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HIV 感染症の臨床経過 53 AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~ニューモシスチス肺炎~

 従来カリニ肺炎と呼ばれていた疾患は、正式にはニューモシスチス肺炎(Pneumocystis Pneumonia:PCP)と呼称されることになった。これは、病原体の名前が Pneumocystis carinii から Pneumocystis jiroveci と名称が変更になったことに伴うものである AIDS 患者における PCP は、幼小児期の不顕性感染の再燃の形で発症し、経過中約 70 ~ 80%の患者に見られ、最も 多い合併症のひとつである。CD4 陽性 T 細胞が 200 個 /μℓ以下になると発症することが多い。

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合にはロイコボリン 3 ~ 5㎎ / 日、または葉酸 4㎎ / 日を併用する。

中等~重症例(PO2 < 70 torr) では、ステロイドを併用する。プレドニン 80㎎分 2 を 5 日間、40㎎分 1 を 5 日間、20㎎分 1 を 11 日間が標準。

ステロイドの併用は以下の処方例も同じ。

処方例② 注射剤(バクトラミン)を用いる場合は経口剤の 3/4 量程度とする。

バクトラミン 1 日量 9A(45㎖)分 3、毎回 1 ~ 2 時間かけて点滴静注(1A あたり 125㎖の 5% ブドウ糖液に混合し、1 ~ 2 時間かけて投与する)

処方例③ ベナンバックス 3㎎ /㎏ / 日 1 日 1 回

注射用蒸留水 5㎖に溶解後、250㎖の 5%ブドウ糖液溶解し、1 ~ 2 時間でゆっくり点 滴静注

処方例④ ベナンバックス吸入 300㎎、1 日 1 回

注射用蒸留水、または生理食塩水 10 ~ 20㎖に溶解し、超音波ネブライザーにて 30 分間で吸入。エロゾルが到達しにくい上葉の病巣には効きにくい。副作用として気道 刺激。

処方例⑤ アトバコン(サムチレール ®)通常、成人には 1 回 5㎖(アトバコンとして 750㎎)

を 1 日 2 回 21 日間、食後に経口投与する。

予防投与

処方例① (予防) バクタ 1 日量 2.0 g 分2を週 3 回または 1.0 g 分1を毎日

処方例② (予防) ベナンバックス 300㎎、2~4週に1回吸入。気道収縮の誘発や肺内分布の 差異など問題が多い

処方例③ (予防) アトバコン(サムチレール ®)通常、成人には 1 回 10㎖(アトバコとして 1500㎎)を 1 日 1 回、食後に経口投与する。

 ニューモシスチス肺炎の既往が無く、ART 導入により CD4 数が上昇し 200 個 /μℓ以上を3~

6ヶ月以上維持できている患者では、HIV-RNA 量が良くコントロールされている場合予防投薬 を終了して良い。

■参考文献■

1 HIV 感染者発症予防・治療に関する研究班、班長山田兼雄、HIV 治療マニュアル、p66-68 2 味澤 篤、ニューモシスチス・カリニ肺炎、治療 78 巻増刊号、標準処方ガイド ’96、

p875-877

3 1999 USPHS/IDSA Guidelines for the Prevention of Opportunistic Infections in Persons Infected with Human Immunodeficiency Virus

(http://www.cdc.gov/epo/mmwr/preview/mmwrhtml/rr4810a1.htm)

4 レジデントのための感染症診療マニュアル 医学書院 2007、p1156-1157

(内科Ⅰ 今野 哲 2013.09)

HIV 感染症の臨床経過 55

6- 8 結核症

AIDS 関連症候群(ARC)の診断と治療 ~結核症~

1 診断のアプローチ

 HIV に感染することにより、肺結核の発症率は約 100 倍になると言われており、HIV 非感染 者が結核菌に感染した場合の生涯発病率は 5 ~ 10%であるが、HIV 感染者では年間に 5 ~ 10%

の率で結核を発病する。AIDS に伴う感染症の中では、ニューモシスチス、サイトメガロウイル ス、カンジダ、非結核性抗酸菌症に次いで多い。他の感染症と異なり、HIV 感染後比較的早期で、

CD4 陽性細胞があまり減少していない時期(300 ~ 400/μℓ)にも発症し、AIDS 発症に先立つ ことも多い。従って他の日和見感染症が目立たない時期にも、原因不明の発熱がある場合には本 症を疑う必要がある。肺結核の発症様式は、既感染の再燃の形が多いとされている。しかし 免 疫能が高度に低下した患者では、たとえ治療中でも多剤耐性菌による外因性の再感染がありうる。

また、肺外結核が多いのも HIV 感染の特徴である(非 HIV 感染者に対して 2 倍)。

⑴ どのようなときに疑うか

 持続する発熱、咳嗽、喀痰が出現し、胸部 X 線写真で異常影を認めたとき。肺外結核も多く、

消化器、泌尿器、神経系の症状にも留意する。

⑵ 病変は多彩で、CD4 陽性細胞数が保たれている時は通常の結核のように上肺に結節性病変 の散布を認める程度であるが、免疫能が低下した状態では、病変は経気道性に肺内に広がって 下肺の広範な浸潤病巣など非典型像を示す。

⑶ 胸部 X 線写真にて中下葉の非特異的浸潤影、リンパ節腫大など。典型的な肺尖や背側部の 分布をとらず、空洞形成も比較的まれで、他の日和見感染症との鑑別は困難なことが多い。リ ンパ節結核や播種型の肺外結核頻度が高い。また他の肺感染症を合併することもある。

