 100%で感染の診断が可能となる。生後すぐに行った検査が陰性だった場合は、

生後 14 ~ 21 日目にも検査を行うことが勧められる。RT-PCR による RNA 検査も DNA PCR 検査に近い感度があることが示されているので、RT-PCR 検査を行ってもよい。

 HIV に感染した母から生まれた新生児は、①生後 48 時間以内、②生後 14 日~ 21 日③生後 1

~ 2 か月④生後 4 ~ 6 か月の 4 ポイントでウイルス学的検査を行うことが推奨される。母体血に よる汚染がありうるので、臍帯血を用いて検査を行ってはならない。

 ウイルス学的検査で陽性と判定された場合は、速やかに 2 度目の検査を行い確認することが 必要である。一方、生後 14 ~ 21 日目および 1 か月以降の 2 回以上の検査が陰性であれば、HIV 感染症の可能性はかなり低いと考えてよい。さらに、1 か月目以降と 4 か月目以降の 2 回の検査 が陰性であれば、HIV 感染をほぼ否定できる。その場合にも、生後 12 ~ 18 か月の抗体検査で 陰性を確認することが望ましい。

 血清学的検査は、母親からの移行抗体があるため感染スクリーニングには使えないが、生後 6 か月以降で 1 か月以上間隔をおいた 2 回以上の HIV IgG 抗体検査が陰性であり、臨床的にもウ イルス学的にも感染を示唆する所見がなければ、HIV 感染はほぼ否定できる。抗体陰性が確認 できない場合は、母親からの移行抗体が消失する生後 12 か月以降に検査を行うが、生後 12 か月 でも陽性と出る場合は、さらに生後 15 ~ 18 か月で検査を行う。周産期の母子感染が予防できて も、カウンセリング不十分などにより、母乳や口移しの離乳食で水平感染することがまれに報告 されるので、生後 18 か月以降の抗 HIV 抗体陽性は、HIV 感染を示唆する。

 HIV 感染症のモニターとして、免疫状態の指標となる CD4 陽性 T リンパ球数(%)および HIV 感染症の進行速度の指標となる血中ウイルス量(HIV RNA 量)がある。

⑴ CD4 陽性 T リンパ球数

 小児の CD4 陽性 T リンパ球数の正常値は年齢によって異なる。これまで 5 歳未満では年齢に よるばらつきの少ない CD4 パーセントを免疫学的マーカーとして用いることが勧められてきた。

しかし短期的な病勢予測には 5 歳以上と同様に CD4 数が有用であるとする研究結果が示された ことから、1 歳以上の小児で治療の開始にあたって CD4 の数とパーセントが乖離する場合、免 疫学的マーカーとしてより低値のものが重視される。HIV 感染が確認されたら直ちに CD4 陽性 T リンパ球数(パーセント)を測定し、その後も 3 ~ 4 か月毎に測定することが勧められる。

⑵ HIV RNA 量

 小児では成人に比べて一般に HIV RNA 量が高い。周産期に感染した場合、通常出生時は低 いが(< 10,000 コピー /㎖)、その後生後 2 か月目まで急速に増加し(多くは 100,000 コピー /ml 以上となる)、1 歳以後の数年間でゆっくり減少してセットポイントに落ち着く。HIV RNA 量が高い児のほうが病期の進行が速い傾向にあるが、12 か月未満では病期進行リスクを 示す HIV RNA 量の閾値を決めることは難しい。12 か月以降では 100,000 コピー /㎖以上が高 リスクと考えられている。

130 HIV 感染症の臨床経過小児の HIV 感染症

5 HIV 感染児の治療の方針

 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV 感染症及びその合併症の課 題を克服する研究班」の抗 HIV 治療ガイドラインを引用する。なお、性感染が問題となる思春 期以降は成人のガイドラインが適応となる。

⑴ 抗 HIV 療法の開始時期

 小児においても多剤併用治療は効果的であり、ウイルス増殖を抑制し免疫系の破壊を食い止 めて、日和見感染や臓器障害のリスクを減少させることができる。しかしながら、抗ウイルス 薬には短期的あるいは長期的な副作用の問題があり、さらに小児に対する投与量や安全性に関 する十分なデータがあるとはいえない。また、治療に当たってはアドヒアランスの維持が確保 できることが絶対条件であり、治療薬に対して耐性のウイルスがひとたび出現すれば、将来の 治療法の選択が制限されることも認識しておく必要がある。

 ヨーロッパと米国の 8 つのコホートと 9 つの臨床試験によるメタアナリシスによれば、1 歳 を越えてからは CD4 パーセントが 25%以上であれば 1 年以内の AIDS 発症は 10% 未満にとど まり、死亡率も 2% 未満となっているが、1 歳以下の乳児の AIDS 発症・死亡のリスクは CD4 パーセントが 25%以上あってもかなり高い。また、全ての年齢層で、CD4 パーセントが 15 ~ 20%以下となると、AIDS 発症のリスクが高まる。

 1 歳未満の乳児では病期の進行が速く、また検査値から病期進行のリスクを明確に予測でき ないことから、検査値にかかわらず治療が考慮される。1 歳以上の児では年齢層によって治療 開始判断の根拠となる検査値が異なってくる。