⑷ 胸部 CT 検査では、多彩な浸潤影や不整形陰影が主体である。またリンパ節腫大や胸水の貯 留を認めることもある。

⑸ 喀痰、気管支肺胞洗浄液、胃液、血液の抗酸菌塗抹と培養、時に骨髄液、髄液の培養が必要 である。本院では、液体培地にて 2 ~ 4 週間後に増殖がみられたら小川培地に移し、さらに増 殖した後(約1週間)、DDH マイコバクテリア法により、抗酸菌 18 種の同定が行われる。また、

液体培地で増殖した菌を直接用いて簡便法にて結核菌の同定が可能である(キャピリア TB)。

迅速な診断には、PCR 法を用いる。経気管支肺生検(TBLB)により、病巣の組織学的検討と 抗酸菌染色・培養。組織では典型的な類上皮細胞肉芽腫が形成されにくいので、やはり抗酸菌 の検出が最も重要である。

⑹ ツベルクリン反応は、CD4 陽性 T 細胞が減少していると陽性とならないことが多く、診断 の参考としにくい。最近、末梢血リンパ球を結核特異抗原で刺激し、インターフェロンγの産 生をみることによって結核感染を判定するクオンティフェロンが臨床にて利用可能になった が、HIV 陽性患者における有用性は定かではないが、本邦の検討で、70 ~ 80% 程度の感度と の報告がある。免疫が正常な活動性結核患者での感度は約 90% であり、HIV 陽性患者におい ても、クオンティフェロン検査はある程度有用であろう。ただし、CD4 陽性細胞数の影響は わかっておらず、解釈の際には注意が必要である。さらには、免疫正常者においても、クオン ティフェロン検査は活動性結核と潜在性結核を区別する目的としては有用性が低く、HIV 陽

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2 治 療

性者においても同様である。

⑺ 上記の方法で診断がつかない場合、診断的治療として抗結核薬を投与し、症状の改善や陰影 の変化を観察する。

⑻ 臨床症状や画像所見のみより、正確に非結核性抗酸菌症と鑑別することは不可能である。菌 の同定結果を待つ必要がある。

 抗結核療法開始後、早期に ART を開始すると免疫再構築症候群を合併しやすく、また抗 HIV 薬や抗結核薬には副作用が多いので、副作用が生じた場合に原因薬物特定が困難になることか ら、結核の治療と HIV の治療を同時に開始することは勧められない。しかしながら、活動性結 核を有する患者に早期に抗 HIV 療法を開始することにより生存率が改善することも示されてい る。抗結核療法開始後の抗 HIV 療法の開始時期の目安は、CD4 数が 200/μℓ未満では 2 ~ 4 週以内、

CD4 数が 200 ~ 500/μℓでは 2 ~ 4 週以内または少なくとも 8 週以内、CD4 数が 500/μℓ以上で は 8 週以内とされている。

 検体の抗酸菌塗抹や PCR 法の結果が陰性でも、臨床的に結核症が疑わしい場合には、培養の 結果(通常 4 ~ 8 週間)を待たずに治療を開始する。結核の治療薬は、抗 HIV 薬との相互作用 が問題となるものが多いため注意が必要である。リファンピシン(RFP)は肝臓のチトクローム P450 を誘導し、これらの薬剤の代謝を速め、血中濃度を著しく低下させる。また逆にプロテアー ゼ阻害剤は RFP の代謝を阻害し、その副作用を増強する。従って RFP とこれらの薬剤の併用 は禁忌とされる。また、RFP は抗 HIV 薬のラルテグラビルの血中濃度を低下させる可能性があ るため、併用の際にはラルテグラビルの増量を考慮する必要がある。INH を使用する場合には、

神経傷害を防ぐためにビタミン B6 を 1 日量 25 ~ 50㎎投与する。抗 HIV 療法を開始した際に、

発熱や一過性の胸郭内病変の悪化が見られることがある。これは抗ウイルス療法により CD4 陽 性細胞の機能が回復した結果の反応で、免疫再構築症候群とよばれ、軽症であれば対症療法の みで良いが、重篤な反応の場合には、一時的に副腎皮質ステロイド剤を使用する。INH または RFP が耐性や副作用などの理由で使用できないときは、少なくとも全治療期間を 18 ヶ月あるい は排菌陰性化後 12 ヶ月間とすべきである。また、AIDS 患者では薬剤の副反応が起こり易いの で注意が必要である。

・プロテアーゼ阻害剤を使用しない場合

処方例① イスコチン(INH) 1日量 200 ~ 300㎎分 1 ~ 3 内服 リファジン(RFP) 1日量 450㎎分1、朝食前内服 エタンブトール(EB) 1日量 750 ~ 1000㎎分 1 ~ 2 内服 ピラマイド(PZA) 1日量 1.5 g分 2、内服

 上記を 2 ヶ月間毎日、その後 INH と RFP のみを毎日 7 ヶ月間。(CDC、日本結核病学会とも に、原則として非 HIV 患者と同様の治療で良い(計 6 ヶ月)としているが、CDC は空洞を有す る肺結核、肺外結核の合併は計 9 ヶ月の治療が望ましいとしている。日本結核病学会は免疫低下 を考慮して 3 ヶ月間の延長が望ましいとしている。よって、HIV 陽性者の結核治療については、

全例合計 9 ヶ月間の治療とするのが実用的であろう)