< 12 か月未満の乳児に対する抗 HIV 治療>

 病期進行のリスクは 1 歳以下の乳児で明らかに高いことが分かっているものの、この年代の 乳児の病期進行リスクを判断するための信頼性のある検査値がないのが現状である。CD4 パー セントが低く、HIV RNA 量が高いほど進行が速い傾向はあるものの、進行群と非進行群のあ いだにはかなりの重なりがみられることから、これらの検査値から一概にリスクを判断するこ とはできない。

 全体に AIDS 発症や死亡のリスクが高いことを考慮すれば、1 歳未満の小児に対しては、臨 床症状や免疫学的ステージング、HIV RNA 量にかかわらず、診断がなされたら直ちに抗 HIV 治療を開始すべきだと考えられる。1 歳未満で治療を開始し、リスクの高い乳児期を乗り切っ たあとに、戦略的な治療中断が可能かどうかに関しては、現時点ではデータがない。

< 12 か月以上の小児に対する抗 HIV 治療>

 1 歳を越えると、AIDS の進行は 1 歳以下の乳児よりも遅くなってくるので、治療を遅らせ るというオプションが考慮される。臨床症状を伴う場合は、免疫学的・ウイルス学的パラメー ターの如何にかかわらず治療を行うのが一般的であるが、小児でどの程度の症状が出現したら 治療が必要かの明確な判断材料はない。現在の米国のガイドラインでは、AIDS の症状を有す る(臨床分類 C 群)か、中等症の HIV 関連症状を有する(臨床分類 B 群、ただし LIP と 1 回 のみの細菌感染症を除く)場合には治療を開始するとしている。無症状か軽微な症状の場合は、

1 歳以上 3 歳未満では CD4 パーセント 25%未満あるいは CD4 数 1,000/μℓ 未満で、3 歳以上 5 歳未満では CD4 パーセント 25%未満あるいは CD4 数 750/μℓ未満で治療開始を推奨している。

HIV 感染症の臨床経過 131  ウイルス量(HIV RNA 量)に関しては、米国の現在のガイドライン、欧州の PENTA2009 ともに、CD4 数に関わらず 10 万コピー /mL 以上の場合に治療開始を推奨(PENTA2009 で は考慮)としている。

 小児に対する HIV 療法では、服薬が遵守されているかどうかに細心の注意を払う必要があ る。幼少児は服薬にあたって保護者に依存する。処方内容をよく理解させるため、治療を決定 するプロセスに保護者と患児をいっしょに参加させ、アドヒアランスの重要性をよく説明し、

治療開始後も頻回に服薬状況を観察する必要がある。

小児の HIV 感染症 表 4 小児 HIV 感染症の治療開始の適応基準(US-DHHS、2012)

年齢 基準 推奨

全年齢 AIDS もしくは HIV 関連症状のB群(注 2)/ C群 治療(AⅠ*)

12 週未満 臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず 治療(AⅠ)

12 週以上

1 歳未満 臨床症状や免疫・ウイルスマーカーの如何に関わらず 治療(AⅡ)

1 歳以上 3 歳未満

無症状か軽微な症状(注 3)で、

CD4 < 1000/μℓまたは CD4 < 25%

CD4 > 1000/μℓまたは CD4 > 25%

VL > 10 万コピー /mL

治療(AⅡ)

考慮(BⅢ)(注 4)

治療(BⅡ)

3 歳以上 5 歳未満

無症状か軽微な症状(注 3)で、

CD4 < 750/μℓまたは CD4 < 25%

CD4 > 750/μℓまたは CD4 > 25%

VL > 10 万コピー /mL

治療(AⅡ)

考慮(BⅢ)(注 4)

治療(BⅡ)

5 歳以上

無症状か軽微な症状(注 3)で、

CD4 < 350/μℓ CD4 350-500/μℓ CD4 > 500/μℓ VL > 10 万コピー /mL

治療(AⅠ*)

治療(B Ⅱ*)

考慮(BⅢ)(注 4)

治療(BⅡ)

(注 1)事前に服薬アドヒアランスについて保護者と十分に話し合ってから始める(A Ⅲ)

(注 2)1 回のみの重篤な細菌感染症は除く

(注 3)表 XIV-2 の A 群、N 群、あるいは、B群でも 1 回のみの重篤な細菌感染症

(注 4)臨床所見・検査所見は 3 ~ 4 ヶ月ごとにフォローする

⑵ 治療薬の選択と小児用量

 小児 HIV 感染症においても抗 HIV 薬 3 剤以上の併用療法を行い、ウイルスの複製をできる だけ抑え込むのが基本である。現在の初回治療の原則は、成人と同様、バックボーンの NRTI 2 剤に NNRTI もしくは ritonavir でブーストした PI をキードラッグとして組み合わせる 3 剤 併用療法である。

 バックボーンとして推奨される NRTI は、3 カ月以上では ABC +(3TC or FTC)(AI)、思 春期で Tanner Stage 4 以降では TDF +(3TC or FTC)(AI *)、そしてどの年齢であっても AZT +(3TC or FTC)(AI *)である。

 キードラッグとして推奨される PI は、修正在胎期間 42 週以上かつ生後 2 週以上では LPV/

r(AI)、6 歳以上では ATV + dose RTV(AI *)である。6 カ月以上では FPV + low-dose RTV(AI *)、3 歳以上で DRV + low-low-dose RTV(AI *)も使用可能とされる。